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  シーカー 作者:安部飛翔
第二章
エピローグ
 中央の国家群、そのとある街道。
 そこには3人の少女が佇み、その傍には体長30cm程の小さな白い竜が浮かび、その周囲には数十人の野盗達が気絶し倒れていた。
 3人の少女の内、黒いストレートの長髪に黒い瞳の、バランスの取れた肢体を持った、お嬢様といった感じの美少女が、その風貌に似合わぬ鋭い口調で、白い小竜を詰問する。
「いったいどういうこと?私の願いはアラストリアの魔王よりも遥かに強い強者が居る世界へ行く事だったんだけど、この世界の人間って全然大した事無いじゃない!」
「そう、せっかく日本に帰れるハズだったのに真紀ちゃんが余計な願い事をした所為でまた別の世界にやって来てしまった。まあ、いいけど」
「ちょっと!いい加減にしてよ!本当に傍若無人で傲岸不遜で天上天下唯我独尊で、ちっとも人の事を考えない女ね。なんで私達まで貴方の我侭に巻き込まれなくちゃいけないの!?」
 他の2人の少女。
 セミロングの茶髪に黒瞳の小柄な美少女は、どこか寝ぼけたような目で、本当にどうでも良さそうに周囲を観察している。
 そして、もう一人、腰ほどまでのウェービーヘアの金髪に碧眼の、出る所が出て、引っ込む所が引っ込んだ、スタイル抜群の美少女が、真紀と呼ばれた少女に対して強い口調で文句を言う。
「別に良いじゃない?出雲なんて別にどうでも良さそうだし、反対してるのはアンタだけよ、セリカ。それにこのチビ竜が居れば何時だって元の世界に帰る事はできるんだから、せっかくなんだしとっておきに強い敵の居る世界で強敵と戦ってみたいじゃない。さあ、チビ竜、どういう事なんだか説明してもらいましょうか?」
 出雲と呼ばれた小柄な少女は相変わらず周囲を観察し、セリカと呼ばれた金髪碧眼の少女は諦めたような溜息を吐く。
 そんな中、真紀に首を絞められていた小さな白竜は、なんとか真紀の腕から逃げ出すと、真紀に対して文句を言う。
「首を絞めるのは止めてよ、危うく死ぬかと思ったじゃないか!それにいい加減にボクをチビ竜と呼ぶのは止めてよね、いい加減にしないといくら温厚なボクだってキレるよ?」
「へぇ~、キレたらどうなるっていうのかしら、見せてごらんなさい」
「いいさ、覚悟しなよ?アラストリアでは世界を滅ぼす危険があったから解放できなかったボクの、汎次元竜たる時空竜フルールの真の姿、この世界でならその心配も無く解放できる、今こそボクの真の力を見せてあげるよ!」
 そうして暫しの時間が経つ。
 一向に何も起こらない様子に、真紀が突っ込みを入れる。
「それで、アンタの真の姿とやらはどうしたの?」
「こ、この世界に突入するのに力をほぼ使い果たしてるのを忘れてた……」
 どよ~んとした様子で落ち込む小さな白竜、フルール。
 セリカが黙っていられない様子で突っ込みを入れる。
「ちょっと待ちなさいよ、力を使い果たしたって、私達の元の世界への帰還は?」
「暫く、ボクの力が回復するまでは無理だよ。ただでさえこの世界から出るだけでも力を大量に消費するんだし、ただこの世界は君達が元々居た世界と近い位相にあるから、そういう意味では出る事さえできれば、すぐにでも帰す事は可能だけど」
 セリカが再び何か言おうとするのを制し、真紀が問う。
「日本への帰還自体はアンタが回復さえすれば何時でもできるんでしょう?セリカもそれで納得しときなさい。それより問題は、この世界の盗賊、アラストリアの一般人達と比べても弱いくらいじゃない。本当にこの世界にアラストリアの魔王より強い敵がいるの?」
 どこか落ち込んだ様子のフルールは、それでも倒れる野盗の1人に近付くと、身体をまさぐり、カードを1枚咥えて戻ってくる。
「それは?」
 フルールは答える事なくカードに光を送り込むと、カードが文字を表示するのを確認して、真紀に渡した。
 そこには、

ガトー
Lv:9
年齢:38
筋力:E
体力:F
魔力:G
敏捷:E
器用:E
精神:F
運勢:F
称号:無し
特性:無し
祝福:闇神アライナ
職業:無し
装備:青銅の剣、布の服、布のズボン、木の靴
経験値:890 次のLvまで10
預金:0コメル

とあった。
「なに、これ?なんかゲームのステータスみたいね」
 実は元の世界では重度のゲーマーであったセリカがカードを覗き込み言う。
「まあ、似たようなものかな?この世界には昔神々が創り上げた成長システムがあって、特別な肉体改造を受ける事で、倒したモンスター等の魂を吸収して自らを強化する事ができるようになるんだ。今はその肉体改造をした者の事を探索者と呼ぶんだけどね」
「探索者?いったい何を探索するというのかしら?」
「それは迷宮さ、昔神々が肉体改造した人間を更に効率良く成長させるべく創り上げた迷宮群、そこは今は迷宮都市として知られ、肉体改造した人間はその迷宮に潜り強大なモンスターを倒し名を上げ、迷宮にある財宝を手に入れ富を得る事で、人の世界で成り上がる事を目指すんだ」
「それでは、何故この男はこんなところで盗賊みたいな真似をしていた?説明」
 真紀の質問に答えたフルールに今度は出雲が疑問を投げかける。
「それはまあ、この男が落ち零れだからだろうね。探索者としては最低と言っていいランクのF級相当、しかも魔力はGと現時点では魔法を使える可能性すら無い。元々何も持たない者が成り上がる為に探索者を目指す事は多いけど、探索者になった時点でもその能力値は生来の素質が物を言うんだ。Lv9でここまで能力値が低いとなると、初心者の探索者がLv上げの為に潜る【始まりの迷宮】ですら命の危険があっただろうし、そのまま迷宮都市から逃げ出して盗賊になったんだろうね」
「そう、随分と世知辛いのね」
 どうでも良さそうに真紀が言う。
「まあね、結構そういう探索者崩れの野盗は多いよ?この男のLvが9に上がってるのは多分盗賊行為で人間を殺してきたからだろうね、人間の魂もまた経験値として吸収できるようなシステムだから。まあそういう訳で、こいつらが弱いのはあくまでこの世界でも雑魚中の雑魚だからって事なんで、君の期待に応えられる相手は相応に居ると思うよ」
「ふーん、それでランクというのは大体どのくらいが最高なのかしら、あと私達をそのランクで表すと大体どのくらいになるの?」
 鋭く重要な事を尋ねてくる真紀に、フルールは舌を巻く。
「そうだね、この世界のランクは実質存在しない最低のGから始まってAまで行った後はS、SS、SSSと続いて次にEX、EX+とあり、そしてそれ以上の測定不能という領域の存在も居るね。ただ人間の中では総合的にはSS級相当が最高ランクかな?能力の偏りがあるから一概には言えないんだけどね。それと君達をこの世界でランク付けするとしたら総合的にSSS級相当ってところだね、ちなみにボクの真の力はこの世界で言うEX+級で君達よりずっと上なんだからね」
「そう、まあチビの戯れ言は置いておいて、私達より上の総合的にEX級相当以上という存在について知りたいんだけど」
「本当なのに……ふぅ。まあまあ、そう焦らずに、せっかちなのは君の悪い癖だよ真紀。SS級相当に過ぎない人間でも、一芸においてなら君達を超越している存在だっているし、とりあえずは迷宮都市に行ってみないかい?アラストリアで勇者の儀を受け既に改造済の君達が探索者の肉体改造を受ける事はできないけど、迷宮探索は自己責任で自由だし、それにこの世界は君達にとっては色々と面白いと思うよ?例えばこの世界の神には、主にディラク島という島で信仰されている剣神フツなんていう神も居るんだけど、この神は君達の世界のしかも君達と同じ日本の出身だ、だからその島のみで作られるディラク刀というのはまんま日本刀だったりするんだよね」
「剣神フツ……もしかして経津主神?」
 出雲がポツリと呟くのに、フルールは勢いよく翼を羽ばたかせる。
「そうそう、なにせこの世界と君達の世界は位相が近いからね、まあこの世界は最高次元の最高位の世界で、君達の世界は低次元の低位の世界という圧倒的な差はあるけど。ともかくそういう訳で、他にも君達の世界の神々がこの世界の神々として祀られてたり、あるいは迷宮の奥深くに強力なボスモンスターとして囚われていたりと、本当に色々と面白いと思うよ」
「なるほど、確かに面白そうね。つまり私達の世界で神と崇められてた存在と、直接戦う事もできるってことよね。それは、そそられるわ」
 凄絶な色気を漂わせる笑みを浮かべる真紀。
「私達の世界の神々の実体、実に興味深い」
 無表情ながら瞳の奥に強い好奇心を浮かべる出雲。
「まあ、楽しそうだしもう暫くバカに付き合ってもいいかもね」
 困ったような楽しそうな複雑な表情を浮かべるセリカ。
「ただし、一つだけ注意。邪神、その封印にだけは手を出さないように。まあ、注意しなくても元々手出しできないような物なんだけど、君達の場合は時々想像を越える事を仕出かすからね」
「あら、何故神々に手を出しても良くて、邪神に手を出すのは駄目なのかしら?」
 純粋な好奇と疑問の表情を浮かべる真紀。
「単純な理由さ、神々よりも邪神は圧倒的に強い、ただそれだけの話だよ。なにせ邪神は全員自分の世界を創造し破壊した事がある、創造神にして破壊神だからね。更に下級、中級、上級、最上級と分類できるんだけど、下級でも総合的にEX+級、中級以上から測定不能な存在だ、最上級の邪神に至っては無数の高位多次元世界を刹那で滅ぼしたという逸話すら持つ化物中の化物だ。どうしようも無い相手というのも世界には居るんだよ」
「へぇ、それじゃあそんな存在を誰がどうやって封印したのかしら?」
「神々に力を与えられた後期・邪神封印システム、職業:勇者と呼ばれる連中が封印したのさ、ただし多大な犠牲を払ってね」
 フルールの今まで見せた事の無いような真剣な表情に、流石の3人も息を飲む。
「分かったわ、邪神には手を出さない関わらない、それでOK?」
 フルールは真紀の言葉に頷くと、それじゃあと気合を入れ直す。
「さて、それじゃあ迷宮都市アルデリアを目指そうか、この世界に入った時点できちんとこの世界の知識は習得済だから、道中の心配はしなくていいよ、それに丁度路銀もこの野盗の皆さんのおかげで手に入ったしね」
 そういって、硬貨の詰まった袋を咥えて持ち上げて見せるフルール。
 いったい何時の間にと呆れた表情の3人。
 そうして、この世界に異分子が紛れ込んだのだった。 

 【???】???“???”???
「うん?」
「どうした享楽の」
「いや、どうもこの世界に異分子が入って来たようで、ちょっと気になってね」
「ふむ、我もそれは感じたが、我等が気にするほどの事でもあるまい」
「うん、まぁそうだね、気にすることは無いか。さぁーて、これで封印解除は終わったね。どうだい?絶望の、久々の自由は」
「ふむ、悪くは無い。今まで封印されていた身だからこそ自由というものを得難い物だと感じられるな」
「そうかい、それは良かった。それじゃあ僕はそろそろ次の邪神の封印の解除に行こうと思うんだけど、一つ伝え忘れてたから伝えておくね。実は僕が封印を解いた邪神は君が始めてじゃないんだ」
「なに?」
「下級3柱の邪神、かつてオメガに滅ぼされた希望のエクスター、そして君絶望のクライスター、そしてもう一柱欲望のディザスター、僕が一番最初に甦らせた邪神は欲望のディザスター、君は2柱目なのさ」
「貴様、何を考えている?忘れたのか、奴は、欲望のディザスターはオメガに降り我等邪神と戦った裏切りの邪神だぞ。確かにその後この世界の神々によって、他の邪神と共に勇者の封印を受けたが、奴のオメガに対する忠誠が失われたとは思えん。今頃はオメガの転生の下に付いているのではないか?」
「かもね、だけどそれも含めて僕は舞台を整えているのさ。今度の聖戦では封印なんて半端な終わり方をさせるつもりは無いんだ、どちらかの完全な敗北、それを以って聖戦の終わりとしたいのさ」
「……流石は享楽の邪神ということか、この世界は貴様にとっては自らが楽しむための遊戯盤といったところだな」
「ふふん、まあね。それじゃあ僕は行くよ?3柱揃って同時に封印された間抜けな中級3柱の邪神達、3柱にして1柱たる三位一体トリニティの封印を解きにね。あと智啓のシェルノートや求道のジャガーノートは自分で色々と試みて封印を解きかけてるし、憤怒のイグナートに至っては1年もかければ力尽くで今の封印なら解除するのは可能みたいだから、自分に相応しい敵が現れたら封印を解除するつもりでまだ大人しく封印されているだけみたいだし、中級3柱の邪神の封印を解けば楽しい遊戯が始まる筈だから、楽しみで仕方ないよ。それじゃあね」
「……ふん、奴の思惑に乗るのは気に喰わんが仕方の無いことだな、せいぜい用意された舞台の上で派手に踊ってやるとするか」


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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