RKBの放送会館や、福岡タワーなどがある福岡市早良区百道浜沖の博多湾で、今月から海底に土砂を入れる工事が行なわれています。
博多湾の水質を改善しようという取り組みなんですが、そもそも水質が悪化したのは埋め立てなどの開発工事が原因でした。
●漁師・壬生正美さん
「今までは主要な漁場やったけんですね。それがもう、あそこ、ちょっと使われんというか、魚がおらんごとなってしまったけんですね」
博多湾の西部に位置する姪浜漁港。
長年この沖で漁を続ける漁師が、十数年前から魚がいなくなったと話す海域があります。
●今林記者
「福岡タワー沖の博多湾です。海水面からは海の中の様子をうかがい知ることは出来ませんが、実はこのあたりの海底、ある問題が隠されているのです」
この海域で10年にわたって調査を続けている福岡大学の山崎教授は、海底の泥を調べるとここで起きている異変が分かると話します。
●福岡大学・山崎惟義教授
「卵の腐ったような匂いがするでしょう。これは硫化水素の匂いですね。ここは見ていただいたら分かるように、全く形跡がないんですよね。生物の形跡がですね」
周りの海底からは普通に見つかるウニや貝などの生き物は、百道浜沖のこの海底からは全く見つかりません。
酸素濃度が低く生物が生息しにくい「貧酸素」状態になっているのです。
博多湾の酸素濃度を調べた図です。
百道浜沖と愛宕浜沖の2か所に黄色から赤で示される酸素濃度の低い領域があり、ここから貧酸素の領域が広がっているように見えます。
この2か所には何があるのか?
断面図を見てみると、周囲の水深よりも急に深くなる「くぼ地」があることが分かります。
このくぼ地が「貧酸素」の原因となっているのです。
●福岡大学・山崎惟義教授
「窪地があると、その窪地の下のほうに夏になると、冬のどちらかというと冷たい水が残ってしまっているんですね。窪地ですから、横方向に水が動くことが出来ませんので、温度が低くて塩分濃度が高い水がとどまるような形になるわけですね。そうすると上と下との水の交換が非常に悪くなる。そうすると下にたまっていた水の中から酸素が、例えば泥だとか、そういった所に住んでいるバクテリアとかが吸収していくわけですね。それで酸素濃度がどんどん下がるわけですね」
百道浜沖と愛宕浜沖の2か所には、それぞれ広さがヤフー―ドーム5個分ほどの窪地があり、そこから博多湾の中央付近まで貧酸素の水が広がっているのです。
●福岡大学・山崎惟義教授
「この2つの窪地があるために、本来ならもっといいはずなんですけど、かなり悪くなって、それが東の方に広がっているという状況が我々の調査から分かりました」
なぜ、窪地が出来たのか?
それは、福岡市が1982年から行った百道浜や愛宕浜の埋め立てに原因があるのです。
●福岡市港湾局・荒木慎二事業推進課長
「この埋め立てに際して必要となる土砂を確保するために、その一部を確保するために、その前面の海域の海底の土砂を浚渫して、その土を利用して入れたというところで、その後が今、こうした窪地として残っているというところであります。この貧酸素水塊が発生するという状況については、当時は予見はできなかったというところですね」
埋め立てに使う土砂の一部を、すぐ沖の海底から採取していたのです。
窪地の問題が明らかになっておよそ10年。
ようやく今月から2つのうちの1つ、百道浜沖の窪地を埋め戻す作業を国が始めました。
博多湾の航路を広げるために、浅い海底を掘り下げる浚渫作業で出た土砂を運んできて、パイプで海底まで下ろして埋め戻す計画です。
●国土交通省博多港湾・空港整備事務所・稲田雅裕所長
「昨年までは、アイランドシティの造成に使っていました。今年からは、こちらの環境問題が顕在化していることと、アイランドシティの方がずいぶん埋まってきたことから浚渫土砂をこちらに活用するというふうにしています。まさしく一石二鳥というふうに考えてます」
作業は、埋め戻した土砂が周辺に広がらないように、海底まで達するカーテンで囲った上で、今後3年かけてまず百道浜沖の窪地を埋め戻す計画です。
開発の結果、悪化した環境を元に戻すために長い時間と多くの労力が必要となっています。