その日、スレイはリリアと共に都市を散策していた。
最初にこの迷宮都市を訪れてから、リリアには都市の案内をしてもらったり等と色々と世話になっていたので、その礼でもしようと思い、リリアの空いたスケジュールを尋ね、誘いをかけたのである。
リリアは二つ返事で、尋ねた次の日にはスケジュールを空け、そしてこの日は朝から待ち合わせてそのまま2人で都市を歩き回っていたのだった。
ほぼデートと呼んで差し支えない物である。
やはり土地勘はリリアの方がある為、デートコースの選択はリリアに委ね、スレイは財布役に終始している。
都市の色々な店に入り、リリアからその店についての様々な裏情報を聞かされたり、時にはこちらが回答に困るような際どい質問をされたり。
あるいは喫茶店に入ってゆったりとお茶をしたり、劇場へと入り2人で並んで観劇したり。
そして現在、とある装飾店。
店内に展示された装飾品の数々。
その中に紛れるように、かなりの割合で魔法のかかったアイテムが混ざっていた。
しかも値段がかなり安い。
スレイは疑問に思ってリリアに尋ねる。
「リリア、ここはどういう店なんだ?」
「あ、気がついた?ここの店主のおじさんなんだけど、少し前までは探索者をやっててね。でも夢は自分の店を持って自分の作った装飾品を売るっていう、職人希望の探索者さんだったのよ。そうして少し前の探索で、資金も溜まったのでお店を始めたらしいんだけど。自分の作った装飾品を売るついでに、探索者時代に集めたもう必要の無いアイテムも処分目的に一緒に売りに出してて、かなり安くてお得なのよね。店を開いたばかりでまだお客さんも少ないから、結構な穴場なのよ、このお店」
リリアの説明に納得しつつも、そういった情報を普通に知っている事に驚く。
そういえば今日のデートコースもこの店ほどではないが、普通に穴場と言えるようなスポットばかりを巡っていた気がするし、様々な裏情報にも精通していた。
以前にギルドマスターの前で、自前の情報網を持っていると話していた事も思い出し、探索者ギルドの職員よりも、あるいは情報屋でもやる方がこの少女にとっては天職なのではなかろうか?
そんな益体も無いことを考えながら、店の品物へと視線を移す。
そこに突然奇声が上がった。
「あ~~~!!貴様!!あの時の、何故またリリアさんと一緒にお前がいる!?」
そこには以前リリアを巡って職業神の神殿で騒ぎを引き起こし、スレイを巻き込んだダグという名の男がいた。
その後ろには取り巻き5人を当然のように引き連れている。
スレイはやや頭に痛みを感じてこめかみを押さえる。
リリアはただひたすらにどうでも良さそうな、冷たい表情をしていた。
「何故と言われれば、デートしていたからだが?」
スレイが言うと、ダグは額に青筋を浮かべ、抗議するようにリリアに言う。
「リリアさん、貴女ともあろう人が、何故このような者とデートなど!?」
リリアは冷たい表情のまま答える。
「別に、私が誰と一緒に何をしてようと私の勝手でしょ?あなたには全く関係の無いことよ」
冷たい表情と冷たい声色のリリアに、ダグは少し及び腰になりながらも、それでも必死に言い放つ。
「何をおっしゃるのですか?貴女はいずれ私の妻となる方だ、その貴女が他の男とデートだなどと、黙っていられる筈が無いでしょう」
「あら?私が何時貴方の妻になるなんて決まったのかしら?以前貴方の父親の公爵様を通してされた求婚には、丁重にお断りの返事をお父様がしていたはずですけれど」
冷たくバッサリと切り捨てるリリア、だがダグはへこたれない。
「ハハハッ、面白い冗談を仰る。建国以来の伝統ある我が公爵家に断りの返事など、いくら照れ隠しとはいえ、笑えませんよリリアさん」
「現に以前騒ぎを起こした時、あなたのお父様である公爵様は、あなたの馬鹿な行いにお怒りになられて、暫く部屋に軟禁されたと聞いているけれど」
呆れたように言い放つリリア。
否定のしようが無い事実を突きつけられ、それでもダグは止まらない、いや止まれないのだろうか?
「何故ですか!?何故私が駄目で、そこの冴えない男ならいいと言うのですか!!?そこの男が最近“黒刃”などと呼ばれて調子に乗っている探索者だからですか!?それならほら、私も最近探索者になりましたよ!Lvだって着実に上がっているし初級職としては最高位の騎士になりました!そこの男は剣士職なのでしょう!?私ならいずれはそこの男だって超えてみせます!!」
そうして見せられた探索者カードには、確かにダグの名前が記され、Lvが16で職業は騎士と書かれている。
「ふぅ、馬鹿ねぇ。そんな物見せられても、どうせ貴方がそれだけのLvになれたのは、後ろの人達とパーティを組んで経験値を分けてもらっていたのでしょう?」
ダグはうぐっと言葉に詰まる。
「それに探索者だとかどうとか、そんなことはどうでもいいのよ」
ただひたすら冷たい表情を保ち続けるリリア。
「私はね、あなたの事別に嫌いではないわよ?」
「そ、それでは私とッ……」
リリアは右手を突きつけダグの言葉を押し止め、更に言葉を続ける。
「でもね好きでもないの、言ってしまえば無関心、貴方のことなんてどうでもいいのよ。貴方は何か勘違いしているみたいだけれど、想いの価値は互いに等価ではないのよ?想いを寄せたから相手が当然答えてくれるなんて、そんな事はありえないのよ」
永久凍土の如く冷たく硬い言葉であった、ダグは凍りつく。
「それでね、わたしはスレイ君が好きなの、そう、多分始めて見たその時から。これが一目惚れってやつなのね、今やっと自分の感情に気付けたわ。ありがとう、その意味では貴方に感謝するわ」
相変わらず氷の如く冷たく、それでいて情熱的な熱の籠った言葉に、今度はスレイが硬直する。
ダグはもはや泣くようにして続けた。
「何故、何故その男なのですか?せめて理由だけでも」
「一目惚れに理由なんか無いわ」
あっさりと答えるリリア。
もはや限界であった、ダグは完全に泣いていた。
やけになったように後ろの5人に命令を下す。
「も、もういいッ、貴女のことはどのような手段を使ってもいずれ必ず手に入れて見せる!!それより今は邪魔なそこの男を排除しなければッ!お前達、やってしまえ」
剣を抜き、スレイを取り囲む男達。
1人1人が以前とは段違いの殺気を放っていた。
どうやらダグと違い、リリアの言ったようにダグを保護しながら、探索者として相当の修羅場を潜り抜けてきたようだ。
スレイは男達に声をかける。
「どうしてお前達がそこまであの男に従うのかは分からないが、もう止めにしないか?実力差が分からない訳じゃあるまい」
5人の男達はただ黙って剣を構えたまま、スレイに近付いてくる。
「大した忠誠心だ。だが仕える相手を間違えたな」
スレイは何の予備動作も見せず動き、スゥっと取り囲まれた輪から抜け出す。
予備動作も気配も無い動きに、5人は全員スレイを見失っていた。
そして1人がスレイに首筋を打たれあっさりと気絶する。
残った4人は慌ててスレイを見て構えるが、また先程と同じように、スレイの動きを見失う。
そしてまた1人、スレイに足をかりつつ顎に掌底をあてられ、そのまま床に頭をぶつけ気絶する。
そのまま同じような光景が続き、スレイは無手のまま、剣を持った5人全員を気絶させていた。
「ひ、ひぃっ?!!」
ダグはその光景に怯えて慌てて店を出ていく、店内はやっと静かになる。
そこへ奥から1人の男が現れた。
ひどく大柄で筋肉質な男、元探索者であるというこの店の店主である。
店主は、店内で暴れたスレイ達を特に責める事もせずに、店内に倒れた男達を次々と外へと放り出す。
その後バケツに入れた水を持って来て男達にぶっ掛けると、起きた男達を店の近くから居なくなるよう追い払った。
店内へ戻って来た店主に、リリアが謝る。
「店内で騒がしくしてしまい申し訳ありません」
店主は首を横に振ると静かに言った。
「お客様は神様だ。お前達は確かに客であちらは違った、ただそれだけの事だ。何も気にすることは無い」
そして店主はポンとリリアの頭に手を置いて、スレイの方を意味ありげに見やりながら、激励するように声をかける。
「まあ、頑張れ」
瞬間、リリアの頬は赤く染まる。
そのまま店主は、店の奥へと戻って行った。
リリアはスレイに告げる。
「スレイくん、後で話があるの。この後スレイくんの部屋に行ってもいいかしら?」
「わかった。先程の話だな?」
「ええ。それじゃあ、この話は後にしましょうか?」
「そうだな、丁度良い品物も見つけた事だしな」
そう言って、目の前へと店内に飾ってあった指輪を掲げるスレイ。
その指輪には不思議な光沢を放つ宝石が嵌っていた。
明らかに魔法の品と思しき魔力も感じられる。
リング部分も趣味の良い彫刻が施され、見た目だけでもなかなかの一品であることが分かるものだった。
「指輪?それがどうかしたの?」
スレイは指輪を掲げながら説明する。
「いやなに、リリアにはこの都市に来てから色々と世話になっているからな、そのお礼にプレゼントをしようと思ってな。この指輪にかかってる魔法は護身用の物で、自動で発動してかなりの長時間に亘って結界でリリアのことを守ってくれるはずだ、それともう一つ」
今度は目の前に首飾りを掲げるスレイ。
その首飾りも明らかに魔法の品だと感じられた。
そして奇妙なことに、スレイはその首飾りを二つ掲げている。
だがその疑問は続く説明で解消された。
「これは通信用の2個セットの首飾りだ、互いに首飾りをかけた者同士なら、念じるだけでかなりの遠距離まで念話が通じるようになっている。リリアが何か危険な目に遭った時、指輪の結界の中から俺に念話で助けを求めてくれればいつでも俺が助けに行こう」
「えっ?」
思わず驚いたような声を出すリリア。
スレイは構わず店内奥に入っていくと、カウンターに座っていた店主に3つの品を渡す。
「会計を頼む」
スレイが選んだ品を見た店主は、先程のスレイの説明が聞こえていたのかうぅむと唸って感心したように言う。
「よくこれらのアクセサリの効果が分かったな」
「まあ、昔から色々な本を読み漁っていたからな」
「しかも、女の子へのプレゼントでこれらの品物を選ぶセンスには脱帽だ、かなりのポイントが稼げるだろう。お前、その歳でよくもまあそこまで気が利くな、よほど女慣れしてるのか?」
スレイは思わず苦笑いする。
「まあ、散々幼馴染達に教育されたからな」
「ふむ、そうか」
「それじゃあ店主、首飾りの一つは俺がこの場で身につけるからそのままで、他二つの商品を包装してくれないか?」
スレイの注文に店主はわかったとばかりに首を縦に振ると、まずスレイにそのまま首飾りを渡し、他二つの品の包装を行う。
渡された首飾りを身につけ、包装された品を受け取ったスレイは、カードで料金を支払うとリリアの元へ戻る。
格段に安いとは言っても流石に魔法の品、【猛牛の迷宮】の探索後、手に入れた換金部位やアイテムを換金して、30000コメル以上になっていた所持金は一気に10000コメルほどに減っていた。
そしてリリアに包みを渡すスレイ。
リリアは満面の笑みを浮かべて礼を言っていた。
「ありがとう、スレイくん。今日からすぐに身につけるから、何かあったら助けに来てね」
「ああ、わかった」
リリアの笑みを見て、やはり女の笑みには勝てないなと、スレイは微かに笑うのだった。
今日の都市でのデートはこれで終わりとして、そのまま宿へと戻るスレイにリリアが付いて来る。
宿に戻るとフレイヤとサリアがスレイを待っていて、リリアの姿を見ると、フレイヤは困った子ねとばかりにスレイを苦笑して見やり、サリアに至ってはリリアに対し威嚇じみた表情を向ける、と言ってもそこは子供のやること、そんな顔もまたかわいいものだとしか思えないのだが。
そのままスレイは自身の部屋へと戻り、リリアも一緒にスレイの部屋へと入る。
どうやらサリアのことはフレイヤが止めてくれたようで、邪魔は入らないようだ。
1つの部屋で2人きりになると、なにやらリリアが落ち着き無く辺りを見回す。
どうやら何と言って切り出すか迷っているようだ。
「お、男の子の生活してる部屋の割には綺麗に整理されてるわね」
「まあ、物が少ないからな」
微かに笑うスレイに対し、リリアの頬が膨れる。
「何を笑ってるのよ」
「まあ、リリアが俺に話を切り出せないで緊張しているところにかな?」
リリアは顔を真っ赤にさせて言い訳する。
「し、仕方無いでしょう。こういうの全く慣れてないんだもの」
スレイは少し表情を改め真剣な物にすると、リリアを真っ直ぐに見つめる。
「すまない、先程の話だが、その話の前に言っておきたいことがある」
そして真剣な表情のままで続ける。
「俺は、複数の女性と関係を持っている。それもただの情欲でという訳じゃない、どの女性に対しても真剣に好きだと思っている」
スレイが真剣な表情になってから、目を瞑り身体を強張らせ緊張を強くしていたリリアが、肩の力を抜き、拍子抜けしたような表情になる。
「なんだ、それだけ?」
「それだけ、とは?かなり重大なことだと思うんだが」
驚くスレイにリリアは笑う。
「そのぐらいのことならもうとっくに気付いてるわよ。全員じゃないと思うけど、貴方と相手の態度を見れば何となくね」
「リリアはそれで構わないのか?」
今度はリリアが真剣な表情になる。
そして深呼吸すると覚悟を決めたように告げる。
「その話は、まず私の話をすませてからよね?それじゃあ言います、私ことリリア・アルメリアはスレイくんの事が好きです、始めて見た時から一目惚れでした、私と付き合って下さい」
言った後、リリアはそれこそ全身から力が抜け、倒れそうになる。
スレイは慌ててリリアを抱き止め、ベッドに座らせる。
「おい、大丈夫か?」
リリアは暫くすると、忘我の境地から戻ってきて告げる。
「っはぁーっ、緊張したー」
そしてリリアは答えを求める。
「それでスレイくん返事は?」
「俺は複数人の女性を好きだと言って、しかも関係まで持っている。いや、それだけじゃない。この都市に来る前の過去にまで遡れば、俺が関係を持って責任を取らなければいけないような女性はかなり多数存在する。リリアは本当にそんな俺でいいのか?」
「ああ、そのことね、すっかり忘れてた。それじゃあ言うね、全然構わないわそんな事。だって私、自分の相手としてスレイくんしか考えられないし、スレイくんが私とも真剣に付き合ってくれるならそれで構わない」
話を元に戻したスレイにリリアは苦笑して、あっさりと肯定する。
そんなリリアにスレイは困惑したように疑問を口にする。
「どうしてそこまで?」
リリアはスレイの頬を両手で挟みこむ。
「それだけ、スレイ君が魅力的ってことよ。私のお父様だって、あれで妾を5人くらい持ってるのよ?たまたま私の母親は正妻だったけど、お父様は全員を平等に愛しているわ。それでね、あのね、私が聞きたい答えは私と真剣に付き合ってくれるか、私のことが好きかどうかだけなのよね。どうなのスレイくん?」
スレイは迷いながらも答えを告げる。
「それはリリアのことは好きだ、真剣に付き合いたいとも思ってる、だが……」
そこでスレイの言葉はリリアに遮られる。
「はい、そこでストップ!私の聞きたい言葉はもう聞けたわ。それ以上の言い訳は必要無い、私を含めて全員を平等に真剣に愛してくれるならそれで構わない。だから、ね」
そう言うと、リリアはそのまま両手で挟みこんだスレイの顔を自分の顔へと近づけ口づける。
そうして言った。
「絶対に死なないで、それだけが私が貴方に願うことよ」
そんなリリアをスレイは強く抱きしめると、今度はスレイがリリアの唇を奪い、深く繋がるようにリリアの咥内に舌を差込み舌同士を絡ませる。
そうしてそのまま止まらないようにスレイはリリアを押し倒した。
「リリア、悪いがもう止まれない、お前が欲しい。その気持ちが強くてもう限界だ、いいか?」
「いいか?って言ったってもう止まれないんでしょう?聞く意味が無いんじゃない?ただ、私はそこまで覚悟してここに来たつもりだから構わないわ。ただ、なるべく優しくしてね?」
身体を硬直させながらも、気丈に、呆れたような風すら装ってみせたリリアに、尚感じ入ったスレイは、いよいよ止まらず激しくリリアを求める。
そしてそのまま、スレイはリリアの肉体に溺れていった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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