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  シーカー 作者:安部飛翔
第三章
6話
 迷宮都市アルデリアの円形闘技場。
 普段は大勢の探索者や探索者養成学園の学生達で賑わうその場所。
 今は探索者ギルドマスター・ゲッシュの権限で貸切となり、たった9人と2匹が居るのみだった。
 円形闘技場の中心にはスレイとクロウが向かい合って立ち、他の全員は他には誰もいない観客席の最前列に座っている。
 真紀はフルールに対して尋ねる。
「クロウは分かるけど、あのスレイって男は強いの?」
「ああ、間違いなく強いよ。君達3人は運が良い。まさかあらゆる世界でたった1人しか存在しない“天才”の戦いを見れるなんてね。早く“勇者”の力を使って強化して、この戦いをきちんと眼に焼き付けるべきだ」
「あらゆる世界にたった1人しか存在しない天才?私達の世界にさえそれこそ数多く天才と呼ばれる人物は居たわよ?この私だって、それに出雲だってセリカだって、得意分野こそ違えど間違いなく天才だと思うしね」
 フルールは静かに首を振る。
「そもそも“天才”の意味合いが違うよ。まあ、いい。とにかくこの戦いは貴重なものだから、きちんと見ておくんだよ」
 真紀はフルールのそんな態度にやや腹を立て黙り込む。
 だが今度は出雲が興味深そうにディザスターに視線を向けて聞く。
「あの蒼い狼さん、邪神。本当にそんなに強いの?」
 真紀とセリカも釣られてディザスターに視線を向ける。
 ディザスターは一度そんな3人を見やるが、どうでも良さそうに視線を円形闘技場の中心のスレイに戻した。
「ああ、はっきり言って化物だよ。彼は邪神の中では下級に属するけど、それでも僕でさえ歯が立たない。それこそ世界の1つくらい軽く滅ぼせる力を持っている」
「あんたより強いって言ってもね~。あんたの強いところなんて一度も見た事ないんだけど」
 セリカがどこか茶化すように言うが、フルールは構いもせず淡々と説明を続ける。
「以前も説明したけど、もう1度分かりやすく説明するよ。まず君達の平常時の総合的なランクはSSS級相当で、“勇者”の力を使えばそこから+2ランク強化する事ができる。これは“天才”を除けば、この世界の人間の誰よりも強い力だ」
「その割に、私はクロウに負けたんだけど?」
 真紀が不満そうに頬を膨らませる。
「まあ、それは単純に能力値の相性と、あとは経験の差だね」
 フルールは真紀に返すと続ける。
「次に、僕は今の状態だとそもそも戦闘能力すら存在しないけど、本来の力は総合的にEX+級相当でそこから時空の力を使って+2ランク強化できる、その気になれば星々を打ち砕き、銀河を裂き、宇宙を割り、世界の一つくらいは滅ぼせるぐらいの力だ」
「なんか、スケールが大きすぎてうそ臭いわよそれ」
「実際、君達だってアラストリアでの最終決戦では、異空間の中で、星の一つや二つ軽く破壊してたじゃないか?まあ、この世界では、さすがにそれだけの力があっても、山河を砕いたり、海を蒸発させたり、大陸を吹き飛ばすぐらいがせいぜいだと思うけど」
 再度真紀が告げるが、フルールは軽く物騒な内容を返す。
「そして彼、ディザスターは平常時で総合的にEX+級、そこからエーテルの強化を使って+4ランクの強化をすることができる。この最上位の世界ヴェスタ以外なら、世界を滅ぼす事も、新しい世界を創る事も可能な創造神にして破壊神、つまり真の神だ。強い弱いの次元は超越してると考えていい」
 真紀は挑戦的な、出雲は好奇心を秘めた、セリカは畏怖を宿した、それぞれの視線で以って、ディザスターを見つめる。
 だがディザスターはスレイの方を見たまま、3人に注意を向けることすらしない。
 そんなディザスターの視線の先を見て、セリカが告げる。
「そんな邪神をペットとして飼ってるってことは、あのスレイっていう男は、邪神より強いの?」
「いや、“現在いま”はまだ、そこまでではないだろうね。ただ、間違いなく君達よりは強い、だからこれからの戦いをきちんと見ておくんだよ」
 フルールの常にない雰囲気を湛えた台詞に、3人は真剣な表情になる。
 そして3人と1匹は円形闘技場の中心に視線を移し、戦いの始まりを待つのだった。

「納得がいきません!」
 ゲッシュの前でケリーは憤然と不満を吐き出していた。
「確かにゲッシュ様が書いた資料を見て、あのスレイとかいう男のステータスが特異なものだという事は知っています。それにその後2度ほどクラスアップしたという報告もありますからLvも上がっているのでしょうし、ステータスも同様でしょう。だけどクロウ様がわざわざ相手にするほどのものとは思えません!」
 ゲッシュは困った顔をする。
「だがしかし、以前マリーニアに見てもらった邪神の一部、気配だけでも強烈な力を感じたというその存在を屠ったのも彼だ。また今回は新しい邪神の情報すら齎し、何より下級とはいえ邪神をペットとして従えてすらいる。もはやそのような常識で測れるような存在ではないというのが私の意見なのだが」
「ええ、そうね。それに見ているだけでも彼の動作はクロウに劣らぬ程に洗練されているわ。恐らく貴方が想像してるより彼は相当強いわよ、ケリー」
 サクヤがゲッシュに賛同し、それに言葉に詰まるケリー。
 そこへマリーニアが助け舟を出す。
「なんにしても、現在の彼の力は未知数なことには違いありません。それに探索者カードの開示も拒否されましたし、実際見てみるまでは、ケリーが納得できないのも仕方が無いかと思います」
「ふむ、それでは占師としての君に聞くが、彼の力、どれほどのものと思うかね?」
 ゲッシュの質問にマリーニアはケリーを気遣いながらも、感じたままの感想を告げる。
「おそらくは、クロウ様に匹敵するほど、それほどの力を感じました」
 敬愛する姉が、スレイをクロウと同等と証した事に、ケリーは衝撃を受ける。
 昔からマリーニアのその占師としての力の正確さを知っているからなおさらだ。
 自分より年下のスレイ、その彼の力が自分とは到底比較にならない高みに居る師であるクロウと同等の領域にある。
 その事実はケリーにとってあまりに重かった。
 そんなケリーに対し、サクヤが気遣うように告げる。
「そんなに気にしてはいけませんよケリー。あなたにはまだ成長の余地がありますし、そしてその成長を導く者としてクロウが居ます。これほど恵まれた環境にあるのですから、あのスレイという青年に追いつくことを目的として精進しなさいな」
 そうしてケリーの頭に手をかざし、魔力の光を手に宿す。
 ケリーは一瞬の違和感に襲われるがそれはすぐに治まる。
「いったい何を?」
「いえ、おそらくはこれから行われる戦いは、通常の知覚能力では捉えきれるようなものではないと思います。ですので、通常の思考加速に加え、補助魔法で思考を更に加速するよう脳神経に少し補助をかけました。これでクロウの全力、超光速の世界すら知覚できるでしょう。この戦いを見て学ぶべきものを学び、精進しなさい」
 そういうと自分やマリーニア、ゲッシュにも同様の魔法を掛けていく。
 特に探索者ですら無いゲッシュには、いくつもの同様の効果を持った魔法を重ねがけし、強引にその知覚速度をその次元まで引き上げる。
「これでもともとその方面は得意でないマリーニアも、それに普通の人間であるゲッシュ様にもクロウとあの青年スレイくんの戦いを見届ける事ができると思います」
「すまない、感謝する」
「ありがとうございます」
 それぞれに礼を述べるゲッシュとマリーニア。
 そうして4人は、円形闘技場の中心、スレイとクロウが対峙する場に視線を移し、戦いを見届ける体勢に入るのだった。

 蒼き狼、欲望の邪神ディザスターは、ここに来た時には既にエーテルにより最大限までその能力を強化していた。
 なにせ主が“現在”の主となってからはじめて見る戦いである。
 戦いの一挙手一投足すら見逃すつもりは無かった。
 経験などは“以前”の主と比べればリセットされているだろうから、恐らくはまだそれほどの高みまでは昇っていないであろう。
 だが、まだそのような未熟な時期に出会えたのはある意味では幸いだ。
 そもそもその成長に限界など存在しない主だが、より速くより高みに、それこそ“以前”の主の領域すら軽く越えてもらう為、この戦いで“現在”の主を見定めて、自分が主を更なる高みへと導いて行こうとディザスターは考えていた。
 そのため、この戦いで“現在”の主を完全に見定める。
 それがディザスターの目的である。
 “今回”は、決してあの最上級邪神、憤怒の邪神イグナートにすら主を殺させるつもりは無い。
 その為、主にはイグナートすら越えてもらわなければならない。
 ディザスターにとって主、“以前”の主も“現在”の主も何よりも大切な主人となっていた。
 ただその欲望が心地良いだけではない、個人的に主を自分の主人だと完全に認めているのだ。
 相手も、“現在”の主を測るには申し分ない試金石となるであろう。
 以前の聖戦で見えた剣神フツ。
 流石にその力は自分達邪神には及ばなかったが、とことんまで速さと技術、戦いに関するそれに特化したあの神は自分とやり合って、敗走しながらも、まがりなりにも生きのびてみせた。
 今、主と戦おうとしている“刀神”などと仰々しい二つ名を付けられた男は、その剣神フツに近い匂いを感じさせる。
 さすがに剣神に匹敵するとはいかないが、その足下ぐらいには届いているだろう。
 ディザスターは周囲の人間達の話を聞くともなしに聞きながらも、ただ主であるスレイのみにその視線は留め続ける。
 そうして戦いの始まりを待つのであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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