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  シーカー 作者:安部飛翔
第三章
5話
 探索者ギルド本部、ギルドマスターの個室。
 スレイはゲッシュに呼び出されその部屋を訪れていた。
 部屋の中にはスレイの他に、スレイについて来たディザスター、ゲッシュを含め男が3人、女が5人、そして小さな白い竜が一匹居る。
 重々しい空気の中でゲッシュは告げる。
「いきなり呼び出してすまないねスレイくん。君に頼みたい事と、紹介したい相手が居てね」
 そういうとゲッシュはスレイに対しまずその場に居る黒髪黒瞳の、尤も若いように見えながら老成した雰囲気を醸し出す少年を指し紹介する。
「彼の名はクロウ、刀神クロウと言えば君も聞いた事があるんじゃないかな?元SS級相当探索者という立場だが、ギルドに復帰してもらったのでもう現役のSS級相当探索者だね。これで現役のSS級探索者は11人に増えるね」
「クロウ・シュテンじゃ、はじめましてお若いの」
「はじめまして、俺はスレイという、よろしく頼む。貴方の事は昔様々な文献で読んだ事がある、生きた伝説とさえ言われていたが、何年か前に死んだなどという話を聞いた覚えがあるんだがな、しかも相当に若い」
 クロウの外見が実年齢より若い事自体は、探索者としては珍しい事ではない、だが流石にここまで若いのは珍しいと言わざるを得ない。
 スレイは、教師を目指し読書ばかりしていた過去を思い出し、その中の文献に記されていた、過去に憧れた人物を目の前にして問う。
「ああ、それは隠棲したいクロウ殿達から頼まれて、我々ギルドで彼の死を偽装したのだよ。間違いなく彼は本物の“刀神”だ」
 スレイは納得したように頷くと、クロウと握手を交わす。
 互いに何か感じるものがあったかのように視線を交わすと、そのまま交わした手を離した。
 ゲッシュは紹介を続ける。
 次に指したのは白髪赤眼の、どこか幻想的な空気を纏ったアルビノの少女であった。
「次に彼女の名前はサクヤ、白姫サクヤ。彼女の事も知っていると思うが、彼女も同じくギルドで死を偽装させてもらい、今回現役のSS級相当探索者に復帰する」
「ふふ、はじめましてサクヤ・シュテンと申します」
「はじめまして、貴女の事も様々な文献で読んでいる。どうぞよろしく」
 軽く握手を交わし、2人はそのまま手を離す。
 次にゲッシュが指したのは、先ほどから何やらスレイを険しい表情で睨んでくる、年上と思われる金髪碧眼の青年だ。
「彼はケリー、貴重なギルド子飼いのS級相当探索者だ、クロウ殿に1月前に弟子入りした、ギルドの貴重な戦力でもある」
「どうぞよろしく」
「ああ、よろしく頼む」
 どこか挑発的で含むところのありそうな視線を向けてくるのを気にせず、ケリーと握手を交わす。
 続いてゲッシュはケリーと同じく金髪碧眼の、ウェーブした長髪の、どこか神秘的な雰囲気を持った女性を指す。
「彼女はマリーニア、ケリーの姉で同じく貴重なギルド子飼いのS級相当探索者で、弟のケリーと同じ経緯でサクヤ殿に1月前に弟子入りしている。ちなみに極めて特殊な占術の特性を持ち、“星詠み”という二つ名持ちでもある。君が倒した邪神の一部の力の痕跡を確認したのも彼女になる」
「どうぞ、よろしくお願いします」
「ああ」
 スレイの足下に佇むディザスターに、恐怖の瞳を向けながら、マリーニアはスレイに恐る恐る近付き握手を交わした、そうしてすぐにスレイの傍から離れる。
 どうやらディザスターの力の波動に圧倒されているようだ。
 続いてゲッシュはどこか困惑した表情をしながら、腰まであるストレートの黒髪に漆黒のような黒瞳の、凛々しい少女を指した。
「彼女の名は真紀、異世界の勇者らしい」
「異世界の勇者?らしい?」
 疑問の表情を向けるスレイに、真紀が近付きどこか挑戦的な表情で、手を差し出す。
「どうも更科真紀よ、よろしく」
 握手を交わし離れていく真紀。
 ゲッシュは困惑の表情のままに、次は肩までのセミロングの茶髪に黒瞳の小柄な可愛らしい少女を指して紹介する。
「彼女の名は出雲、彼女もまた異世界の勇者らしい」
「?」
「神代出雲、よろしく」
「ああ、よろしく」
 疑問を浮かべたままで、スレイは出雲と握手を交わす。
 続いてゲッシュが指したのは腰ほどまでのウェービーヘアの金髪に碧眼の、スタイル抜群の美少女だった。
「彼女の名はセリカ、その、彼女もまた異世界の勇者ということだ」
「??」
「セリカ・J・スミスよ、よろしく頼むわ」
「ああ、よろしく頼む」
 疑問がどんどん増えていくが、スレイはそのままセリカと握手を交わす。
 そして最後にゲッシュは、どうもヤケになったように、小さな白い竜を指す。
「そして彼の名はフルール、時空竜フルール、世界を渡る竜らしい」
「どうも、よろしく~」
「ああ、よろしく」
 小さな翼をパタパタさせながら挨拶してくるフルールに挨拶を返すスレイ。
 紹介は全て終わったようなので、スレイは疑問をゲッシュにぶつける。
「異世界の勇者と時空竜というのは?」
 ゲッシュはどこか乾いた笑いをしながら答えを返す。
「彼女等は間違いなくアラストリアという異世界の勇者らしい、故郷はさらに別の世界の地球というところらしいが。時空竜とは世界を渡る力を持った汎次元存在とのことだ。とても信じられないような話だが、マリーニアの占術で確認してもらったので間違いないことだ」
 あまりにも荒唐無稽な話であったが、邪神も元は異世界の存在らしいし、迷宮にも異世界の神々が存在している。
 それを考えるとそれほど荒唐無稽な話では無いのかもしれない。
 スレイが納得したのを確認すると、今度はゲッシュが尋ねてきた。
「それでスレイくん、その足下の蒼い狼は何者なのかね?」
 探索者ではないゲッシュでもディザスターの圧倒的な力は感じられたのだろう。
 どこか興味深げな表情でディザスターを見やる。
 尤もその表情は、スレイの一言であっという間に驚きの表情に変わる。
「ああ、こいつの名はディザスター、欲望の邪神ディザスターらしい」
「は?」
 ゲッシュは思わず間の抜けた声を上げ、咄嗟にマリーニアを見やった。
 マリーニアはスレイの言葉を肯定するように頷く。
 そうしてゲッシュの表情は恐怖に固まり、クロウやサクヤ、ケリーもその表情を緊張させ、己が武器に手をかける。
 フルールでさえ、浮かびながらも身構えている。
 普通にしているのは異世界の勇者の3人だけだ。
『ふむ、我は確かに欲望の邪神ディザスターだが、主のペットだ。特にお前たちと敵対する気はないので安心するが良い』
 ディザスターの言い草に、ゲッシュ達は意表を突かれ、表情を呆然としたものに変える。
「邪神が、ペ、ペット?」
 そうして、そんなゲッシュ達に、丁度良いタイミングだと思い、スレイはロドリゲーニの事を切り出す事にした。
「ゲッシュ、あんたに頼みたい事がある。ある人物の捜索なのだが……」
 スレイはロドリゲーニのことについて説明をする。
 スレイの話を聞いていた一行は呆然とするも、ゲッシュは立ち直り、マリーニアに確認を取ると、そのままスレイに問いかけた。
「なるほど、君の幼馴染が人に転生した邪神だというのは分かった。マリーニアの占術が外れる事は無いから間違いないのだろう。だが何故君はそのロドリゲーニを探し、さらに邪神を倒せる力を手に入れて、自分で始末をつけようなどと考えたのかね?今の君はともかく、とうていただの村人の少年がどうにかできる問題とは思えないが」
 説明したと言っても、フィノが自分を庇って死んだ為に邪神が目覚めた事や、贖罪の意識など複雑な事情は話していない。
 だいたいにして、そんな不幸自慢みたいな事を言ってもしょうがないとスレイは割り切っている。
 なのでスレイは淡々と告げる。
「まあ、気まぐれかな?」
 いくらゲッシュが問い質してもスレイはのらりくらりと躱す為、結局ゲッシュはスレイに対する追求を諦めるしか無かった。
 ただ、ディザスターを再度見て告げる。
「一つ聞きたいのだが、君は本当に人間に敵対しないのかね?」
『ああ、当然だ。だいたい過去の聖戦においても、我は主について他の邪神達と戦ったぞ?』
「聖戦で?スレイくん以前に君には主人が居たのかね?」
『主は主しかいないが?』
 ディザスターの言葉を測りかねたゲッシュはその追求も諦め、もう1つの本題に入ることにする。
「ごほん、さて話は変わるがスレイくん、今日来てもらったのは他でもない、対邪神に向けての各国首脳との会談にギルドの代表としてここに居る者達と共に、君にも来てもらいたいと思っているのだが、どうだろうか?」
「ああ、構わない。邪神関係ならば俺には無関係な話じゃないからな」
「ちょっと待ってください!」
 スレイの軽い肯定に、突然ケリーが声を上げる。
「このスレイという男をギルドの代表にするのは正直どうでしょうか?邪神を従えているというのには驚きましたが、この男はまだ中級職の探索者でしょう?各国首脳の中でも竜皇や魔王みたいな化物や、聖王猊下、さらにお付きとしてSS級相当探索者が数多く集まる会談に連れていくにはこの男では不足ではないでしょうか?」
『ほう、主を馬鹿にするというのであれば、我が相手になるぞ?』
 ディザスターがケリーに対し威圧するように力の波動を向ける。
 とたんケリーは表情を恐怖に歪め、プレッシャーに身体が震え、力が抜ける。
「まったく、本当にまずは相手の力を見定める目を鍛えるべきじゃったか」
 そのようなことを言いながら、クロウがディザスターとケリーの間に割って入り、力の波動を遮断する。
 そうしてスレイを見やりクロウは告げた。
「スレイでいいかの?どうやらうちの馬鹿弟子はお主の力を疑っているようじゃ。すまないが儂と手合わせしてもらえんかの?」
 どこか好戦的に笑いながらクロウが告げる。
「わかった、確かに各国首脳の会談の場でのギルドの代表ともなれば、力を証明する必要があるだろう。何より憧れていたあんたと手合わせできるというのならば願ってもない」
 こうして、スレイvsクロウの手合わせが実現することになるのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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