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  シーカー 作者:安部飛翔
第三章
7話
 円形闘技場の中心。
 向かい合うスレイとクロウ。
 外見だけなら18歳くらいの青年と16歳くらいの少年ということで、まるでクロウが年下に見える。
 実際はスレイ18歳、クロウ84歳と、全く逆なのだが。
 現在、スレイは既にエーテルによる強化を果たし、クロウもまた闘気術と魔力操作の併用で強化を果たしていた。
 クロウがスレイに謝罪の言葉をかける。
「本当にすまんの、うちの馬鹿弟子のせいでわざわざ手間をかけさせて」
「先程も言ったと思うが、あんたは色々な書物で様々な逸話を見て憧れていた相手だ。そんな憧れの相手と手合わせできるというのだから、こちらにとっても願ってもない話だ。寧ろあんたの弟子には感謝している」
「そう言ってもらうと助かるのう。さて、儂がお主の期待に応えられると良いんじゃが」
 そう言い放つとクロウは両腰に差したディラク刀を抜き放つ。
 清冽な鋼の輝きを放つ二本のオリハルコンの刀身が露になる。
 どこまでも澄み渡り、磨きぬかれた鏡のような刀身は、清らかな気を発し、そのオーラが円形闘技場に満ち溢れる。
 続いてスレイも自らの双刀を抜き放った。
 禍々しい鮮血の如き紅きオーラと、禍々しい蒼すぎる程に蒼いオーラが、円形闘技場に満ち溢れる。
 クロウの双神刀の清らかなオーラと、スレイの双刀の禍々しきオーラがぶつかり合い、互いに場を奪い合う。
 そうして、ややスレイの双刀の禍々しきオーラが勝り、より広い空間を占める。
「ふむ、形状的に、どちらもフツ神の創ったシークレットウェポンのようじゃが、得物の出来ではどうやらそちらの方が僅かに上のようじゃの?」
「得物では負けていても、使い手としては自分の方が上と言いたげだな?」
「さてのう?まあ、刀術において負ける気はせん、とだけ言っておこうか」
「そうか、それは楽しみだ」
 互いに軽口を叩き合いながらも、その表情は真剣で、どちらも決して相手から視線を逸らさない。
 ただ、自らと対等に戦える強敵と出会えたという確信に、2人ともが僅かに口元に笑みをたたえ、心を躍らせる。
 そうして合図も何もなく、どちらもが構えも予備動作もないまま、光速の数十倍の領域へと突入する。
 それと同時に、観客席にいる7人と2匹の見物人達もまた、それぞれの手段で、その超光速の領域を知覚できるほどに思考を加速させていた。
 2人は互いに構えも無く予備動作も無く、光速を遥かに越えていながら、ゆったりと流麗に見える動きで、瞬時に互いの間合いへと突入する。
 そうして刀が美しい軌跡をえがき、スレイの紅刀アスラとクロウの神刀アマノムラクモがぶつかり合う。
 それと同時にスレイは化勁を、クロウは合気を以って、相手の力のベクトルを操作し、利用しようとするが、同じ性質を持った2つの特性は互いに打ち消し合い、相手の力を利用することができずに、鍔迫り合いの状態になる。
 互いに驚きながらも決して2人は僅かたりとて停滞しない。
 同時にクロウがもうもう1刀、神刀アメノハバキリを振るい追撃するのに、スレイは蒼刀マーナを振るう事なく、そのままアスラを押し込むと同時に後方へ跳び、僅かに過去へと時系列を渡る、それを追うように同時に僅かに過去へと跳躍するクロウ。
 スレイは魔法で以って、そのまま空中に着地をすると、逆さまになったまま、空中を蹴り、クロウに向かって突撃する。
 蒼刀マーナが振るわれクロウに迫るが、クロウは僅かにずれた次元層に移動し、マーナはそのまま空振る。
 と、同時にスレイは縦回転しながらクロウと同じ次元層へと移動し、そのままもう1刀、アスラを用いて、回転を利用して上空から、クロウを真上から叩き斬ろうとせんばかりの1撃を繰り出す。
 しかしそれを容易く見切ったクロウはまた次元を移動し、それと同時に刀のみをスレイのいる次元に繰り出し当てようとする。
 その1撃をまた空中を蹴ってのアクロバティックな機動で、スレイは躱す。
 そして2人はどんどんと戦いの場を広げ、時系列すら無視して、僅かに過去や未来への移動など行い、次元間の移動すらも行って、超光速の超高位多次元機動戦闘へと突入していった。
 光速の数十倍の速度で時系列すら無視する2人の主観的時系列を正確に追えているのは、ディザスターと、せいぜいフルール程度までだろう。
 他の7人の人間達は、超光速の知覚を得たと言ってもせいぜい光速の数倍の領域、決して2人の速度を追い切れず、まるで無数のスレイやクロウが様々な戦いを繰り広げているような光景が見えているハズだ。
 どんどんと、過去も未来も足場とし、超高位の次元から低位の次元まで、自在に動き回るスレイ。
 だがクロウは心眼を以って、時系列や次元の全てを見切り、その動きを容易く看破し、決して離れる事なくスレイの動きに付いて来る。
 スレイは思考分割で以って、用意していた無数の属性の魔法の光球を無詠唱で解き放つと同時に、クロウの間合いへと突入する。
 クロウはアマノムラクモで、まるで鎌で草を刈るように、容易くそれらの魔法を薙ぎ払う。
 それと同時にアマノハバキリにより、竜すら容易く殺す1撃を同時に8閃繰り出す。
 この超光速の世界の中でさえ、ありえない同時に繰り出された8つの刀閃に、スレイは反応し、あるいは切り払い、あるいは叩き落とし、あるいは避けて、そのままクロウの間合いに踏みとどまる。
 戦いながらもスレイは、先程からどんどんとその視界が冴え渡り、時系列や次元の全てすら見切れるような感覚を覚えていた。
 どうやら新しい特性を得たようだと、戦いながらスレイはそう確信する。
 そうしてスレイは数々の浅い切り傷を負いながらも、アスラとマーナで以って、僅かながらクロウに浅い傷を付ける事に成功する。
 紅刀アスラは“刀神”の血に猛り、蒼刀マーナは“刀神”の精神により深き静寂を宿す。
 そんな中、クロウは右手のアマノムラクモを天に掲げた。
 絶対的な隙が生じたかに見えるその姿に、スレイは一瞬の判断で、クロウから弾かれたように飛び離れる。
 そうして上空からは、自然の雷では考えられない、この超光速の空間でさえ圧倒的な速度を持った雷が落ちてくる。
 そしてクロウの周囲を焼き払った。
 光速すら遥かに越えた雷は、その猛威を存分に振るい、闘技場の地面に無数のクレーターを穿つ。
 そしてその内2本の雷はクロウの双神刀に纏わりつき、凄烈な輝きを以って、スレイの眼に映る。
 そのまま振り下ろされた2刀は、光速を遥かに越えた雷の刀閃となってスレイに迫る。
 それをスレイは何とか躱すと、お返しとばかりに双刀を鞘に納め、そのまま超高密度のエーテルを双刀に送り込み、そのまま2刀の居合い斬りで、紅き閃光と蒼き閃光の斬撃を解き放つ。
 超高密度のエーテルの斬撃をクロウは何とか躱すと、スレイへ向かい緩やかな足取りで近付いてくる。
 同じ様にまたスレイもクロウに向かい緩やかな足取りで近付く。
 ゆったりとした洗練された流麗な動きながら、この超光速の世界の中でさえ刹那の間に距離を縮めると、スレイとクロウはまた互いに刀を繰り出す。
 そんな中で、スレイは今度は思考が澄み渡り研ぎ澄まされるのと、心が空白になる感覚に襲われる。
 どうやらまた新しい特性を、しかも2つも得たようだと確信し、そのままスレイはどこまでも美麗でそれでいながら最適な軌道を辿った刀で、クロウの首筋と心臓の部分に刀を当てて止めていた。
 だがクロウの刀も、スレイの首筋と心臓の部分に触れ、直前で止められている。
 互いに動けなくなった2人は、そのまま静止し、超光速かつ超高次元の領域から、通常の時間軸へとその身が収斂していく。
 そうして、時間が動き出した円形闘技場の中、スレイとクロウは互いの急所に2刀ずつ突きつけ合いながら、互いに視線を交わしていた。
「これは、引き分けといったところかの?」
「ああ、そうだな」
 そうして互いに剣を引く2人。
 こうしてスレイvsクロウの戦いは、互いに譲る事なく引き分けとなった。

「ああ~、何よあれ?ちょっと理解不能なんだけど、何があったのか説明しなさいよ!いきなり分裂して無数のあの2人が打ち合って、そのまま互いに刀を突きつけ合って終了とか、全然経過が分からなかったわよ!」
 フルールの首を絞めて振り回しながら真紀が言う。
 出雲やセリカどころか、ゲッシュ達4人でさえその蛮行を止める事はしない。
 何故なら彼らにとっても今の戦いは、真紀が言っているような理解不能なものとしか見えなかったのだ。
「ちょ、ちょっと。ぐぇっ。話す話すから、首を絞めるのは止めて!」
 そうして何とか真紀の手から逃れたフルールは、真紀を恨めしげに見ながらも、今の戦いの説明をはじめる。
「まず、君達には無数の彼らが現れて戦ってるようにしか見えなかったのは仕方ないよ。彼らは時系列すら超越し、超高位次元から下位次元まで利用した超高位多次元機動戦闘を行っていたからね。流石に超光速の思考加速を可能としても、そこまでの戦いの主観的時系列を眼で追えるのなんて、僕やあそこの僕より化物の邪神ぐらいなものだから、それだけ高等な戦いだったんだよ」
「超高位多次元機動戦闘?」
「なんかもう無茶苦茶ね」
 興味深げに呟く出雲と、ただ呆れたように呟くセリカ。
 ゲッシュ達4人は内心セリカに賛同するのだった。
 特にゲッシュは、神々の力により殆ど傷つかないはずの円形闘技場の惨状に目を覆う。
 神々の力で自然修復されるとは言え、まともに使える状態に戻るには数日はかかる惨状だ。
 その間は円形闘技場は閉鎖しておくしかない。
 自分の仕事が増えた事に少々胃が重くなるゲッシュだった。
「しかし引き分けって、結局どっちが強いのか分からなかったじゃない。結局どっちを私のターゲットにすればいいのか」
 膨れて呟く真紀に、自分より強い相手に拘り止まらない真紀を知っているフルールは、仕方なさげに助言する。
「まあ、将来性って意味ならあの“天才”、スレイとかいう青年をターゲットにするのがいいんじゃない?彼なら見た目だけじゃなく、実年齢も紛れもなく君達と同い年だしね」
 真紀は目を光らせる。
「そう、確かにそうね。私達と同い年で私達より圧倒的に強い存在、いいわね、ソレ。決めた、あのスレイって男を私のライバルに認定するわ」
「ライバルって、あまりにも力の差ぐぇっ」
 余計な事を言おうとするフルールを、真紀は思いっきり首を絞めて黙らせる。
 そんな中、ただ1匹、沈黙を保っていたディザスターは、僅かに満足げに頷くと、スレイを自慢げな瞳で見やる。
『さすが主、この戦いで一気に自らの強さの段階を引き上げたな。敵との相性が良かったというのもあるが。だが、まだまだだ、もっともっと強くなって貰わねば、それこそこの世界の創造者たるヴェスタ、全次元全世界で最強と言われた神を越えるほどに』

 スレイとクロウは観客席の見物人達の元へと向かっていた。
 観客席に向けて歩きながら、スレイは自分の探索者カードを確認する。
 そこにはこうあった。

スレイ
Lv:43 
年齢:18
筋力:A
体力:S
魔力:A
敏捷:SSS
器用:SS
精神:EX
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)、双刀の主
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、化勁、明鏡止水、無念無想、心眼、高速詠唱、無詠唱、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:双刀“紅刀アスラ”“蒼刀マーナ”、鋼鉄のロングソード×2、ミスリル絹のジャケット、ミスリル絹のズボン、牛鬼の革のスニーカー
経験値:4202 次のLvまで98
預金:10130コメル

 やはり3つ、特性が増えていた。
「心眼」「明鏡止水」「無念無想」
 どれもが剣士にとっては得難き特性である。
 しかし、今はその喜びよりも、クロウとの戦いで得た喜びの方が大きかった。
 自らと対等以上の相手と仕合う、これ以上の喜びがあるだろうか?
 そして、スレイは戦闘本能に心を滾らせ、瞳の奥に宿る闘争心が消えないまま笑みを浮かべ、珍しくどこか浮かれた雰囲気を漂わせていた。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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