迷宮都市近くにある小高い山から程近い街道。
山から降りて来た刀神クロウとその一行は迷宮都市アルデリアを目指し歩みを進めていた。
先導するのはケリーで、マリーニアはその後ろに、そして更に後ろに悠然と歩くクロウとサクヤが続く。
1ヶ月の弟子入り期間、ケリーにとってもマリーニアにとっても得た物は大きかった。
さらにもう1つの任務である元SS級相当探索者、刀神クロウと白姫サクヤを再び迷宮探索者として復活させる、その任務も上手くいった。
そのためケリーの気分はひどく良かった。
そんな意気揚々と歩くケリーの目に、街道の先で5人ほどの男に囲まれる3人の美少女の姿が目に入る。
その傍には小さな白い竜が中に浮かんでいる。
恐らくはあの中に、誰か魔物使い(モンスター・テイマー)の称号と特性を持つ者が居るのだろう。
小さいとはいえ竜種のモンスターを従えるくらいだから相当な高Lv探索者ではないかと予想する。
そんな風に考え近付いて行く間に、5人の男達が怒り出し、3人の美少女に喰ってかかっているように見えた。
今にも刃傷沙汰が始まりそうな剣呑な雰囲気である。
仮にも女性に対して、しかもあんな美少女達に5人もの男達、しかもその装備などを見る限り探索者であろう、それが手荒な事をするなんて許してはおけない。
そのような単純な男らしい正義感と自己顕示欲を発揮したケリーが独り走り出しその8人の男女と1匹の小竜の元へと走り出す。
「あ、こりゃっ」
なにやらクロウが後ろで何か言っているようだが気にせずそのままケリーはその集団の元へと辿り付き、3人の美少女と5人の男達の間に割って入った。
面倒なことになった。
真紀は自分の長く美しい黒髪をかきあげため息を吐く。
時空竜フルールの案内に従い迷宮都市アルデリアを目指していた、異世界の勇者3人。
街道を歩いていた3人は迷宮都市ほど近くでいきなり5人の男達に呼び止められた。
どうやら自分達の美貌に釣られた馬鹿な男達が、分相応を弁えず、いわゆるナンパというものをしてきたようだ。
なにやら自分達はA級相当探索者が集まったパーティで、更に属しているグループが“暁の光”で、などと自慢げに語りだし、しきりに3人の興味を惹こうとする。
さらにはフルールに目を付けて、魔物使い(モンスター・テイマー)が居るのかなどと、なにやら自分達が属しているグループにと、勧誘までしてくる始末だ。
どうやらどこの世界でも、人間がつるむのは変わらないらしい。
探索者達も、いくつものパーティが集まって、グループを作る習慣があるようだ。
そうしてグループの中で色々協力することで色々と有利に迷宮探索を進めたり、構成員のランクだの人数だので複数のグループ同士勢力を競い合ったりなどと、いかにもありがちな事をしているらしい。
尤も、グループに属さずパーティだけ、あるいは1人だけで潜るような探索者も相当数いるらしい、流石に1人だけで潜るような探索者はかなり珍しいようだが。
真紀にとっては男達の語ることはどうでも良く、しかもA級相当探索者程度には興味も湧かない為、どうやって男達をぶちのめすかなどと物騒な事を考えている。
もともと短気な真紀にとっては、そろそろぶち切れる寸前といったところだ。
出雲はそんな真紀にも男達にも我関せずといった風で全く興味なさそうにしているし、セリカは真紀と同じく好戦的な為に、同じく過激な行動に出る寸前といったところであった。
というか既に相手を怒らせるような罵詈雑言を真紀とセリカの2人で吐き出している為、男達は怒り心頭だ。
出雲のボソリと呟いた、完全にどうでも良さそうでいながら辛辣な台詞も、男達の怒りを助長させた。
3人共、異界の勇者の力の一端により、どのような言語でも自然と身につけ、文字の読み書きまで可能になる為、このように問題なく意思の疎通が取れている。
尤も、その中身は実に殺伐としたものであったが。
そうして男達の1人が真紀に掴みかかろうとした時だった。
「待て!お前達。集団で女性に寄ってたかって、更に手まで出そうとは、恥を知るがいい!!」
そこへ今度は金髪碧眼の20歳程に見える青年が、突然自分達と男達の間に割り込んで来た。
どうやら自分達を護るナイト気取りらしい。
だが、目の前の青年から感じる力の気配は確かに5人の男達に比べれば、ずっと洗練され強いものだったが、それでも自分達に比べれば見劣りする。
それで自分達を護ろうなどとは笑わせる。
そうして真紀は、まあ目の前の5人よりはマシかと考え、いきなり剣を抜き青年に斬りかかっていた。
青年は驚いたような表情をして動けずにいる。
勿論それでは楽しめないので、まずはただ剣を突きつけてみせるだけのつもりだった。
そこから青年との戦いに、いや加えて5人も同時に相手取って戦うのも面白そうだ、などと考えていた真紀だったが、そこへ再び新たな人物が現れる。
「まったく、馬鹿弟子が。これは相手の力を見定める目も鍛えてやらんといかんな」
黒髪黒瞳の少年であった。
明らかに青年より若く見えるその少年は、だが容易く真紀の剣を受け止めて見せる。
「ふむ、どうやら挑発のつもりだったようじゃが、そういう真似は関心せんの」
どこか年寄り臭い口調で話すその少年は、そのまま真紀の剣を容易く弾き返す。
力尽くという訳ではない。
ただ力の使い方がひたすらに上手いのだ。
そうして解放された少年の力の気配は青年とは比べものにすらならず、真紀をすら心胆寒からしめるものであった。
少女達と男達の間に割って入ったケリーは、突然その少女達の1人が自分に向かって剣を振るったのに驚き硬直し、そして次の瞬間には目の前にクロウが現れその剣を容易く受け止め弾き返す。
正直理解できない今の状況に呆然とするしかないケリー、そしてそれは5人の男達も同様のようだった。
ケリーに向かい剣を振るった少女、真紀はクロウに対し面白そうに話しかける。
「あなた、強いわね」
「ふむ、そういう嬢ちゃんもとんでもないの。正直、単純な力では勝てる気がせんほどだ。だがまあ、まだまだ技の練りこみが足らんの」
そういうとクロウは今度は自分から真紀に対して仕掛ける。
素のまま亜光速で振るわれた刀を、真紀は容易く受け止めるが、そのままクロウの技巧と合気とで真紀自身の力を絡めとられ、踏ん張れずに後方へとふき飛ばされる。
体勢を立て直し軽く着地した真紀は、顔に満面の笑みを浮かべ、そうして消えた。
クロウもほぼ同時に消えさる。
次の瞬間、クロウの二本の刀がそれぞれ真紀の首筋と心臓に突きつけられ、真紀の剣は後方に突き刺さり、二人は動きを止めていた。
ケリーや5人の男達は何が起きたのかすら分からずただ硬直しているしかない。
セリカは思いっきり驚いた表情をし、出雲も珍しく驚きの表情を見せていた。
「あなた、強いわね。まさか私がこんなにあっさり負けるなんて」
悔しそうに唇を噛み締めながら、真紀が呟く。
「いやなに、これは単なる年の功というものだよ。単純に総合力で言えばお前さんのが上であろう」
「総合力がどうであろうが、実戦で私は貴方に負けた。それはつまり、単純に強さを言えば貴方の方が強いということでしょう?」
悔しさと闘争心で目をぎらぎらさせながら真紀が言い放つ。
そんな中、何時の間にか5人の男達はそそくさと立ち去っていた。
どうやら2人の戦いを見て、真紀達が自分達には手に負えないような相手だと理解したようだ。
流石にA級相当探索者ともなれば、そのくらいの判断はつくらしい。
ケリーは自分より年下に見える少女が、あのクロウに、総合力なら自分より上と言わしめた事に悔しさを覚える。
セリカは呆然と呟く。
「まさか、こんな子供が真紀より強いなんて」
「うん、驚いた」
出雲も同意する。
そこへクロウが異議を唱える。
「ふむ、御主等が儂を何歳だと思っているのか知らんが、儂は84歳じゃぞ?」
「え?」
「嘘?」
「驚いた」
だいたい16歳程度の年に見える少年が、84歳だということに、3人の少女は驚きを隠せない。
だがそれを疑う事まではしない。
色々な経験をしている為、見た目と実際の年齢が違う相手などというのも、まあそれなりに慣れているのだ。
そんな中、遅れてサクヤとマリーニアが5人と1匹の元に辿り着く。
マリーニアは状況が理解できていないが、サクヤは開口一番。
「あら、まあ。女の子に刀を突きつけるなんて感心しませんよあなた」
クロウは慌てて刀を引き、鞘へと納刀する。
どうやら天下の“刀神”も妻にはとことん弱いようだ。
「ごめんなさいね、うちの夫ったら刀術ばかりが取り得で。貴方達の強さにちょっと興が乗っちゃったみたい。代わりにお詫びさせて頂きます」
「刀神クロウに白姫サクヤ……」
そこで呆然としたようにフルールが口を開いた。
「なに、フルール。その刀神とか白姫って」
真紀は思わず問いかける。
「元SS級相当探索者にして、恐らくはこの世界の人間の中でも最高峰の存在だよ。死を装って山に隠棲してるハズなのに、まさかこんなところで会うだなんて」
この世界に来た時に仕入れた知識で2人を知っていたフルールは、ただ呆然としたように呟く。
「真紀、君が望んでいた強敵だよ。刀術と速度だけならその二つ名通り神にすら匹敵するかもしれない、ね。どう、嬉しい?」
「ええ、とても嬉しいわね。どうやって勝とうかと考えると、すごく意欲が湧くわ」
ただひたすらに好戦的な表情でクロウを見やる真紀。
そんな真紀にやれやれといった顔をするセリカ。
出雲の表情はまた無表情に戻り、何を考えてるか良く分からない。
そうして、クロウとの再戦を望む真紀はクロウ達に付いていくと言い張り、探索者ギルド本部を目指すクロウ達に、真紀達も同行することになるのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。