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  シーカー 作者:安部飛翔
第一章
3話
「スレイくんって魔法を使えたの!?」
 思わず叫ぶリリアにスレイが諭す。
「とりあえず声量を下げろリリア、周りの注目を集めてるぞ」
 ハッとしたように周囲を見渡すリリア。
 そして通行人達が路上で大声を上げた自分達に視線を向けている事に気付き顔を赤くする。
 とりあえずリリアは黙り込むと、スレイの腕を掴み引っぱるようにして早歩きでその場を離れた。

「腕が痛い、そろそろ離してくれないか?」
 そんなスレイの言葉に従いリリアが腕を離したのは先ほどの場所から大分離れ、人々の注目から外れたと思った頃であった。
 勿論本当の意味で周囲の注目から逃れる事ができた訳ではない。
 リリアのような明るく闊達な美少女と、スレイのように年齢に似合わない落ち着きはらった威圧感を放つ青年の組合せはやはり目立ち、周囲の通行人は時折チラッと目を向けて来ていた。
 しかし先ほどのように周囲の通行人からあからさまに視線を集めているという状況ではなくなった為、落ち着きを取り戻したリリアは再び今度は小声でスレイに尋ねた。
「そ・れ・で、スレイくんは何で魔法を使えるの?」
「魔法なんて魔力と知識があれば程度の差はあれど誰でも使えるようになると思うが」
 スレイは不思議そうに答える。
 リリアは今度は言葉を変えて尋ねる。
「それはそうだけど、スレイくんの言う使えるは戦闘で使えるって意味でしょ?何処でそんなの習ったのよ?」
「戦闘用の魔法を使えるのは故郷で師より習ったからだ」
 スレイは何て事の無いように答えた。
 リリアは呆れたような溜息を吐き更にスレイに尋ねる。
「スレイくんのお師匠様っていうのは、スレイくんのように魔法を使える剣士だったの?それでスレイくんはどのくらいの魔法を使えるの?」
「魔法を使える剣士が師だった訳じゃない、剣士と魔術師の二人の師がいただけだ。それに魔法はほぼ全属性の初級魔法と一部中級魔法までは使える」
 スレイは特に隠す事も無いとばかりに軽く答える。
 リリアは更に溜息を吐き今度は諦めたように静かに問いかける。
「スレイくんの故郷のトレス村っていうのはどういう村なの?この迷宮都市以外じゃ、魔術師と言えば普通それだけで重宝されて、宮廷に仕えたりするものでしょう?ましてこの迷宮都市アルデリアから遠く離れたシチリア王国なら尚更。それでそのお師匠様達はどのくらいの実力だったのかしら?それともっと具体的に使える魔法を教えてくれない?」
 繰り返される質問にスレイは流石にやや辟易としてきたが、それでも律儀に答えた。
「トレス村は普通の田舎の村だ。それと師匠達は昔はシチリア王国の宮廷騎士と宮廷魔術師だった事もあるらしい、引退して故郷の村に帰って来たというだけの話だ。実力と言われれば、老いた今でも二人で50人規模の盗賊団を壊滅させた事があったな、その時は特に大した労でも無かったと言っていた、それと魔法の師は中級魔法までは全てと一部上級魔法も使えたな。だがとりあえず今では俺の方が実戦での実力は上だ。俺が使える魔法は火・水・風・土・治癒・補助の初級魔法と、火・風の中級魔法が使える、風の中級魔法も使えるから、一般的には雷撃魔法と呼ばれる物も使えるな。流石に特殊属性魔法や合成魔法までは使えないが」
 リリアは、もう疲れたような呆れたような溜息をまた吐くしかなかった。
「シチリアの元宮廷騎士に上級魔法を使える元宮廷魔術師……北方の狼達?この迷宮都市でも十分一流として通用するじゃない。それにその二人より実戦では上ですって?本当に貴方何者なの?」
「とりあえず今は只の一介の迷宮探索者だな、というよりなんでそんなに俺のことを知りたがる?」
 率直なスレイの疑問にリリアは顔を赤くして答える。
「純粋な好奇心よ、好奇心。私ってとても好奇心が強いの」
 スレイは納得したように頷いた。
「なるほど、確かにあんたは好奇心は猫をも殺すを地で行きそうなタイプだな」
「スレイくんのばかー!!」
 リリアは思わず思いっきり怒鳴っていたのだった。

 其処は荘厳な雰囲気と雑多な賑わいを見せる矛盾した場所であった。
 白亜の神殿、巨大なその建物の中に今スレイとリリアは居た。
 周囲には数多くの探索者達が居て、大きな賑わいを見せている。
 荘厳な雰囲気には似合わない酒場なども、入ってすぐの入口近くに存在して、探索者には見えない一般人や子供なども居て様々な声が飛び交っていた。
「ここは、職業神の神殿の筈だが、何故クラスアップをする訳でも入信者でも無さそうな探索者達や探索者でも無さそうな一般人や子供達がこんなにいるんだ?」
 スレイの言葉にリリアは真面目くさった顔をして、指を1本立てて、女教師風に教授する。
「いいかしら?ここは確かに職業神の神殿で、クラスアップをする為の場所だけど、それだけじゃなく、学園に通えないような貧乏な子供達や大人になってから探索者になろうと思った人達、それに外から来て特に何も学ぶ事なく探索者になったような人たちに、探索者としての様々な技能を教える職業訓練所みたいな役割も果たしているの、必然ここが数多くの人達で賑わいを見せるのは当然の事だわ。もし貴方も故郷でお師匠様達から何も習う事なく普通の能力値の探索者だったなら、私も最初に始まりの迷宮ではなくこの神殿に来る様案内したでしょうね」
 スレイは納得した様子を見せると、ふと横を見やった。
 リリアもつられて同じ方向を見ると、そこには顔を赤くして酔った様子の男の探索者がこちらに近づいて来ていた。
「これはこれは、リリア殿ではありませんか?何ゆえ今日はこのような場所に?それにそちらの男は何者ですか?貴方ほどの美しい女性の連れとしては冴えない男ですね?そのような男など放っておいて、私達と共に食事などは如何でしょう?」
 スレイは男の言葉を気にした様子も無く、リリアに問いかける。
「この男は、君の知り合いか?」
 リリアは疲れたような顔をすると嫌々ながら肯定した。
「まあ知り合いといえば知り合いね、それ以上の関係は友人であっても御免だけど」
 相当に酷い事を平然と言いながら、リリアは溜息を吐く。
 なにやらせっかく楽しい一時を過ごしていたのを邪魔された気分になったのだ。
「こ、これは中々に面白い冗談を仰られる。リリア殿とてご存じでしょう?我が家系は代々続くクロスメリア王国の公爵位を持つ由緒正しい家系、探索者ギルドのギルドマスターの娘である貴方であっても決して蔑ろにできる存在では無い筈だ」
 リリアは呆れたような顔をする。
「何かと思ったらそんな事。それこそたかが由緒正しい公爵家とやらが探索者ギルドをどうこうできるとでも?」
「しかし貴方とて、貴方の父上がギルドマスターだと言っても、決して何らかの身分を継げる訳ではない筈!ならばわたしの妻になるというのは良い選択肢ではありませんか」
 一瞬どこか悔しげな表情をするが、すぐさま表情を嫌らしいものに変え、男はリリアに対し突然に婚姻を迫るような言葉を吐く。
 リリアはうんざりとした様子でただただ頭痛がするように頭を押さえた。
 リリアの様子に、仕方なくスレイは言葉を挟む。
「悪いが、彼女には先約があるんだ、話がそれだけなら行かせてもらうぞ」
「どこの馬の骨か知らんが黙っててもらおう、これは私とリリア嬢の問題だ。おい、お前達」
 男が顔を真っ赤にして怒ると呼び声を上げる。
 男の呼び声に合わせて酔っ払いの中に紛れていた屈強そうな男達が5人程登場する。
「どうやら、この男は正統なる貴族に対する礼儀を知らないようだ、少し叩き込んでやれ」
「なっ!?」
 リリアが驚愕の声を洩らす。
「何を考えているのよダグ?この神殿で荒事を起こすつもり?そんな事をしてただで済むとでも」
 ダグというらしい男は、自分に酔ったように答える。
「もちろん済ませるさ、父上は公爵なんだ、この程度の問題何て事もない」
「時代錯誤の馬鹿者か。このクロスメリア王国で探索者ギルドや職業神の神殿に介入できる権限がいくら公爵位とはいえあるとでも?だとしたらとんだ勘違いをしているな」
 思わずスレイは呆れたように言った。
 反応したダグは怒り狂った声で命じる。
「うるさい、うるさい!!もういい、こいつの不快な顔は見飽きた、徹底的にやってしまえ!」
 命令を受けた五人の男達が剣を抜く。
「何を考えているのよ貴方達!?神殿内で剣を抜くなんて」
 前へ出ようとするリリアを制し、スレイは自分が前へでると、一瞬姿がぶれたように見えた。
 そして金属音が鳴り響く。
 5人の男が持った剣の剣身が半ばほどで断ち切られ落ちる音が。
「なっ?」
 思わず驚愕の視線をスレイに向けるダグと5人の男達、しかし驚愕しているのはリリアも、先ほどから介入しようかどうか迷っていた探索者達やただ傍観していた一般人達も一緒だった。
 スレイは剣すら持たずにただの手刀で五つの剣の剣身を切り落としていた。
 勿論闘気術による手の硬さの強化と魔力操作によるコーティングでの敵の剣の原子構造の分解の併用あってのことだがそんな事は誰も気付かない。
 あまりのことにダグは恐怖の声を洩らす。
「ひっ、ば、化物?!」
 スレイは静かに問いかける。
「どうする?この馬鹿げた遊びをまだ続ける気か?それならば覚悟を決めてもらうことになるが」
 その時遠くから声が聞こえてきた。
「静まれ!!いったい何事だ!」
 職業神の神殿騎士の白い鎧に身を包んだ、無造作に腰まで伸ばした金髪に碧眼の白皙の麗人が走り寄って来る。
 するとこれ幸いとダグと5人の男達は逃げ出す、それも陳腐な捨て台詞を吐きながら。
「おぼえてろよ!!このことは父さんに報告して、しかるべき罰を与えてやるからな!!」
 スレイも見物人達も全員が溜息を吐く、実現できない戯言をダグが本気で信じてるようだった為だ。
 そんな雰囲気の中に突入してきた神殿騎士は流石に戸惑いを隠せないようだった。
「いったい、なんなんだ?」
 その問いにすぐに答える者は誰もいなかった。

「ふーむ」
ジロジロとスレイを眺め、金髪の神殿騎士は不思議な物を見る表情をする。
「ちょっとジュリア!!失礼でしょっ!」
 そんな神殿騎士、ジュリアにリリアが怒ったように言う。
「いや、すまない。酒場の探索者達や君の証言からもあの場であったことは明らかなのだが、どうにもこのような若い青年がただの手刀で鋼鉄の剣を斬り落とすなどと言う離れ技をやってのけたというのが不思議でならなくてね?」
 ジュリアは悪びれた様子もなくリリアに言い返すと再びスレイの観察を始める。
 スレイはというと特に気にした様子もなく出された茶を飲みながらゆったりと座って泰然と構えている。
 ここは神殿騎士としてのジュリアに与えられた宿舎の個室であった。
 あれから、ジュリアはあの場の状況を見て取ると、とりあえず自らの個室へと旧知であるリリアと初対面のスレイを案内し、その後現場へと戻って酒場の目撃者達から話を聞き取り、そして戻ってくるとリリアからも証言を聞き、その内容からスレイを穴が開くほどに見つめ始めたのだった。
「どうだろうスレイ君、私の探索者カードも全能力値を表示して見せるから、君の探索者カードも全能力値を表示して見せてくれないだろうか?」
 スレイは飲んでいたお茶のカップを置くと、静かに答える。
「別に隠すようなものでもないし、構わないが」
 思わずリリアが困ったような表情をするが、ジュリアはこれ幸いとばかりに自らのカードに念じて全能力値を表示するとスレイに差し出して来た。
 スレイも同じく全能力値を表示しカードを差し出す。
 ジュリアのカードの表示はこのようになっていた。

ジュリア
Lv:81
年齢:22
筋力:SS
体力:SS
魔力:S
敏捷:S
器用:S
精神:S
運勢:S
称号:職業神の神殿騎士、寵愛者、癒し手、不死殺し(アンデッド・キラー)
特性:闘気術、思考加速、戦技上昇、防御力上昇、魔法上昇、回復魔法高上昇、光属性、聖属性、闇耐性、魔耐性
祝福:職業神ダンテス
職業:神騎士
装備:神殿騎士のバスタードソード、神殿騎士のバックラー、神殿騎士の軽装鎧、闇狼の革の服、闇狼の革のズボン、闇狼の革靴
経験値:8080 次のLvまで20
所持金:53425コメル

 リリアが横から口を出してくる。
「これが大体一流と呼ばれるS級相当の探索者の能力値よ、明確に彼女以上の探索者となると、もう名が世界中に知れ渡ってるような超一流の大物のLvが90以上のSS級相当の探索者達やLv99まで到達した称号:勇者達ぐらいしかいないでしょうね」
「そうなのか?」
「ええ、それに選ばれた一部の人達以外は大体Lv80ぐらいで成長限界に到達してしまうから、Lv81でまだ成長の余地のある彼女はかなりのものよ」
 そんな言葉にスレイは納得したように頷く。
 そんな中ジュリアが驚いたような声音でスレイに問いかけた。
「スレイ君、君は闘気術と魔力操作の両方を扱えるのかい?これは驚いたな、それならあの状況も納得できる」
 そんなジュリアの言葉にリリアが疑問を呈す。
「ちょっと待ってジュリア、スレイくんのカードを見て疑問に思ってたんだけど、魔力操作っていうのは何?魔法とは違うものなの?」
 そのリリアの疑問にジュリアは得心したように答える。
「ふむ、まあ知らなくても無理は無いだろう、魔力操作の方に適性がある者は実に少ないからね。更に闘気術と魔力操作をどちらも扱える者となると噂話にすら聞いた事もないよ」
 ジュリアはスレイを珍しそうに見つめる。
「それで魔力操作だけど魔法とは全くの別物だよ。魔力そのものを直接操って外的環境を操作し結果自らや武具の強化を行う物だ。勿論魔法付与とは全く別物だし闘気術による強化とも全然違うものだ。一つ例を出すなら、高速移動を行うのに闘気術が筋力を強化し速度を上げるのに対し、魔力操作は空気抵抗や重力を都合の良いように改変して自らの速度を上げると言った感じかな?」
 そういうと彼女は面白そうにスレイを見つめ笑みをこぼした。
 なにやらスレイは彼女の好奇心も刺激してしまったようであった。
「ところで一つ聞きたいんだが、何故由緒正しい公爵家の息子とやらが、こんな所にいたんだ?」
 スレイの質問に、リリアが言い難そうにしながらも答える。
「あー、彼って、公爵家の息子って言っても、次男で嫡子じゃなくってね。何とか一旗上げようと、取り巻き連れてこの迷宮都市にやってきてる訳なのよ」
 ジュリアが笑いながら続ける。
「つけて加えると、昔、公爵家のパーティに招待されたギルドマスターと一緒にいた娘のリリアを見て一目惚れして、何とか探索者として成功してお近づきになりたいという下心もあったようだね」
 リリアが嫌そうな顔をする。
「その割には探索者としての実力も無さそうだし、リリアに好かれそうな言動もしてなかったようだが」
 スレイの疑問にジュリアが答える。
「まあ、実力も性格も目標に伴っていなければ、ああなってしまうという典型さ。特にこの都市で一旗上げるなんてのは貴族の甘ったれた坊ちゃんには無理な話だろうし、リリアにも相手にされてないし、大人しく父親から相続できる一部の財産で自分に見合った人生を楽しく生きれば良いと思うんだがね」
 ジュリアは辛辣な言葉で話を締めくくった。

「11番の番号札をお持ちの方、3番窓口までお越し下さい。繰り返します11番の番号札をお持ちの方、3番窓口までお越し下さい」
 自らが持つ札の番号が呼ばれたのを聞いたスレイは立ち上がり、3と書かれた窓口まで歩いていく。
 あれから、特に今回の事にスレイに非はないという事で、好きにしていいと言われたので、そのままジュリアと会話を続けるリリアを残し、スレイは1人クラスアップをするために受付へとやってきていた。
 そしてそこらにいた職員に話しを聞き、順番待ちの為の番号札を取ると、そのまま用意されている椅子に座って自分の順番を待っていた。
 クラスアップをする人間は1日にはそれほどいないようで、数人座っている者がいるのみで、この待合所は閑散としていた。
 そして最後にリリアに言われた言葉を思い出す。
「クラスアップって言うのは、探索者になる際とは比較にならない程の肉体改造だから、かなり苦しいけど、頑張ってね」
 特に肉体的苦痛になんの感慨も無いスレイは一度思い出しただけで、すぐにそれを忘れると3番窓口の職員へと11番と書かれた番号札を渡した。
「はい、11番の方ですね、探索者カードを見せてもらっても宜しいでしょうか?」
スレイは探索者カードを差し出す。
「Lv7の無職の方ですか、今回クラスアップできるのは剣士と闘士のどちらかのみになりますがそれで宜しいでしょうか?」
スレイは頷いて答える。
「ああ、かまわない」
「それではどちらにクラスアップなさいますか?」
「剣士で頼む」
 始めから決めていたためスレイは即答した。
 それを聞いた職員はスレイに赤い札を渡すと、窓口の横の通路を手のひらで示した。
「それでは、この赤い札を持ってあの通路の奥へとお進み下さい。そちらに担当の者がおりますので赤い札を渡して頂ければ、あとは担当の者がクラスアップの儀式を行う巫女のいる部屋を案内しますので、その指示に従って下さい」
「ああ、分かった」
 スレイは頷き答えると窓口の横の通路へと向かい奥へと進んで行った。
 暫く進むとそこにはいくつかの扉があり、その手前に1人の男が立っていた。
「クラスアップをご希望の方ですね?」
 男の質問にスレイは頷くと赤い札を渡す。
「剣士へのクラスアップですか、それでは右から2番目の扉に入ってください」
 スレイは男の言葉に従い、右から二番目の扉を開き、中に入る。
 するとそこには巨大な魔法陣と何らかの機械装置があり、そして一人の少女が立っていた。
 白銀の髪と蒼い瞳の儚げな雰囲気を感じさせるスレイと同い年程の少女である。
 少女は何故かスレイを見ると驚いたような表情をするが、すぐに平静を取り戻し話しかけてくる。
「剣士職のクラスアップをご希望の方ですね?わたくし職業神の巫女を務めさせて頂いておりますフィーナと申します。これからクラスアップの儀式を行いたいと思いますので、魔法陣の中央へ立って頂けますでしょうか?」
 スレイはフィーナの言葉に従い、魔法陣の中央に立った。
「今回クラスアップする職業は剣士職のどちらになりますでしょうか?」
「今は無職なので今回のクラスアップは剣士になる」
「わかりました、それではこれより剣士へのクラスアップを行います、肉体に激痛が走るでしょうが、意識をしっかりと持って下さい。探索者の方にこのような事を申しあげるのは失礼かもしれませんが、時々意識を失ってクラスアップの儀式をやり直すことになる事もございますので。それでは参ります」
 フィーナは機械装置の前に立つと、ちょっとした操作を行い、祈る姿勢となった。
 そして魔法陣が光り輝くと、スレイの肉体に激痛が走る。
 肉体そのものを作り変えられていくような感覚。
 骨が軋み肉が捻れ神経が砕かれるような激痛。
 数十秒間程それが続いただろうか、スレイは苦痛の声一つもらす事無く立っていた。
 立ち位置も最初から全く動いていない。
「お疲れ様でした、これでクラスアップの儀式は終わりです。……凄いですね、さすがにクラスアップの儀式で声1つ上げず、全く微動だにしないような探索者の方は、わたしも始めて見ました。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
 驚いたような表情でスレイを見るフィーナにスレイは儀式の影響を感じさせる事もなく淡々と答えた。
「スレイだ」
「スレイさんですね?それでは探索者カードを見てみて下さい。職業欄が剣士となっているとおもいます。剣士になられた方に付くのは剣技に対する補正のみですが、その分剣技に付く補正は高いものとなりますので、最初は始まりの迷宮ででも今までとの感覚の差を確かめてみるのが良いと思います。」
 スレイは早速カードを確かめて見る、そこには確かに職業欄に剣士の表示が追加されていた。

スレイ
Lv:7
年齢:18
筋力:E
体力:D
魔力:D
敏捷:S
器用:A
精神:EX
運勢:G
称号:不死殺し(アンデッド・キラー)
特性:天才、闘気術、魔力操作、剣技上昇
祝福:無し
職業:剣士
装備:革のジャケット、革のズボン、革の靴
経験値:610 次のLvまで90
所持金:0コメル

 そしてフィーナは礼をしながら最後に、瞳に何か希望の色を宿して、真剣な表情で言った。
「もしご縁が有りましたら、外でもお会いできることを祈っています。それではスレイさん、お疲れ様でした」


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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