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  シーカー 作者:安部飛翔
第一章
5話
「次の方どうぞー」
 メアリーの声に従いスレイは換金所の窓口へと向かう。
 メアリーはスレイを見ると笑いながら声をかけて来た。
「おやスレイくんじゃないか?今日は1人かい?」
「ああ」
 スレイは頷くと早速魔法の袋を取り出す。
「今回はこれらを換金してもらいたいんだが」
 コボルドやオークの粗悪な装備品と小さめの火炎石をテーブルいっぱいに広げる。
 その量を見てメアリーは呆れたような声を出す。
「これはまた大量の戦利品だね、まさかたった2日でこれだけ集めてくるとはね」
 早速鑑定を始めたメアリーは程なく鑑定を終えると金額を告げた。
「今回は1500コメルってところだね」
 金貨を15枚渡されたスレイはすぐに魔法の袋にしまう。
「リリアちゃんとジュリアちゃんに会ったら、よろしく言っといとくれ」
 メアリーの声を背に受けながら換金所を出ると、次はギルド内の銀行の部屋へと向かう。
 銀行の部屋の中には大量の金庫がカウンター内にあり、カウンターには1人の女性がいた。
「すまない1500コメル預けたいんだが」
「はい、かしこまりました」
 そう返事をすると、カウンターの女性はスレイの顔をしげしげと見て言った。
「あれ?貴方は確かこの前リリアとジュリアさんと一緒にいらっしゃった方ですね。スレイさんでしたか?貴方まだ探索者に成り立てでしょう?あれからもう1500コメルも稼いだんですか?」
 女性はメアリーと同じく30代程の、しかしまだ若々しく大人の色香を感じさせる、細身のしかし豊かな胸を備えた女盛りの金髪碧眼の女性であった。
 名前は以前にアリアと紹介されている。
「ああこれだ、よろしく頼む」
 15枚の金貨を魔法の袋から取り出し、カウンターへと置く。
「あら本当、大したものですね。差し詰めギルド期待の新人ってところかしら?リリアとジュリアさんが目をかけてるだけはありますね。まあケリーと比べればまだまだですけど。それではカードを貸して頂けますか?」
 スレイが差し出したカードを受け取るとアリアは小さな機械装置にカードを通し軽く操作した。
「はい、どうぞ。金額を確認してもらえるかしら?」
 スレイがカードを見ると、そこには確かに所持金1500コメルと記載されていた。
「ああ、間違いない。ところでケリーとは誰だ?有名人なのか?」
「いえ、私の個人的な知り合い、その……恋人ですね。まあ彼の恋人は私一人では無いんですけど。一応ギルドの直接の子飼いのS級探索者なので有名ではありませんが実力は折り紙付きですよ?」
「なるほど」
 恋人が一人ではないという言葉に、上級の探索者は多くの女性を囲い込む事も珍しくないという話を思い出す。
 それにスレイとしても半年前から迷宮都市に来るまでを考えると他人事では無いので、気にしないことにする。
 そしてスレイはそのまま銀行の部屋を出る。
「リリアとジュリアさんによろしくね?」
 背にかけられたメアリーと同じ内容の言葉に、ギルド内ではよほど自分はあの2人とセットで見られているのかと苦笑をこぼした。
 そのままギルド内を移動して、今度は始めて入る部屋、ギルド内の鍛冶工房へと入って行く。
 そこには様々な武具が整然と並べられ、一人のドワーフが中央のテーブルに座っていた。
「あん、あんた誰だ?何か用か?」
 ドワーフの荒い言葉遣いを気にすることもなくスレイは用件を述べる。
「俺はスレイと言う者だが、そろそろ出来ているはずのミスリルのサーベルを受け取りに来たんだが」
 スレイの言葉にドワーフは突然立ち上がると、スレイの傍に寄って来る。
「おう!あんたが、スレイか。この2日間1度も顔を出さないとはな、おかげでミスリルの刀身はもう出来てるが柄の調整がまだできていない、ちょっと手を貸してくんな」
 ドワーフはスレイの両手を取ると、色々と確かめる様に手の平から甲まで全体に触れる。
「ふむ、剣士としてはまだまだ甘いがちゃんと訓練してるいい手だな。よし!今柄の調整を済ませちまうからちょっとそこらの剣でも見ながら待っててくんな」
 ドワーフはそのまま奥の工房へと入って行こうとする。
 その背にスレイは声をかけた。
「ちょっと待った、あんたの名前を聞かせてくれないか?」
 ドワーフは立ち止まり、頭を掻きながら振り向いて答えた。
「おう、わりぃな、ついつい名乗り忘れちまってた。俺はダンカンってんだ、これからもちょくちょく関わる事になるかもしんねぇからな、覚えといてくれや」

 数分後、ダンカンが持って来たミスリルのサーベルをまずは片手で素振りして確かめる。
 やや鋼鉄のサーベルと比べて軽い気がしたが、その握りは実に手に馴染んだ。
 そして次に両手で二本のサーベルを握り同じく素振りをして確かめる。
「これは驚いたな、これほど握り易い剣は始めてだ」
 驚いたようなスレイに、同じくダンカンも驚いた表情をしている。
「あんた、思ってたよりずっと良い剣士だな、その年頃にしちゃ剣筋に乱れが少ないし何より剣速がただごとじゃねえ、それになにより二刀流まで扱うとは、サーベルを二本と聞いた時には予備としての注文かと思っていたんだが、驚いたな。熟練した剣士と比べれば技量的にはまだまだ未熟なところはあるが、いったいどれだけ剣を振って来たんだ?」
 二本のミスリルのサーベルを鞘に収めながらスレイは答える。
「およそ2年ほどだな」
ダンカンは悪い冗談でも聞いたような顔をして、呟いた。
「2年でその剣筋に何よりその剣速だって?本気でたいしたもんだな。1日にどんだけ鍛錬すれば、そんな成長が可能なんだ?」
 そんなダンカンに腰の鋼鉄のロングソード二本を外してスレイは差し出す。
「すまないが、手数料は払うからこの剣二本も握りの調整と、刀身の手入れを頼めないか?」
「いや、いいもんを見せてもらったし手数料はいらねえ、しかし二刀流も扱うなら予備の剣を二本持つのはわかるが、サーベルと直剣のロングソードじゃ扱いに違和感が出ねえか?」
「確かにそうだが、あくまで予備だしな。それにこの辺りでは直剣が主流のようだし、いざという時に備えて慣れておくに越した事は無いだろう」
「なるほどな。よしわかった、そいじゃその二本を手入れすればいいのかい?もしここにある剣で他に気にいったものがあったら、この鋼鉄のロングソードと交換してやってもかまわないぞ?勿論差分の金は頂くがな」
 スレイは鞘に納めたミスリルのサーベルを腰に差しながら答えた。
「いや、今のところはこのミスリルのサーベルとその鋼鉄のロングソードでかまわない。確かにここには良い業物も幾つかあるが、あくまでロングソードは予備兼直剣の練習用だし、なにより探索者に成り立ての俺に手が出せるような値段じゃないからな。本当はディラク刀があれば欲しいんだが」
 ダンカンは額に手をあてるとぼやいた。
「ああ、そういや探索者に成り立てって話だったか。まったくもってあんたには常識をぶち壊されるな。それにディラク刀かよ、あまり俺達ドワーフの鍛冶師に対してディラク刀の話はしない方がいいぞ。俺はまだギルドに所属して色々慣れてるから大丈夫だが、ディラク刀って聞くだけでブチ切れるドワーフの鍛冶師は多いからな。なにせ鍛冶の神を信仰する自分達に作れなくて、剣の神を信仰するディラクの人間の鍛冶師だけが作れる、最高の切れ味を持った刀なんて代物だ。俺達ドワーフの鍛冶師にとっちゃ天敵みたいなもんだからな。そいじゃ今すぐ手入れしてくるから待っててくんな。もし手入れ中に他の客が来たら、今俺は作業中だって伝えといてくれや」
 ダンカンは二本の鋼鉄のロングソードを持つと、また奥の工房へと入って行った。

 数分後、ロングソードの手入れも終わり工房から出てきたスレイは、ちょっとした興味から仕事依頼の掲示板を見てみる事にした。
 掲示板に近寄っていくスレイに掲示板を見て仕事を物色していた探索者達からの視線が集まる。
 どうやらここ数日だけで、自分はその程度には悪目立ちしているらしいとスレイは自覚する。
 掲示板には初心者探索者の生活救済用だろう猫探しと言った雑用から、それなりに稼げる富豪の護衛任務まで、様々な仕事依頼が多岐に渡り貼られていた。
 尤も本当に重要な、それこそ王侯貴族の護衛や、本当に強力な野良の魔物退治といった仕事に関しては、優秀な探索者に職員から直接仕事の話が持ちかけられるので、そういった仕事依頼は流石に存在しなかったが。
 そんな風に物見高くスレイが掲示板を観察していると横合いから声がかけられる。
「あ、あの!」
 声のした方に振り向くと、そこには見覚えのある人間が3人程立っていた。
 エルフとしては珍しい豊かな胸の起伏を持った、メリハリのある体型の金髪のツーテールに金眼の美少女エルフ。
 重厚な筋肉に覆われた肉体をさらに重装備で覆った、ツンツン髪の茶髪茶眼の明るい雰囲気の青年。
 細身で、そこそこの大きさの胸に軽装鎧を装備して、手にごついガントレットを装備した、腰まである茶髪茶眼の少女。
 以前アンデッド・ナイトより助けた、名門エルシア学園生の3人組であった。

 エルフとは孤高にして高慢な種族である。
 森神ルディアを信仰し、その司る世界樹と精霊を奉じ、世界樹の周囲の森にいくつもの氏族が散在するエルフ族は人間を見下している。
 より上位の種族たるハイエルフに、亜種族たるダークエルフにしてもそれは変わらない。
 しかしそんな中で変わり者の氏族が存在する。
 それがグラナダ氏族である。
 人間どころか、エルフとは犬猿の仲であるドワーフ族とさえ交流を持つ氏族。
 いくら迷宮都市と言えども、エルフを見かけることがあったらほぼグラナダ氏族と断定してもかまわない。
 彼らは人との交流を進める為、より高い地位と力を持った人間と親交を持つ事を目的として迷宮都市にやってくるという。

 迷宮都市において成り上がり、平民から貴族へとなった者。
 彼らは殆どがどれほど爵位が高くても一代貴族である。
 実力を示し貴族となった彼らの子女は、親の爵位を引き継ぐに値するだけの実力を、あるいは新しくより上位の爵位を得るだけの実力を迷宮探索において示さなければならない。

 だから彼ら3人が、探索者養成学園の中でも名門であるエルシア学園の生徒であったのは当然の帰結であった。
 エルフのとびぬけた魔法の資質に、親が一代貴族とは言え爵位持ちの2人、そんな彼らが平凡なそこらの探索者養成学園に入ることなどありえないのだから。

 尤も今はエルシア学園を卒業したばかりの為に、立場は初心者探索者と変わらない。
 卒業後1年間は実家からの援助を受ける事を禁止されているので、彼らはエルシア学園より餞別として渡された10000コメルと学園生だった時から使い慣れた装備のみで、1年間探索をしなければならない。
 ただ既に卒業はしている為にエルシア学園の制服を着る事はもう無い。

 以前助けた時の礼を述べられた後、今はもうエルシア学園の制服を着ていない彼らにその理由を尋ねた時返って来た返事はこのような物だった。
 正直聞いていない事まで長々と答えられた上に、装備も上等な物で、10000コメルと言えば初期の所持金としては初心者探索者どころか、中級探索者でも滅多に持たない金額だろうと突っ込みどころは満載だったが。

 まあ、それは別に良い事にしてスレイは尋ねる。
「用件は以前の礼を述べるだけという事でいいだろうか?俺はそろそろ宿に戻ろうと思うのだが」
 スレイの言葉に3人は慌てた様子になる。
 そしてエミリアが勢い込んだ様子でスレイに顔を近づけてくる。
 種族全員が美形揃いと有名なエルフだけあって、飛び抜けた美貌だなと思わず考えるスレイに、彼女は勢いよくまくし立てた。
「あ、あの、もし特定のパーティを組んでおられないのでしたら、わたし達とパーティを組んでいただけないでしょうか!?」
「パーティ?」
 スレイは述べられた言葉に、表情を渋くする。
 スレイの様子にエミリアはしゅんとすると、今度は落ち込んだ様子で呟く。
「そうですよね、スレイさんほどの実力者がまだ特定のパーティに所属してないなんてことありませんよね」
 スレイはその言葉に頬を掻くと、困ったように答える。
「そもそもパーティを組む以前に、俺はソロ専門のつもりなんだが」
「そっ、それじゃあ!わたし達を助けると思ってパーティを組んでくれないでしょうか?!もちろんわたし達のLvでは足手まといになるのは分かってますが」
 エミリアは勢いづいて懇願の表情で述べてくる。
 彼女に続き残りの2人も勢い込んで続けてくる。
「なあ、頼む!前回の卒業試験の探索で先生達が死んだのを見て、今の俺たち程度の実力じゃ迷宮探索で何時死んでもおかしくないって恐くなったんだ!」
「わたくし達も貴方が来てくれなければ死んでいたと考えると、恐怖が湧いてきて。お願いです、わたくし達に力をお貸し下さい!!」
 スレイはいきなり舞い込んできた厄介ごとに、余計な好奇心でギルドに長居をするのではなかったと、溜息を吐いた。

 結局スレイが3人の勢いに負け、パーティを組む事を仕方なく了承すると、早速4人でパーティ登録を行う事になった。
 パーティ登録には1回の探索限りの短期登録と、登録解除を行うまでは解除されない長期登録の二種類があるが、今回は3人の強い希望で長期登録を行う事になった。
 パーティ登録の為には経験値を共有するシステムの利用の為、ギルドの受付で登録申請を行う必要があるが、その前に4人それぞれの自己紹介を兼ねてカードの全能力値を見せ合う事になる。
「わたし達程度のLvでは経験値の面でスレイさんに損をさせてしまう事になると思います、すみません」
 申し訳なさそうに述べるエミリアにスレイは曖昧に笑って答えた。
「いや、それは逆だと思うな」
 エミリアは疑問の声を上げようとする。
「あの、それはどういう……」
 しかしその前にアッシュが大声を上げてカードを差し出した。
「それじゃあ俺から見せるぜ!」

アッシュ・グラナリア
Lv:16
年齢:18
筋力:C
体力:C
魔力:E
敏捷:D
器用:C
精神:D
運勢:D
称号:エルシア学園卒業生
特性:狂化、戦技上昇
祝福:戦神アレス
職業:戦士
装備:ダマスカスのバルディッシュ、ダマスカスのプレートメイル、重量軽減のアミュレット
経験値:1534 次のLvまで66必要
所持金:10000コメル

 続けてルルナがカードを差し出す。
「それでは次はわたくしが」

ルルナ・グラナリア
Lv:15
年齢:18
筋力:C
体力:C
魔力:E
敏捷:C
器用:C
精神:D
運勢:D
称号:エルシア学園卒業生
特性:闘気術、格闘技上昇
祝福:闘神バルス
職業:闘士
装備:ダマスカスのガントレット、ダマスカスのブレストプレート、絹の服、絹のズボン、革の靴
経験値:1420 次のLvまで80必要
所持金:10000コメル

 質問が邪魔された事に不本意そうにしながらもエミリアもカードを差し出す。
「それでは、わたしも」

エルフ・グラナダ氏族のエミリア
Lv:14
年齢:18
筋力:E
体力:E
魔力:B
敏捷:D
器用:C
精神:C
運勢:C
称号:エルシア学園卒業生、森エルフ
特性:思考加速、魔法上昇、精霊の加護
祝福:森神ルディア
職業:魔術師
装備:祝福の杖、エルフのローブ、エルフの靴
経験値:1350 次のLvまで50必要
所持金:10000コメル

 スレイはやはり自分の方がLvは低いかと納得すると、3人に続きカードを差し出した。
「これでいいか?」

スレイ
Lv:9
年齢:18
筋力:D
体力:C
魔力:C
敏捷:S
器用:S
精神:EX
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、思考加速、剣技上昇
祝福:無し
職業:剣士
装備:ミスリルのサーベル×2、鋼鉄のロングソード×2、革のジャケット、革のズボン、革の靴
経験値:880 次のLvまで20
所持金:1500コメル

「なっ!?」
「えっ!?」
「嘘っ!?」
 3人はただ驚愕の声を上げるだけだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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