「だ~か~ら~、なんでおっさんがわざわざ行く必要があるんだよ!しかもお嬢まで付いてだって?冗談じゃない!!2人とも自分の立場ってーのが分かってるのか?!」
もはや喉が嗄れるほどに繰り返した言葉をまた繰り返し、SS級相当探索者・閃光ダリウスはテーブルに置かれた水を飲み干し、給仕の者にお代わりを要求する。
「やれやれ、本当に先ほどから落ち着きがないな、君は。もちろん分かっているからこそ私自身で行くのではないかね?」
壮年の男の言葉に追従し、同じ席を囲うもう1人である少女が言う。
「そうよ、父さんや私以外が行ったら、宗教的権威がどうとか、世界の危機がどうとかで、せっかくの伝説級の武具やアイテムが、本当に無料で提供させられるわよ?」
まったくこの父娘は、とダリウスは頭を抱えたい気持ちになる。
確かに言ってる事は少々強欲さが見てとれるが、商人とすれば正論ではあるのだ。
ただ彼らの、フレスベルド商業都市国家の現議長とその娘という立場を考えなければの話だが。
その上、ここに居る壮年の男カイトは、ただフレスベルド商業都市国家の現議長というだけではない。
今でこそこのフレスベルド商業都市国家の議会の議長を勤めるカイトは、この国家の商人の家の次男坊として生まれた。
勿論家を継ぐのは長男と決まっていた為に、カイトは新しく自分の店を持つ為に大胆な行動に出る。
自ら自分の扱う商品として伝説の武具やアイテムを手に入れる為に、かつて迷宮都市へと赴き、探索者となったのだ。
そして自らS級相当探索者にまでなり、その功績と思惑通りに迷宮で手に入れた商品を売り上げた利益から、“商王”などという二つ名まで手に入れた剛の者なのだ。
もちろんそれだけではなく、商人としてもやり手で、自らが手に入れた資金と商品を使って、今度はこの商業都市国家内でどんどんと伸し上がって行った。
そして今では彼の創り上げた店は商会となり、その商会はもはやこの国家内においても最大手となり、更には彼自身の手腕で、議会においても議長にまで上り詰めてしまったのである。
飛ぶ鳥を落とす勢いで今でも成長を続ける彼の勢力は、その内この商業都市国家の在り方さえ変えてしまうのではと、恐れられている程だ。
しかしそんな周囲の評価とは裏腹に、彼は恐ろしくフランクで腰の軽く自分で動かなければ気が済まない性格であった。
何故か、彼の護衛として雇われたはずの自分が、彼の独断専行を抑えるのが一番の仕事になっている今の状況を思い、ダリウスは溜息を吐く。
「ふむ、溜息かねダリウス。溜息はいかんよ、一緒に運気も逃げていく、人間もっと明るく生きないとね」
豪快に笑うカイトに、お前のせいだろうがと、叫びたいのを我慢するダリウス。
彼はなお辛抱強く説得を続けていく。
「おっさん、はっきり言って、絶対におっさんが行かなければいけないなんてことは無いと思うぜ」
ダリウスの言葉に、ほうっと関心を見せ、続けるように促すカイト。
「おっさんの下に付いてる奴等の中にもそういった事態にならないように上手く調整を図れるような人材はかなりいる。いざとなれば俺だって、力を示して舐められないようにする。本当に他に任せることはできないのか?」
彼の真摯な言葉を、カイトの娘アリサが容赦の無い言葉で否定する。
「あのね、悪いけど、いくらあんたがSS級相当探索者と言ったって、今回集まる面子の中で一人頑張っても、何の意味も無いわよ?」
「はっ?」
自分でも、それなりにこの父娘に頼りにされているという自負があったダリウスは、それを否定するようなその言葉に呆然として黙り込む。
そんなダリウスのダメージを深くするよう、畳み込むように言葉は続けられる。
「はっきり言うとね、今回はクロスメリア王国にあんたと同格のSS級相当探索者が全員集まるらしいわよ?それに元々クロスメリア王国には勇者王アルスに姫勇者カタリナを始め、あんた達SS級相当探索者と同等以上と言われる勇者が8人もいるのに、力を示してどうするつもりだったの?」
最後にアリサは止めに付け加える。
「それに加えて今回は、あの竜皇陛下と魔王もやってくるらしいわよ?」
「はぁっ!?」
あまりといえばあまりのことに唖然とするしかないダリウス。
なんというか無茶苦茶だった、一同に会するなどと信じられない論外な面子だ。
「さて、これで何故私が直接行かなければいけないか分かっただろう?私が居れば力においては及ばなくとも、少なくとも国の長として格としては同格に扱ってもらえるだろうからね?」
カイトは更に物騒な台詞を付け加える。
「それに何よりそのような無法をするならば、最終的にはフレスベルドの財力の全てを以て流通を滞らせるとでも脅せば、いかな強者達とて我らの財を脅し取る事などできまい。そしてそれを交渉材料にできるのは私だけしか存在しないのだよ」
だがその論外な面子にも匹敵して、自分の主カイトも論外だった。
まさかそこまでの暴言を吐いてでも対抗するつもりだとは。
ただ愕然とするだけのダリウスに、赤毛をポニーテールにして、これでも性格を除けば見目麗しいということで山ほどの求婚話が舞い込んできているアリサが近付いて、ポンと肩を叩くと、励ますように告げた。
「あのね、今回は流石に相手が悪いから私達も行かなければいけないっていうのはもう分かったと思うけど、それでも決してダリウスのことを頼りにしてない訳じゃないんだからね?」
そして更に気遣うように続ける。
「いざという時、私達の身を護ってくれるのはダリウスだと思って頼りにしてるから、気を落とさないで」
アリサの言葉に救われた気分になったダリウスは、アリサに目を向けて感謝の言葉を告げようとする。
「まあ、貴方がいれば最悪逃げ帰る事ぐらいはできるでしょうしね?」
「お嬢~~~~!?」
ダリウスの情けない声が辺りに響き渡る。
そしていつも通りダリウスを弄って遊ぶのに成功したアリサとそれを見たカイトは、揃って明るく笑い声を上げるのだった。
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