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  シーカー 作者:安部飛翔
第二章
~勇者王~
 クロスメリア王国、王城内、練兵場。
 1人の青年が鍛錬用の刃を潰した剣で以って、壮年の男へと斬りかかって行く。
 その速さは、見物している兵士達の目が全く追えない程のものである。
 しかし壮年の男は易々とその剣筋を見切って、紙一重で躱してみせる。
 躱された剣は地に当たると爆発を引き起こしクレーターを作るも、その爆発すら利用して壮年の男は後方に跳び、衝撃もいなして軽く着地する。
 呼吸も荒く、伝う汗を拭う青年。
 それも無理は無い。
 青年が全力で攻撃をして、壮年の男が軽く躱してみせる。
 それが先ほどから何十回も繰り返されているのだから。
 青年は表情を悔しさで歪め、呪うように叫ぶ。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうッ!!なんでだよッ!!俺は生まれついての勇者だぞッ!!なんで勇者に成り上がった紛い物なんかにこんなッ!!俺が負けるはずなんて無いんだッ!!」
 そういうと青年は、鍛錬の模擬戦闘においては本来禁止されている闘気術を用いて、肉体を活性化させ剣を強化する。
更には同じく禁止されている魔力操作まで用いて、肉体と剣に魔力を纏わせ、世界の法則をも書き換える。
 もはや鍛錬用に刃が潰してある意味など無く、それは紛れもない刃を持った本物の剣、しかも超一流の剣と変わり無い代物となっていた。
 尤も、先ほどまでの状態でも地面にクレーターを穿つなど、威力として考えれば元々人1人殺す程度は容易いものではあったのだが。
 練兵場に青年に対する見物の兵士達の非難の声が沸き起こる。
 だがその中にあってもなお壮年の男の表情に変わりは無い。
 いや、寧ろ呆れたような色が少々差した程度だろうか?
 壮年の男に対する信頼か、兵士達も青年を非難すれども、模擬戦闘を止める様子は全く無い。
 青年は、今度は先ほどまでとは比較にならない爆発的な加速を以って、壮年の男に斬りかかる。
 兵士達の目には動きを追えないどころか、青年が一瞬で消えたようにしか見えなかった動作と斬撃。
 しかし刃が壮年の男に届くことは無かった。
 ほんの一瞬、青年の斬撃が届くその前に、壮年の男は軽く動き青年のすぐ前に出ると、最小限の動作で少年の剣を自らの剣で巻き上げ絡め取り、更には足払いをかけて青年を転ばせていた。
 宙へと跳ね上げられた剣が落下し地面へ突き刺さる。
 転ばされた青年は、打ち所が悪かったのか、もはやピクリとも動かなくなり気絶していた。
 壮年の男は周りの者に声を掛け青年を介抱させると、救護所へ運び込むよう指示し、僅かな疲れすら感じさせずに次の者を呼んだ。
 次に男の目の前に進み出てきたのは青年と同じ年頃の少女だった。
 少女は青年を馬鹿にしたような表情で横目に見やると、すぐに壮年の男に対し挑戦的な目を向けてきていた。
 それは先ほどまでの青年と同じ姿であり、壮年の男は内心溜息を吐くと、また先ほどと同じような展開を予想して、疲れたような表情を僅かに見せるのだった。

「それで、どうかな?我が王国が誇る生まれつきの生粋の勇者たる3人の問題児達は?少しは教育の成果はあったかな?」
 クロスメリア王国、王城内、玉座の間。
 玉座に座る男が壮年の男に問う。
 クロスメリア王国が誇る、勇者王アルスその人である。
 20才にして城を出奔し探索者となり、僅か10年後に迷宮都市で得た勇者の称号と共に帰還し、その称号と実力で以って王位を得た男。
 30代で王位に付き、現在ではもう50代の筈だが、その肉体は若々しさが満ち溢れ、外見は未だ20代の青年のようにさえ見える。
 20代で探索者となり迷宮でモンスターを倒し続け、王となった今でも、王都の周辺のモンスター退治などに自ら陣頭指揮を執って出陣し、モンスターの魂の力を大量に吸収し続けている賜物であろう。
 50代でありながら、その20代の若さを保った外見こそが、アルスのその戦いの歴史を物語っている。
 探索者達の外見年齢が固定されるのは、Lvが80代になってからなので、通常は壮年と呼ばれる年頃の外見なのが普通なのである。
 アルスに質問された壮年の男、最上級の探索者としてはまさにスタンダードな外見年齢である、王と王女の信任厚い近衛隊副隊長である狂風ジルドレイは、呆れたような表情でざっくばらんに答えた。
「どうもこうもありませんや。相変わらず3人共やんちゃが過ぎる上、生まれついての勇者なんてプライドに縋り付いてちっとも変わりやしません。あれじゃあ使い物になりませんぜ」
 率直なジルドレイの物言いに苦笑するアルス王。
「使い物にならない、か。それでは困るのだがな?なんとしてでも使い物になるようにして貰わなければ。なにせあの3人は我が国の象徴となって貰わねばならない生粋の勇者であり、ましてや邪神復活の兆し有りなどという報告を受けた今では、唯一邪神封印の術式を使える、実質的にこの世界の切り札と呼べる存在なのだから」
 困ったようにジルドレイはぼやく。
「そいつが困ったところなんですよねぇ。なんで神さん達も、俺たちみたいな努力で得た実力で以て勇者の称号を得た者に封印の術を与えるんじゃなく、生まれついての職業が勇者なんて存在を創って、そいつらに封印の術を与えたりしたんだか」
 そして目の前の男、自分の主君である称号:勇者であり勇者王の二つ名を持つアルスと、同じく称号:勇者である闘仙と火炎姫の二つ名を持つ自分の部下2人の能力値を思い出す、

アルス
Lv:99
年齢:55
筋力:SS
体力:SS
魔力:SS
敏捷:EX
器用:SS
精神:SS
運勢:SS
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、勇者、クロスメリア王国・国王
特性:闘気術、魔力操作、思考加速、思考分割、魔法上昇、戦技上昇、高速詠唱、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:戦神アレス
職業:騎士王
装備:絶対王剣エクスカリバー、絶対王権の鞘、オリハルコンのプレートメイル、イージスの盾
経験値:9999 次のLvまで0
預金:0コメル

マグナス
Lv:99
年齢:42
筋力:SS
体力:SS
魔力:S
敏捷:SSS
器用:SS
精神:SS
運勢:SS
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、纏う者、勇者、クロスメリア王国・一代大公、クロスメリア王国・近衛隊隊員
特性:闘気術、魔闘術、思考加速、格闘技上昇、聖属性、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:闘神バルス
職業:闘師
装備:神拳スパルタクス、オリハルコンのブレストプレート、ミスリル絹の服、ミスリル絹のズボン、竜革の靴
経験値:9999 次のLvまで0
預金:0コメル

マリア
Lv:99
年齢:40
筋力:S
体力:S
魔力:EX
敏捷:SSS
器用:SS
精神:S
運勢:SS
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、竜殺し(ドラゴン・バスター)、勇者、クロスメリア王国・一代大公、クロスメリア王国・近衛隊隊員
特性:魔力操作、思考加速、思考分割、魔法上昇、高速詠唱、無詠唱、炎属性、炎耐性、水耐性、土耐性、風耐性、毒耐性、光耐性、闇耐性
祝福:火神アグニ
職業:魔賢帝
装備:炎杖カグツチ、竜革のローブ、竜革の靴
経験値:9999 次のLvまで0
預金:0コメル

と、明らかに職業:勇者の3人よりも邪神を封印する役割に相応しい能力を持っている事に頭痛を覚える。
 そして、一度溜息を吐くと続ける。
「そんな生まれや環境でまともに成長するなんて、それこそ奇跡でも起こらにゃならんでしょうに。現にほら、あいつらは3人とも度が過ぎるプライドなんてもんのせいで、どうしようもありゃしない」
 アルス王は困った顔をする。
「まあ、古い文献を遡れば我等が神々も大概だしな、何か下らない理由があるのかもしれんな。それはともかく、やはり難しいか」
 その言葉にジルドレイは率直に頷く。
「ええ、いくらズバ抜けた素質を持って生まれたと言っても、言っちゃあ何ですが、陛下やカタリナ王女、それに俺どころかマグナスにマリアの二人にさえ戦士としちゃあ及びませんよ。実質今のこの宮殿での最高戦力は、今挙げた称号:勇者の5人であって、生まれついての職業:勇者の3人どもは下手するとS級相当探索者にさえ劣っている可能性も高いですね」
 そう言ってジルドレイは更に愚痴を零す。
「Lvだってあいつらに関しては99まで上がるのが確定してるってのに、努力不足で未だに70代だ。これもカードを持って生まれた我が子を見たあいつらの両親達が狂喜して、自分の思う最高の環境と教育とやらを施した所為じゃあないですかね?性格が徹底的に捻じ曲がっちまってる、そう考えると、悪いのはあいつらだけって訳じゃあ無いんでしょうが」
 ジルドレイの言葉にアルス王は難しい顔で溜息を吐く。
「逆にカタリナ王女、なんですかあの化物は。女の身で18才で出奔して、たった5年で勇者としての称号を得て帰って来るわ、能力値だけなら陛下すら超えてるわ。経験の差でまだ何とか俺の方が戦いでは上手ですが、そう遠くない内に俺でさえ勝てなくなりそうな勢いなんですが、いったいどんな育て方をしたんですか?」
 褒めているのかけなしているのか分からない言葉にアルス王は複雑な顔をする。
「それは喜べばいいところなのか、それとも怒るべきところなのか?」
 ジルドレイはニヤリと笑う。
「まあ、喜んどいてくださいよ。間違いなくカタリナ王女は本物だ、あの3人とは格が違う」
 その言葉に、また頭の痛い3人のことを思い出したアルス王は額に手を当てる。
「これはもう、今回の会合で集まる面子に刺激を受けて、急に目を覚ましてくれることにでも期待するしかないか?」
 ジルドレイも賛同する。
「そのぐらいしかないんじゃないですかねぇ。ヤンもエミリーもライバンも、一度外の奴等に手痛くやられて世間というものを知らなきゃどうしようもないんじゃないかと。……ただ手痛くやられすぎて再起不能になってもらうのも困りますが」
 二人の溜息が重なる。
 そうして顔を見合わせて苦笑し合うと、なんとか建設的に、生粋の生まれついての勇者である3人をどう扱えばいいか話を続けた。
 なにせ邪神復活の兆しのある今、邪神封印の術がある限り、あの3人がどれほど問題児であっても、世界にとっての切り札なのは間違いないと彼らは感じているのだから。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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