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  シーカー 作者:安部飛翔
第一章
4話
 スレイが職業神の神殿の閑散としたクラスアップの待合所に戻ってくると、そこにはリリアが椅子に腰を下ろして待っていた。
 その隣にはジュリアも神殿騎士の鎧を脱いだラフな格好で座っている。
「あ、やっと来た。スレイくん、クラスアップはどうだった?」
 どうやら自分を待っていたらしいと気付くとスレイは彼女達の下に歩いていき答えた。
「そうだな、とりあえず痛かったな」
 何事も無かったかのように淡々と答えるスレイに、リリアは呆れたように返す。
「なーんかスレイくんが言うと、本当に痛かったように聞こえないのよね。ま、いいわ。さ、行きましょ?」
 スレイはかすかに顔に疑問を浮かべて問い返す。
「行く、とは何処にだ?」
 スレイの問いにリリアは呆れたような顔をすると答えた。
「決まってるでしょ?ギルドの換金所よ。スレイくんって今一文無しじゃない、代わりの剣だって買わなきゃいけないのにそれじゃ不味いでしょ?」
「俺としては1人で行くつもりだったんだが。わざわざ其処まで案内してくれるのか?一応場所は知っているんだが」
「さっき街を案内するって言ったでしょ?続きよ続き。まあ、私がギルドに戻るついででもあるけどね。換金所はギルド内にあるんだし」
 リリアは何故か不機嫌そうな表情をしてそう答える。
 そしてリリアは立ち上がり、それに続いてジュリアも2人のやり取りに含み笑いをしながら立ち上がる。
 ジュリアを怪訝そうに見て、スレイはぶしつけに問いかける。
「あんたも一緒に来るのか?」
「ふむ、君は本当に恐れを知らないな。私は仮にも君より先輩の探索者で、この神殿の神殿騎士で、君より年上でもあるんだが」
 苦笑するジュリアにスレイはやはり淡々と返す。
「悪いが俺は基本的に礼儀を知らなくてな、普段は誰が相手でもこんな感じだ。流石に場は弁えているつもりだが」
「まあ、誰に対しても態度を変えないというのは個人的には好感が持てるかな?君自身も言ったように場は弁えた方が良いだろうが、プライベートでは普通に接してくれるのはありがたいね」
 ジュリアは艶然とした微笑を浮かべる。
 そんなジュリアの様子に先ほどよりも不機嫌そうにリリアは出口に向かって歩を進める。。
「それじゃあ時間も勿体無いし、早く行きましょう!」
 やたらと不機嫌そうなリリアを見て疑問の表情を浮かべるスレイ、そしてそんなスレイを見て苦笑するジュリアが後に続いた。

 そして数刻後、3人は探索者ギルドの中に居た。
 探索者への仕事依頼を貼り出す掲示板の前には相変わらず十数人の探索者達が集まり、自分のLvに合った仕事を探している。
 十数個ある窓口のいくつかでは、それぞれ職員と探索者達が探索に対してのサポートやパーティを組む仲間の紹介そして個人を指定しての仕事の斡旋と色々と話し込んでいる。
 その中を3人が進んで行くといくつもの視線が3人に向き、ジュリアを見た探索者達が驚いたような顔をして近くの者と話し込む。
「おい、あれって神狼のジュリアじゃないか?」
「本当だ、それに隣を見ろよギルドマスターの娘で俺達の癒し、ギルドのアイドルのリリアちゃんもいるぜ」
「なんであんな小僧と一緒に……」
 瞬く間にざわめきが広がり、ギルド内の雰囲気が騒がしくなる。
 自分に集まる敵意の籠った鋭い視線を特に気にする事も無く、スレイはただ拾った言葉の内1つをジュリアに視線を向け問いかける。
「神狼?」
 ジュリアは微かに頬を赤く染めながら答える。
「いや、ある程度名の売れた探索者に付けられる二つ名だよ、あまり気にしないでくれ」
 リリアが横から補足する。
「ジュリアが職業神の神殿騎士見習いから真の神殿騎士になったのが、ある未知迷宮の本来現れる筈の無い上層階で暴れて被害を多数出していたS級ボスモンスター、闇狼を狩った功績によるものだからね。しかもそのすぐ後に騎士系最上級職の神騎士にクラスアップしたものだから、それから神狼なんて呼ばれるようになったのよ」
 スレイは感心したようにジュリアの方を見る。
「ふむ、なるほどな」
 スレイの感嘆の視線に、ジュリアは頬を更に赤く染めて視線を逸らす。
「ところで、未知迷宮とはなんだ?」
 リリアは呆れた声で返す。
「はぁ、わざわざシチリア王国から探索者になりに来た癖に、本当にスレイくんはこの都市の事に関して無知よね。それじゃあ説明するけど、この都市にある迷宮には探索者のLvに合わせて初級者用の迷宮、中級者用の迷宮、上級者用の迷宮とあるのは知っているでしょ?」
「ああ、そのぐらいはな」
「上級者用の迷宮でも迷宮の階層はだいたい地下50階程度のものなの。だけどこの都市にはそれ以上に深い階層が存在してギルドや超一流の探索者達でも何階層まであるのか分からない迷宮がいくつもあってね、それらを総称して未知迷宮と言うの」
「それはつまり最下層まで行った者は誰もいないということか?」
「それが難しい所なんだけど、とりあえず中には地下100階まで行ってもまだ先がある迷宮も幾つも存在しているというわ。とりあえず地下50階より先がある迷宮が未知迷宮と覚えておけばいいんじゃないかしら?ただ、さっきの質問に戻るけど、時々SS級相当探索者とかが制覇してしまってる迷宮もあるらしいんだけど、碌に報告もされないのでそのまま未知迷宮扱いな迷宮もあるのよね」
「ふむ、実は制覇されてしまっている迷宮というのは、全体からすると大体どのくらいなんだ?」
「そうね、だいたい一割ぐらいって所じゃないかしら。やっぱり未知迷宮の殆どはSS級相当探索者達でさえ全く最下層までは辿り着けないような難易度の高い迷宮が殆どだって言うし、それってよく考えると神々の残した鍛錬場って割には意味の無い難易度の高さよね」
「なるほどな。感謝する、おかげで良く分かった」
 スレイは率直に礼を述べる。
 顔を赤くしてそっぽを向くリリア。
「そ、そう、それなら良かったわ」
 リリアのそんな様子をジュリアはどこか呆れたような生暖かい視線で見つめていた。

 探索者ギルド内には、探索者登録受付兼仕事斡旋所の他にもいくつかの部屋が存在している。
 その中の一つの部屋がモンスターからの戦利品を大陸共通通貨コメルへと換金してくれる換金所であった。
 その換金所にはやはり幾人もの探索者が、自らの戦利品を換金する為に並んで待っていたので、ジュリアとリリアという有名人を引き連れたスレイはやはり目立ち視線を集めていた。
 暫く待つとスレイの順番が回ってくる。
「はい、次の方どうぞー」
 そんな換金所の窓口にいたのはふくよかな体格をした、まとめてアップした黒髪に茶色い瞳の30代ほどの婦人であった。
 その彼女がリリアとジュリアを見て驚いたような声を出す。
「おやまあ、リリアちゃんにジュリアちゃんじゃないかい、珍しい。あんたらがここに来るなんて滅多にないからねー、いったいどうしたんだい?」
 リリアが恥ずかしそうに言葉を返す。
「もうちゃん付けはやめてよー、メアリーさん。私だってもう18歳なんだからね」
 続けてジュリアも控えめに言う。
「メアリーさん、私としても流石に22歳にもなってちゃん付けされるのはちょっと」
 メアリーは豪快に笑って答える。
 「何を言ってるんだい、私にとっちゃ小さい頃からずっと見てきたあんた達はいつまで経ってもリリアちゃんにジュリアちゃんさね、今更変えようもないし、変えようとも思わないよ」
 そうしてメアリーは2人の間に立つスレイに視線を移した。
「ふむ、リリアちゃんと一緒に来たって事はこの子があのスレイくんかい?」
「ああ、確かに俺がスレイだが」
 メアリーはスレイを微かに値踏みするような視線を向けると、いきなりな質問をして来た。
「あんた3000コメルとミスリル製の装備と、どっちの方がいいかね?」
「何の話だ?」
 いきなりの問いに疑問を返すスレイ。
 そんなスレイにメアリーは笑って答える。
「いや、あんたが倒したアンデッド・ナイトの装備があるだろう?それをギルドの戦闘系職員達が回収して来たんだけど、あの装備の素材がミスリル製でね。そういう上等な装備を作る素材になりそうなものは換金する代わりに、手数料はかかるけどギルド専属の武具製作者がそれを素材にした武具を作ってくれるんだよ」
「ほう、そうだったのか」
「ほらそこのジュリアちゃんの完全装備の神殿騎士姿は見た事あるだろう?その子が神殿騎士姿の時に装備している服なんかはその子の倒した闇狼の革製なんだよ、あれほどの素材は流石に滅多にないけどね。それであんたはどうするかいってことなんだが」
 スレイは少し考えてから答えを返す。
「ミスリル製の剣、できればディラク刀と言いたいが無理ならサーベルを2本作って、後は換金してもらえると助かるんだがそれだとどうなる?」
「そうさねディラク刀は流石にどんな素材でもという訳にいかないし、何よりディラクの刀鍛冶以外は作れないからね。ミスリル製のサーベルだけ作るとするとだいたい200コメル分のミスリルを使用して、サーベルを鍛造するのにかかる手数料が1800コメルと言ったところで、換金できるのは1000コメルと言ったところかね」
 スレイは腰の袋を差し出し答えた。
「それじゃあミスリル製のサーベルを鍛造して残り1000コメル分を換金して、あとはこれを換金してほしい」
 そうして出された袋の中の物をメアリーはテーブルの上に全て並べると計算する。
「ふむ、全部始まりの迷宮のモンスターの交換部位か、それでもこの量なら、まあざっと計算してみたところ300コメルにはなるさね」
 そうして疑問に思ったようにメアリーは続ける。
「ところであんた、魔法の袋はまだ持ってないのかね?」
 スレイは訝しげな表情をする。
「魔法の袋?」
 そんなスレイにメアリーは苦笑しながらリリアに問いかける。
「リリアちゃん、あんた説明を忘れてたね?」
 リリアはしまったという顔をして頬を赤く染める。
「え、えーとぉ」
 そんなリリアにメアリーは仕方ないねぇ、という風に苦笑し溜息を吐くとスレイに説明をする。
「魔法の袋ってのはね、空間系魔法で作られた袋の事で、探索者となれば必須と言っても良いもんさね。なにせ入れる物の量や大きさまで無視できて、重量も感じないって優れものだからね。その上出したい物を念じるだけで、袋の中から探す事もなくその物を出す事もできる。ただ、それなりに値は張るし、初心者探索者の場合そんな物が必要になるほど魔物を狩る前に迷宮から出てくる物だからね。だいたいがある程度経験を積んだ探索者になってから買う物だね。」
 なるほどと、スレイは頷く。
「あとは迷宮の到達した階層にマーカーを付けて一瞬で迷宮を脱出できて、また次の探索時にマーカーした階層にすぐ転移してその階層から探索を再開できる、同じく空間系魔法で作られた飛翼の首飾りと合わせて、始まりの迷宮をクリアした後の探索者には必須のアイテムさね」
 スレイは横目でリリアを見やる。
「そのような大事な事を俺は聞かされていなかったわけか?」
 リリアはしゅんとうなだれる。
「ごめんなさい」
 リリアの殊勝な態度に流石に言い過ぎたかとスレイがフォローをする。
「まあ、気にするな。誰にでも失敗はあるし、それに今知れたのだから問題はない」
 明るい顔になるリリア。
「うん、今度からは気をつけるわ。気を遣ってくれてありがとう」
 そんな2人を微笑ましく見つめながらメアリーもフォローを入れる。
「まあまさか探索者になってたった2日で、更にあんなアクシデントまであったのに始まりの迷宮をクリアするアンタみたいなのが居るとはリリアちゃんも思ってなかったんだろうから、始まりの迷宮クリア後もついつい説明を忘れてたんだろうね」
 スレイはそれもそうかと頷くと、気になった事を尋ねる。
「それでその魔法の袋と、飛翼の首飾りというのはどれほどの値段なんだ?」
「どちらの値段も500コメルさね。だから始まりの迷宮をクリアした後の探索者達はだいたい最初に魔法の袋を買って、その後始まりの迷宮か、別の迷宮の入り口付近でお金稼ぎをしてから飛翼の首飾りを買うんだが、あんたはもう両方買えるね。ちなみにどちらもギルド内の道具屋で買えるよ。通常の品揃えじゃ、街中の道具屋の方が色々と揃っているけれど、この二つばかりはギルド内の道具屋じゃないと買えないね」
 スレイはその値段を聞くと微かに表情に疑問を浮かべて尋ねる。
「空間系魔法というのは極端に使い手が少ない特殊な属性魔法と聞くが、その製作物がその程度の値段で買える物なのか?」
「まあ、ギルドは常に空間系魔法使いを高給で雇ってるから在庫の心配は無いし、あとは探索者への先行投資の意味合いも大きいね。始まりの迷宮をクリアできた探索者なら、ある程度の期待は持てるし、優秀な探索者が増えればそれだけギルドも得をするからね」
 スレイはなるほどと納得して黙り込む。
 そのスレイの前に金貨を13枚差し出すとメアリーは続ける。
「ほら換金分の1300コメルだよ。あと、サーベルについては鍛造に2日はかかるだろうから、2日後にでもギルド内の鍛冶工房に行っておくれ。それとその様子じゃまだ、ギルド内の銀行の事についても聞いてない様だから説明をしようか?」
「ああ、頼む」
 メアリーは袋を返し、その袋にスレイが13枚の金貨をしまうのを待ち、話を続ける。
「それじゃあギルド内の銀行なんだが、お金を持ち歩くとやはり色々と危険があるからね。だからお金を預ける為の銀行がある。そしてこれが重要なんだが、ギルド内の銀行に預けたお金の分だけ探索者カードを使っての支払いがこの迷宮都市の店ならどこでもできるようになるのさ。探索者カードは本人認証で決して他人が持っても何も表示されず扱えないようになってるし、お金を持ち歩く必要も無いしで、安全かつ便利に利用することができるようになってるんだよ。だから換金したお金はすぐに全部ギルド内銀行に預けちまう事をお薦めするね、都市外で扱う時には流石にお金を引き出す必要があるけどね」
 丁寧な説明を受けたスレイは、頭を下げ礼を言う。
「なるほど、大変ためになった。説明感謝する」
 そしてスレイはそのまま踵を返し換金所の出口に向かう、その後を慌ててリリアとジュリアが追った。
「あ、スレイくん、待ちなさいよ。メアリーさんありがとう、助かったわ、それじゃあ」
「それでは、メアリーさん、私も失礼させて頂く、それではこれで」
 部屋を出て行く3人を見ながらメアリーは笑いながら呟いた。
「ふむ、まだ迷宮都市に来て2日かそこらしか経ってないって話だったのに、あのリリアちゃんや気難しいジュリアちゃんと一緒に行動してるとは、かなりの女ったらしなのかねぇ?あのスレイって子は。まあ何にせよ面白いことになりそうだね」
 そしてメアリーは仕事へと戻って行った。
「次の方どうぞー」

 その後早速ギルド内の銀行へと現在の全財産1300コメルを預け、ギルド内の道具屋で魔法の袋と飛翼の首飾りを買い探索者カードで支払い、所持金欄が300コメルになってカードに記されているのを確認すると、続いて都市の武器屋で当座の武器として鋼鉄のロングソードを2本用意した。
 本当なら片刃の刃の反った刀の類が良かったが、流石に扱われていなかった為、仕方なくの妥協である。
 そうして再び無一文となったスレイ。
 その日はそのまますぐリリアとジュリアと別れた。

 スレイが宿へと帰ると同時に出迎えたのは不機嫌そうなサリアの抱きつき攻撃だった。
 スレイに抱きついたまま離れようとしない。
 そんな様子を笑いながら見ているフレイヤ。
 スレイは何度もあやすようにサリアに語りかけるが相手にもされず、サリアはただひたすらにスレイに抱きつくのみである。
 スレイは流石に困惑してフレイヤに助けを求めた。
 「フレイヤ、すまないが母親として何とかしてくれないだろうか?」
 「ふふっ、ごめんなさいスレイさん、それは私でも無理な相談ですわ。スレイさんがサリアを明日一日でも構ってくれないと、そのまま抱き付いて迷宮まで付いて行きかねませんよ?」
 柔らかな微笑をふわりと浮かべ、どこか面白そうに話すフレイヤは、出会った時から確実にスレイに対し心を開いていた。
 まだ出会ってからほんの2日、そしてせいぜい1日目にサリアと遊んでやっただけだというのに、この母娘は完全にスレイに対し特別な感情を持っているようだった。
 そしてスレイ自身もこの環境が中々気に入っていることに気付く。
 仕方なくスレイは明日1日サリアと遊んでやる約束をして、何とか離れてもらう。
 そして結局次の日1日はサリアと遊んでやったり、フレイヤと何故か際どい会話をして過ごして、2人との親交を更に深めていた。
 
【静炎の迷宮】地下6階
 フレイヤ・サリア母娘との関係を深めるのに1日が潰れてその次の日、ギルドでは頼んだミスリルのサーベル2本が完成しているはずだが、まずは初級者向けと言われる静炎の迷宮へと潜り、スレイは自らの肉体の変化を確かめていた。
 岩盤が掘られたような足場も安定せず、広さも安定しない迷宮。
 迷宮の始めの方はE級モンスターであるコボルドやオークなどの人型の醜悪なモンスターが出てきていた迷宮であったが、流石に地下5階を越えたあたりからは様相が変わり、出てくるモンスターも殆どがC級モンスターの二つ頭の魔犬オルトロスや、D級モンスターの火の魂のようなウィル・オー・ウィスプなど、迷宮都市の外にあってはかなり危険とされるモンスターばかりが出てくるようになっていた。
 今もまた二匹のオルトロスと一体のウィル・オー・ウィスプが現れた所である。
 スレイは剣を構え闘気術で自らの身体と剣を強化し、魔力操作で自らの身体と剣をコーティングする。
 すると剣は青色の魔力と黄色の闘気があるいは弾き合いあるいは混ざりあうように光を発する。
 最初に動いたのはスレイであった、岩盤のでこぼことした足場を物ともせず、一気に現時点での最高速度である雷速に至り、壁や天井なども足場にし、ウィル・オー・ウィスプの横を通りすぎながらなにげなく剣を振るう。
 スレイが一瞬前まで居た場所にはオルトロスの吐いた火炎が轟と通り過ぎていった。
 そして刹那の交差であったが、スレイの剣はウィル・オー・ウィスプを容易く切り裂いていた。
 実体を持たないハズの火の魂は、剣に込められた闘気とコーティングされた魔力の力により真っ二つに切り裂かれ、そのまま消滅する。
 正直に言って、こういった精霊系の敵はLvアップの為の経験値にはなっても、何も残さないので、お金にはならない。
 しかし、そのことにそれほどの拘りを感じないスレイはそのまま壁に蹴りを入れ、一瞬で地面に着地すると、ドンッと大きな音を響かせ地面を蹴りまた雷速で二匹のオルトロスの傍まで近づく。
 オルトロス達にもまた反応するその間を与える事もなく、二本目の剣を抜きはらったスレイは、二刀で持ってそれぞれ二つづつ、計四つのオルトロスの頭を首を切り裂き刎ねていた。
 オルトロス達は何も理解すること無く逝ったであろう、それほどの速度である。
 それから間が空いて、四つの頭が落ちる音が響き渡り辺りは静寂に包まれる。
 スレイは剣を振るって、血を振り払うと、二刀の剣を鞘へと納めた。
 そして無造作にオルトロスの死体の胴体へと近づくと喉のあった場所の奥へと手を入れて奥から固い感触のものを抜き出す。
 もう一体のオルトロスからも同じ物を抜き出すと、そこには二つの赤く燃えるような輝きを秘めた宝石があった。
 火炎石、火を吐くモンスターはたいていこの炎の力を込めた宝石を体内に持っている。
 そしてこれらは火属性の武具を製作する材料となるため、それなりに高く換金できる代物であった。
 ただし、オルトロスの体内にあった手の平に納まる程度の大きさのものでは高が知れてはいるが。
 それでも一つで100コメルにはなる代物である。
 スレイはそれを腰の魔法の袋に無造作に突っ込むと、先ほどの戦闘の感触を思い出す。
 まるで自らの身体の一部のように自在に動いた剣。
 まるで、この世に斬れない物は無いかのような高揚感。
 正直剣技においてはせいぜい基本的なことを習得したのみで、後はスピードで全てを補い、師に実戦で勝てるようになったのもそのスピードが大部分を占めていたスレイには始めての感触である。
 勿論そんな高揚感は錯覚であると分かっているので、スレイはその高揚感をすぐに捨て去り心を冷ます。
 それに流石になれない直剣のロングソードだけあって違和感もあった。
 だが、なんにせよ剣士職になっての剣技の補正というものは確かに大きい物であることは認めざるを得ないだろう。
 そしてそれだけではなく今回の探索中に手に入れた思考加速の特性。
 今まで完全には制御できていなかった、闘気術と魔力操作の併用による超加速し雷速に至った自分のスピードすらまるでスローモーションの様に感じるあの思考の加速は、自らの加速した動きの細かい制御を可能にしたのみならず、魔法の構成を編む事の高速化にも利用でき、実に応用力に優れた代物だった。
 最後に闘気と魔力の融合という特性も手に入れていたが、これに関してはまだ試していないため、特性入手後に脳裏に刻まれた大まかな情報しか分かっていないが、闘気と魔力の併用とどれだけ違っているのか使ってみるのが楽しみな代物だ。
「しかしこの都市の迷宮というのは不思議な物だな。始まりの迷宮もそうだったが、光源がある訳でもないのにどの階層でも常に一定の明るさが保たれている、まあ光源を持ち込むか生み出す必要が無いので助かるが」
 そう一人ごちると、スレイは自らの探索者カードを取り出し、念じて全能力値を表示する。

スレイ
Lv:9
年齢:18
筋力:D
体力:C
魔力:C
敏捷:S
器用:S
精神:EX
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)
特性:天才、闘気術、魔力操作、闘気と魔力の融合、思考加速、剣技上昇
祝福:無し
職業:剣士
装備:鋼鉄のロングソード×2、革のジャケット、革のズボン、革の靴
経験値:880 次のLvまで20
所持金:0コメル

 そして自らの能力値の上昇を確かめると、そろそろこの迷宮に潜ってから一度も換金していない戦利品の換金と、出来上がっているであろうミスリルのサーベルの受け取りに行く事にして、この階層にマーカーすると、飛翼の首飾りに念じて迷宮を脱出した。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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