翌日早朝、目を覚まし、隣に温もりが無いことに物足りなさを覚え、そんな自分に唖然とする。
昨日は夜眠った後とは言え、そう何日もサリアを放っておくわけにはいかないとフレイヤは自室で睡眠を取ることになった。
それだけのことなのに喪失感を覚える自分がたった2日でどれだけ彼女の身体に依存していたか分かり呆然とするしかなかった。
しかし、そうしていても仕方が無い、どこか億劫さを覚えながらもそのままスレイは日課の剣の修練の為、宿の外へと出るのだった。
自らを闘気で強化し魔力でコーティングしようとするスレイ。
だが瞬時の判断でそれを取りやめ後方へと跳躍する。
スレイが先程までいた場所へと襲い掛かる無数の小さな水弾。
それらが直撃していれば多少ならずダメージを受けていたであろう。
エミリアが下級魔法で放った水弾を躱したスレイに、間髪入れず左右より襲い掛かってくる特性・狂化を使ったアッシュと闘気術を用いたルルナ。
強力な戦斧の一撃と闘気で強化された拳をそのまま受けるのは危険と判断し、さらに後方へと跳躍するスレイ。
トンと、背中が何かに軽くぶつかる。
何時の間にか後ろには円形闘技場の壁があり、スレイは追いつめられた形となっていた。
昨日とは違う3人の連携の巧みさに、たった1日でのこの変わり様に笑みが零れ出る。
やはり間違いなくこの3人は強く才能もある。
それぞれ個人の実力という意味ではまだまだではあるが、それでも探索者養成学園を卒業したばかりの初心者探索者といったレベルは容易に越えている。
ましてこのように抜群の連携を見せて敵に当たるのであれば、やはりあのB級ボスモンスター、アンデッド・ナイトも倒せた可能性は高い。
通常、モンスターランクとそれを単独で撃破できる強さについては。
測定不能:ランク付けが不可能な存在、中級~最上級までの邪神や失われし名持ちの邪龍など
EX+:ヴェスタ世界以外なら世界破壊すら可能な存在、下級の邪神やアスール火山の不死鳥など
EX:この世界の神々に匹敵する存在、神々がボスモンスターとして召喚した異界の神々や神獣である九尾の狐など
SSS:伝説級の存在、伝説で語られる名のあるドラゴンや神獣である天狼など
SS:現在その存在を探索者ギルドで公式に確認されてるモンスターの最強クラス
S:最上級職の探索者がようやく倒せるクラス
A:最上級職の探索者なら問題無く倒せるクラス
B:中級職の探索者がようやく倒せるクラス
C:中級職の探索者なら問題なく倒せるクラス
D:初級職の探索者がようやく倒せるクラス
E:初級職の探索者なら問題なく倒せるクラス
F:無職の探索者がようやく倒せるクラス
G:無職の探索者が問題なく倒せるクラス
とSS級以上のモンスターは単独での撃破は“とある例外達”を除けばほぼ不可能とされ、S級以下のモンスターが通常の探索者が単独で撃破しうるモンスターと言われている。
おそらくはB級ボスモンスターを倒せるだろう3人が連携した時の強さは、中級職の探索者の最上位に近いものがある筈。
それならば、自分がこの模擬戦闘で3人に勝てるか否かは、現在初級職に過ぎない自分の実際の実力が中級職の探索者を越えられているか否かという目安となる。
手段を選ぶ余裕は無い、瞬時にそう判断すると空いている左手で予備として持っていた鋼鉄のロングソードを抜き払い、その勢いのままアッシュへと投擲する。
アッシュは鋼鉄のロングソードを叩き落とすのに足止めされ、スレイはまたもや自らに迫っていたエミリアの水弾を躱すと、そのままルルナへと強化無しの素の能力のみでありながら超高速で迫る。
ルルナはスレイが自らに接近するのを阻むよう、闘気を籠めた蹴りを繰り出してくる。
スレイは素の状態の左腕でその蹴りを受ける、ボキンッと骨が折れる音が響き激痛が走るが構わずそのままルルナの懐へと踏み込む。
そしてミスリルのサーベルの柄頭で、ダマスカスのブレストプレートを思いっきり叩く。
ルルナは吹き飛ばされてその場に倒れこむ、どうやら衝撃で気を失ったようだ。
スレイは振り返り、今度はスレイの隙を突き倒そうと放たれていた、エミリアの強力な中級魔法の水の大蛇達を躱す。
そのままスレイに迫って来ていたアッシュへ、スレイは逆に自らトップスピードに乗って超高速で迫り、互いの距離が縮まると同時に繰り出されたアッシュの戦斧での一撃を、骨の折れた左腕でそのまま受け止める。
神々の結界により致命的なダメージは避けられるとはいえ、バキボキッっと骨が砕ける音が響き渡りアッシュは怯む。
スレイは構わずそのまま斬撃を繰り出し、アッシュの胴を打ち、アッシュを気絶させる。
そしてまた、自らに迫っていたエミリアの初級魔法による高速の水弾を躱すと、今度はそれを放ったエミリアへとやはりトップスピードに乗って迫る。
エミリアは自分に近づくスレイを足止めしようと、水弾の他に風刃に土の礫など、およそエミリアが無詠唱で繰り出せる下級魔法を手当たり次第に放ってくるが、スレイはそれを悉く躱しエミリアの懐へと入り込む。
そのまま右手で掌底を繰り出し、多少加減をして、そのままエミリアを気絶させた。
静まり返る円形闘技場、そして次の瞬間には見事な四人の戦いに、自らの鍛錬を放棄し見物人と化していた相変わらず物見高い探索者達がドッっと湧きかえっていた。
円形闘技場の片隅、そこにスレイ達四人は集まっていた。
「全く信じられません、何でたかが模擬戦闘でここまでの無茶をするんですか?」
エミリアがスレイの左腕に中級の回復魔法をかけながら説教を始める。
「いいですか?先ほどまでの戦いはわたし達の連携の錬度を確かめる為の模擬戦闘だった筈です、それを貴方はわたし達に怪我をさせないように注意しながら、自分は平気で大怪我をするような真似をして、神々の結界とて万全ではないのですよ?確かに致命的なダメージは避けられますし、腕が切れたり内臓が破裂したり脳や背骨のような重要な器官のダメージからは保護されますが、このように腕のような末端程度の骨ぐらいでしたら、普通に折れたり砕けたりするんですからね」
スレイはエミリアの説教の長さにうんざりした顔をするがエミリアの説教は続く。
「だいたいわたし達3人の錬度なら昨日見たでしょう。確かに連携は貴方の忠告を受け入れただけでかなり改善できて、貴方を追いつめることができましたが、それならそれである程度のところでストップするなり、1対3だったのですからそんな意地を張らずに負けを認めるなり、色々とやりようはあったでしょうに」
「いや、負けると何かくやしいじゃないか」
「でも昨日の時点では今日負けるつもりでいたのでしょう?何故今日になってそんな気持ちに?」
「昨日の時点ではパーティを解散するつもりだったからな、その為なら負けるのも致し方無しと思っていた」
罰の悪そうな顔をするスレイ。
エミリアは話しながらも回復魔法を使い続けている、かなりの時間治療を行っているが、完全回復までは相当に時間がかかる重症だった。
「パーティを解散する為なら負けてもよいのに、パーティを続けるとなると負けず嫌いを発揮しますか、本当にどれだけ面倒くさい性格をしてるのですかスレイさんは」
真面目な表情になるとスレイはエミリアに申し訳なさそうに頭を下げた。
「そうだな、すまない。正直あんた達をあなどっていたし、今回はかなりの無茶をしてエミリアには迷惑をかけている、本当に申し訳ないと思う」
エミリアは険しい表情で問い正す。
「本当に申し訳ないと思っていますか?」
スレイはまっすぐな視線をエミリアに向け頷く。
「ああ」
エミリアは突然にこりと笑う。
「それでは明日、わたしの買い物につきあってもらいます」
「あ~!エミリアずるいですわ!!それではわたくしの買い物にもつきあって下さいスレイさま、その権利はわたくしにもございますわよね?」
ルルナが大きく抗議の声を上げる。
そんな2人にスレイはかつて幼馴染達の買い物につきあわされた時の地獄を思い出しながらも、ただ了承するしかなかった。
「わかった、それでは明日2人の買い物につきあわせてもらう、荷物持ちとして扱き使ってくれてかまわない」
スレイの答えに、エミリアとルルナはやや不満げな顔をして互いに見つめあうが、諦めたように溜息を吐くとスレイに向き直る。
「わかりました、それでかまいません。明日はせいぜい荷物持ちとして役に立ってくださいな」
どこか不機嫌そんなエミリアに続きルルナもまた不機嫌そうに告げる。
「そうですわね、せいぜい女性を怒らせるとどれだけ恐いのか、スレイさまに思い知らせてさしあげますわ」
スレイは遠い目をして答えた。
「いや、もう充分それは思い知ってる」
昔、幼馴染達を怒らせた時の厳しい仕打ちの数々を思い出したスレイの言葉にエミリアとルルナは疑問を顔に浮かべる。
「?」
「??」
そんな中その場にいたもう一人が割って入る。
「おいおい、俺には何もないのかよ?一応俺も同じ立場だと思うんだが」
「男と一緒に買い物なんて嬉しいか?」
「いや、そうじゃなくてもっとこう詫びの気持ちをだな」
「それじゃあ、イリナにお前のことを将来有望な若者だからエリナとの仲を応援してやれと手紙を出してやる。どうせファザコンかつマザコンかつシスコンのイリナのことだ、お前今までエリナと文通以外でまともに話せた事無いだろう?」
3人は一様に驚いた顔をすると、ルルナが代表して尋ねる。
「そういえば、以前も思ったのですが、スレイさまはイリナさまとお知り合いですの?」
スレイは遠い目をして答える。
「知り合いと言えば知り合いだな、故郷からここ迷宮都市までの旅の途中で、誤解から戦ってなんとか引き分けまで持ち込んだことがある」
驚愕の表情をする3人。
「あの闘竜皇女と引き分けたぁ~!?」
驚愕の声はアッシュのものだった、それに淡々とスレイは続ける。
「あくまで人の姿で素手だったイリナとの戦いで、しかもイリナの攻撃を躱しまくって何とか引き分けまで持ち込んだ、というところだがな。それに流石に竜化したイリナには傷一つ付けられる気がしなかった。咆哮一つで山を吹き飛ばすような化物とは“今”は流石にやる気すら起きん」
3人はやや落ち着いた様子になる。
「それでも大した物ですわ。竜人族の能力値を調べるようなシステムはこの世に存在しませんが、それでも人型ならA級相当、竜化すればSS級相当と目されるイリナ様ですもの、つまり探索者になる前の時点でスレイさまはA級相当の実力者だったと言う事になりますわ。それなら今の戦いも納得ですわね」
スレイはやや自嘲気味に告げる。
「今回の戦いで分かったが、せっかく探索者になった今でも、未だそのA級相当から抜け出せていないようだがな」
ルルナは流石に呆れた様子になる。
「いくらスレイ様の能力値が規格外と言っても、探索者になって1週間で、しかも初級職のままでS級相当探索者になることなんて不可能ですわよ」
そして諭すように続ける。
「S級相当の探索者と言えば『元』と付きますが疾風と呼ばれたフレイヤ様や、ご存じか分かりませんがこの都市でしたら他に現役で神狼と呼ばれるジュリア様など、皆最上級職の方々で、それに加えて我が国の近衛隊にいるまだ成長途上の3人の職業:勇者様達を入れてもセレディア大陸中や島国ディラクを探しても50人程度と言われてますわ」
「ジュリアのことだったら知っている」
「そ、そうですの、とことん女性に縁の深い方ですわね。それはともかくSS級相当の実力者に至ってはそれこそLvが90~98の間で鬼刃ノブツナさまのように大陸中に二つ名を知られる方々がたったの9人、それにLv99になり称号:勇者と成った方々、我が国の勇者王アルスさまに姫勇者カタリナさまそれにカタリナ様が率いる近衛隊に3人のたったの14人だけですわ」
「鬼刃ノブツナと勇者王アルスにはSSS級相当の切り札の噂があったと思うが」
「確かに聞きますが、噂は噂ですわ。公式に確認されているSSS級相当の実力者となりますと人間には存在せず、それこそ晃竜帝国の竜皇陛下や、闇神アライナが創造したかつての“聖戦”では傍観者に徹した故に蔑視されている闇の種族達を統べる東の大国ヘル王国の魔王など人外の中でも特別な存在だけではないかと」
「だがこの世界の神々はそれよりも強く邪神はその神々よりも遥かに強い、それにディラクの伝説に語られる神々に匹敵する神獣・九尾の狐や、下級の邪神に匹敵するというアスール火山の不死鳥、その伝説のみが残る中級の邪神に匹敵するという失われた名持ちの邪龍など、神々を軽く越える人外の存在は数多くいるだろう」
「ええ、伝説や神話では良く語られてますわね。ですけれど神々が強いのは当然の事ですし、それらの人外の存在については実在も疑わしいですわ。それに邪神に至ってはかつての“聖戦”で封印され、今となっては恐れる必要も無いかと」
スレイの手を取りルルナは続ける。
「焦る事はありませんわスレイ様。スレイ様の素質は間違いなく人として規格外。あるいはこれから成長していけば、いずれは人間として初めてSSS級相当すら越えられるかも知れません。ですから焦らず堅実に実力を上げていけばいいんですわ」
僅かに表情を暗くするルルナ。
「確かに今の世でも、聖王陛下の威光を笠に着て一部の中小国が闇神アライナを信仰するヘル王国と小競り合いを行ったり、凶暴なモンスターが突然現れて被害が出たりはしています。ですが小競り合いはただの闇の種族蔑視からの下らないものですし、モンスターは自然災害のようなものでその都度優秀な探索者達が退治しています。今の大陸全体を見れば平和と言えるかと、スレイ様が焦る必要なんて何一つありませんわ」
スレイはただ何も言えず自らの知るある一つの事実を飲み込んで頷くしかなかった。
邪神が1柱この世に復活しているという荒唐無稽と一笑されるであろう事実を。
そしてスレイは2人の美少女と、買い物の約束をして、待ち合わせ場所を決めた。
アッシュにはイリナにアッシュが将来有望な探索者なのでエリナとの付き合いを認めてやってはどうかと言う手紙を書く旨を約束する。
スレイはただ贖罪の意識と、力への強い思いを胸に秘めたまま、宿への帰路につくしか無かった。
夜中、窓から飛び出し目的地へ向かおうとした時背後から声をかけられた。
「こんな夜中に、どこへ行くのかしら?」
そこには、寝乱れたベッドの上で、シーツを胸元まで引き上げ押さえこちらを睨みつけるフレイヤの姿があった。
瞳の奥には心配と共にわずかに怒りが宿っている。
相当に激しい行為で消耗して深い眠りに付いた筈のフレイヤが、スレイの行動に気付いた事には驚いたが、決意を秘めたスレイは正直に答える。
「勿論迷宮探索だ。昼間の探索にはあの3人が居て自らの成長にならんのでな。まあ、ほんの暫くの間の話だが。だが、それが俺の成長の速度を落とすことになる、だから今日から暫くは夜中に一人で迷宮探索をしようと思ってな」
その言葉にフレイヤはスレイに3人組を任せたのを後悔する。
「幸い、いくらパーティ登録してると言っても、経験値が共有されるのは魔物の魂を受け取れる範囲に、つまりかなり近くにその仲間がいてこそだ。夜中に一人迷宮を探索するのであれば、魔物を倒しても経験値が共有されることは無い。だったらカードさえ見せずに、昼間は彼らの探索に付き合ってやれば、当分の間はごまかしが効くだろう」
フレイヤは険しい表情をしてスレイを見やる。
「迷宮でそんな無茶が通用するとでも」
スレイはニヤリと笑うと、昼に用立てておいた2つ目の比翼の首飾りを指先で弾いてみせる。
「それがどうやら通用するみたいでな。俺の中に刻まれた知識によると、闘気と魔力をフル活用すれば、2、3日は眠らずともすませる事が可能らしい。あとは2、3日に1回だけ夜に眠って休息を取れば、昼と夜の探索者としての二重生活も充分通用するだろう」
フレイヤは途端に心細げな表情になると懇願するような声を出す。
「でもそんなことをして貴方に何かあったらっ!!」
それ以上は続けさせないよう、フレイヤの唇に指を当てる。
「大丈夫だ、決してあんたを、それに奴等を悲しませるようなことはしない。決して死ぬつもりもない。生きのびる、どうやら恐怖心の無い俺でも、その程度の執着は持てる様でな、だから俺を信じてくれないだろうか?」
フレイヤは弱々しく問いかける。
「本当に大丈夫なのね?」
スレイは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「ああ、当然だ」
スレイは振り返り窓を飛び降り、自らの目的地たる迷宮へと向かい立ち去る。
「スレイさん」
フレイヤはスレイの無事をただ祈るように、彼の名前を静かに呼ぶしかなかった。
【静炎の迷宮】地下15階(最下層)“蒼炎の間”
静炎の迷宮最上階から探索を始めたスレイは余計な物、神々が遺したと謂われる財宝や、様々な武具、特別な仕掛けがあると思われる部屋の数々を無視してただひたすらにスピード重視で迷宮を突き進んでいた。
どうせそれらの宝物などは、伝説級の武具でも無い限り、一度取ってもまた設置されるのだが。
それほどそれら普通の財宝には興味は無いし、伝説級の武具・シークレットウェポンなどは流石に最上級とされる特別な迷宮の数々にしか存在しないとされる。
何よりどうせ後からまたこの迷宮には、あの騒がしい仲間達と共に来る事になるだろうから、ひたすら経験値稼ぎという自らの鍛錬のみに集中した結果である。
現在、この最下層、ボスモンスターが存在するだろう部屋の前で、スレイは大量のモンスターと戦いを繰り広げていた。
神々が精霊を魔物化させた、火蜥蜴の姿を持つC級モンスター・サラマンダー、そして島国ディラクに生息すると言われる妖怪である二尾の猫の姿をしたC級モンスター・火車。
それら二種のC級モンスターが数に任せ、それでいて連携を取りながら襲い掛かってくる。
高速で動き回り、スレイに攻撃を仕掛けてくるそれらのモンスターを、しかし闘気と魔力の併用により自らを強化したスレイは逆にスピードで翻弄し、あるいはフェイントを織り交ぜ、容易に手玉に取っていた。
スレイがなにげなく剣を振るうとそれだけで、何体ものサラマンダーが一度に切り裂かれ、塵のように炎を撒き散らし、火の精霊石を残し消えていく。
地上を低く這うように迫る火車を蹴り上げ、襲い来るサラマンダーに叩きつける。
そして一気に身を伏せると、地を這うような姿勢で走りながら剣を振るい何匹もの火車を同時に切り裂き、絶命させる。
高所に居るサラマンダーは一瞬で跳び上がり切り裂き、天井を蹴って方向転換をし、別のサラマンダーを切り裂くと地上に着地する。
これらの動きがまるでコマ落としのように、スレイが静止したほんの一瞬一瞬のみが切り抜かれ、その姿が見え、その時以外はまるで消え去っているようにしか見えない。
まさに、雷光の如き速度でモンスター達を一掃すると、スレイは剣を振り払い、鞘に納めた。
サラマンダーが残した精霊魔法の良質な媒介となる火の精霊石は元より、火車の毛皮も耐火属性を備えた防具の素材として、ギルドにおいて換金することが可能なものだが、それらの回収も今回は行わない。
あくまでこの夜中の探索は、スレイが自らを鍛え上げる、その為の物であった。
しかし、と辺りにモンスターの気配が無くなった事を確かめ、安全を確認してから、自嘲気味にスレイは苦笑いする。
先ほどのフレイヤとのやり取りと言い、あのエルフの美少女の頼みを断りきれずパーティを組む事になり、更にはフレイヤの頼みにより暫く本格的にパーティを組む事になった事といい、自分は余程に女性に弱いらしい。
故郷でも何故かやたらと自分にツンケンして接していた、フィノとは別のもう1人の幼馴染である村長の娘が半年前に森で迷って大騒ぎとなった時、既に剣と魔法を修めていた自分も捜索に加わり、見つけた彼女を村へ連れ帰る時、さんざんな対応をされながらも、途中で遭遇したはぐれのモンスター達から村長の娘を庇いながら戦った事があった。
そういえばそれ以来、彼女はやたらとしおらしくなり、そして誘いをかけられ肉体関係を持つ事になり、始めて知ったそれに1月程爛れた関係にのめりこむ事になったが。
それに村長一家もやたらと自分を厚遇してくれるようになった気がする……。
あとは近所に住んでいた自分よりも5歳程年下の女の子に、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるー、とせがまれて、仕方なく玩具の指輪をプレゼントしてやったこともある。
他にも故郷の村や旅の途中で立ち寄った各地での自分の女性に対する対応の弱さや独占欲を思い出し、自己嫌悪に陥りそうになるのを頭を振って思考を切り替える。
そして迷宮に入ってから今まで一度も確かめなかった自分の全能力値を一度確かめてみる事にしてカードを取り出した。
スレイ
Lv:11
年齢:18
筋力:C
体力:C
魔力:C
敏捷:S
器用:S
精神:EX
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、思考加速、剣技上昇、炎耐性
祝福:無し
職業:剣士
装備:ミスリルのサーベル×2、鋼鉄のロングソード×2、革のジャケット、革のズボン、革の靴
経験値:1010 次のLvまで90
所持金:2540コメル
「流石にこのレベルの迷宮ではこんなものか」
レベルが2つしか上がってない事を確認し、それでも筋力のステータスが上がっているだけでも僥倖だと考えると、ボスモンスターの存在するだろう部屋の中へ入る前に考え込む。
「ここは一度闘気と魔力の融合、エーテルによる強化の効果を試してみるとするか」
今まで一度も使用したことのなかった自らの特性を確かめる良い機会だと考えると、スレイは闘気と魔力を肉体に循環させ、互いに弾き合うそれらを強引に混ぜ合わせ生命と精神を相殺させ融合させようとする。
肉体には激痛が走り、思考が霞む、信じられない様な苦痛の時間を長く過ごした後、それは訪れた、闘気と魔力に混じった生命と精神が相殺され消え去り純粋なエーテルが肉体を循環していく、思考は今までに無いほど鮮明になり、“眼”が二つの違う世界を捉える。
眼に届く物に反射した光を受け取り脳が映し出す世界と、エーテルが捉えるその光が眼に届くまでのタイムラグすら無視した本当の“現在”そのものの世界。
あまりの感覚に酔いそうになりながらも、スレイは今までとは全く違う段階に到達した自分を確信していた。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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