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  シーカー 作者:安部飛翔
第三章
1話
【欲望の迷宮】地下49階
「どうだ?」
「待ってよホーク、そんなすぐには判断できないってば。そうは見えないかもしれないけど、これでも感知魔法は複雑で難しい部類の魔法なんだからね」
 20代半ば程の青年、ホークが急かすのに、手の平に乗りそうな程小さい、だが種族としては平均的な大きさである妖精のリリィが、目の前の宝箱を魔法で光らせながら抗議する。
 そう、宝箱。
 巨大なそれが彼ら6人の前には存在していた。
 見たまますぐにそうと分かる宝箱は、一般の人間が見れば怪しくただの警戒の対象にしかならないかも知れないが、探索者達にとっては違う。
 迷宮を創り上げた神々の趣味かどうかは知らないが、迷宮の中にはこういった宝箱が実際に頻繁に存在し、そしてその中には様々なアイテムが、それこそ場合によってはシークレットウェポンさえも入っている事があるのだ。
 尤も、シークレットウェポンに関して言えば、結界内の岩に突き立てられていたり、ボスモンスターが居る広間の中の祭壇のような場所に安置されていたり、といった事の方が多いのだが。
 ともかく、実際に迷宮には宝箱が存在し、誰かに手を付けられていなければ、その中には貴重な財宝などが眠っているのである。
 まあ、探索者達を騙すための罠だけが仕掛けられていて、中身が空っぽだというケースもままあるのだが。
 そんな宝箱だが、流石に初心者~上級者用の迷宮までは、階層が浅く、しかも探索者ギルドでさえ迷宮内を把握しつくしている為、手付かずの宝箱というのは存在しない。
 それでも中身は神々の力によって常に補充されるのだが、既にそれらの迷宮の宝に関してはそれほどの価値は無いものばかりだと判明している。
 その為、初心者~上級者用の迷宮に潜っている者達にとっての宝というのは、それこそモンスターの肉体の換金部位やモンスターが持っているアイテムなどになる。
 しかし、上級者を越え、未だ数多い無数の未知迷宮に挑むようになった者達にしてみれば、宝箱というのも、モンスターの換金部位やモンスターが所有するアイテムに並ぶ貴重な収入源になる。
 その為、ホークが期待と興奮を顔に浮かべ、じりじりとしながら、リリィの感知魔法で宝箱を調べているのを待ちきれずにいるのは、ごく普通の事なのである。
 だが、未知迷宮に潜るような高レベルパーティの、しかもリーダーが、そんな分かり易い態度を取っているのはどうかと思われるが。
 実際、他のパーティメンバーは、そんなホークを苦笑して眺めている。
「ほい、終わったよホーク。罠の類は存在しないね、あと中身も空っぽじゃなくきちんと入ってる、こいつは当たりだね」
「ふむ、それじゃあ儂の出番かの」
 そういって宝箱の前まで進み出たのは、重装備で身を固めたドワーフの青年ダインであった。
 ドワーフの例に洩れず、その厳つく毛深い顔立ちは年齢を判別するのは難しいが、ドワーフとしてはひどく若い部類に入る。
 宝箱を触る指先はごついながらも、これもまたドワーフの例に洩れずひどく器用で、ちょっとした道具、針金などを使い、あっさりと宝箱の鍵を開けてしまった。
 そうしてそのまま宝箱の蓋は開けずに、ホークへと立ち位置を譲る。
 ダインはきちんとリーダーを尊重する弁えた男であった。
 ホークは宝箱の前に立つと、ごくんと喉を鳴らしゆっくりと蓋を開けていく。
 この瞬間がホークは好きだった。
 何が入っているか分からない宝箱、それを開けると出てくる何か。
 宝物でなくてもいい、いやなるべくなら宝物であるに越したことは無いが、例え出てくるのが何であっても、宝箱を開けるこの瞬間、何が出てくるかわからず胸を高鳴らせるこの瞬間がたまらなく好きだった。
 そうして開く宝箱。
「ほぅ」
「うわぁ」
「ふむ」
「へぇ」
「はぁ」
 ホーク以外の全員が感嘆の吐息をあげる。
 今回は当たりであった、宝箱の中には大量の金銀財宝が眠っていた、ここ最近の探索では間違いなく1番の成果であろう。
「よし、それじゃあまずは魔法の袋にしまうぞ、それでギルドで換金後に山分けだ」
 一般的には間違いなく高価な財宝の山であるが、特に魔法がかかったアイテムや装備品の類は存在しないようだったので、そのようにホークは告げる。
 そうしてパーティのメンバーは、宝箱に詰まった財宝を自らの魔法の袋へとしまっていくのだった。

「それで、どうする?今日はここまでにしておく?」
 宝箱のあった部屋から出た通路、リリィがホークに尋ねる。
 それにホークは考え込むようにすると、いいやと首を振って道の先に目を向ける。
「せっかく地下49階まで来たんだ、今日は地下50階まで探索しきろうぜ」
「しかしこの迷宮は地下25階でボスモンスターが出たからな。地下50階もボスモンスターが出る確率が高いと思うが」
 サブリーダーである獅子のライカンスロープのオグマがそう懸念を表明する。
 それにホークは笑った。
「だからこそ、さ。せっかくここまで来たんだ、もし地下50階にボスモンスターが居るなら今日中に倒しちまおうぜ」
「賛成!今日はたいしてモンスターと戦ってないからどうも物足りないしね」
「おや?坊やが言うじゃないか。あんまり油断してると足下を掬われるよ?」
「なんだって?足下を掬われるとしたらレイナの方じゃないの?」
 意気込んで意欲を見せる青年クルトに、色気を漂わせる女レイナが茶々を入れる。
 それに反論するクルトだが、レイナは相手にせず笑っている。
 いつも通りのパーティの様子であった。
 クルトとレイナの口論も、決して険悪なものではなく、いつもの通過儀礼のようなものだ。
「ふむ、しかしここは未知迷宮、レイナの言うようあまりに油断していると万が一に足下を掬われる可能性も十分考えられるぞ」
 再びサブリーダーのオグマ。
 だがホークは自信に満ちた表情でパーティのメンバーを見渡す。
「おいおい、俺達は6人全員がS級相当探索者のパーティ鷹の目団だぜ?いったいどんな万が一があるっていうんだい?」
 そうして笑いながらまずはサブリーダーのオグマに指先を向ける。
「まずはパーティの最大戦力、二つ名持ちでSS級相当探索者になるのも近いと言われる獅子王オグマ!」
 そんなホークのノリに、何時もの事だと仕方なさそうにカードを出して能力値を表示させるオグマ。
 いつもこんなノリに付き合わせるのだから本当に仕方のないリーダーである。

オグマ
Lv:88
年齢:35
筋力:SS
体力:SS
魔力:A
敏捷:SS
器用:SS
精神:S
運勢:S
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、獅子のライカンスロープ、獣王、バーサーカー、狂獣王
特性:狂化×5、獣化×5、思考加速、思考分割、戦技上昇、月の祝福、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:獣神ライガン
職業:覇戦士
装備:オリハルコンの爪、ミスリル絹の服、龍革の靴
経験値:8711 次のLvまで89
預金:453321コメル

 装備は酷く軽装ではあるが、オグマの真価はその狂化と獣化の併用、通称では“狂獣化”などと呼ばれる特性にあるのだから仕方がない。
 なんにしても、狂化と獣化を併用し最高段階まで発動した時は、理性を失った完全な獣となるものの、その状態の純粋な身体能力だけなら並のSS級相当探索者を軽く越えるとすら言われているほどで、ホークのようなお調子者がリーダーのパーティに属しているのが信じられない程の極めて優れた人材である。
「続けてパーティのムードメーカーにして、パーティの貴重な魔法要員、風の妖精リリィ!」
 ムードメーカーと呼ばれるだけあり、ホークに合わせてノリノリで自分のカードを差し出し能力値を表示するリリィ。

リリィ
Lv:83
年齢:45
筋力:C
体力:B
魔力:SS
敏捷:SS
器用:SS
精神:S
運勢:SSS
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、風妖精
特性:魔力操作、隠密行動、思考加速、思考分割、魔法上昇、高速詠唱、無詠唱、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:風神アネモイ
職業:魔賢師
装備:妖精の杖、風精の衣、幸運の靴
経験値:8243 次のLvまで57
預金:352589コメル

 筋力と体力がとても低いように見えるが、それは身体が手の平にのるようなサイズだからで、むしろそのサイズでこの筋力や体力があるということは異常だとすら言える。
 僅か15cm程のサイズの妖精が、それこそ大の大人も軽く投げ飛ばせる程の筋力を持っていると考えれば、その異常さが良く分かるだろう。
 それと幸運を呼ぶ、などという妖精に付きまとう噂に相応しく運勢も高く、感知魔法の事も考えれば、パーティにとってはまさに幸運の妖精と言っても過言では無い。
 パーティではただ1人の魔術師系職業だという事も考えれば、パーティに必須の人材と言えるだろう。
「続いて気は優しくて力持ち、なのに誰より器用な指先を持つ男、ドワーフの聖戦士ダイン!」
 その厳しい顔にどこかむず痒いような表情を浮かべながらカードを出して能力値を表示するダイン。

ダイン
Lv:82
年齢:53
筋力:SSS
体力:S
魔力:A
敏捷:A
器用:SSS
精神:S
運勢:A
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、地のドワーフ、見習いバーサーカー
特性:狂化×3、思考加速、戦技上昇、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:鍛冶神シグマ
職業:聖戦士
装備:オリハルコンのトマホーク、オリハルコンのプレートメイル、オリハルコンの大盾
経験値:8140 次のLvまで60
預金:503890コメル

 気は優しくて力持ちで器用と、まさにホークの評価通りの男であった。
 魔法の関係無い罠などに関しては全て彼の手で解除され、彼らのパーティは一度も罠に引っ掛かった事は無い。
 さらにはパーティの装備の整備は全て彼が行っている為、その面でも縁の下の力持ちという言葉がしっくりくるドワーフの好青年だ。

「そして、パーティのお色気担当、剣聖レイナ!」
「誰がお色気担当よ!」
 突っ込みを入れながらも律儀にカードを取り出し能力値を表示するレイナ。

レイナ
Lv:80
年齢:28
筋力:S
体力:S
魔力:S
敏捷:SS
器用:S
精神:A
運勢:S
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、エルシア学園卒業生
特性:魔力操作、思考加速、剣技上昇、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:剣神フツ
職業:剣聖
装備:オリハルコンのロングソード、オリハルコンのブレストプレート、オリハルコンのバックラー、ミスリル絹のタンクトップ、ミスリル絹のスパッツ、龍革のスニーカー
経験値:7945 次のLvまで55
預金:284390コメル

 このパーティの中では剣士として実に標準的な能力値である。
 ただ少々軽装気味で肌の露出も多いため、お色気担当と言われても仕方なかろう。
「次にパーティの弟役、みんなに可愛がられる青年、パーティ最年少の聖闘士クルト!」
「誰が弟役で誰が可愛がられてるって言うんだ」
 ぶつくさと言いながらもカードを差し出し能力値を表示するクルト。

クルト
Lv:80
年齢:25
筋力:SS
体力:S
魔力:S
敏捷:S
器用:S
精神:A
運勢:S
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、纏う者、エルシア学園卒業生
特性:闘気術、魔闘術、思考加速、格闘技上昇、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:闘神バルス
職業:聖闘士
装備:龍革のセスタス、龍革の胴着、龍革の帯、龍革の靴
経験値:7923 次のLvまで77
預金:188920コメル

 流石に最年少だけあってレイナと同じく闘士として実に標準的な能力値であった。
 またレイナと同じくエルシア学園の卒業生で後輩だというので、レイナとは腐れ縁と言える。
 おかげでクルトはレイナにからかわれて反応するといった事が多かった。
「そして最後に、ついに真打登場!この鷹の目団のリーダーにして、いずれは大陸史に名を残す男。この俺ホーク!!」
 今までよりも最高潮にノリにノッている感じで自分のカードを取り出し能力値を表示し掲げるホーク。
 パーティメンバーは苦笑いだ。

ホーク
Lv:85
年齢:34
筋力:S
体力:S
魔力:S
敏捷:S
器用:SS
精神:S
運勢:S
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)
特性:闘気術、魔力操作、思考加速、思考分割、魔法上昇、戦技上昇、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:戦神アレス
職業:神騎士
装備:オリハルコンのツーハンデッドソード、オリハルコンのプレートメイル
経験値:8432 次のLvまで68
預金:681230コメル

 大陸史に名を残す男とはとても思えない、S級相当探索者としては実に標準的な能力値だった。
 しかし、並のSS級相当探索者を越えるとさえ言われる獅子王オグマを含め、S級相当探索者を5人も纏め上げている男だ。
 実際にその明るさや人望、リーダーシップはなかなかのもので、能力値では測れない何かを持った男なのだろう。
 これが迷宮都市アルデリアにおいてもかなり名の売れた探索者パーティ“鷹の目団”であった。。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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