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  シーカー 作者:安部飛翔
第一章
6話
「あ、スレイお兄ちゃん、おかえりなさい!」
 あの後受付でのパーティ登録を済ませたスレイは、明日静炎の迷宮入口での待ち合わせを約束して、この都市での拠点である宿へと帰ってきた。
「ただいま、サリア」
 宿へと戻ったスレイにすぐさま気付き笑顔で出迎えたのはサリアである。
 嬉しそうに笑いながらスレイに抱きついてくるサリアの頭を撫でてやる。
「えへへ」
 嬉しそうに笑うサリアに、宿のカウンターのフレイヤから微笑ましげな謝罪の言葉がかけられた。
「いつも迷惑をおかけしてすみませんスレイさん、本当にサリアったらスレイさんに懐いちゃって」
「いや、別にかまわない。それにそんな微笑ましげな顔をして謝っても説得力が無いぞ。何よりこちらの方が色々と世話になってるぐらいだ、このくらい迷惑のうちにも入らないさ」
 フレイヤは、あのここを探索の拠点の宿と決めた時の最初の出会いから、スレイには特別目をかけてくれている。
 食事なども特別手の込んだものを用意してくれたり、サリアも含め一緒に団欒したりと、彼女達母娘とはまるで親戚のように親しい関係を築いていた。
 どうやらスレイは彼女の亡くなった旦那に似ている所があるらしく、それが原因であるらしい、だからか時々向けられる際どい視線や言葉には少々困惑してしまうが。
「だいたいサリアには俺も癒されてるからな、迷惑なんて言ったらサリアに失礼だろう」
 スレイの言葉にサリアは嬉しげに笑うと、もっと強く抱きついてこう言った。
「えへへ、スレイお兄ちゃん大好き!」
 その日の夕飯もスレイは特別扱いで、フレイヤとサリアと共に団欒の一時を過ごしたのであった。

 男と女の死体があった。
 スレイにいつも優しくしてくれていた近所のおじさんとおばさん。
 スレイの幼馴染の内の1人の両親だ。
 その二人の前には当の幼馴染が立っていた。
 その両手を鮮血に赤く染めて。
「な……んで、フィノ……?」
 スレイには何も分からなかった、なんで優しかったおじさんとおばさんが死んでいるのか、何故その2人の子である自分の幼馴染は自らの両親の死体を前に笑っているのか、そして何より何故死んだ筈の彼女が生きて目の前にいるのか。
「やだなぁ、さっき言ったばかりじゃないか。忘れたのかい?僕の名はロドリゲーニ、人の魂の転生の輪に入る事で神々の封印を逃れた邪神だよ」
「じゃ、邪神?」
「そうさ、それはまあ君の幼馴染として過ごして、君のことを好きだったトレス村のただの少女としての記憶も持ってはいるけどね」
「す、好きって」
「ん?ああ、君の鈍感さは折り紙付きだったね。まあでも優柔不断な君にとっては朗報だ、安心しなよ。永き邪神の記憶とたかが十数年に過ぎない人の記憶ではその重みが違う、価値が違う、絶望的なまでに違う。だから僕は間違いなくただの邪神ロドリゲーニさ」
 嬉しそうに笑い、両親の死体を見る事もしない幼馴染だったモノ。
 恐かった、なにもかもが恐かった、だから彼は理解できなかった、理解を拒絶した。
 だから彼には馬鹿みたいに繰り返し呟く事しかできない。
「フィ……ノ……」
 そんな彼の様子に邪神ロドリゲーニはいたく興味をそそられた顔をする。
「ああ、いい、いいね!スレイ。恐怖しているんだね?この状況に、この僕に!ああ、本当にたまらない。久しぶりに目覚めたこの時この瞬間に、こんな上質な恐怖が食べられるなんて、なんて僕はついているんだ!安心しなよスレイ、僕は君を殺さない、そんな勿体無い事はできない、僕は君の恐怖を喰らうのさ。ああ、それじゃあ安心されちゃっては駄目だね。うん、本当に駄目だ。さあ、精一杯恐怖してくれよ、僕を畏れてくれ、なによりも恐怖してくれ、その恐怖を僕がおいしーく食べてあげる。さあ、じゃないと僕は君を殺すよ?って、ハハハ!言葉の意味すら理解できない程もうすでに恐怖に染まっているんだね。いい!たまらない!!さあ、君の恐怖、その全てを僕が喰らいつくしてあげる、悦びなよ?もう君は何に対しても恐怖を感じることは無くなるんだから。これは人間にとってはある意味メリットとも言える、そして僕も美味しいモノを食べられて得をする。どちらにとっても損の無い取引だ。本当は恐怖を食べた後は、その人間も殺しちゃうんだけどね?君はやはりたかが十数年と言っても特別な存在だ。だから生かしてあげる。嬉しいだろう?さあ~ぁて、それじゃあ、いただきまぁ~す」
 自分に伸ばされる幼馴染の、邪神ロドリゲーニの両手、スレイが覚えているのはそこまでだった。

 目覚めはそれほど悪く無かった。
 一般的には悪夢と呼ばれる類の夢を見たが、スレイには夢に対してであろうと感じる恐怖は残っていないので、彼にとってはただの過去の光景を夢として見た、それだけのことであった。
 ただ他に感じる物はある、自らの無力によって起こった悲劇と邪神の解放、それに対する罪悪感と責任感、自分が原因で起きたことなのだから自分が決着を付けなければならないというある意味では流されているだけとも言える強迫観念。
 外を見る、まだ日が昇らない時間、街が起き出す前。
 スレイにとってはごく普通のいつもの起床時間だった。
 肉体は少しも気だるさを感じることもなく、そのまま身を起こしベッドから出ると服を着替え剣を持ち、日課である剣の修練を行う為に宿の外に出ることにする。
 いつも通りのスレイの朝だった。

「え~スレイお兄ちゃんまた今日もでかけちゃうの~?」
 スレイが宿を決めてから5日、4回目の朝を迎えて今日もまた探索に出かけようとしていると、サリアが不満そうな顔をしてしがみついてくる。
 やはりスレイに遊んで欲しいサリアには2日連続でスレイが探索に出かけることが不満なようだった。
 宿には他の探索者達も泊まっているが、彼らは1日探索すると次の日は休養に費やし英気を養っている。
 よほど特別な事情が無い限りは連日での探索など行ったりはしない。
 迷宮の危険性を考えれば常に最高の状態で臨むべきで探索者としてはそれが常識なのだ。
 それを知っているのでサリアも不満を隠せない。
 フレイヤも心配げな顔をする。
「スレイさん、あまり根を詰め過ぎても良くありませんわよ、探索者たるものちゃんと身体を休めるのも大事だと思いますわ」
 スレイはその言葉の正当性を認めるも、今回ばかりは約束がある為従う訳にもいかない。
「すまないが今日は約束があってな、ただ今回は早く終らせるつもりだ。サリア、帰ってきたら遊んであげるからいい子にしてお母さんの手伝いでもして待っててくれないか?」
 昔から幼馴染達に躾けられてきたせいで、これで女子供には弱いスレイである。
 なんとか納得してもらおうと膝をつき目線の高さを合わせてサリアに頼みこむ。
 見つめ合って数秒後、サリアは表情を明るくするとコクリと頷いてみせた。
「うん、分かった。いい子にして待ってる。だからなるべく早く帰って来て遊んでね?」
 頷いて返すと、フレイヤにも礼をして、スレイは昨日の3人組との待ち合わせ場所へと向かった。

【静炎の迷宮】地下6階
 今現在スレイは、エルシア学園卒業生3人組とC級モンスター・オルトロス一匹との戦いを、後ろで別のモンスターが襲ってくる度撃退しながら見守っているところだった。
 彼らの全能力値を見て確認したいことがあった為、前方で遭遇したモンスターの内、一匹のオルトロスのみを残し他のモンスターを倒すと、残したオルトロスは3人組に任せる事にしたのである。
 そして、スレイが思っていた通りの光景がそこにはあった。
 オルトロスが2つの頭から炎を吐く。
 しかしそれはエミリアの水系守護魔法に護られた前衛2人に届くことはなく消える。
 そして特性・狂化により理性を薄くし、攻撃力を限界まで高めたアッシュの戦斧の一撃がオルトロスの胴体を叩き吹きとばす。
 剥き出しの岩盤に打ち付けられ鳴き声を上げたオルトロスに闘気を内包したルルナの高速の連撃が襲い掛かる。
 そして弱りきったオルトロスは、最後にエミリアの精霊の加護を受けた攻撃魔法で岩盤より生えて来た無数の木の枝に滅多刺しにされ、空中にはりつけとなり息絶えた。
 やはり3人はかなり強くとても学園を卒業したてとは思えないほどであった。
 この強さなら恐らくは冷静に連携すればアンデッド・ナイトにも勝てたのではないかと思われる。
 スレイが確認したかった事は確認できた為、その日の探索はそこで終える事にした。
 強さは問題無い事が確認できた為、3人組にはどうやってスレイがいなくてもいい様に先日の事件の恐怖を克服させるかという大きな課題がスレイには残ったのだった。

 探索を終え地上に戻ったスレイは早速3人に聞く。
「お前たちにいくつか確認したいことがあるんだが、答えてもらえるか?」
 3人はあっさりと終わった今日の探索に拍子抜けした顔をしながら帰る準備をしていたが、問われてスレイに向きなおりそれぞれ頷いた。
「それでは聞くが、お前たちが探索者になったのは何か目的があってのことか?少なくともエミリアは何か目的でもなければわざわざエルフにとっての聖域たる世界樹の森から出てきてないと思うのだが」
 誰よりも早く答えたのはアッシュだった。
 まるでそれを語りたくて仕方が無かったかのように、勢いよく手を上げて答える。
「おうっ、俺はあるぞっ、でっかい目標がな!!親父の男爵位よりもはるかに上の公爵位を勇者王アルス陛下に下賜される。それが俺の目標だ!!」
 公爵位という言葉にスレイはダグといった馬鹿のことをなんとなく思い出す。
 その馬鹿とは全然違った性格のアッシュに対してスレイは疑問の目を向け問いかけた。
「名誉欲、出世欲に取り付かれる輩には見えんが、何が目的だ?」
 するとルルナがすすっとスレイに近寄り耳元に口を寄せて囁く。
「お兄さまの目的は公爵位ではなく、公爵位を得て晃竜帝国の皇女に求婚することなんですの」
「闘竜皇女に求婚だと?!」
 旅の最中、闘竜皇女として広く知られる娘に勘違いから戦いを仕掛けられ、ひたすら回避を続け何とか引き分けに持ち込み、その後竜化した彼女の化物じみた力を見せ付けられた過去を思い出し、思わずすっとんきょうな声が出る。
「ち、違うぞ!俺が求婚したいのはエリナの方だ!!」
 慌ててアッシュが否定する。
 スレイはやや落ち着きを取り戻す。
「あ、ああ。エリナといえば第二皇女、癒しの竜皇女か。しかしファーストネームで呼び捨てとはな」
 疑問にやはりスレイに身を寄せたままのルルナが答える。
 ちなみにその様子を見てエミリアがやや不機嫌そうな表情をしている。
「昔、5年ほど前に、元探索者崩れの野盗に襲われてたエリナさまをお兄さまが助けようとしたことがあるんですの。と言ってもただの非力な人間な子供のお兄さまがどうにかできる訳もなく、実際は護衛の皆様や、まるで図ったかのように現れた、その頃から闘竜皇女と名高かったイリナさまが、お兄さまより年下の筈なのにあっさり野盗を全員のしちゃったそうですけれども。流石は竜人族と言うべきでしょうか?でもそれ以来お兄さまは何故かエリナさまに気に入られて、ずっと文通を続けているみたいですわ」
 スレイはまだかすかに動揺していた。
 竜人族、それは非力な他種族とは違い始めから強大な戦闘力を持って竜神ドラグノスにより創造された戦闘種族である。
 モンスターとしてのドラゴンを遥かに越える圧倒的な力と知性を生まれつき合わせ持ち、かつてこの迷宮都市で修練し力を得た人々と共に邪神と戦った、頼もしき戦友だった種族だ。
 その竜人族が、大陸西にて覇を唱え創り上げた大国が晃竜帝国である。
「そ、そうか、さすがはイリナというべきか、それともあの癒しの竜皇女として国民人気の高いエリナ皇女に気に入られたアッシュに感心するべきか」
 ルルナは訝しげな顔をする。
「闘竜皇女と呼ばれるイリナさまも同じくらい国民に人気があると思いますけれど、それにあのイリナさまを呼び捨てですか?」
 あわてたようにスレイはルルナに問いかける。
「ルルナも何か目的はあるのか!?」
 何時の間にかルルナはスレイの右腕に胸を押し付け艶然とした笑みを浮かべて答える。
「いえ、わたくしは普通にそれなりの功績を上げて、男爵位の継承か新しい爵位を手に入れて、良い殿方と結ばれればそれだけでかまわないのですけれども」
 「スレイさん、わたしの目的はグラナダ氏族がより人間族との交流を持つ為の架け橋になることです。その為にわたしは有望な人間族の男性と婚姻することも考えています」
 気付かぬ内にスレイに近づきルルナに対抗するようにその豊かな胸をスレイの左腕に押し付けたエミリアが言う。
 2人の間に火花が散っているような錯覚をスレイは覚えた。
 そんな様子をアッシュはニヤニヤ笑いながら見ていた。

 精神が削られるような修羅場からなんとか戦略的撤退を果たしたスレイは一度換金所に寄り、その収入を4人で山分けするとそのまま宿に戻り、約束通りにサリアと遊んでやりその無邪気さに心を癒されていた。
 今は遊び疲れたサリアをフレイヤの部屋へと送ってやり、むずかる彼女を寝かしつけて来たところだ。
 スレイの部屋、大きく開けられた窓からは満月が大きく見えていた。
 ベッドに腰掛け今日の事を思い出しながら自嘲するように呟く。
「まったく何が精神:EXだか、運勢:Gは妥当だが」
 神々の作った対邪神用の戦闘力を持った人間を作り出す迷宮都市のシステムというものはとことん戦闘に関する部分しか評価基準にされていないと言われている。
 それが事実だと言う実感をスレイは得ていた。
 恐怖という感情を喰われ失っただけで、普段の生活においては軽く女性にふり回されるような自分の精神の評価がEXという時点で、これはもう戦闘に関しての精神性しか評価されてないと思われる。
 そしてリリアが冗談交じりに言っていた邪神とのエンカウントを既に果たし、人為的工作により呼び出されたアンデッド・ナイトに初心者用の迷宮で出会い、闘竜皇女との戦いを全ての攻撃を躱し続けなんとか引き分けに持ち込んだ自分。
 とことん強い敵との遭遇率が高いから運勢がGという最低能力値、いやむしろ対邪神戦が目的の迷宮都市を作り出した神々からすれば最高能力値かもしれないが、これは妥当なものだろう。
 日常においての自分の不本意な現状への不満から愚痴ばかりが零れ出る。
 ただ強さを求めているつもりだった。
 邪神ロドリゲーニが魂の表へと裏返った理由、それはフィノがスレイを庇って死んだからだ。
 そう、覚えている。
 野盗に襲われなにもできなかった自分、そんな自分に覆いかぶさり何度もナイフで刺されながらも、師匠達、あの頃はまだただの隠居した気難しい爺さん達だと思っていたが、彼らが駆けつけ野盗を片付けるまで自分を守り通した幼馴染の1人。
 そして彼女が死んだ夜、彼女の死体が安置された彼女の家へただ彼女と彼女の両親に詫びたくて辿り着いた彼が見たのはあの惨劇の光景。
 あれは自分が生み出したものだ、そしてロドリゲーニは自分の弱さが生み出した存在だ。
 だからスレイは何よりも強くなって始末をつけ贖罪しなければならない。
 それがただ自分の罪悪感から逃れたいだけの逃避なのか、それとも強い責任感なのか、それすら分からずスレイは考える。
 全ての神々に、神々が創り出した迷宮都市から誕生した称号:勇者達、神々が一から創造した職業:勇者達、竜神が生み出した戦闘種族たる竜人達、彼らが全ての力を合わせても封印しかできなかった邪神、その一柱をスレイは殺さなければいけないのだ。
 ならば彼は職業・称号関係無く勇者達を超えなければならない、竜人達とその最高峰たる竜皇をも超えなければならない、そして神々すらも超えなければならない、最強、その頂に昇らなければ邪神を殺す事など夢のまた夢だ。
 だが今彼は余計な回り道をしている、ただ自分の道を貫き通す事ができず周囲の人間関係に巻き込まれている。
 それは自分の戦闘以外での弱さが原因だとしか思えなかった。
「ロドリゲーニめ、どうせ喰らうのなら恐怖だけじゃなく余計な感情全て喰らえばいいものを、お前に対する殺意だけを残して……な」
 ついつい仇敵に対しての都合の良い愚痴すら出てしまうスレイ。
「だが、まあ構わない。いつかお前は俺がこの手で殺す、その意志だけは変わっていない。これは、俺の果たすべき贖罪だ」
 そう呟いた時ドアがノックされた。

 煌々と輝く満月の光を浴びフレイヤは戸惑っていた。
 満月の夜、確かに豹のライカンスロープたる自分は強く発情する。
 だがこれほどに強く発情したのは初めてだ。
 夫が生きていた時でさえこれ程に強く発情したことは無い。
 夫が死んでからは尚更で、発情しても自分自身で慰めて事足りた。
 だが今のこの発情はとても耐えられるようなものではない。
 今自分が何処へ向かっているのか、それを理解しながら全く足を止めることができない。
 脳裏にはただあのスレイという青年のことだけがある。
 自覚はしていた、自分はあの夫に良く似た雰囲気を持つ青年に惹かれていると。
 だがそれは充分抑えられる想いの筈だった。
 だが実際には発情期の夜を迎え、抑える事などできずにスレイの元へと向かっている。
 そして理解する、この発情の強さは二つの要因が重なった物であると。
 スレイという青年に惹かれる女の自分、スレイという強い雄へと惹かれる雌の自分。
 その双方が合わさって、夫が居た時でさえなかった抑えきれない様な発情をしているのだ。
 そうしてフレイヤはスレイの部屋の扉の前に辿り着く。
 もう抑える事は不可能に近かったそして抑える気も無くなっていた。
 フレイヤはただ自分の身を支配する発情のままにドアをノックしていた。

「わたし、フレイヤですけど入ってもよろしいでしょうか?」
 その声に何か違和感を覚えつつもスレイは答える。
「ああ、開いているから、入ってくれ」
 そしてスレイは後悔していた。
 そこにはメリハリの利いた身体の線がはっきりと出る透けたネグリジェのみを身に纏い、猫科の耳に猫目をし、酷く発情している様子のフレイヤが立っていた。
 形状から猫科の中でも豹のライカンスロープだろうと見抜いたスレイだが、いきなり飛びかかられて、反撃をする訳にもいかずそのまま唇を奪われる。
 とろけそうに濃厚で甘いキスであった。
 そして唇が離され解放された。
 スレイは自らの昂ぶりを感じていたが、抑制し制御された冷静な声音で話しかける。
「フレイヤ、俺はあんたにとっても、サリアにとっても、良い夫にも良い父親にもなれない存在だ、こういう事は止めた方が良い」
 だがフレイヤは即座に返す。
「わかっているわ、貴方を拘束なんてできないって事は。年齢の差も分かっている、だけどもう抑える事ができないの。わたしだけを愛してとは言わないわ、貴方にはもっと数多くの女性を惹き付ける何かがあるから、わたしはその中の一人で構わない。ただサリアにとってだけ良き父であり兄になってほしい、それは今のままでいてくれれば良いだけだから問題無い筈よ」
 だが、と反論しようとするもまた唇で唇を塞がれる。
 そして唇を離すと同時にフレイヤが続ける。
「ごめんなさい、もうこれ以上は耐えられないの。それにもうわたしもサリアも貴方無しの生活は考えられないわ、多分他にもそういう人は出てくるわ。だからわたしを貴方のものにしてちょうだい、ただわたしの全てを支配してほしいの」
 フレイヤは巧みで、妖艶で、どこまでも魔性であった。
 逃れられない蜘蛛の糸に絡められていくような気分を覚える。
 そしてスレイは抵抗を諦める……自らの欲望に対する抵抗を。
 今度はスレイからフレイヤの唇を奪っていた。
 驚いたような表情になるもそのまま受け入れるフレイヤ。
 スレイは舌を差し出し絡め合い、フレイヤの歯列を一つ一つなぞりあげる、口腔内の全てを刺激し、そしてそのまま舌ごと唾液を吸い上げ微かにあま噛みすると、その刺激にフレイヤは身体を震わせる。
 あまりの発情に敏感になっていた身体が今のキスだけでイってしまったのだ。
 スレイはそのままフレイヤを押し上げ今度はベッドに押し倒し自分が上になりその豊かな胸をまさぐり、敏感な場所を探し攻めながら言う。
「わかった、もういいフレイヤ、これからあんたは俺のものだ、他の誰にも指一本触れさせない。あんたも俺だけにあんたの全てを差し出せ、いいな」
 スレイの強く激しい烈火のような熱い視線に身を焦がされながらフレイヤはただ頷く。
「は、はい!わたしは貴方だけのものです、もう貴方以外の誰にも指一本たりとて触れさせません!だからわたしを存分に愛してください」
 そしてスレイは激しい情欲に突き動かされるままどこまでも激しく、目の前の女体を一つ一つ征服していく作業へと没頭していった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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