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[28795] 涼宮ハルヒの迷宮 【Wizardry #1 】
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2011/07/14 22:43
このSSは【Wizardry#1・狂王の試練場】を基に構成した2次創作品です。
基本的には本題の通り涼宮ハルヒシリーズの登場人物で構成する予定ですが、違う作品の登場人物が物語に登場する可能性もあります。
また、物語の都合上#1では起こり得ない現象、登場しない物が出現する可能性もありますので予めご承知おき下さい。
なお、恥ずかしながら誤字脱字が多い為、ついうっかりリルミガン・リガルミン等の誤記もあるかと思いますが、その際は笑い飛ばして頂ければ幸いです。




[28795] #1 【ある晴れた日のこと?】
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2011/07/14 22:53
「―――遅いっ、罰金!!」

「おいおい勘弁してくれよ、まだ5分ま……ぇ?( ゚ Д ゚ )」


いつも通りの週末に、いつも通り集合時間の少し前に到着した俺は、これまたいつも通り理不尽な罰金を科せられていた。
唯一いつも通りじゃなかったのは、いつも通りの集合場所が、いつの間にか多種多様な冒険野郎が集う盛り場に変異していた点である。

ゆえに、俺達の隣りのテーブルではファンタジー物の映画でしかお目に掛かれないドワーフやノームのオッサン達が真っ昼間から酒を酌み交わし、それを1つ先のテーブルに座っていた見目麗しきエルフのお姉さんが酔いどれ共に向け、侮蔑に満ちた一瞥をくれながら足早に席を離れて行ったりもしている。


「ドコ見てんのよエロキョン!」

「べっ、別にドコも見ちゃいねーよ。少し考え事をだな……」

「嘘おっしゃい!エルフのお尻眺めて鼻の下伸ばしてたクセにっ」

「ふぇぇぇっ、キョンくん不潔ですっ」

「ちっ、違いますよ朝比奈さん、誤解です!」


今、俺達はハルヒのトンデモ能力のお陰でウィザードリィの世界にいるらしい。
供給過多にならないのが不思議なくらい量産され続けているファンタジーの中からなぜwizと断定出来るのかと言えば、この盛り場こそが、かの有名なギルガメッシュの酒場だからである。

俺、長門、古泉、朝比奈さんの4人―――つまり、ハルヒ以外のSOS団団員はココが閉鎖空間の亜種であると踏まえた上でハルヒの壮大なお遊びに付き合っている状態なのだが、当の本人はドップリとこの世界の住人に成り切っているので往来の異世界人達を目の当たりにしても至極当然と言った面持ちであった。


(おい長門、古泉、元の世界に帰れる条件は掴めたのか?)

(いえ、ただおそらくはゲームのクリア条件でもあるアミュレットの奪還かと)

(……古泉一樹の意見に同意。この仮想世界でのSOS団による目標達成が涼宮ハルヒの願望であると思われる。)


攻略法が空で言えるドラクエシリーズならともかく、選りにも選ってwizとは迷惑千万な奴だと俺は盛大に嘆息を漏らした。
何しろ俺のwiz歴と言えば中1の頃に国木田から攻略本とセットで借りたSFC版#5をプレイした程度であり、難解な謎解きに挫折したトラウマ付きで返却した忌まわしきゲームなのだ。


(ちなみに僕がプレイした事があるのは#4だけです)

(チッ、この役立たずが)

(まぁまぁ、いざとなれば長門さんのお力をお借りすればよろしいかと)

(貴様に言われるまでも無い。よろしく頼むぞ長門、お前だけが頼りだからな!)


長門のチート能力を使えば丸腰でもAC(アーマークラス)がVL表記になっているのと同等以上の回避率や常時先制攻撃は勿論、成功率百%の罠解除や呪文詠唱、果てはレア・アイテムのコンプリートも夢ではないだろう。

あれ?もしかしすると3年の時を経てロバート=ウッドヘッド氏とアンドリュー=グリーンバーグ氏への復讐を果たす時が来たのかも知れん。


(……無理。涼宮ハルヒの力によってこの空間での私の能力は著しく制限されている。今の私にはオートマッピング機能しかない。データベースの閲覧は条件付で認めらていれるのでゲームシステムは概ね把握出来るものの、情報操作は不可能。)

(げっ、マジかよ?!)

(マジ。プログラムへの介入を試みると強力なアクセス制限が掛かる。それでも強行すれば緊急時にリセットボタンを押すのと同等の効果は得られるかもしれないが、最悪情報連結を解除される可能性も否定出来ない。でも、アナタがやれと言うのであればやってみる……指示を。)

(出せるかァァァ!いいか、絶対にすんなよ?仮にパーティが丸ごと石ん中に入り込んじまったとしても、絶対にするな!!)

(……了解した。)

(これはこれは、涼宮さんの覚悟と意気込みは相当なモノですねぇ)


冗談では無い。
ハルヒのお望み通りにリアルwizプレイなんぞを決行した日にゃ命が幾つあっても足りやしない。ロストしたら2度と元の世界に帰れなくなるってか?馬鹿も休み休み言えってんだ。


(俺には灰と隣り合わせの青春を送る気はコレっぽっちも無いからな!)

(多分、その心配は無用でしょう)

(ほぅ、何を根拠にすればそんな希望的観測が出来る?是非とも聞かせてくれ)

(考えてもみて下さい、仲間想いの涼宮さんが団員のロストを望むとでも?僕なら即答でノーであると断言します。最悪、灰になるのが精々でしょう。灰になったところで涼宮さんが祈ればカドルトでもザオリクでもアレイズでも一緒です)

(ふむ、まぁ一理あるな)

(次に、我々がパーティの上限である6人では無く5人であると言う点です。これはストーリーを大いに盛り上げてくれるNPCの存在や、不幸にして全滅した場合に対しての何らかの救済措置等を講じている為ではないかと思われます)

(うーむ、所謂ご都合主義的展開か。そりゃ是非ともそうであって欲しいモンだわ)

俺はそう呟きながらいつの間にやら手元に置かれていたジョッキを呷ってみたのだが―――苦い。
こないだの法事で親戚のオッサンに無理矢理飲まされたビールの味だ。どうせならコイツが格別の味に思える様に改変してくれれば良いモノを……気の利かん奴め。


(フフッ、心配性な方ですねぇ。きっと主人公兼ゲームマスターとしてご自分のみならず、我々をも楽しませて下さるおつもりなのでしょう。こんな素晴らしいアトラクションを体感出来るんですから、貴方も素直にご相伴に預からなくては損ですよ?)

(ハァ……古泉、お前さんのハルヒ信奉には付いていけねーよ)


ちなみにパーティの構成は下記の通り。これは俺達が自ら認識出来ている訳ではなく、長門が持つチート性能の残滓である。
名前から順に戒律、職業、能力値(力・知恵・信仰心・生命力・素早さ・運の良さ)の順だ。一応、全員レベル1の人間らしい。

 ハルヒ……善・ロード(15/12/12/15/14/15)
 俺……中立・シーフ(8/8/5/8/11/11)
 長門……善・メイジ(8/18/5/8/17/9)
 古泉……善・プリースト(15/11/12/14/10/9)
 朝比奈さん……善・ビショップ(8/8/5/8/8/9)


(バランス悪ッ!っーか俺ボーナスポイント誤ぉ?!)

(んっふ。いやぁ、涼宮さんの思惑がそこはかとなく見え隠れしてますねぇ)

(黙れスーパーキャラ、顔が近いんだよっ……おいおい、どうして朝比奈さんに至っては初期値のままなんだ。バグか?エラーか?個人的な恨みでもあんのか???)

(……朝比奈みくるには一旦信仰心18のプリーストになった上でビショップへと転職させた処理が施されている。)

(なぬ?何でまたそんな無駄なコトを……そうか、17かー)


紛う事無き一般人であると自負して止まない俺ではあるが、流石に1人突出して能力が劣るとなると神・宇宙人・未来人・超能力者が相手でもかなり凹む。クソっ、谷口の野郎ならどうなるのかメチャクチャ気になってくるぜ。


(鑑定係と薬箱を拙速に求めた妥協の産物。癒しの能が無い朝比奈みくるなど朝比奈みくるでは無いと判断した為だと思われる。)

(ったく、頼むからご本人には禁則事項ってヤツにしといてくれよ?……しかしよく考えてみるとハルヒにしちゃ随分と控えめなパラだな、アイツの性格ならオール18一択だと思ってたぜ。まぁ戒律が悪じゃなくて善ってトコに言い知れぬ違和感が満ち溢れちゃあいるがね)

(いえいえ、涼宮さんは自分に友好的な相手を問答無用で斬り捨てたりする方ではありませんよ。しかし妙ですね、僕の記憶では確か#1では転職を経ずにいきなりロードになるのは不可能であったかと)

(それを可能にしちまうのが我らが団長様じゃねーか)


何を今さら、と俺は鼻で笑ったのだが古泉はハルヒの性格上、起こりうる奇跡の連発は容易に認めても実現不可能な事柄を奇跡で片付けたりはしない、と主張するのだ。だが、んなこたぁ正直どうでも良い。そもそもこの空間全てがインチキの塊だろうが?


(……涼宮ハルヒの目指すのはあの腕章が示す通り『超勇者』。よって、この世界において唯一無二の存在でありたいと願った。 しかし英雄になりたいと願う一方でGMとしてゲームバランスの崩壊を招く行為も善しとなかった。その結果、古泉一樹の言う設定上で可能な奇跡を起こした。)


長門の説明ではこの閉鎖空間はリルガミンサーガと言うwizⅠ~Ⅲが1つになったゲームソフトがベースになっている。
本来であればⅠから数百年後の世界が舞台になっているⅢにⅠの子孫として転生出来るゲーム性を無視して、ハルヒはWizⅢからⅠへこのソフトでは可能な逆転生(?)を決行したらしい。実にハルヒらしい強引で合法な裏技だ。


(なぁ長門よ、俺のステータスにも何か意味があんのか?高度な技術を求められる盗賊なんぞよりも、剣を振り回すしか能の無い戦士の方が俺にはよっぽどお似合いだと思うんだが)

(……各パラメーターには涼宮ハルヒが擁いている各団員の役割が強く投影されている。例えば古泉一樹は自分を補佐する剣と魔法も使える万能型で、寸前まで侍にするかプリーストにするかで迷った模様。)

(なんと―――光栄の極みです)

(ケッ、白々しいんだよ!で、長門は知恵18を誇るパーティの頭脳って訳か。本当ならクリティカルヒット出しまくりの忍者でも可笑しくはないんだが、ハルヒのイメージじゃあソレは無いわな)

(……説明を続ける。涼宮ハルヒの中でのファイターは戦闘のプロ。駆け出しのうちはともかく、先に進むにつれパーティの主戦力として仲間達の盾となり、次々と敵を切り伏せて行く姿はアナタに対して擁いているイメージとは掛け離れた存在だった。アナタに期待している役割は、やはりSOS団のそれと同じ。)

(ぐぬぬ……おのれハルヒッ)

(確かに想像し辛いかもしれませんね。いや、僕では無く涼宮さんが、ですよ?)

(……ポイントについては偶々最低値が5であった為でシーフ作成に必要なポイント以外を身体能力とは直接関係の無い運に割り振っただけ。彼女はアナタを極々平凡な能力の持ち主だと認識している。)

「そぉだと思ったよコンチクショー!!」

「ぴぃぃぃぃ~~~っ、キョンくん怖いですぅ」

「どっ、どうしたのよアンタ?みくるちゃんが怯えちゃったじゃないの!酔っ払ってんじゃないわよ馬鹿キョン!!」

(おやおや、このゲームのシステム上、直接戦力にはならなくてもシーフの存在は必須。強力なアイテムの入手と宝箱に仕掛けられた危険な罠の解除はパーティの命運を握る重要な鍵です。涼宮さんがその成否を託すのに彼より相応しい人物が他に居る筈ないでしょうに……ねぇ、長門さん?)

(……それはあくまで古泉一樹個人の見解であって私には断定出来ない。よって、その問いに対する回答は拒否する。)





[28795] #2 【リルガミンで不思議探索?】
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2011/07/17 01:22
結局罰金と称して財布の中身を根こそぎハルヒに奪われた俺とその他のSOS団の面々は6人目の仲間を加えたり、それっぽいフラグを立てる事も無いままギルガメッシュの酒場を後にし、今度は世界一アコギと悪名高き武具屋・ボルタック商店に訪れていた。

入店するなりハルヒは店の奥へと一直線に突き進んで行く。


「儲かりまっかー?」

「ボチボチでん……やぁ、ハルヒさんじゃないですか。いらっしゃい」

(おい古泉、今ならまだ正直に話せば協力は惜しまんぞ?一発殴らせてくれればな)

(残念ながらその可能性はありません……いや、しかし驚きました)


俺達の面前に立つボルタック商店の主は口伝のドワーフでは無く古泉が所属する機関の一員、多丸圭一氏だった。

一応、役作りの一環なのかご丁寧にも別荘でお会いした時には無かったドワーフばりに立派なヒゲを蓄えていらっしゃる。全くもってご苦労なこった。


「今日はあたしの仲間を連れて来たの。4人分、見繕ってくんないかしら?」

「それが私どもの生業ですからね、喜んで。ただ、本日はくれぐれもお手柔らかに」

「もぉ、先行投資よ先行投資っ。コレでお願いっ、絶対に損なんかさせないわ!」


ハルヒは笑顔で希望予算額を片手の指先で示した。既に一週間分の宿代を先払いしている都合上、装備に全財産をつぎ込んでしまうと迷宮で誰かが寺院送りにされてしまった時の備えが全く無くなってしまう。

出来れば考えたく無い事態なのだが俺達は欠員が出たから、と酒場や訓練場に赴き別の誰かを新たな仲間として迎える訳にはいかないのだ。だからと言って予算をケチって万全の状態で臨まなかった場合、後悔と言う名のツケは余りにも大きい。

ゲームなら前衛に有り金全部つぎ込んで僧侶を馬小屋に連泊させれば済む話なのだが……こんな所で発揮される中途半端なリアリティさが実に恨めしい。一泊すれば全快する宿屋とは、当たり前の様でいて本来ならば究極の施設として崇められるべき存在―――そう、お袋そのものなのだ。


「なぁハルヒ」

「何よ、アンタのおねだりを聞いてるゆとりは無いわよ?当面はソレで我慢しなさい」

「いや、軍資金を俺達に回して貰えるは非常に有難いんだが、お前さんはその装備のまんまで大丈夫なのか?」

メンバー構成と性格的に考えてハルヒを中心に据えた前衛が形成されるのは疑い様もあるまい。両翼を担う俺と古泉のACを心配してくれるのは嬉しいが、こちらにもプライドってモンがある。せめて盾ぐらい買ったらどうなんだ?

「嫌ねぇ、見る目の無いオトコって。あたしの益荒男の鎧(イメージが湧かない人は超勇者でググってみないさい!)の素晴らしさが全ッ然理解出来ないんだから」

「謝れ。世界中の益荒男と呼ばれるに相応しき漢達に全力で謝れ。そもそもお前は(世界一強欲な)ボルタック相手に一体幾ら負けさせたんだ?」

「人聞きが悪いわねぇ、この鎧買うから1つオマケして貰っただけ―――ちょっと有希!アンタそのローブ、メチャクチャ似合うじゃないのっ」


着替え終わった長門を見止めるなり、ハルヒは勝手に話を打ち切り俺を置き去りにしやがった。

それにしても北高の制服の上にザ・魔法使いと言わんばかりの黒マントを纏っただけの長門の姿は、なぜかコイツにはこれ以上似合う装備は存在しないんじゃないかと思わせる。


「ご心配には及びませんよ、あの鎧は当店に置いてある商品の中でも上から数えた方が早い逸品です。何しろ私めから(勲章付の貴族様への)お近付きの印に献上するつもりだったんですから」

「うおっ?!―――そ、そうだったですか多っ……ボルタックさん」

背後からの突然の呟きに俺は心臓が止まるかと思うほど驚いた。やれやれ、我ながらこの調子じゃこの後に控えているであろうダンジョン探索が思いやられるぜ。

「なのにハルヒさんと来たら鎧の代金は支払うからあの髪飾りを貰って行く、と有無も言わせず店を後になさったんですよ。えぇ」

「髪飾りって、あのカチューシャを?」

「はい。ちょうど私の昔の仲間が鑑定の依頼に来た、と店の者が運んで参りまして」


現実世界でも四六時中身に着けているだけあって相当気に入っちゃあいるんだろうが、まさか1,500Gもする鎧を贈ろうとした相手のご厚意と面子を平然と踏み躙るとはな。嗚呼、申し訳無さのあまり俺の胃が悲鳴を上げそうで怖い。


「まぁ稀に呪いが罹ってたり、期待していた効果の得られない贋作だったりする可能性はありますが、十中八九マラーの冠でしょうなぁ」

「えぇ゛未鑑定品なんですか?」

「もちろん1万Gを超える高額商品をお譲りするともなれば当ぉ~~然、鑑定書もお付けしますとも。何しろ本物は鑑定料だけで12,500Gもするお品ですからねぇ、もう時効だと諦めましたが。ハハハ」


そうおっしゃている割には目が笑ってないですよ、多丸さん……金額からして相当なレアアイテムを掻っ攫われては誰だって心中穏やかじゃない筈だ。どうやら俺達と違ってこの多丸さんは本当に姿形を借りただけのNPCらしい。


「スイマセン、ウチの奴がご迷惑お掛け致しま―――」

「ふぇぇぇっ、なんなんですかコレ~~~」

「早く出てらっしゃい、みくるちゃん!さもなきゃコッチから乗り込むわよ?!」


多丸さんとのやり取りの最中、今度は試着室の方から朝比奈さんの愛くるしいお声が聞こえて来た。そして、その前には仁王立ちのハルヒ。これはもう何か小細工があると見て間違いなかろう。

「まっ、大切な宝は肌身は離さず持っておかねば盗人に掠め盗られたりどこかに飛んで行ってしまうと言う教訓ですな。君も良ぉ~~く覚えておきたまえ」

「はぁ……???」

多丸さんは意味ありげな台詞と共にポンポンと俺の肩を叩き、ハルヒの許へ向かって行った。どういう意味なのかはサッパリ解らんが、とりあえず俺もその後を追う。


「あーっ、やっぱりキョンくんのとぜんぜん違いますぅ~」

「ぬわッ?!」

「うん、このアンバランスさが堪らないわっ。流石はボルタックさんね!」

「ハッハッハッ、お気に召して頂けましたかな?」


俺のいかにも安っぽい革製の鎧とは異なり、エナメル塗装が施された朝比奈さんの露出度の高い黒のレザーアーマー(?)は女王様とお呼びするほか無い気品に満ち溢れていた。しかもその艶姿を隠そうとして使っているスモールシールドは中央部が透けて見えるマジックミラー仕様となっており、ご本人のお気持ちとは裏腹に全く隠せていないのである。

ハルヒ&多丸さん、GJだ!!


「こんな格好じゃお外に出られませんっ、いつものメイドさんのがいいですぅ」

「ダメよっ、みくるちゃんはキョンが倒れた時には前衛に立たなきゃいけないんだから、ちゃーんと防御面を考えた装備をしといて貰わなきゃ困るわ!」

「確かに間違っちゃおらんが、ナゼ俺が倒れるのが前提なのだ?」

「ACが低い、HPが低い、ヒーロー性が低―――ハァ、数え上げたらキリが無いわね」

「オィィ、3番目のは関係ねーだろぉ!」

「お待たせしました」


誠に遺憾ながら鎖かたびら姿で颯爽と現れる古泉を目の当たりにして、俺はハルヒの説くヒーロー性を歯噛みする思いをしながら悟った。坊主のクセにパラディンと見紛わんばかりの凛々しさだ。畜生、イケメンは何を着ても絵になりやがる。


「わぁ~~~古泉くんお城の騎士様みたいでカッコイイですねぇ」

「よぉし、合ぉ~格っ!」

(クッ、俺にもアレが装備出来たら……絶っ対に似合わんよなー…長門?別に同意を求めてる訳じゃないから首をコクコクさせんでも宜しい)


一通りの装備を整えたSOS団ご一行は出来れば一生お世話になりたくないカント寺院前を素通りし、町外れにある地下迷宮へと行進した。


 ハルヒ(AC.2)……剣/プレートメイル+1/?兜
 古泉(AC.4)……フレイル/鎖かたびら/ラージシールド    
 キョン(AC.6)……短剣/レザーアーマー/スモールシールド
 みくる(AC.6)……メイス/レザーアーマー/スモールシールド
 長門(AC.9)……杖/ローブ

 



[28795] #3 【冒険でしょでしょ?】
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2011/07/14 22:50
ただ黙々と目的地まで歩くのも暇なので、城塞都市リルガミンから魔術士ワードナが住まう地下迷宮までの道のりについて触れてみよう。

しつこい様だが我々SOS団の目的地は狂王トレボー自慢の親衛隊を壊滅に追い込んだ恐るべき魔宮である。従って、俺の中では城を離れるにつれ殺風景でいかにも禍々しい雰囲気になって行く情景が構成されていた。
だが、実際には石畳の敷き詰められた平原のなだらかな一本道が終点まで続き、道中では時折巡回している兵士達とも擦れ違った。オマケに帰還が夜になっても舗装の一部に等間隔でミルワの効果が込められた安心安全の親切設計ときている。

おかしな話だが悪の巣窟に向かっている筈なのに、その道程の治安は満更悪くも無さそうなのだ。ワードナとそのしもべさえ居なければ、郊外にある遺跡としてチョットした観光名所の類いになっていたかもしれない。
距離的にもACがマイナスになるくらい重装備の戦士でも片道15分程度で辿り着きそうな長さで、それこそ城と迷宮の中間地点にある冒険者にも開放された王立訓練場まで行くのであれば、自宅から市民体育館に通うのにも似た感覚である。


「では、迷宮はさしずめ学校か会社と言った所でしょうか?」
「ええぃ鬱陶しい、人様のモノローグに口を挟むなっ」

「ウム、未所持の善パーティでチーム名はエスオー・エスダンか……通って良し。お前達この迷宮は初めてか?」
「そうよ、光栄に思いなさいよね隊長さん。アンタは今、超歴史的瞬間に立ち会えたんだからっ!」

「そう思えるかどうかは諸君らの活躍次第だな。1つアドバイスしておくが迷宮の中じゃそそっかしい奴は真っ先に死ぬ。特にソコの遠足気分の坊や、忘れるなよ?」

「ぅ……ご助言どーもです、隊長殿」


ケラケラ笑っていやがるハルヒを無視して、俺は岡部に良く似たベテラン戦士のフラグ立てに辟易しながら形だけの敬礼をした。
てっきり迷宮はオールカマーでフリーパスな状態なんだと思っていたが、実際には入り口の少し手前での憲兵隊による身分照会が待っていたのだ。

幸い審査の方は我らがリーダーの発作的な問題行動が起きる前に終わったので、俺達は遂に狂王の試練場に足を踏み入れたのである。


「さぁみんな、待ちに待ったSOS団の記念すべき初探索よ!とりあえず前衛はあたし、古泉君、キョンで行くわ。まさかとは思うけど、異論はないでしょうね?」

「お任せ下さい」 「ある訳なかろう」


待っていたのはお前だけだろうが。んで、待ち切れなくなってとうとう今回の暴挙に及んだ、と。勘弁して欲しいがそれでも俺だって男の子だ、断じて朝比奈さんを危険に晒す訳にはイカン。

だが指揮官が俺達と同じド素人のハルヒなのはどうしたって不安である。もはや古泉の言う6人目の仲間、チュートリアル感全開のベテラン冒険者が迷宮内で待っているのを期待するしかあるまい。


「よろしい。戦闘中は各自の判断で動くにはまだ心許ないから、しばらくはあたしの命令に従って貰うわうよ?特に有希とみくるちゃんの呪文はあくまで切り札だから、指示があるまでは絶対に使わないで頂戴」

「はいっ!」 「……拝命した。」


(おい長門、敵がグループが複数で出て来やがった時には数の多い集団にカティノを唱えてくれ。ハルヒの指示が無くてもだ。緊急時以外、ハリトは禁止だぞ?)

(……了解。今回、私はバックアップに過ぎない。全てアナタに委ねる。)


「それと、みくるちゃんは後衛だけどキョンがドジった時には必然的に出番が来るから、心構えだけはしておいてね!」
「ぇ……あの、死なないで下さいねキョンくん」


くはぁ!!……莫迦だな、愛するお前を残して死ねるワケないじゃないか?みくる……な~んて言えたら男冥利に尽きるのだが。
言うまでも無いが、そんなクソ度胸が俺にある訳が無い!悪いか?!


「ご安心下さい!朝比奈さんを残して僕ぁ死にませんよ」
「ふーん、死なないんだったら前衛はあたしとアンタの2トップで行こうかしら?」

「フッ、下策だな。火力の無い古泉を後ろに下げて何になるってんだ?」
「うっさいわね、リーダーはあたしなのよ。戦術はあたしが決めるの!」

「涼宮さんのお言葉はご尤もですが、僕にも活躍の場を与えては頂けないでしょうか?」

「しょうがないねぇ……他ならぬ古泉君のお願いだもの、聞き届けたげるわっ♪」
「ありがとうございます」


ハルヒとのくだらんやり取りを終えB1Fに降り立ったのだが、ダンジョン内は非常に暗い。プレイヤー視点であれば当たり前の一言で一蹴されそうだが、実際に潜る立場ともなれば話は別だ。

#5であれば松明やランタンが比較的手頃な値段で購入出来るのだが、#1にはロミルワの巻物(2,500G)しかない。買える訳無いだろうが?ふざけやがって。

回廊の所々に設置された豆球程度の明るさしか無い照明のお陰で、どうにか歩けるのがせめてもの救いだが、こんな中で隠し扉だの闇に潜んだ魔物なんぞを察知するなんて芸当は俺みたいな一般人には到底不可能である。


「あの、怖いし危ないからミルワしちゃダメですかぁ?」

「んもぅ、野暮なコト言わないでよみくるちゃん!このスリルが堪んないんじゃないの。この風、この匂い、まさに戦場ってカンジじゃない!?」

「それも一興ですね。さぁリーダー、通路は北と東の二手に分かれております。どちらに進みましょうか?」

「ったく、ドコの巨星だお前は?」


古泉が仰々しく指示を仰ぎながら団長様の自尊心をくすぐる。

ハルヒの瞳が爛々と輝いて行くのを傍から見ていると、俺はどうしてもマリオカートのスタートの合図を思い出してしまう。
無論、俺はいつもロケットスタートをする奴を後ろから追う展開になるのだが。


「そうね―――東よ。全軍、東方に突撃ぃ♪」
「東……畏まりました。皆さん、気を引き締めて参りましょう!」


ハルヒの号令の下、若干5名の新兵集団は真っ直ぐ一直線に東の回廊を突き進んだ。そして、辿り着いたのだ。


「行き止まり、だな」

「何よ、団員その1風情が何か不満でもある訳?言っとくけどSOS団の目標の1つはこの迷宮の完全踏破なのよ、扉がある度にホイホイ開けてたらマッピングが中途半端になるじゃない。この道の行き着く先がどうなっていたのか無事解明出来たのは慶福であると知りなさい!」

「流石は涼宮さんです。日銭稼ぎの俄か冒険者やワードナ討伐を妄執する王の下僕とは一線を画するその純然たる探求心、深く感銘致しました」


どうやら俺の一言は超凶悪な地雷を壮絶に踏み抜いたらしい。
邪悪なる魔術士の領域を歩くのに必携の完全ガイドブックの作成とは、伊能忠敬先生やゼンリンの人も真っ青なお仕事だな……しかし古泉よ、お前はどこまで忠実なイエスマンを演じ続ければ気が済むのだ?


「……マッピングが完了した。隠し扉の存在も認められない。」
「ご苦労様です長門さん。それでは涼宮さん、次のご裁可をお願いします」

「じゃ、さっき通り過ぎた扉の先に進むわ。でも有希が言うには扉の先にはルームガードって敵が潜んでる可能性が高いらしいから要注意ね。みんな、覚悟は良い?」

「それ、危なくないんですかぁ?」 「よっと!」

「聞けぇぇ!っーかコッチの心の準備を待つ気が無いんなら最初っから聞くなーッ」

不安げな朝比奈さんのお声を無視してハルヒは部室に入る時と同じ勢いで扉を開け放ちやがった。せっかくの長門の助言が台無しだろーが?

「敵……識別不明、鎖かたびらを着た男。」
「ちょっとアンタ達、一応聞いとくけどあたし達SOS団とやり合うつもりが無いんだったら見逃したげるわ。どーすんの?」

スライムだのオークだのと言ったRPGを代表する雑魚モンスターでは無く、ゲームであろうと初遭遇の敵が人間だった事に俺は忌諱の念を禁じえなかった。

が、ハルヒは開口一番威風堂々宣戦布告。これほど大胆不敵なレベル1パーティが他にも存在するのだろうか?


(……詠唱準備完了。カティノ・ハリト共にいつでも発動出来る。一応モグレフも使用可能だが推奨はしない。)

(おっ、デュマピックは覚えてなかったのか?)

(私のオートマッピング機能があれば優先順位は低いと判断した。)

(そうかい、やっぱりおまえさんは頼りになるな)


一拍の間を置いて、玄室には男達の下卑た笑い声が木霊した。
状況からして和平会談は不調に終わったと判断すべきだが、長門のカティノが決まれば勝機はあるだろう。

どうするんだハルヒ!?



[28795] #4 【めがっさ初勝利】
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2011/07/17 01:52
「どうするんだハルヒ!?―――」

「いーぜいーぜオ嬢ちゃん。俺達ハイウェイマンは、儲けにならねェ仕事はしねェ主義なんだ。今日んトコは大人しく引いとくゼ」

「あんがと。あたしも敵意の無いヤツと争ったりはしたくないの。さぁみんな、この部屋の探索を開始するわよっ」


挑発と嘲笑の応酬に回避不能の一触即発状態かと思われたのだが、幸か不幸か戦闘には至らずに済んだ。

相手方の言葉を額面通り受け取るのなら、俺達が一文無しだってのに気付いていたのだろうか?だが仮にそうだったとしても、追い剥ぎでもしてハルヒの装備を売り払えば1万G以上の大金になる筈なのだが、はてさてこいつはどういったカラクリなのかね?


「……なぁハルヒ、お前はあの連中のどこいら辺に友好的な感情を見出したんだ?」

「甘いわねキョン、荒くれ者イコール悪とは限らないのよ?特にお金次第の傭兵連中は大抵が中立だってボルタックさんも言ってたんだから―――ねぇー、何か見つかったー?」


やれやれ、随分ご大層に講釈を垂れてくれたが結局は先達からの受け売りの知識を実践してみただけじゃないか。まぁそのお陰で穏便に事が運んだのだから、ここは素直に多丸氏に感謝しておこう。


「……敵・アイテム・罠その他一切無し。これで東側通路の探索は全て完了した。」

「あら、何だか拍子抜けね。手ぶらで帰るのも癪だし、こんなコトならアイツらと戦っとけば良かったかしら?」


言っておく、お前のその思考回路は絶対に善なんかじゃない。せいぜい善らしく振舞おうとしているだけの中立が関の山だ。


(ちなみに長門、もしあの連中と戦っていたとしたら勝率はどのくらいあったんだ?)

(彼らが本当にハイウェイマンだった場合、ターン毎にカティノが半数程度効果が認められた場合で48%。ただし、コチラに死傷者が数名出る確率が92%。)

(それ、勝ったうちに入んのかよっ?! ほぼ積みじゃねーか)

(……ゲームの定義上、戦闘終了後に1名でも生き残っていれば我々の勝利。)


結局、初探索の緊張感もあった中でせっかく見えて来た出口を素通りするのも忍びない、との結論に達した俺達は何の収穫も無いまま初探索を終えようとしていた。

もっとも、今の長門の話を聞いた後じゃ損害が無かっただけでも大収穫だがな。


「えっ―――」

「……敵の出現を目視で確認。コボルト(4)。」


地上への階段前まで到着したちょうどその時、曲がり角から現れたモンスターの一団と鉢合わせになったのだ。クソッタレ、流石は宇宙一のGM様だな。こんなお約束なんぞご用意しやがってからに!

「ハンっ、敵意剥き出しってカンジね?いいわ、初めての獲物はコイツらよ!前衛は一人一殺、後衛も最大火力で援護しなさいっ。てりゃぁぁぁ!」

言うが早いかハルヒが先頭の1体を斬り伏せる。バーロー、ロードのお前と同じ働きが俺に出来るワケねーだろうがっ!


「……カティノ。」

「ふんもっふっ!」

「でかした長―――痛ぇッ!」


長門のカティノが残る3体のうち2体を眠らせると、そのうちの1体を古泉がソツ無く仕留める。俺は目の前に居るカティノが効かなかった奴に狙いを定めて短剣で斬り付けたのだが、致命傷には至らず反撃を喰らっちまった。

「大丈夫ですかキョンくんっ?ええぃ、ハリトぉ!」

狂犬に咬まれた右腕からは鮮血が滴り落ち、俺は激痛のあまり床の上をのたうち回った。


「コラーっ、襲い掛かって来たクセに逃げるなぁー!」

「キョンくん、傷口が開いちゃいますからじっとしてて下さいっ!!」

「すいません朝比奈さん、助かります……」


朝比奈さんのハリトで憎っくきワン公は火ダルマと化し、最後の1体は目覚めるなり脱兎の如く逃げ出しどうにか戦闘が終了した。そして、敬愛する女王様が俺を優しく包み込むようにディオスを唱えて下った。

肌触りが、温もりが、匂いが正直堪りません……朝比奈さんマジ天使!


「ざっとこんなモンね。でもね有希、あたしは最大火力で援護って言ったハズよ?どうしてカティノを使ったりしたの?! ハリトで焼き払えばキョンは怪我しないで済んだかもしれないじゃない!」

「ひっ」

「止めろハルヒっ、長門の判断は間違っちゃいない!」

「アンタは黙ってなさい、コレはもうアンタの負傷がどーのって問題じゃ無いの。団長として、団員の独断専行を認めるワケには行かないわ!!」


自分の命令無視が気に入らなかったのか、ハルヒは今更どうにもならない結果論を長門に投げ掛けた。一体どうしたってんだ?カティノが効かなけりゃ他の誰かが襲われた可能性もあるし、俺がトドメを刺されてた可能性だって、ハリト1発じゃ仕留められない可能性だってある。それに気付かんお前じゃないだろうに。

ゲーム世界の中だけに、人間相手と言うよりAIか何かに指示を出してる感覚が強いのだろうか?


「……それについては謝罪しなければならない。報告を怠っていたが、実は私はまだハリトを習得していない。未熟。」

「えっ……そ、そうだったの?」


思いもよらぬ告白に愕然とするハルヒに対し、長門はいつも通り頷きを以って肯定を意を示した。コイツが後になってからなーんて嘘ピョン、本当は使えるの☆などとは言う筈も無いので、しばらくの間はハリトが本当に禁じ手になっちまった。


「ご、ごめんさない有希っ!本当にゴメン!! あたしのミス、完璧にあたしが悪いわ。団長がメンバーの能力をキチンと把握しておかないなんて、とんだ失態よ……的確な指示が出せていれば、キョンは怪我しなくても済んだかもしれないのに……どうしよう?緒戦でこんな醜態を晒すなんて、リーダー失格よぉ…」


先程までヒートアップしすぎて真っ赤になっていたハルヒの顔色がみるみる蒼褪めて行く。

マズいぞ、普段なら古泉にバイトの連絡が入ってもおかしくない程の狼狽っぷりだ。だが情緒不安定なハルヒに焦りを覚えるのと同時に、コイツはコイツなりに団員達の命を預かる重責を背負っている自覚があったのだと俺は少しばかり感動もしていた。


「……いい。私達の冒険はまだ始まったばかり。貴女にはこれからもっと沢山の困難な選択が待ち受けている。SOS団のリーダーは貴女しかいない、挫けないで。」

『えっ?』


そう語り掛けながら、長門はハルヒの肩にそっと手を置いた。失礼だがまさか長門にこんなフォローの仕方が出来ようとは!

嘘も方便とは言うが、これ程完璧な使い方をされては真実の方が霞んで見える。流石の古泉もこの長門の言動には呆気に取られ、朝比奈さんの瞳は早くも涙で潤んでいた。


「ま……まさしく長門さんのおっしゃる通りです、我々には貴女の存在が必要なんです!」

「ぇと、ぇと、わたしも出来るかぎり一生懸命お手伝いしますからっ」

「みんな……ありがとう。あたし、頑張るから……その、ヨロシクね!」


やれやれ、いきなりオロオロしだしたかと思えば立ち所に笑顔が戻りやがった。雨降って地固まると言うか、今泣いた烏がもう笑うと言うべきか……とにかく、これにて一件落着だ。

だが、何故か3人の鋭い視線が一斉にこちらを射抜く。

なんなんだお前ら、朝比奈さんまで……オイオイ、わかった、頼むから俺をそんな目で見ないでくれっ!!


「ぁーなんだなハルヒ、城に帰ったら今夜は―――」

「やーやーハルにゃん、初陣はめがっさ大勝利だったにょろ!!」


ハルヒの機嫌が元の木阿弥にならんよう俺が細心の注意を払いながら喋り始めた所で、コボルトの逃げ去った方角から聞き覚えのあるお声が響いた。

そう、この声はまさしく鶴屋さ……ん?


「いやぁ~実に青春してるねぇ、羨ましくてお姉さんもついつい仲間に入れて欲しくなっちゃうさ」
「ヤダ、見てたの?コボルトを成敗したくらいで褒められちゃうと照れ臭いわョ」

「それにしてもその格好、人形にして売り出したら一財産築けそうなくらいハルにゃんに似合ってるねぃ」
「でしょでしょ?こないだ貰ったご褒美で買っちゃったの。一目で気に入っちゃって♪」

「ふぇぇぇっ、鶴屋さんが縮んじゃいましたぁ~~~」

「その、しばらくお見かけしないうちに随分コンパクトなお姿になりましたね……」


判っている、これは鶴屋さんご本人ではなくてNPCなのは判っている。

だが、ツッコまずにはおれんのだ。声色も緑色のロングヘアーもそのまんまだが、単に幼児化したとかではなくて鶴屋さんをモチーフにした全く異なる生命体が、今、俺達の目の前に居るッ!!


「にょろーん、初対面の人間からいきなり縮んだ生き物扱いされたにょろ。ちゅるやはホビットでツルヤサンなんて種族じゃないにょろぉ~」

「無礼者ッ、恐れ多くも国王陛下の第二王女様に対して何たる物言いです!城内であれば知らなかったでは済まされない不敬罪ですよ?!」

「す、スイマセン……(トレボー王ってホビットだったのか?それとも……マジか?!)」

「ごめんなさいですぅ」


俺と朝比奈さんは後から現れた素晴らしくポニーテールの似合う男装の麗人に厳しく叱責されてしまった。

アホの谷口であればB+だ、などとほざくかも知れんが俺には判る。このお人はポニーテルの何たるかを熟知しておられるのだ。後ろでえっへんと胸を反らしているナンチャラ様なるホビット(?)はこの際どーでも良い。


「その辺にしておきなさいキョ■コ君。入り口とは言え此処は治外法権の迷宮内、我々も一介の冒険者に過ぎません」

「新川さんっ!?」

「うん?何処かでお会いしましたかな?」


俺達の前にまたしても機関のメンバーが登場した。今度はロマンスグレーのダンディ、新川さんである。今回も完璧な執事姿が決まってるぜ。

そうか、良く聞き取れなかったがこのポニテ美人はキョーコさんとおっしゃるのか。


「あたし達はもう今日は上がりなんだけど、ちゅるや姫も探索してるの?」
「剣の修練っさ。この最強の(短)剣の錆にしてやったにょろ!」

「へー、今度ヒマだったら一緒に潜りましょうよ!」
「スモークチーズはあるかい?スモチが食べられるんだったら喜んでお供するにょろ☆」

「あーアレそんなに気に入っちゃったんだ?だったらこの後一緒に一杯どぉ?また酒場に行けば―――」

「姫様!もうあの下賎な輩が集う店には行かないとお約束して頂いた筈ですッ、涼宮準男爵も軽率な発言はお慎み下さいませ。貴公も貴族の端くれならば、相応の振る舞いが有りましょうに!!」

「うっるさいわねぇ、あたしはイチ冒険者として知り合いとお喋りしてるの。ボディガードはスッ込んでなさい!」


フランク過ぎるお姫様と遠慮ってモンを知らないハルヒの組み合わせじゃあ御目付役の立場からすれば気が気じゃないのは分かる。だがインチキ貴族に礼節を求められても困るし、流石に身内が悪し様に罵られるのを見るのは気分が悪いな。

そもそもハルヒが権力に謙るとは思えんが、そんな姿を見るのは真っ平御免だ。


「おおぅ、ケンカはダメにょろ~~~新川、キョ■子、今日はもうお城に帰るにょろ。御機嫌ようハルにゃん…」

「―――畏まりました、さぁ参りましょう。涼宮様も皆様も御機嫌よう」

「失礼仕る!」


荒川さんは俺達に向かって恭しく一礼すると、姫様を伴って階段を登り始めた。お供のキョーコさんはまだ不満そうだったが、新川さんに射竦められて渋々後に従う。

俺達も今から同じ方角に帰る所なのだが、流石にそれは憚られる空気だ。


「おっと、忘れておりました。貴公らの獲物、お返し致しますっ」

『な゛ッ!?』

「ぴぃぃぃぃ~~~っ!!」


振り向き様にキョーコさん……いや、狂王の従者が放り投げて寄越したのは、切り落とされたコボルトの生首だった。



[28795] #5 【コインでdeも賭けませんか? 】
Name: 兼久◆6d77000d ID:6af9bb31
Date: 2011/07/20 01:04
「んもぉ、イライラするわねぇ。パパッと開けらんないの?」

「すいません、なるべく早めにカルフォを習得しときますので」

「……アナタの推測通り警報であれば、罠が作動しても直接的には死者は出ない。正答である事を切に願う。」

「だァァァァ、外野は黙っとれッ。気が散るだろーが!」


有難迷惑なお裾分けのお陰で完全に帰還のタイミングを逸した俺達は、ウサ晴らしのヤケ食いに付き合わされるぐらいの感覚で探索を継続するハルヒに現在二度目のおかわりを強要され、それをどうにか平らげた所である。

そして目の前には口にするまで味も食感も一切不明な謎のデザートが鎮座している訳なのだが、この店のテーブルマナーが実に厳しい。個人的にはご遠慮して腹八分のまま帰りたいんだがね、全くもってやれやれだ。

なお、言い忘れたが生まれて初めて開けた宝箱には俺の見立てとは異なる石弓の矢が仕掛けられており、幸いにも古泉に当たっただけで済んだ。

「うをっ!!」「……骸骨(5)。」

コボルト、オーク、スライムと来て今度はスケルトンか、さっきからRPGを彩る有名どころが目白押しだな。この経験が明日の糧だよ畜生めッ……それにしても警報音が俺の目覚まし時計と同じってのは何のイヤミだ。

「だからチャッチャッと開けちゃいなさいって言ってんでしょアホキョン!結果は変わんないんだから……喧しいったらありゃしない」

煩せぇんだよ、こちとら今日まで万引き一つした記憶の無い清く正しい青少年なんだぞ?何の因果で盗賊稼業に身をやつしてると思ってやがるんだ。

因みに、長門が敵情報を閲覧する場合にはソイツの確定名を知る必要があるらしい。つまり、この骨野郎のお名前が判明すれば次からの戦いが俄然楽になるって寸法で、決して無駄な戦いでは無い。繰り返す、無駄な戦いでは無いのだ。


「それにしても本っ当にアッタマ来るわねあの女、許せないわッ!」

「僕も同意見ですね。人としてどうかと思います……よっと」

「はぅぅ、ご飯が食べられません。夢に出てきそうで怖いですぅ」

「……次回遭遇時には敵としての対応を検討すべき。カティノ……これで打ち止め。」


うーむ、満場一致で敵と看做されるライバルNPCのご登場とは恐れ入ったな。

しかし相手は曲がりなりにもトレボー王の臣下。しかもあの生首は侍社会特有の武勲云々か猟奇身趣味でも無けりゃクリティカルヒットでの物と見て間違いないだろう、問題は生産者だ。普通に考えれば新川さんが忍者であるか、あのポニテ侍が俺の#5プレイ時にはゲット出来なかったレア武器・村正を装備しているかのどちらかである。

後者の可能性を考慮すると、あからさまに敵対するのはあまり賢明とは言えんな……などと考えながら剣戟を掻い潜り、短剣の柄の部分で頭蓋骨の中心をブン殴る。立て続けに4戦目ともなると、戦闘行為そのものの恐怖感は幾分薄まって来ていた。

油断は禁物なのだが、長門の検索機能により入手した情報によればアンデットコボルトには何ら危険な特殊能力が見当たらない上に、魔力で動いているだけのホネホネの太刀筋は素人でもある程度は読める。落ち着いて対処すれば丁度良い訓練相手で、タイマンなら時間は掛かるが俺でも無難に勝てるだろう。

なぜ、俺みたいなただの人間が命のやり取りを悠長にこなせるのか?答えは簡単、ディオスのお陰だ。

勿論斬られたり咬み付かれれば、そりゃもう泣いちまうほど痛い。悲鳴も上げるし悶絶する。だが現実世界と違い呪文を唱えればアラ不思議、まさに痛いの痛いの飛んでけーなのだ。幸いハルヒも、朝比奈さんにも、我慢すりゃ古泉の野郎の分も含めてまだディオス枠にはゆとりがある。アンデットコボルトなど恐るるに足らず、だ。


「ヨシ、片付いたわね。で、お宝の方はどーだったのかしら?」
「Gだけだな。5~60はあると思う」

「またハズレなのぉ?……ねぇ、アンタ運悪すぎじゃない?」
「俺の運だけじゃねーだろ、むしろこのパーティのリーダーの運の要素が1番高けぇぞ多分……いや、絶対にな」

「フン、言ってくれるじゃないの。じゃあ次行くわよ」
「ナニっ、まだ続けんのか?!」

「あったり前よ。まだみんな余力があるんだし、あと1回ぐらいどぉーってコト無いわ!」
「しかしだなぁ…」


今の戦闘で長門のMPはゼロ、つまり対有機生命体コンタクト用……とにかく今の長門は宇宙人的パワーを秘めた生体アンドロイドでは無く、非力で無防備な魔法少女って訳だ。朝比奈さんのメイジ系MPに至っては初回の戦闘で尽きているし、さっきの連中と出くわしたら今度こそ破滅だ。


「あーもぉ、分かったわよ。それなら公正に多数決を採るわ。ただし、あたしは団長権限で2票分。これ以上は譲れないんだから―――じゃあ、このままお城に引き返す方がイイと思う人は手を挙げてっ」


ハルヒの問い掛けに応じて手を挙げた帰還派は俺、長門、朝比奈さんの3名。ハルヒが継続派である以上、イエスマン古泉が挙手をする筈も無い。要するに結果は開票前と同じ平行線のままってこった。


「困ったわねー、まさか同数になるとは思わなかったわ」
「ほぉ~~まさか、か。まさかとは思うが団長票に2票分以上の価値は無いだろうな?」

「なぁに?ズイブン引っ掛かる物言いねぇ」
「別っにぃぃぃ。念の為に確認してみただけっスー」

「どうでしょうか、お2人とも。考える時間も惜しいですし、いっそコイントスでもしてみませんか?」


不穏な空気を察したのか、俺とハルヒの間に入った古泉が代替案を切り出した。なるほど、せめて口上だけでも50:50まで持ってくのがお前なりの最大限の誠意ってか。まぁ結果は変わらんがその努力は認めてやろう。


「ううん、やっぱりヤメとくわ。帰り道に敵と遭遇しない保証も無いし。ただし、さっきのT字路に着くまでに誰か気が変わったら申し出ても構わないからね?」

「ぬっ?ぉぉ…」 「畏まりました」 「はいですっ」 「了解。」


勝ち目の無いギャンブルの筈がハルヒの想定外のフォルドでアッサリと終了。神様仏様団長様の気が変わらんうちに、と俺達は分岐点で迷わず左折し、無事生還を果たした。

ま、あれだけ擦った揉んだした後じゃ流石に喉元を過ぎるのに早すぎたか。

戻ったら盛大に祝杯を挙げる気マンマンのハルヒであったが、一っ風呂浴びてから目の前に出された宿の簡単な夕食を前菜代わりにとパクついているうちに急激に眠気が襲って来たらしく、古泉が気を利かせてオーダーした安ワインでささやかな乾杯を済ませるに留まった。










(んんっ?どーしたハルヒ、人ん家でゲームなんぞおっ始めやがって…)

「さぁ~て最初は誰から作ろうかしら?……うん、みくるちゃんにしましょう。我が団の癒し系マスコットにはプリーストしかありえないわ―――17ならまずまずね。信仰心はメッチャ高そうだから18、残りは知恵でいいわ。結構成績優秀みたいだし」

(ふむ、俺もその意見には完全に同意だ。パワフルでスピーディな朝比奈さんなんて嫌すぎる)

「お次は古泉君を―――25!さっすが副団長ね♪でも侍って若干成長遅いし、だからって武辺一本槍の戦士ってガラじゃないのよねー…どぉしよう?侍にしてもまだ2ポイント余……侍の道を捨て、敢えて戦う聖職者として生きる道を選んだ男。なんか古泉君っぽいわね、そうしましょう!」

(何なんだその厨二設定全開の決め方は?……まぁ、ぽいがな)

「んじゃ有希は―――19?なんか皆ポイント高いわね。博識の有希ならビショップでも良いけど鑑定失敗する有希なんて全然想像出来ないわ。そーなるとシーフもボツ、メイジが無難かしら?知恵は18で……何か幸薄そうだし、力も生命力も違うわね……全部素早さに、っと」

(お前なぁ、誰のせいで長門が辛い目に遭ってると思ってんだ?! ったく、)

「うーん……キョンがファイターってどぉ~もしっくりこないし、この際キョンはシーフにしときましょ。ぷっ……やだ、嘘でしょ?1人だけ5ぉ?アハハ、おっかしー!なかなか空気読めるじゃないのこのゲーム。雑用係決定ね!」

(ハァ…、やっぱりな。だが俺だってやれば出来る子なんだぞ?せめて9ぐらいはあっても良かろう???)

「これであたしを転生させれば……えっ、プリースト系が3人?もぉ、やっぱり今からでも古泉君を侍に……初期値の人間が前衛とかナンセンスよねぇ。でもやり直しはあたしの信条に反するし……あ、みくるちゃんなら後衛なんだし関係無いわ。やっぱイチイチ城に戻るの面倒だし、ビショップも入れときましょ。ゴメンネ☆」

(やり直せ、イチからやり直せ。お前みたいな猪突猛進型こそ戦士に相応しいぞ?忠臣古泉をサムライにすりゃ前衛がグッと楽になるってんだ)

「6人目は……鶴屋さんが妥当かしら?でも、名誉顧問がずっーと一緒ってのも変よねぇ。困った時の助っ人として、行き詰まるまで5人のままでいいわ」

(コレっぽっちも良くねぇぇぇぇっ!!)










「せめてっ、エディットだけでも済ませろぉぉぉ―――お?」


ベットから跳ね起きた俺は、自分が深夜にとてつもなくカッコ悪い寝言を吐きながら目覚めた事を心から恥じ入った。

そして、朝には綺麗サッパリ忘れて平穏な日常に戻るべく、早々に二度寝を決め込んだのだ。

終わるっ!



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