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  シーカー 作者:安部飛翔
第二章
2話
 【毒蛇の巣穴】攻略後、敵から採取したアイテムを換金し山分けして、臨時パーティを解散し3人と別れた後、スレイはクラスアップの為に職業神の神殿を訪れていた。
 剣士からのクラスアップということで、前よりも簡略化された手続きで案内された以前と同じ部屋。
 そこにいたのは前と同じくフィーナという巫女であった。
「また君か」
 少々不思議そうにスレイが言うと、フィーナは少し悲しげな表情で聞く。
「あの、わたくしだと何かご不満がおありでしょうか?」
 スレイは勘違いを正す。
「いや、そうではない。ただ剣士系職業のクラスアップは皆、君が担当しているのかと不思議に思ってな」
 スレイの言葉にフィーナはほっとした様子を見せる。
「いえ、職業神の巫女はそれぞれの職業の系統ごとに担当の巫女が3人ずつおります。なので今回またわたくしがスレイさんの担当になったのは、偶然と言えば偶然です。でもそう低い確率の話でもありませんね」
「なるほどな」
「でも、丁度良かったです。実は前回のクラスアップの後、ジュリアから貴方のことを話に聞いていまして、ジュリアのことで貴方に相談したいことがあったんです」
「ジュリアの事で相談?」
「ええ、わたくしはなかなか神殿の外に出られませんから、これも職業神のお導きかも知れません。クラスアップの儀式後で構いませんので、わたくしの話を聞いていただけますでしょうか?」
 フィーナの言葉に、相談が知り合いのジュリアのことと言うこともあり、承諾する。
「わかった、俺で良ければ話を聞こう」
 フィーナは安心したような表情をすると、そのままクラスアップの儀式を始める。
「それでは以前と同じように、魔法陣の中央へ立っていただけますか?」
 言葉に従い魔法陣の中央へと立つ。
 以前よりも長い注意が続いた。
「それでは剣士系中級職、剣鬼へのクラスアップを始めたいと思います。今回は以前の剣士へのクラスアップと違い剣技の上昇率が上がるのみならず、ステータスもアップし、その方に合った剣士系の特性も身につくことがあります、なので以前より遥かに激しい激痛があるでしょう」
 フィーナは一呼吸置いて続ける。
「探索者としてここまで成長された方、しかも以前のクラスアップでも全く問題の無かった方ですので心配は無いと思いますが、心構えだけはしていて下さい」
 告げるフィーナにスレイが待ったをかける。
「すまないフィーナ、一つ訊ねたいのだが、クラスアップして身につく特性というのは全員固定の物ではないのか?」
「はい、クラスアップで身につく特性にはいくつか種類がありまして、その中でその方に適合すれば、場合によっては複数の特性が身につくこともありますし、もしくはどの特性にも適合しなくて、新しい特性が全く身につかない方もおりますが、どうかなさいましたか?」
「いや、俺の知り合いに闘士系中級職・魔闘士にクラスアップして、魔闘術という特性を身に付けた女性がいたのでな。クラスアップで習得する特性というのは決まったものかと思っていたのだが、それは違ったのだな」
 フィーナは少し驚いた顔をする。
「魔闘術ですか、それは凄いですね」
「そんなに凄い特性なのか?」
 フィーナは落ち着いた表情に戻ると説明する。
「魔闘術というのは極めて扱いの難しい、それでいて完成度の高い特性です。ましてや闘士系の特性でありながら、魔力までも全て総合的に用いて扱う技能ですから、闘士系の特性としてかなり上位のものと考えていただいて構わないかと」
 スレイは納得して頷く。
「そうか、なるほどな」
 確かにあれは相当に完成された技術であったと、ルルナの戦いを思い出す。
「あの、それではクラスアップを始めたいと思うのですが、準備はよろしいでしょうか?」
「ん?ああ、いつでもかまわないぞ」
 スレイは軽く返す。
 あまりに無造作なスレイにフィーナは少々呆れた顔をするが、すぐ機械装置の前に立つと少し操作を行い、祈る姿勢となった。
 フィーナの祈りに同調し魔法陣が光り輝き、スレイの肉体に以前とは比較にならないほどの激痛が走る。
 肉体そのものが作り変えられていく感覚、以前とは比較にならないほど急激なもの。
 骨が砕け肉が千切れ神経がすり潰され、そして全てが新しく構成されていくようなそんな激痛。
 数秒間それが続き、それでもスレイは声一つ上げず微動だにせずそこに立っていた。
 儀式が終わり祈りの姿勢を解いたフィーナが、スレイに対し呆れたような感心したような声をかける。
「お疲れ様でしたスレイさん、これで儀式は終了です。でも本当に凄いですね、この儀式でそこまで無反応だと逆に何か失敗してないか心配になってきます。それでは探索者カードを見て職業のクラスアップを確認して下さい。あと貴方にどんな特性が付いたか興味があるので教えて頂いてもかまいませんか?」
 スレイはカードに念じながら聞く。
「特性が増えてない可能性もあるんじゃないか?」
「スレイさんほど色々な意味で変わった人なら、それは無いと思います」
 フィーナの言葉はなにげに失礼なものであった。
 スレイは気にしないことにして、早速カードを確かめる。

スレイ
Lv:26 
年齢:18
筋力:A
体力:A
魔力:A
敏捷:SS
器用:S
精神:EX
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)、神殺し(ゴッド・スレイヤー)
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、思考加速、思考分割、剣技上昇、刀技上昇、二刀流、無拍子、炎の精霊王の加護、炎耐性、毒耐性、邪耐性、神耐性
祝福:無し
職業:剣鬼
装備:紅刀アスラ、蒼刀マーナ、鋼鉄のロングソード×2、革のジャケット、革のズボン、革の靴
経験値:2521 次のLvまで79
預金:15100コメル

 カードを見たスレイは、能力値の低めだったものが軒並み上がっているのに微かに喜びを感じる。
 なにより過去に見たジュリアの能力値と比較し、もうS級相当と呼べる領域に入ったのでは無いかと、壁を突破した手応えを感じていた。
 そして確かに新しく追加されている特性を3つほど見つけ、詳細をフィーナに聞こうとする。
 だがその前に、フィーナから問いかけてくる。
「どうでしょうか?新しい特性は追加されていましたか?」
 フィーナの今までのイメージと合わない積極性に少々驚きながらも、スレイは答えを返す。
「刀技上昇と二刀流と無拍子という3つの特性が追加されているんだが、これらがどんなものだかフィーナは知っているか?」
 するとフィーナは微かに驚いたような、それでいてどこか楽しそうな表情をして答える。
「3つも追加されていて、しかも無拍子までですか!?それは凄いですね、特に無拍子はなかなか獲得できない特性ですよ。有名な所では鬼刃ノブツナ様も持っている特性です!」
 詰め寄ってくるフィーナの積極性に押されのけぞりながらも、スレイは重要なことを尋ねる。
「それでこれらはそれぞれどんな特性なんだ?」
 フィーナは自分の体勢と、スレイに少々顔を近付け過ぎていたことに気付くと、身体を離しこほんと軽く咳払いする。
 少しばかり頬が赤く染まっているが、そのままごまかすように早口で説明をしてくる。
「そうですね、まずは刀技上昇ですが、これはそのまま剣技の中でも刀を扱う術を上昇補正する特性です。剣技上昇の方でも刀術に対する補正効果もありますが、ピンポイントで刀術を扱う術を上昇させるのが刀技上昇になります。剣技上昇の効果に更に上乗せするような物ですので刀の扱いは相当な上昇率になりますね、刀を扱う人が良く身につける特性ですのでスレイさんが身につけるのは不思議じゃないですね」
「なるほど、それはかなり使えるな」
「次に二刀流ですが、これも文字通り二刀を扱っての戦いに対しての補正になります。これもまた剣技上昇と刀技上昇の効果に更に上乗せするようなものですので、二刀で戦う際には上昇補正は3つ重ねがけされているようなものですね。スレイさんは二本の刀を扱われてるようですから、これを身につけるのも不思議ではないですが、二本の剣を扱う方自体が少ないので、これはかなり稀少な特性になります」
 フィーナは最後に溜めを作ると続ける。
「そして最後の無拍子ですが、効果を言うならば、戦いの際に予備動作を全く生じさせず、構えすら必要なく、最大威力で様々な攻撃や技を繰り出せるというものです。この効果の凄さは戦いに身を置く人なら良く分かりますよね?」
「それは確かに凄いな……凄いんだが、なにか対人戦に特化してるな。例えばただひたすら大きいモンスターや硬いモンスターには、あまり意味が無いというか、それほど迷宮探索向きの特性ではないんじゃないか?」
 思わぬ反応に少々硬直したフィーナだが、何事もなかったかのように話を続ける。
「そういえば貴方に、ジュリアの事で相談したいと言いましたよね?今聞いてもらっても構いませんでしょうか?」
 ごまかされたことに気付くが、特に気にせずにスレイは話の続きを促す。
「ああ、ジュリアがどうしたんだ?」
 フィーナは真剣な表情でスレイを見つめる。
「どうも、最近ジュリアが何か悩んでいるようなんです。わたくしが聞いても何も教えてくれないので、もしかするとわたくしでは役に立てない分野の悩みではないかと思いまして。スレイさんなら新進気鋭の探索者として最近有名になっていますし、ジュリアの悩みがそういった戦いに関係する悩みなら、ジュリアを手伝ってあげてくれませんか?」
 スレイは少し違うところに反応する。
「俺は有名になってきてるのか?」
 フィーナは若干じと目になると質問に答える。
「ええ、どうやら色んな意味で相当活躍なさってるようですね。その上貴方の旅路での活躍を偶然ご存じだった方が、貴方の旅の最中の二つ名を吹聴されましたので、“黒刃”スレイと言えば、期待の新人探索者として相当有名になってますよ?」
「そうか……ここでもそんな二つ名になったのか……」
 凍り付いたように固まったスレイを気にせず、フィーナは本題に戻る。
「それで、ジュリアのことをお願いしてもかまいませんでしょうか?」
 我に返ったスレイは、頷いて了承した。
「ああ、彼女とは知らん仲でもない。もし俺で力になれるようなら協力は惜しまないさ」
 フィーナは嬉しそうに微笑んだ。
「それではお願いしますね、スレイさん」
「俺で役に立てるかどうかも、まだ分からんのだがな」
 スレイはやれやれと溜息を吐いていた。

 職業神の神殿の入り口近くの一画にある酒場。
 その奥まったテーブル席に1人座りジュリアは物憂げな表情で溜息を吐いた。
 ジュリアは悩んでいた。
 とても自分1人ではどうしようもない悩みであった。
 どうすれば良いかと考える。
 自分1人でどうしようもなければ他者の力を借りるべきだろうが、生半可な者では駄目だ、逆に足手まといになる。
 それにこの情報は秘匿しなければいけない、誰かに漏れたらまずいことなのだ。
 色々と悩むそんな時、脳裏に浮かんだのは以前出会ったスレイという初心者探索者であった。
 探索者に成り立ての18歳の青年、何かに追い立てられているかのような焦燥に満ちた瞳の色。
 かつて見た彼の能力値は初心者で無職にも関わらずでたらめな能力値であった。
 友人のリリアの知り合いという事で信用できるし、今の彼ならば自分を手伝えるような能力値になっているのではなかろうか?
 何故かそんな期待を思い浮かべて、慌てて打ち消す。
 流石にそれは期待のし過ぎであろう。
 何故か初めて会ったあの時から、ジュリアはスレイのことが時々頭に浮かんでボーっとしてしまうことがあった。
 自分でも自分の感情が分からない、スレイには一度会っただけなのに何かを感じてしまっている。
 正直に言えばそういう感情に心当たりはあった、自分では一度も経験したことの無い感情ではあったが。
 年齢的に言えば問題は無い、自分が22歳と、18歳のスレイと比べて4つも年上なのは少々気になるところだが、釣り合いがとれない年齢という訳ではない。
 だが自分の友人であるリリアや何故かフィーナまでがスレイに懸想しているらしい事をジュリアは知っている。
 この感情は一人秘めたまま墓まで持って行くべきだろうか?
 だがリリアが言うには、彼には複数の女性の影があるようだし、今の世の中一夫多妻というのは結構ありふれている。
 自分がその中の一人になる分には、リリアやフィーナの邪魔になる訳でも無いし問題は無いのではないか?
 いつの間にか悩みの種類が変わっていた。
 ジュリアはそれに気付くと慌てて思考を切り替えるのだった。

 流石に悩ましげな美女とは言え、神殿騎士にちょっかいをかけるような馬鹿はそうそういないらしい。
 ジュリアの周囲一帯は空席となり、誰も近寄らないようにしている。
 そんな中、周囲の注目を気にも留めずに、スレイはジュリアへと近付いて行った。
 テーブル席の手前に立つが、気付く様子が無いジュリアにスレイは声をかける。
「おい、ジュリア」
 スレイの声に視線を上げてスレイを見上げたジュリアは、少し驚いた表情を見せると、今度は頬を赤く染め、その後弱々しげな笑みを浮かべた。
「やあ、君か。どうしたんだい?なにか私に用かな?」
「まあ、用と言えば用かな?フィーナという巫女にジュリアが悩んでいるので何とかして欲しいと頼まれた」
 スレイはテーブル席のジュリアの向かいに座ると少しばかり考えてから答える。
 意外そうな表情を見せるジュリア。
「フィーナに?そうか君はまたクラスアップしたんだね。今は中級職になったってことか」
 そこまで言うとふと黙り込み、一人スレイに聞こえないような声で呟く。
「いや、待てよ。以前に見た彼のあの能力値で中級職にまでクラスアップしたとするなら、或いは本当に……」
 ジュリアは表情を真剣なものに変えると、今度は彼女からスレイに話しかけてくる。
「すまないが、君の能力値をまた見せてもらえないだろうか?」
「困ったな、今となってはあまり大っぴらに見せられるような物じゃなくなってるんだが」
 スレイは少し渋い顔をする。
 だがそのスレイの態度にますます期待が膨らんだジュリアは、必死な様子で説得する。
「そこを何とか頼めないだろうか?」
 息を飲み表情をより鋭く真剣なものにして続ける。
「もし君の能力値に何か見せて困るような物があるとしても、今、ここで、それについては私の胸の内に秘めて、決して生涯誰にも洩らさず墓まで持っていくと、この職業神の神殿で、職業神の神殿騎士たるこの身において、職業神ダンテスに我が身命を以て誓おう!」
 流石に職業神の神殿騎士が、彼女にとっては最も神聖な神殿においてその神に身命を以て誓うとまで言うのであれば信頼できるだろうと思ったスレイは、カードに念じて全能力値を表示しジュリアへ見せる。
「これはっ?!」
 驚愕したジュリアの声が響き渡る。
 離れているとはいえ、周囲の席にいる者達も何事かと視線を向けてくる。
 それを見て、これ以上はまずいと思ったのかジュリアはスレイの手を取りひきずるように歩き出す。
「いきなりどうした?」
「これから話す事は私としても決して外には洩らしたくない事なんだ。それに私が愚かにも叫んだせいで注目を集めてしまったからな、用心の為にこれから先の話は私の部屋でしたいと思う。無理矢理引っぱってきてしまったが、これから時間はあるだろうか?」
 ジュリアの声色は深刻な色を帯び、ただごとでは無いと思われたのでスレイは了承した。
「わかった、俺もこれから特に何か用があるわけでもないからな、付き合おう」
 スレイはジュリアに導かれるまま、神殿内の神殿騎士の宿舎、そのジュリアの部屋へと連れこまれたのだった。

 ジュリアの部屋、僅かに開いた扉から顔を出すと、ジュリアは慎重に辺りを見回し扉を閉め鍵をかける。
 それだけではなく窓がしまっている事も確認し、その上で周囲の部屋に万が一にも声が洩れないよう風の魔法を使い部屋を防音状態へと変えると、ようやく安心したように息を吐きスレイを見た。
「それにしても驚いたよ、中級職だと言うのにS級相当の能力値、それに加えて聞いたことも無い炎の精霊王の加護などという特性や他にも珍しい特性が幾つも、そしてなによりも神殺し(ゴッド・スレイヤー)などという称号、何をどうすればそんな事になるんだい?」
「まあ、色々あったんだ。それに神殺し(ゴッド・スレイヤー)なんて称号はそれこそ神や邪神相手に戦うような場面でなければ役に立たん上、能力差を考えれば大した意味の無い補正とも言える名ばかりの称号だろう」
 溜息を吐きスレイは続ける。
「しかも炎の精霊王の加護は物騒で派手すぎてなかなか使えない特性だ、むしろ人に能力値を見せられない理由が増えるばかりで多少困っている」
 ジュリアは思わず口を挟む。
「ちょっと待ってくれないか、炎の精霊王の加護が使えないと言ったね?いったいどんな理由で使えないというんだい?」
 スレイは軽くジャイアント・ワームと戦ったときの顛末を話す。
「という訳でだ、いくら周囲に被害を出さないとは言え初級魔法を使うだけであれだけ派手で目立つ魔法が出てしまっては、周囲に人がいては使えないだろう」
 ジュリアはふと思いついたように言う。
「それは精霊達に頼めば、威力も派手さも抑える事はできないのかな?」
 スレイは考えてもいなかった方法に少し考える。
「そういえば、それは試してなかったな」
 スレイに呆れた視線を向けたジュリアは部屋の中を見回し、とくに無くなっても問題の無い雑巾として使っていた布を持ってくる。
「どうだい?どうせ周囲に被害を出さないということなら、この部屋で試しにやってみても良いんじゃないか。この布だけを燃やすように念じた上で、炎の派手さを精霊に頼んで抑えられるか試してみてはどうかな?」
 スレイは納得すると早速試してみることにする。
 一応念のため自分の真後ろにジュリアを庇うと、炎の下級魔法を構成し呪文を唱え、集まって来た炎の精霊達に炎の派手さを抑えて必要最小限の炎だけで前方の布を燃やすように頼み、魔法を発動してみる。
 一瞬で布は音を上げて燃えると消滅していた。
 炎が発せられたとも気付かないくらいの一瞬の焼滅。
 完全と言っていいほど正確無比な精度と威力で、心配していたような派手さも全く存在しなかった。
 自分の悩みはなんだったのかと思い、スレイは少し項垂れる。
「まあ、心配事が一つ消えてなによりじゃないか、能力値を隠しておかなければいけないのは変わらないけどね。それで君の問題が一つ解決したところで、私の話をさせてもらって構わないだろうか?」
 スレイは身を正すとジュリアに話の続きを促した。
「天魔病というものを知っているだろうか?」
 スレイはあっさりと答える。
「ああ、聞いた事はある。大陸中の全ての人間の中でも僅か50年に1人出るかどうかという病で、探索者でも無い普通の子が、というより探索者にもなれない幼少の子がその幼少時から肉体が耐えきれない程の、能力値にすればBクラス以上の魔力を持った事で起こる症例で、死亡率は99%に及ぶとか。その僅か1%、というより実質たった1人の治療の成功例も特別な薬草を使ったものだった上、僅か50年に1人程度しか現れない病気である為に治療法を研究する者もおらず、かかればまず死ぬという原則は変わらない、そんな病気だったな。確か助かったその患者は、伝説にすら名を残すような大物のSS級相当の大魔術師になったという話だったか」
 ジュリアは驚く。
「えらく博識だなスレイ君、天魔病の事など私とて調べるまでは知らなかったというのに」
「で、そういう話をするという事は誰か知り合いに天魔病にかかった者がいるのか?」
「ああ、私の知人の娘がその天魔病にかかっている、薬草を取って来て助けてやりたいのだが、その薬草のある場所が酷く危険でね」
 スレイは全てに得心がいったように頷く。
「孤狼の森、か。確かあそこは野良のS級モンスターが山ほど生息していて、更にSSS級だと言われる神獣の天狼が棲んでいるということで、ギルドで禁足地指定されていなかったか?」
 ジュリアは肯定した上で、スレイに頼む。
「ああ、その通りだ。だが幸いな事に知人の娘を最初に診た医者は天魔病の事を知らなくてね、原因不明と言われた知人が私に相談してきて調べて天魔病だと分かったんだが、周囲にはくれぐれも娘の病気は風邪という事で通すように釘を刺してある。なので私が孤狼の森に密かに侵入し薬草を取ってくれば解決だったんだが、流石にS級モンスターばかりが出現する上、SSS級の神獣・天狼までいる孤狼の森に、1人で行って生きて戻って来られる自信が無くて困っていたのだよ」
 ジュリアは真剣な表情でスレイを見やると続ける。
「誰かに協力を頼むとしても流石にSS級相当探索者にコネは無いし、S級相当探索者と言ってもギルドの子飼いは論外だし、知り合いのS級相当探索者は数人いるが今はこの都市に居なかったりそれぞれ忙しそうだったりで頼む事もできなかったしね、そんなところにフィーナに私の相談に乗る様頼まれたという君がやって来た訳だ。S級相当の探索者が2人いれば、天狼にさえ出会わなければなんとかなるかも知れない。もちろん禁足地に踏みこんだという事はバレないようにする為に持ち帰れるのはその薬草だけ、しかも君に碌な報酬も払えそうにない。都合がいいことは分かっているが、それでも私に協力してもらえないだろうか?」
「いいぞ」
 欠片も躊躇わずに吐き出された肯定の言葉、そこには何の逡巡も感じられなかった。
「え?」
 呆然とするジュリア。
「だから、いいぞと言っている」
 ジュリアはただかすれた声で尋ねる。
「君には損得勘定や恐怖心は無いのかい?」
 スレイは淡々と答える。
「別に探索者をやっているのだってお金や名声に興味があるからでは無いしな、それに恐怖心とやらはどうやらどこかで落としてきてしまったらしい、今頃どこかで誰かが拾い食いでもして腹でも壊してるんじゃないか?」

【???】???“???”???
「ふぇーくしゅっ」
『どうした?享楽の』
「うーん、誰か僕の悪口でも言ってるのかなぁ?」
『我等邪神を悪く思う者などそれこそ数えきれない程いるだろう?今更何を言っている』
「いや、そういうんじゃなくて、もっとこう個人的な」
『良く分からんな、享楽の、貴様人間の肉体になって何処かおかしくなったのではないか?』
「うーん、それはあるかもねぇ。まあ、いいや、考えてもしょうがない、それより早く封印解除を進めなきゃね」
『……頼むぞ、本当に』
「大丈夫、大丈夫。ほら、もうかなり封印の解除は進んでるじゃないか、このまま行けば問題無いよ」

 ジュリアは微かに笑う。
「ハハッ何だそれは、しかし本当にいいのかい?報酬と呼べるような物は無い上、私達2人でも天狼に出会ってしまったら死ぬかもしれないよ」
「天狼、SSS級モンスターか、今自分がどこまでできるか確かめるのに丁度良い」
 ジュリアは苦笑する。
「その天狼に出会わないことを私は祈ってるんだけどね。でも本当に来てくれるんだね。ありがとう」
 そう言ってジュリアは嬉しそうに笑ってみせる。
 そうしてジュリアは突然、微かに頬を赤らめるとやたらと緊張をしている様子を見せた。
 部屋にあったベッドの上に座り込む。
 ふと部屋には何やら香料の良い香りがしていることにスレイは気付いた。
 そのまま暫く待っているとようやくジュリアは動き始める。
 着ている服に手をかけ、服を脱ぎ始めたのだ。
 スレイは微かに驚いた表情をする。
 ジュリアが語る。
「リリアから君のことは相当な女好きだと聞いている。それで考えたんだが、私に渡せるようなお礼は私自身ぐらいしか無いと思ったんだ。私などでは君にとっては不足かも知れないが、好きなように抱いてくれないだろうか?」
「いや不足などということは無い、あんたは凄く魅力的だと思う。だが心の伴わない関係は俺は持つ気は無い、それにどうして俺が女好きなんだ?」
 ジュリアは嬉しそうに笑った。
「君にとって私が魅力的だというのは嬉しいな。女好きというのは君に女の知り合いが多いのと、あと君フレイヤさんや他にもそういう関係の女性がいるんだろう?それでリリアがぼやいててね」
「何故フレイヤ達とのことを知ってるんだあいつは?」
 苦笑するジュリア。
「リリアの観察眼や情報網を舐めない方がいいよ、多分情報屋としてもやってけるんじゃないかなあの子は?でもそれは今はどうでもいいことだね、心の伴わない関係は持たないという先ほどの言葉なんだが、少なくとも私の心は伴っているよ?」
「いったい何時から?まだ出会ってそれほど経ってもいないと言うのに」
 ジュリアはおかしそうに笑う。
「さあ?出会ってから何時の間にか君の事を良く考えるようになってた。完全に自覚したのは今この時かな?君が何の理由も無いのに一緒に孤狼の森に来てくれると聞いた時、本当に嬉しくて仕方なくて、君に抱かれたいと思った。こんな理由じゃ駄目かな?」
「あんたのことは凄く魅力的だと思う、だが俺には関係を持った女性達が」
 スレイの唇が立ち上がったジュリアの唇で塞がれる、そして唇が離れる。
「それで充分だよ、他の人のことは関係ない。私は君に抱かれたいから抱かれるんだ、だから君も今は私のことだけ考えてほしい」
 目の前のジュリアは何時の間にか殆どの肌を晒していた。
 魅力的なその肢体にくらくらとする。
 そうしてジュリアは再び口付けて舌を深く絡め、スレイの身体を弄ってくる。
 胸元に当たる柔かい感触。
 刺激されるスレイ自身。
 もう限界であった、スレイはジュリアをベッドに押し倒す。
「あっ?」
 ジュリアは少々驚いた表情をするも、そのまま目を閉じ身を任せようとする。
 その身体に重なっていくスレイ。
 先ほどの仕返しのように口付けし、相手の舌に舌を絡ませジュリアの唾液を飲み、また強引に自分の唾液をジュリアに飲ませる。
 胸を大胆にしかし優しく痛みを与えないよう揉みしだき、太ももの間に足を入れ、身体を開かせていく。
 そのままスレイはジュリアの身体に溺れて行った。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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