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[26605] 【習作】 死ぬよりかは生きたい→それじゃゲームを・・・・・・【オリジナル】
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:e3c6ea7e
Date: 2011/04/10 19:09
まえがき


処女作です。期待は禁物
文才があるかどうかは、かなり怪しいです。あと、グロ注意です。
普段も書いていますが、時間があまりとれない上に二一世紀を代表する遅筆っぷりなので長期休みに投稿します。ただ絶対に完結させるのでよろしくお願いします。


――――
ただいま更新を停止しています。
七月から再開予定ですが、五月の終わりにも一回投稿するかもしれないです。



[26605] プロローグ
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:e3c6ea7e
Date: 2011/03/20 18:54
「……あの手紙、まじだったのか」
「そうとも。ようやく信じてくれたようだね」
 




 細身で長身の少年が呟き、どこからともなく声が返ってきた。彼はやれやれと、首を軽く横に振りながら周囲に気を向ける。どうやらこいつが例の超越者か、目に見える範囲にはいないようだが――――と誰にともなく結論付けた。
(ようやく? ずっと見てたのか? それともストーカーを……) 
 少し的外れなことを考えつつも、彼は聞こえてくる声とコミュニケーションをとることにした。機嫌を損ねないようにと丁寧語で話しかける。
「まあいいでしょう。とりあえず、ゲームに関する説明をお願いできますか?」
 それに対し、謎の声は機嫌良さそうに返す。
「いいだろう。まず、ゲームは強制参加だ。日本の現時点で16歳の中からランダムに選ばせてもらった。まあ、運が悪かったとでも思うがいい。ゲームの参加者は7人で、2050年頃の日本に転生してもらうこととする。当然、年齢は皆一緒になるようにしてある。もっとも、誕生日は違うがね。ゲームクリアの条件は簡単だ。備わった超能力を駆使して他の参加者を殺せば良い。ただし、参加者を始末できるのはイベント開催期間中のみだから気をつけるように。イベントが発生すると君の頭の中に甲高い音が響き、その後、音声で自動的に知らされる。ちなみに超能力は全ての人間が持っている。無理して隠す必要はない」
「失格になったらどうなる?勝った場合は何が……」
 少年は、あせりから丁寧語でなくなったことにも気付かずにまくし立てる。
「人の話は最後まで聞け。まったく」
顔は見えずとも、明らかに面倒くさそうに謎の声がため息をついたのが分かった。
(こっちが、ため息をつきたい気分だよ。ったく、鬱になりそうだ)
 彼はそうぼやきながらも、得意のポーカーフェイスで表情は変えない。謎の声は続ける。
「失格になった場合のペナルティは当然ある。ランダムで決めるから、何になるかは分からんが、ロクなことにはならないと告げておこう。逆に、見事ゲームを勝ち抜いた場合は人生をやり直させてやる」
 上から目線の口調に腹立たしさを覚えるが、必死に押し殺す。



 少年はしばらく思案にふけった後
「いくつか質問しても構いませんか?」
 と、何事もなかったかのように問いかけた。
「我々が答えてもかまわないという考える範囲ならば教えてやろう」
「分かりました。それではまず、他の参加者が自分以外の参加者を倒すことはありますか?」
「当然だ……が、そう簡単に全員倒してくれるとは思わないほうがいい」
 何を当たり前のことを、と少年は心の中で思うが口には出さない。自分が圧倒的弱者であることをを理解しているのだ。彼は、微笑んだ表情を変えずに
「イベント以外で死ぬことはありますか?」
「もちろんあるとも。死なないように努力したまえ」
「参加者以外にさまざまな敵が居るという訳ですね?」
 


 ――――沈黙
「どうしました?」
 少年は訝しげに問う。
「いや、なかなかに頭が回るようだな。期待大だ」
「期待大、というとこのゲームは賭けごとの対象にでもなっているので?」
「ほう、やはり君は賢いな。その通りだ。我々は常に君たちの動向を見ていると考えてもらって問題ない。」
 超越者を自称するからには、不老不死なのだろうか、と非生産的なことをつらつらと考えつつ、次の質問へとうつる。

「ありがとうございます。ところで、毒殺や狙撃などは可能で?」
「……ふう、よくそこまで気が回るな。ま、残念ながら間接的であれ直接的であれ、君が暗殺に関わることは無理だ。重火器の使用や爆弾、毒などの使用も禁止されている。といっても、先ほどのさまざまな敵が、他の参加者に対して使用することはある。ただ、君自身にもその可能性があることをわすれないように」
「ありがとうございます。ところで、この話を誰かにすることはできますか?」
「いや、できない」
(結構制限が多いな)
 予想したよりも厄介なことになりそうだ、と眉を微かにしかめた。
「では、これで最後なのですが――ゲームをクリアした場合、次のステージへ進むというようなことは?」
「つくづく、君には驚かされるな。まあいい、半分当たっているといったところか。例えばの話だが、君がこのゲームを勝ち抜き現実世界へ戻ったとしよう。その場合のみ、死後新たなゲームに参加する権利を与えられる。そのゲームの勝者には、賞品として願いを叶えさせてやろう。敗北のペナルティはないが、参加するかしないかは自由だ。質問は以上かね?」
(超越者と名乗る割には結構驚いてやがる)
少年は、顔には出さないが嘲笑う。黙ってうなずいた。
「ならばゲームを開始させてもらうとしよう。健闘を祈るよ高宮 皇輝≪たかみや こうき≫」
 超越者の言葉を最後に、彼の意識はゆっくりと闇に包まれていった。口元に歪な笑みを浮かべながら――――――――















 超越者って……プ、プププもっとましな名前はなかったのかよ







 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――











 高宮 皇輝が、7人目の参加者として認められました。参加者が揃いました。

 磁力系能力者:天城 香織≪あまぎ かおり≫
 爆発系能力者:鬼藤 弦夜≪きどう げんや≫
 熱量系能力者:狂崎 帝覇≪きょうざき ていは≫
 念動系能力者:百堂 紗希≪びゃくどう さき≫
 身体系能力者:中条 大成≪なかじょう たいせい≫
 空間系能力者:銀ヶ城 蘭≪ぎんがじょう らん≫
 重力系能力者:高宮 皇輝≪たかみや こうき≫


                                                   Curtain up 


―――――――――
あとがき

プロローグってことでかなり短いです。すみません。



[26605] 第一話
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:e3c6ea7e
Date: 2011/03/20 18:53
 部活の後片付けを先輩に押しつけられ、挙句の果てに最終下校時刻を過ぎるだけでなく先生にもばれてしまった。僕は、「ゴミどもが、貴い俺様になんてことを」と毒づきながら現代文明の象徴である高層マンションのエントランスをくぐる。面倒だと思いつつも郵便受けを覗くと一通の葉書が入っていた。自分宛の、しかも判子も押されていない葉書とはなんぞやと裏を見てみると……
 ”高宮 皇輝様
 おめどとうございます。このたび、あなたは我々が主催するゲームへの参加が決まりました。追ってお伝えいたしますのでしばしお待ち下さい。            超越者”
 僕は、どこぞのアホの仕業であろうとため息をつき、手紙はポケットへ突っ込んだまま自分の住む2103号室へと向かったのであった。
「おかえりー」
 母の出迎える声に対して「ただいま」と気だるく返しながら自分の部屋へ足を向ける。かばんをベッドへ乱暴に放り投げ、
「先に風呂に入ってるー」
 と、母に告げ僕は風呂場に駆け込んだ。
 思えば、風呂でうたた寝をしていなければ僕は――







 はっとして僕はベッドから飛び起きた。どことなく薄暗くて、きつい薬品の匂いがする部屋だ。
「気分はどう?」
 声がするを方を向けば人影が見える。
「身体を弄くりまわされた後で気分がいい人がいたらお目にかかりたいよ」
「あら?私の知り合いにはたくさん、とまでは言わないけれど結構いるわよ」
 人影は振り返らずに淡々と答える。この人こそが先ほどの人影であり僕の義母、高宮綾である。並列思考系能力者のランクAで、はっきり言って美人だ。並列思考系能力は、2つないしは3つ以上の物事を同時に考えたり、行ったりする能力だ。それなりに珍しい能力で、上位能力者にもなれば高い役職も簡単に手に入るのだが、B-以上が世界で100名前後、A-以上では6名しか居ない。僕の義母はその内の1人なのであるから世間的にも有名なほうだ。黒髪のストレートで肌も白く、顔のほりも深い。身長も170センチ以上あり、モデル体形なので見た目が麗しい美女なのでマスコミにも注目されやすい。ただ、マッド属性持ちで、僕としては、あのような事件が無ければ関係は持ちたくないタイプだ。しかし、外面はいいようで友人知人は異常に多い。
「僕は認めないよ。そんな連中の存在はね」
 いわゆる前世の夢を見たことは口に出さずに、白いベッドから起き上がり着替えを始める。超越者の言ったことはどうやら本当のようで、他人に前世を話そうとすると喉が詰まる。それに、前世や超越者関連のことは精神系能力者にもばれない。
(さすがは自称超越者)
 一人で感心する。



 黒いシャツに白いズボン、この上に黒いコートを羽織った。着替えを済ませると頭の中で甲高い音が鳴り響く。「イベント発生イベント発生」――――不快な気分になりつつも顔に出ないように努める。ポーカーフェイスは得意なほうだが、義母はそれを察したようだ。
「この後は仕事だけれど大丈夫かしら? 不調なら他のメンバーに変えるけど」
「僕は、借りは作らない主義なんだって以前言わなかったけ? 大丈夫さ、起きたばっかっていうだけだからね。それに仕事まではまだまだ時間があるし……今回は難しくないんでしょ?」
「言わなくてもわかってると思うけど」
「気を引き締めろ、かい? 心配する必要はないよ。それじゃ行ってくる」
 僕は静かに部屋を出て行った。









 3名の男女が、スイートルームでくつろいでいる。
「いまさらなんだけど、今回の仕事って何だっけ? 敵殲滅!!じゃないみたいだけど」
 暗部にあるまじき発言をしたこの少女、名を哀瀬 麻衣≪あいせ まい≫といい、主に目の強化を得意とするランクB-の身体強化系能力者だ。単純な視力や動体視力を強化するだけでなく、全身も強化できるため接近戦において高い能力を発揮する。偵察・監視もこなすが、このセリフからも分かるように、頭の方はお世辞にもよろしいとは言えず不安が残る。
(まだまだ中3だから仕方ないのだろうか)
 皇輝は、新型音楽プレーヤーを耳から取り外しながら、今の発言を無視する。面倒くさそうに40前後の男、もとい発火系能力者の王谷 具炎≪おうたに ぐえん≫が説明した。
「本当にいまさらなんだが、クスリの受け取りだ。……何故こんな簡単なことも覚えていられないんだ」
 最後の方は泣きそうな声になったが、肝心の麻衣には聞こえなかったようだ。この男――――今回の作戦のリーダーである上に、年齢とともに衰えていく能力を、40近くになってもランクB-を維持し続ける猛者なのだが……かわいい女の子には強く出れないようだ。


「うわー、やる気出な~い。もう、帰りたいなぁ。ねえ高宮君、そう思わない? 」
 麻衣は皇輝に甘い声で同意を求める。皇輝は人並み以上の容姿、だいたい中の上から上の下あたりなのでそこそこもてる。品行方正な面も一役買っているのだが、本人は女子に興味がない。当たり前だ。彼は、自分と並び立つ才能を持った者にしか興味を示さないのだから。といっても、誰に対しても丁寧な姿勢は崩さない。皇輝は、時計を見ていた顔ををあげ、表面上はあせったように周りに告げる。――――感情を偽るのは得意な方さ――――
「ふう、どうやら君の望むような状況になるかもしれないよ。待ち合わせまでの時間が1分を切った」
「何? 連中ばれたのか? 見張りのところへ……」
 具炎は外の仲間に注意するよう呼びかけるために、ドアへと近づく。が、








 リーダーが叫んだ。
「まずい!! 窓を破って逃げろ!」
(いよいよか)
 僕は、窓へ向かいながら他の2人に聞こえるように言い放つ。
「哀瀬は、3回下の部屋から逃げろ! 出っ張りがあるから身体強化すればいけるはずだ。僕は重力操作で屋上から逃げる。リーダーは・・・」
「言わんでも分かってる! 万が一の逃走経路は頭に叩き込んだ。敵と遭遇したら撹乱しつつ退却しろ! いいな?」
「「了解」」
 僕と哀瀬が返答し、窓を突き破ると、ドアの方から戦闘音が聞こえてきた。
「それじゃ、死ぬなよ」
「高宮君もね」
 最後にそう会話すると、僕は屋上へと向かっていった。
 笑いが止まらない。
(ふふふ、ズタボロにしてあげるよ。プレイヤーA!! この僕がね)









―――――――――――――――――――――――――――



「ぐ、ぐあぁぁ!? お前、何をする!」
「おいおい、お口には気をつけようぜ? てめぇの命は、俺様が握ってるんだからよ」 
 見るからに筋骨隆々とした少年――――中条 大成が血で真っ赤に染めた手に何かを握りながら脅す。隣にいる少女が眉をしかめた。
「はあ!? 私にこれを治せって? なんで男のアレを……」
 その言葉を聞いた男が――床に倒れ伏し、股をどす黒い色に染めている――あせったように叫んだ。
「わ、分かった! 全部話すから、早く治してくれ!」
「あぁん? 口がなっちゃいねぇな。人にものを頼む時は丁寧な口調でって小学校かどっかで習わなかったか? コレ、つぶしちゃうよ?」
 手に握りしめたものを見せつけながらにやにやと言い放つ。ニナは大成から少し距離をとり苦言を呈した。
「趣味わるっ。いや、ホント、冗談抜きで」
「いやいや、そんなこと言われると悲しくて泣いちまうぜ。でも、なかなか面白いぞニナ。やってみるか? こう、ブチっと」
 この言葉を聞いた男は、態度を豹変させ必死に頼み込む。
「全部話します! 話しますから、どうか治療してください。お願いします!」
「クックック、さっきと全然違うじゃねえか。はじめっからそうしてりゃいいんだよ、なあ、ニナ?」
「私にふらないでくれない? 見たくもないんだけど」
「つれないねぇ~。まあいい、とりあえずちゃちゃと吐けや。楽になれるぞ」
「全て話したら……治してくれるんだな?」
「口調に気をつけろ!!」
 頭を蹴り飛ばす。男はおびえながらも続けた。
「す、すみません。わ、渡す場所は、あそこに見えるホテルの1905室、待ち合わせ時間は深夜3時です」
「へえ、無茶苦茶近いじゃん」
「でも、時間がないね。ほら、さっさと残りも教えなさい」
 大成だけでなくニナも尋問に加わり、男を問い詰める。
「待ち合わせ相手は、Team:サイクル。何を渡すかは分かりませんが、重要そうだったので相手の人数は多めなのではないかと……」
 大成とニナは顔を見合わせ、
「人数多め……か。そこまで教えてくれて悪いんだが――――」
 男は、死の宣告を下された。
「私、治癒能力者じゃないのよ」
 男は驚愕のあまり口をパクパクさせ、しばらくしてから怒ったように睨みつける。
「どういうことなんだ! 裏切った助けてくれるはずじゃないのか!?」
「すまん」
 大成は男に向かって手を合わせ、丸刈りの頭を下げながら本当にすまなさそうに謝った。












「助けんの、めんどくさくなった」
「え?」
 その言葉を最後に














 男は二度と息をすることはなかった。






「終わったな。では、行くぞ」
 後ろで見ていた青年が淡々と呟き目的地へ向かうために背を向けると、路地裏にいた6人の男女は、何事もなかったかのようにホテルへと歩き出した。



―――――――――――
あとがき

次回で戦闘描写に入ります。……上手く描けるかどうかは分かりませんが。



[26605] 第二話
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:e3c6ea7e
Date: 2011/03/27 15:18
 五人の人影がエレベーターに乗り込んだ。
 身長が百八十センチ程度の青年が、他のメンバーに告げる。
「入口に見張りを置いておいたからな、大成には屋上を見張ってもらおう。そこから退却する奴がいるかもしれん。残りは取引場所へ向かうわけだが、俺とニナはエレベーターで直接その階へ向かう。他の二人は十七階で降りてから階段で登るんだ。いいな?」
「見張りはどうするんスか?」
「エレベーターと部屋の前の両方に居るだろうから……エレベーター側はお前たちがやれ。部屋側は、俺たちがつぶす」
「部屋の連中が出てきませんかい?」
「俺が抑えよう。ただ、なるべく早く片づけろよ? こちらが先手を取れるんだからな」
「了解」
 青年を除く四人が返事した。
 静かに動きを止め、十七階に着いたことを電光掲示板と音声が知らせる。降りた二人が急いで駈け出した。

 ドアが閉まったかと思うとすぐに動き出す。
「んじゃ、気をつけてね」
 ニナは大成に手を振ると、大成も返した。
「おめえもな。アンタは……死にそうにねえな」
「油断大敵だ。お互い気をつけよう」
 青年がそう答えると、丁度ドアが開いた。
 屋上に着いた。大成は誰にともなく呟く。
「いよいよだ」



 青年とニナは、三人の男がこちらに目を向けてくるのを無視し、目的の部屋へ向かっていた。意外と距離があるなと思っていると、見張りと思わしき金髪が一人で立っている。後ろからも見張りの一人がついてくるのが気配で分かった。ニナを促し、後ろへ振り向かせる。ニナが口を開いた。
「なんか用?」
 後ろをついてきた男が口を開こうとする。
 突如、怒号が聞こえてきた。男は顔をそらして状況を確認しようとした。
 




 そのまま、何も目にすることなかったが。
 ゴトッ――――首の落ちる音が廊下に響く。
「くそったれ!」
 そう叫んで、目の前の見張りの金髪が青年に突っ込んできた。目にも止まらぬ速さで豪腕をふるう。
 青年は避ける動作も見せず、逆に拳を合わせた。
 激突。
 金髪が顔色を変えて飛び退る。見れば、右の拳から血を流していた。
 



 そう、この青年は分解系能力者だった。
 この能力は、己の皮膚に触れた物質を、文字通り原子に分解する。ランクによって凶悪さはかなり変わるが、彼はランクAに達している。
 これは銃弾や人はもちろん、ダイアモンドさえも難なく分解してしまうレベルだ。 
 



 勝負あったな――ちらりと脳をかすめたが、油断大敵、と頭から追い払う。
 その行動は正しかった。なぜなら、奥の扉、すなわち一九〇五号室の扉が開き、新手が現れたからだ。直後、直径一メートル程の炎の塊が迫ってくる。後ろのニナと入れ替わっり、ニナが、念動力ではじき返す。


 はじき返された炎は新手、すなわち具炎に直撃し





何事もなく吸収された。


  
 跳ね返ってくる炎をしゃがむことにより回避していた金髪。今度は、炎を反射したニナに突っ込んでいく。いつの間にか右手の怪我が治りつつあった。
「肉体再生か!」
 青年はめんどくさそうな表情を浮かべる。前に出た。
 それを見た具炎が炎を発射。金髪はとっさに背をかがめて回避する。
 青年は左後方に跳び、ニナが炎に働きかける。ぎりぎりのところで右へ逸らした。
 金髪の傷も完治しており、お互いに無傷。壁に激突した炎も具炎が消し去った。
 

 緊迫した時間が流れる。



「うおっ! 新手だ!」
 エレベーターホールから青年の仲間の焦った声がする。どうやら、麻衣が加勢に来たようだ。
 見張りは合わせて二人倒されていたが、人数的には互角となった。
 形勢も互角。


(やりづらいな)
 具炎が真価を発揮させるのは一人の時。炎の吸収が可能なタイプのため、狭い空間は全く問題ない。しかし、ここで火が燃え盛れば、スプリンクラーだけでなく警報も作動し、警備員と警備用ロボットがやってくる。
 確かにわざと火をつけて退却するというのも手段の一つではある。


 今回の作戦は囮。
 これを知っているのは具炎と皇輝だけだ。敵に損害を与えられず退却してしまえば……作戦終了後に囮のことは伝えられる予定だ。その時に不満がたまることは、いかに暗部のメンバーと言えども簡単に予想できる。そのためにも、一人でもいいから敵を倒しておきたい。
 
 具炎は悩んでいた。



 その迷いを見抜いたのか、青年はいきなり突進してきた。
 炎を生み出しぶつけようとするが、避ける気配が見えない。
「!? 念力のコーティングだ! 押しとどめろ!」
 具炎が叫ぶと同時に、炎が霧散し金髪が青年へ向かう。
 金髪の視界が反転した。
 一瞬で投げ飛ばされたのか!? そのことに気づいて受け身をとる。視界にニナが腕を振り上げるのが入ってきた。慌てて腕でガードするとものすごい衝撃が体を走った。歯をくいしばって念力を押し返し、起き上ることに成功する。


 その後ろで、
 具炎はとっさに拳銃を抜いた。と同時に青年へと射ち放つ。
 念力コーティングで弾丸を分解できない!――――青年は、衝撃をもろに喰らうことに顔色を変えたが、避ける暇はない。衝撃の緩和=思い切り後方へ跳躍し、そして吹き飛ばされた。さらに追い打ちをかけるが、今度はニナが防いだ。


(そろそろ時間がまずい)
 全員が思っていた。
 間を置かずに、具炎が再び火を生み出した。具炎は、十七階に響き渡るよう大声を出し下がっていく。
「退却だ!」
 そのまま炎を発射し、ニナが反射する。
 金髪が身を翻して駈け出した。跳ね返された炎が両Teamの間に落ち、燃え盛り始める。
 Team:サイクルは階段を駆け下り、青年たち――Team:ツールは屋上へと駆け上がった。



 スプリンクラーと警報が作動している。けたたましく鳴り響いており、警備員とロボットが来るのも時間の問題だ。
 すでに火は消えていたが、十九階には死体が三つ転がっていた。







その頃、屋上では……



 対峙。先に言葉を発したのは僕だった。
「さしずめ、君がプレイヤーAといったところかな?」
「BかCかもしんねえけどな」
 
(意外と愚かではないのかもしれない)
 見た目と会話の対応の差に、少しだけ驚いた。
 油断はしない。
「確かにね。ま、どうでもいい話なんだけど。
 無駄話をしている時間はないし、君にはさっさと退場してもらうことにしよう」
 つまらなそうに零す。愛用している黒いコートのポケットから電磁ナイフを取り出し両手に構える。
 電磁ナイフ。それは、鉄をもたやすく切り裂く凶器。現在主流の近接武器だ。
 彼は呟いた。
「ナイフ? てめえも身体系なのか?」
 前言撤回。普通に低能だった。
 君と一緒だね――――飄々とした調子でそう言い返してやりたい気持ちを抑え、代わりに舌打ちをしてやった。
 優位に立っていると思いん込んでしまった愚かな子羊。表情からは、失言してしまったとの後悔が感じられない。嬉しさを隠し切れていない時点で彼が身体強化系能力者であることは間違いない。
 不意打ちの成功は約束された。安堵をおぼえると同時に微かな落胆を感じる自分がいた。
 そのことに軽く驚きながらも、苦々しげな表情は変えず投げつける。










 右手に持ったナイフを。















 彼は一瞬戸惑った。
 相手の心理が手に取るように分かる。
 なぜ武器を簡単に手放したのか? なぜそんなにナイフが遅く飛んでくるのか? 
 命をかけた戦いでなければ矢継ぎ早に質問してきそうだ。
 できることなら、最大限に皮肉ってやりたかった。
 「僕は重力使いなんだ」って。



 左に回避した彼。見えない力に吹き飛ばされる。
 相手は確かに身体強化系能力者だ。しかし、平らな地面で踏ん張ることは至難の業。その上、思いもよらぬ攻撃に彼は不意を打たれた。簡単に弾き飛ばされてしまい、コーティング済みのコンクリート壁に背中から激突。


 息がつまり身動きが取れない。能力も弱体化するため、これは大きな隙になる。僕が見逃すわけもなく、左手のナイフを即座に投擲した。重力の後押しを受けたそれは、時速200キロに迫る。彼は反射的に腕で防ぎ…………僕の狙い通り、硬化の弱まった左腕の骨を砕かれた。



「さすがは身体系といったところか」
 余裕を見せながら、片腕しか砕かれなかったことを称賛する。
 彼の悔しそうな表情は、僕の優越感を掻き立てる。
 彼はこちらを睨みつけながら、腕に刺さったナイフを強引に引き抜いた。右手に構え、再び対峙。 





――――――――――――――――――――



 超能力戦闘術において、低ランクの重力系能力者は防壁の脆さや展開速度の遅さから蹂躙される可能性が高いと言われている。
 しかし、高ランクになればなるほど、重力防壁の強度の向上と、能力発動までのタイムラグの短縮が顕著になる。さらに重力操作による三次元的な空間移動から、たいていの能力者を相手に戦いを優位に進められるようになる。
 確かにさまざまな道具に頼らなければならない攻撃力の低さは否めない。
 それでも、いくつかの能力を除けば、防壁突破の手段は限られており「近距離・中距離をそつなくこなすオールラウンダ―」という評価が一般的だ。

 
 一方の身体系能力者。タイプによって強化部位の差異などはあれども、身体能力の高さは全能力者中随一のものを持っている。
 皮膚の硬化により破壊力のみならず防御力も高く、接近戦最強の名を欲しいままにしている。
 
 この二つの能力。同ランクの場合は、基本的に重力系がやや優勢である。
 理由は明白で、重力系は生半可な重火器が利かないことに加え、接近されにくい。たとえ、近づかれたとしても重力操作で空中を利用し簡単に距離を取れてしまう。

 だからといって、身体強化側が瞬殺されるわけではない。中距離から、たとえば、弾丸が飛んできても回避することが可能だ。かすめたとしても皮膚の硬化のおかげでかすり傷で済み、。また高い回復力で多少の傷はすぐにふさがってしまう。単純に重力との力比べになった時も、地形によっては押し勝てる。


 
 参加者は重火器を使用できない。この制約は、皇輝にとって銃に比べて速度・威力に劣るナイフを使わなければならないことに繋がる。
 本来、大成は、通常の対重力系能力者戦よりも有利な状況に置かれていたはずなのだ。
 決して、大成が皇輝よりも不利だったというわけではない。


 ……あの不意打ちさえくらっていなければ。




――――――――――――――――――――



 戦いは一転して、膠着状態に入っていた。
 ナイフの投擲。予定調和のごとく敵は回避――重力による圧迫。相手は床に転がったナイフを掴み跳躍する。僕の頭上を飛び越え背後に回った。
 素早くナイフを投げつけてくるが落ち着いて右に逸らす。力の弱まった左斜め方向から体を低くして疾走してきた。冷静な対処=後ろへ大きく跳躍。重力の操作によって距離をとった。
 似たようなことの繰り返し。敵の傷は順調に増えているが、もうすぐ二桁に達するんじゃなかろうか、となんとなく嫌な予感をおぼえ、無意識のうちに顔をしかめた。
 彼の声が聞こえる。
「意外と決着がつかねえな?」
 強がっているものの、この場面だけを見れば明らかに僕の優勢で、遠からず決着がつくことは誰が見ても明らかだった。始めの一撃が彼に与えた影響は大きく、怪我した腕が戦いの足を引っ張っている。
 避けられるはずの攻撃が当たる。突破できるはずの防壁に防がれる。精神的に追い込まれる。
 さまざまな要素の積み重ね。彼は、左の脇腹・左の太ももを含め、浅いながらも数ヶ所から血を流すことになっていた。怪我は治せても血は戻らない。事実、切り傷の類は徐々に塞がっているが、彼の顔は蒼白で息もあがっている。



「……終わりの時は近い。君は着々と追い詰められているよ」
 言葉とは裏腹に、僕の心はあまり晴れていなかった。
(予想以上に時間がかかりすぎている)
 そのことが僕をあせらせていた。時間がかかれば敵の救援が来る可能性が高くなる。
 あの時点で見張りの大半が倒されていたとみて間違いはないし、そもそもこちらの方が人数的に劣勢である確率が高い。いくら僕と言えども、そして敵が手負いと言っても、三人や四人を相手に生き残るのがたやすいとは思わない。焦りが、僕の選択を誤らせることもある。
 




 ――――勝つための最善策を探していた。





 全ての電磁ナイフは地面に散らばっている……ポケットに手を突っ込み、ナイフを取り出すふりをする。周囲を見渡した。相手側に顔を向ける。彼の姿と蹴る動作に入っていることが目に入ってきた。
 



 決断=上空へ飛翔する。ナイフが足元をかすったのが分かり、冷や汗が流れる。
 滞空状態から落下。全ての力を攻撃に回す。唖然とした表情の敵が急いで回避動作に入るが、若干遅かった。地面にひびが入り、避け損ねた彼は衝撃波で宙を舞う。大理石の破片がいくつか突き刺さったのだろう。全身からおびただしい血を流しながら横たわっていた。
(出血多量か、ショックで死にそうだな)
 念には念を、そんな言葉が頭をよぎった。
 目の前の彼がよろよろと立ちあがる。
「こんな、こんなことがッ!」
 一方的に打ちのめされていることが信じられないようだ。
「君は弱かった。それだけだよ」
 とどめを刺すために近くのナイフを重力で引き寄せる。





「大成!!」
 左の方から知らない少女の声が聞こえた。二,三メートル前に倒れている彼の名前だと思われる言葉を叫んでいる。
 Fuck。テンションの上がったアメリカ人がよく連呼する四文字言葉。悪態をつくよりも早くナイフを敵に向け…………ほぼ同時、念動力と思わしきナニカに吹き飛ばされた。







 ホテルの屋上から吹き飛ばされ地面に向かって真っ逆さま。それすなわち、紐なしバンジージャンプである。
 そいつは確実に分類される。僕が世界で三番目に嫌いな存在――――絶叫系マシンに。
 哀れ、僕。
 
 空中落下を存分に堪能しながら決意を固めた。





「Fuck。あの女、殺す」


――――――
あとがき

次回からはしばらく皇輝側です。








[26605] 第三話(前編)
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:e3c6ea7e
Date: 2011/04/04 00:03
 空中から落ちるといっても僕が怪我することも死ぬこともあるはずがない。普通に重力を操作して、いったんホテルの壁に立った。少しその場に留まる。悪くない気分だ。それから地面に向かって駈け出した。徐々に減速し無事降り立つ。
 念力攻撃で意識を失っていたらと思うとぞっとするけど、そんなことは起きなかった。結構ほっとしている。
 内心ひやりとしていたが、顔に出ることはなかった。僕の心は金属製の檻の中。幾重にも囲われていると嘯いた。

 僕は万が一の避難場所がある大通りに足を向ける。



 待ち合わせ場所に着くと、すでに四人が待っていた。
 予想以上に梃子摺っていたからだろう、雑魚だった割には。
 僕の時間を無駄にしないようにすぐに諦めて欲しかった。犠牲者一人で万事解決のはずだったんだ、と周りに聞こえないように零す。そうすれば最後に着くこともなかった。
 任務には僕を含めて七人で行っていたから二人欠けたんだろう。一応聞いておくことにした。
「あれ? ほかの二人はまだなのかい?」
 具炎が首を横にふる。僕は沈痛そうな表情をつくった。
「そうか……」
「あいつらも覚悟はしてただろうさ。とりあえず本部に戻ろう。ボスへの連絡も済ませてある」
 具炎も悲しそうに答えた。すっかり騙されている。愉快愉快。
 ボスって人は非常に高齢だ。よぼよぼのじいさんにしか見えない。違法研究員を統括する幹部の義母が、三十くらいであることを考えると違和感を覚える。実力は高く訓練時もスパルタだ。老人があそこまで早く動けるなんて、人間の神秘を感じざるを得ない。 
「分かった。じゃあ二手に分かれて戻ろうか。リーダーと僕、それと君たち三人でいいかな?」
「「「はい。問題ありません」」」
 そう言う僕も、戦闘力と状況判断力の高さを買われて幹部の一人。前世も入れて、三十年以上生きているのは伊達ではない。若いので序列は最下位ではあるけど。それでも同年代とは比べ物にならないほど優秀だと言える。僕の自慢の一つ。ちなみに具炎の序列は三位だ。僕の二個上。
「途中で本部から迎えが来るはずだ。それまではBルートを歩いて戻るように」
 最後に具炎が念を押し、僕たちは別れた。




 月が雲に隠れており、月明かりが街道を照らすことはない。街灯がなければ何も見えなさそうだ。お先真っ暗とう言葉が唐突に頭に浮かんできた。街灯があっても、目の前が一瞬暗闇に包まれたかと勘違いしそうだ。それほどに薄暗い。なぜか背筋がひやっとした。
 しばらくしてから話しかけてみる。
「そういえば、敵にどれくらい損害を与えたんですか?」
「一人だけだ。お前の方はどうだ?」
「相手は一人で、死んだかどうかは微妙ですね。まあ、超能力も身体能力も低下は免れないでしょうけど。
 でも惜しかったですよ、ホント。あと二秒、二秒あれば、確実に息の根は止まってたんですけどね」
「運がなかったとしか言いようがないな。それにしても無傷なのはすごいと思うぞ。さすが天才ってところか」
「残念だけど天才じゃありませんよ……具炎さんも無傷じゃないですか」
「後衛だったからだ。それに、お前はまだ十五才だろ」
「死ぬほど努力したからってのはあると思いますが」
 前世から生きてきたんです
 とは言えるはずもないし、言うこともできない。そういうことにしておいた。
 でも、天才だとか凄いとか褒められるたびに、心にナイフを突き立てられている気分だ。別に精神力がないとか弱いってことはない。一番ではないけれどトップクラスのものは持っている。
 自分に才能がないと思ってるわけでもない。自分に自信があるからこそ、前世の力を借りていることが屈辱的っていうことだ。


 ……言うほど屈辱でもないけどね。僕の中にある残りかすのような良心が、ほんのちょこっと痛んでいるだけのお話。ああ、大いなる妥協。
「そんなことより、今回の作戦は僕の代わりに、二つ星のやつらを三人入れた方が良かったんじゃないですか? こう言うのもなんですけど、所詮囮じゃないですか」
 星二つというのは役職のようなもの。暗部のボスや幹部以下は、上から順に星の数が減っていく。三つ星→二つ星→一つ星という感じだ。暗黙の了解のように、どの暗部も三つ星までしかない。実に興味深い現象だ。おそらく大多数の人にとって。
「確かに、五人しかいない幹部から二人ってのは敵の目を引き過ぎたかもしれんな。でも、本命の方は何も問題なかったらしいから、それでよしとしようじゃないか」
「う~ん、本命が無事だったのはいいんですけど。
 いずれにせよ、囮を襲った方はドンマイですよね」
「クク、虹色に着色した……なんだったかな? いずれにせよくだらん悪戯だったことは知っているが」
「僕の義母が相手側に提案したらしいですよ? どうでも良すぎて覚えてませんが」
「具体的に、と言われると案外思い付かんしな。うむ、人生そんなもんだ」
 何の変哲もない世間話をしていると、いつの間にか迎えの車が目の間まで来ていた。黒い車。暗部用の車は全部黒色らしい。全部を見たことはないけどそう聞いた。
 以前と違い、完全な電池自動車や燃料電池自動車しか走っていない。ガソリン車は走ると違法扱いになる。もはや、金持ちの道楽として飾るほかに彼らが生きる道はなかった。
 二人とも後部座席に乗り込む。僕は運転していた男にお礼を言った。
 外面を良く見せることは大切だ。誰でも知っていることだと思う。実際にできるかどうか、実践しているかどうかは別だけど。そして秀才かつ人間として人格的に最悪な部類に入る僕は、内面を完璧に隠し通すことに成功している。
「やあ、夜中に悪いね。疲れてるだろう」
「いえいえ、王谷さんや高宮さんに比べれば随分と楽ですよ。今回は迎えだけでしたし」
 恐縮したように答える運転手。彼に対して質問する。
「あー、本部まではどれぐらいかかるか分かるかい?」
「少し待ってください……はい、三十分から四十分の間に着きます」
 感謝の言葉を伝えると、今度は具炎に伝えておいた。
「じゃあ少し休憩させてもらうよ。あと何日かで学校が始まるはずだったから」
「おお! お前も高校生になるのか。つーか、行く必要あるのか?」
「世間体とか将来のこととかいろいろあるじゃないですか。息抜きにもなるだろうし」
「そういや、中学はまともに通ってなかったな」
「ボスとあなたたちのせいじゃないですか……一瞬忘れてませんでしたか?」
「そ、そんなことはないぞ! 本当だとも!」
「具炎さんって嘘つくときに、右手で髪を弄りますよね」
 具炎は思わず右手を確認していた。
 馬鹿そうに見えるけれども、彼はこれでも五人しかいない幹部の一人。ほんとは賢いはずなんだ。これは擬態だ、たぶん。
 誰を油断させるために演技しているんだ?
「は!? しまった、だまされた……」
「…………」
 ジト目で具炎をねめつけていると、中学時代がふと思い出された。



 僕が暗部入りしたのは小学五年生の頃だけど(その経緯は、ここでは割愛させてもらうが)、当初はヤバげな知識ばかり詰め込まれた。体も全然できていない上に、頭も柔らかいからじゃないかと勝手に推測している。
 あとは暗部入りと少し関わるのだが、精神年齢が高く悪影響を受けにくいのが大きな原因だと教えられた。暗部としても、殺人鬼をつくりたいわけではないそうで、幼い時から訓練させる者はごく少数だそうだ。

 とりあえずは、中学生になると同時に登校禁止にさせられた。テスト日だけは登校が許されたので、満点ばかりを掻っ攫っていった。今となってはいい思い出だ。
「お前誰?」って聞かれたのは仕方ないことなんだと思う。でもこんな経験をするとは夢にも思っていなかった。少なくとも十五年前の僕は。
 トレーニング自体も凄かった。僕の為に作られた僕専用のプログラム、一年半にわたって朝起きる時間から食事の内容、トレーニング内容から一日の運動量に至るまで、全てのことが決められていた。途中で予測外の事態が起きた時のことも想定されていたと聞いたことがある。結局そんな事態にはならなかったけど……

 プログラム消化後は、三つ星からスタートして一年ちょっとで幹部に昇格した。自分の持つ才能を改めて自覚した瞬間でもある。
 そして、参加者は今のところ一人も欠けることなくここまで至る。



 どうやって連中を料理してやろうかな、と考えているといつの間にか眠っていたみたいだ。体を揺り起こされて目が覚めた。
 具炎が手招きしている。
「おら、ついたぞー」
 車から出て辺りを見渡す。他のメンバーはまだ見当たらない、どうしたものか。
「残りはまだ来てないみたいだね」
「そのようだな、先に中に入ろう」
 了解と返事して、門をくぐり十二階建てのビル=本部へと入っていった。ライトがところどころ点いているのが分かる。

 この建物は、表と裏の本部・暗部メンバーの寮・食堂を兼ねているので、研究所が抱えるビルにしてはでかい。寮は広くて安くて便利と三拍子揃っているので人気が高いらしい。名前は知らないが下っ端が話していた。食堂も早くて安くて美味いらしい。こちらも下っ端が以下略。
 プログラムでお世話になった暗部用のトレーニング施設が地下にある。今でも訓練時には利用しているが、プログラムの辛い思い出、いわゆるトラウマが甦るので少し苦手。
 昔を懐かしみつつ、小会議室のドアをくぐった。
 ボスと他の三人の幹部はすでに席に着いていた。「失礼します」と頭を下げ幹部用の席に向かう。僕も偉くなったもんだ、と感慨を覚えつつ自分の席に座った。
 本命の仕事を遂行したチームは、全員揃っているようで円卓の一部が埋まっている。
 僕は左に座っている幹部――序列四位の森嶋 修≪もりしま しゅう≫に話しかけた。
 彼は二十代後半で幹部では僕の次に若い。空間系能力者のランクAだが、変わったタイプで瞬間移動ができない。そのかわり、異空間に重量五トンまで収納することができ、自由に取り出したり、弾丸のように発射することもできる。同時展開は不可能だが、平面に縦横二メートルまで展開できるので、遠距離攻撃は吸収したり反射したりすることにも使える。生命活動を行っている生物は空間に弾かれてしまうため、人が中に入ったり、ウイルスをばら撒いたりすることはできない。……毒ガスの散布は可能だが、最終手段だと言っていた。本人も影響受けるからだと思う。
「そちらは特に問題は起きなかったみたいですね」
「うん、敵は君たちに目を引かれたみたいだから。こっちは安全で良かったよ」
 にこにこ笑いながら答える。この人が怒ったところは誰も見たことがない。心の底から優しいらしい。実際は腹黒!!とかあるのかもしれないが、外道テレパシーを感じないのでおそらく善人。僕と違って根っからのいい人だ。


 そんなことを思っていると、急に悲しそうな顔をした。
「君たちの部隊は……その、残念だった、ね」
 本当に悲しんでる!? 僕なんか、マジ使えね、としか感想を抱かなかったのに。一応悲しそうな顔をしてうなだれておいた。わお、人を騙すっておもしれ。
「はい、彼らは立派に戦ってくれました。本当に残念です……」
 敵の一人でも道連れにしろよ、カス! と思ったのは心に秘めておこう。シャレにならなさそうだ。
 そんなこんなで適当に話していると、残りのメンバーが帰ってきた。
「「「遅くなってすいません」
 三人とも頭を下げながら入ってくる。
 こっちは疲れてるからさっさと行動してくれよ、なんて内心では罵倒しつつ表面上はねぎらう。
「君たちの責任じゃないんだし気にすることはないさ」
 好青年を装うと彼らは感激したようで、「ありがとうございます」と更に頭を下げた。つくづく僕って人として最悪だなと思う。あるいは、外道・腹黒・鬼畜・冷血。だからどうしたって話だけど。
 これなら、精神系能力に目覚めたばかりのクラスの女の子(小学一年生)が発狂して、心を病んでも仕方ないのかもしれない。
 今、彼女はどうなっているんだろう? 能力の覚醒直後は、僕のことを認識できず、記憶も混濁していた。結局僕に関することは記憶から完全に抹消され、小学校にも復帰できなかったようだけど、もう精神病院は退院できたのかな? 今ではショックから立ち直ってちゃんと言葉も話せるようになっただろうか……
 どうでもいい話だけどね、ホント。

 今となっては心を覆い隠す術もたくさん学び、低ランクの精神系能力者に内心を見破られる失態なんて犯さない。心が分厚いシェルターに覆われているようだ、とは中学時代の校内カウンセラーの言葉。C+ごときに見破られるわけねえだろ、このアンポンタンが!って言ってやりたかった。


 僕って別のベクトルで凄いな、と自分に感心する。
そろそろ会議、というか報告が始まろうとしていた。





[26605] 第三話(後編)
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:2e987ebc
Date: 2011/04/04 00:02
まえがき

あの長さはおかしいよなと改めて感じたので前後に分けました。
こちらが後編ですが加筆はしていないので改めて読む必要はありません。
すでに読まれた方にはご迷惑をおかけして申し訳ないです。

―――――――――――――

 初めにボスの伊里谷 呪元≪いりたに じゅげん≫が口を開いた。
「まず、王谷に率いてもらった部隊に、伝えねばならんことがある」
 そう区切って一息置いてから続けた。
「お主たちは……囮だったのだ」
 この言葉を聞くと、今回の任務に関わっていない人たちがいる、と不思議に思っていた三人が目を丸くした。麻衣が聞き返す。
「お、囮ですか? となりますと彼らが本命?」
 さすがに丁寧口調。彼女らしくないところが面白い。こうやって余計なことを考えているのも面白い。
 ボスはゆっくり、大きく頷いた。
 それを目にしたメンバーたちは、安堵とやるせなさがごちゃまぜになった表情をしている。取引相手の失態だったとはいえ、作戦失敗は心に響いていたと見える。ほかにも、囮作戦で死んでしまった二人の報われなさに憤っているのかもしれない。といっても彼らも暗部だからある程度は割り切れてるみたいだけど。
 それに対して僕ときたら……おや? あのアホどももう少し頑張れよって思ってるだけだな。うむ、意外と優しい。
「それじゃあ、本命で受け取ったクスリってのは、どんな物なんですかい?」
 具炎が核心を衝く質問をした。彼も内心、自分の力不足を嘆いていることだろう、うん。
「うむ、それはな」
 全体を見渡した。みんなの視線がボスに集まっている。
 満足げに一度うなづいてから
「身体強化薬じゃ!」
「「「……は?」」」
 僕も含め、全員の頭の上にクエスチョンマークが現れた。
 この薬は効果が低いことで有名だ。副作用も強く、いくら持てる手札を増やしたいと考えていても実際に使いたがる人は少ない。
 以前の物よりも強力になったんだろうか?
 目で問いかけてみた。
 みんなの反応がうれしかったかのように、笑みを浮かべながら続ける。
「強化能力がな、二倍になった。しかも、全身じゃ!」 
「継続時間と副作用は?」
 驚きの声が上がる前に突っ込む。効果は強くなって、副作用も強くなりました! そんなのでは冗談じゃ済まない。
 筆頭幹部の義母がボスの代わりに対応した。
「安心して。継続時間は約三十分。飲んだらすぐに効果が上がるから、戦闘直前に服用すれば、ある程度の作戦には対応できる」
「副作用も以前のより弱くなった。副作用が切れるまで、使用できないのは同じじゃが……強化効果が切れてから、痛みで身体能力が半分近くまで落ちるのは二十時間だけじゃ」
 具炎を含めたほとんどの者が驚いている。実際凄いことで、僕もかなり驚いている。
「昔の二,三日副作用が続くやつに比べればずいぶんと良くなったもんだ」
 回りも、うんうんと同意している。そう、昔の身体強化薬はゴミ同然だったと言って差し支えない。
 そこで最後の幹部、乃磁 純矢≪のじ じゅんや≫が、一番懸念されていることを聞いた。いや、聞いてしまった。
「さぞかし高そうじゃないですか」



 空気が凍った。下っ端たちは、やっちまったよこの人、という表情をしている。ボスとと義母は、なんでここで聞くのかな? 無能なのかな? と若干キレている。さすが世紀のエアブレイカ―。どんな空気でも壊すことにかけては超一流と謳われる乃磁 純矢。せめて幹部だけの時に聞けばいいのに。無駄に責任感があるからみんな君をいろんな意味で怖れているんだ。この僕が優秀と認めるくらいだから相当なものを持っている。ああ、もったいない。もっとも本人は責められていたり、空気的な意味で怖れられていたりすることに気づいていない。


 エアブレイクもあそこまでいくともはや芸術だな、と頷いていると意気消沈したボスが肩を落としながら質問に答えた。
「一回分で――二十六万円じゃ」
「……」
 高いな、高い。前の何倍なんだろうか。
 暗部と聞くとなんとなくお金がたくさんあるように聞こえるけど、どこもお金のやりくりに困っている。暗部に入った時は驚いたが、これが暗部の常識。


 会議室は沈黙に包まれている。誰一人例外なく、いや、純矢を除いた全てのメンバーが下を向いており、顔を上げようする者はいない。
 ちぇっ、誰かこの空気どうにかしろよ。こんなことを言えるはずもないがぼやきたくなった。
 僕は己の心を奮い立たせ、意を決して大声を上げた。男にはやらなくちゃいけない時が、立ち上がらなくちゃいけない時がある! 
 なんてね。めんどくさい、かったるい、やりたくない、仕方ない、それだけしか思えない。
「べ、べ、別にいいじゃないですか。切り札といことで……ほら! 切り札は簡単には使えないって、ロマンですよね?」
「そ、そうだ! 落ち込むことはない! 切り札はいざという時に使う物だから問題ないんだ。高宮の言うとおりだ、ロマンだよ、ロマン! な、みんな?」
 具炎が焦りながら同調すると、「そうだ、そうだ」と全員が口を揃えるようになった。まるで死んでしまったかのような空気は生き返り、ボスの顔もパァ―と明るくなる。
「おお、みんな分かってくれたか! わしはお主らのような部下を持てて幸せだぞ!」
 僕はほっとして席に着く。ちらっと義母の方に目を向けると、苦笑いしながらウィンクし、手を合わせて感謝してきた。


 この薬は表に公表するらしい。量産化及びさらなる高性能化を図り、その後、副作用がさらに軽減してからだけど。オリンピックや大会などで悪用しても、一目でばれるし、検査で陽性反応を示すからだと言っていた。
 適当に聞き流していると会議、というか報告が終わっていた。茶番、茶番。
 僕は基本的に実働部隊なので、研究所の仕事には関わらない。未成年だし、それに別の日に正式な会議をもう一度開くと言っていた。幹部と研究員を集めたやつを。だからぼけっとしていてもなんら問題ない。

 そういうことで僕にとっては一本の豚毛にも劣る任務報告と簡単な会議が幕を閉じ、帰宅の路に着こうとした。
 かと思うと突然、義母がやってきて耳元で囁く。
「三十分後に幹部だけで会議があるから、まだ帰らないでくれるかしら?」
「分かった」との旨を伝え夜風に当たりに外へ出ようとする。


 するとこれまた突然、麻衣が話しかけてきた。後ろには、今回の任務のメンバーが済まなさそうに佇んでいる。
 囮任務のことで文句を言いに来たな、と見当をつけた。僕は、優しいということで暗部では通っているので、苦情だとか相談を持ち込んでくる隊員が多い。些細なことでも邪険に扱わず、真摯に対応しているうちに頼りにされるようになった。本性を明かすつもりはないので、めんどいと言って断ることもできない。
 頼られることは嫌ではないが、なんといっても多すぎる。一言、言わせてもらいたい。他のやつにも頼れ!
 精神年齢は三十過ぎでも見た目は中・高校生だ。少しは遠慮してほしい。なんといってもめんどくさい。
 笑顔の裏に悪意を抱く少年。でも笑顔。健気な僕、頑張りまくってるな。
「少し聞きたいことがあるんだけど?」
「なんだい?」
 麻衣も遠慮を知らない。……僕、年上ってだけじゃなく幹部でもあるんだけどな。たまには敬語を使ってくれないだろうか。日常茶飯事とは言え、今回は他のメンバーもいることだし。
 そんな僕の心の叫びを華麗に無視し、僕の手を引っ張っていく。残りの彼らも、おろおろしながらも着いてきた。
 いきなり止まるとこちらを向いて目を見つめてきた。異様に恐く見えるのは気のせいだろうか、緊張する。頑張って笑顔を維持するけど、内心はガクブル。膝が震えないように頑張り見つめ返した。
 麻衣は目を閉じ、一息ついてから質問してくる。
「囮作戦のこと、高宮君は始めから知ってたの?}
「うん」
 威圧感が凄すぎて反論できそうもない。
「そう……時間とらせてごめん」
 それだけ言うと頭を下げて帰ってしまった。



 拍子抜け。もっと責められるんじゃないかと思ったのに。延々と責められるよりも心にくるけど。
 隣に立っていた男が頭を下げている。
「す、すみません。あいつが失礼な態度をとってしまいまして」
「いや気にしてない。君たちも敬語は使わなくていいんだよ? 
 まあ、そんなことよりあまり責められなかったのが不思議だな。彼女の性格なら、任務開始前に知らせてくれてもいいじゃない! って怒られるんじゃないかと思ったんだけどね」
 実際、普段の彼女ならなにか言ってきそうだから余計に不思議だ。成長したのかな。
 敬語を使わないなんてとんでもないという風に首を振り、彼は自分の推測を述べた。
「あいつも理屈では分かってるんだと思います。でも、仲間が死ぬことにはなんか忌避感があるようで――」
「なるほど、まだ克服できていない、か」
「たぶんそうなんだと思います」
「ふ~ん、そういえば敵を倒したのは誰?」
「麻衣です」
「うん、もう帰ってもいいよ」 
「失礼します」と頭を下げて二人は僕に背を向けて帰っていく。



 しかし麻衣をどうするか、かなり難しい問題だ。
 ボスと幹部ぐらいしか知らない事実だが、麻衣は目の前で家族を殺された挙句食べられたという経緯がある。人が死んだり、敵を倒したりするのは克服して問題なくなったようだけど、仲間が死ぬとまだフラッシュバックしている。親しければ親しいほどきつくなるみたいだ。さすがにかわいそうだなと思う。
 今までよりは良くなって、敵を殺せるようになったけど……僕だけじゃどうしようもない。義母にも相談してみるか。

 ひとまず悩むのをやめ、僕は適当に外で休んだ。比較的郊外の方に建てられているため、辺りはとても暗い。雲が立ち込めているのが夜でも分かる。分厚いかどうかは知らないけど。でもきっと、今日は朝日が見えることはない。

 それなりに時間をつぶしたあと、のろのろと小会議室へ戻る。





 そこで僕は、後に世界を揺るがす重大事項を知ることになる。やってられないよ、としか感想を抱かなかったのはいつものことだけど。
 理由は分からず、そして面倒な話だったけれども、僕の思惑とは全く関係なくゲームは急速に加速し、終焉へと突き進むことになってしまった。
 今まで脱落者が居なかったのが嘘のように――――――――





[26605] 第四話
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:e3c6ea7e
Date: 2011/04/10 19:01
 超能力。
 それは未知のウイルスによる対処不可能だった病気。
 超能力が発症した原因は、二〇二四年に太平洋に落下した隕石にあると考えられている。正確には隕石の破片に付着していた未知のウイルスというべきだろうか。
 月に設置された迎撃ミサイルによって砕かれた隕石。その中のいくつかの破片――――比較的大きかったものが大気圏中でも燃え尽きず太平洋に激突した。
 その直後である。正真正銘の超能力者が各地に現れ始めたのは。未知のウイルスには、宇宙空間も大気圏突入による灼熱も障害とはなりえなかったのだ。潜伏期間は約一ヶ月。短時間で増殖し飛塵感染する未知のウイルスは、あっという間に地球上に広がり、最終的に全人類が感染した。いったん発症したウイルスは、どのように対処しても治る気配どころか、弱まる気配さえ見せない。しかし、人間には悪影響を及ぼすことはなかった。また、能力の種類は変わるが子供にも遺伝した。
 そのことが分かった途端、世界各国は素早く動く。
 超能力をカリキュラムに加え、さまざまな研究機関によって効率のよい超能力の向上法や戦闘術を開発していく。
 その間も超能力ウイルスについて様々な実験が行われた。しかし、人類の技術力では能力を強化させることも劣化させることもできず不可侵だったのである。



 ……その常識が変わろうとしていた。






 驚愕と沈黙が部屋を支配していた。
 それだけ、超能力に直接的な影響を与える薬ができたことが驚きだったのだろう。そういう僕もその例には洩れずしばし茫然としていた。
 一時的に一ランク下げることしかできないが、不可侵と謳われた超能力ウイルスに干渉できるようになったことは大きい。人々が知ったらどうなってしまうのか。

 なかなか面白くなりそうだと感じる。恩恵をもたらした新たな力を失いかねないこの薬を恐れるのか、それとも格差を広げた超能力を失うことで平等になれると騒ぎ出すのか。……そもそも一般に公表されるのははるかに先の話だろうけど。
 いずれにせよ、僕たちのいる小会議室は異様な熱気に包まれていた。
 誰かが口を開いた。
「どこが開発を?」
「第三支部の連中だ」
「それはそれは……連中これまた厄介なもんを作ったな」
「あいつらは研究馬鹿ですから。何を言ったところで無駄になるだけ、ってのを改めて確認させられたところですかね」
 具炎と僕のやりとりはこの場にいた全ての人の気持ちを代弁したと言えると思う。
 第三支部のやつらは今までにも言葉に記すこともはばかれるようなものすごいモノを作ってきた。そしてその度に面倒な目にあわされてきた。たくさんの成果を出しているため、バックからの評価は高めだが、現場からすれば疫病神でしかない。
 今回も、明らかにサイクルの厄介事に巻き込まれる可能性が高くなっている。
 こういうブラックボックスになりかねない問題は、僕が土に還ってからとまでは言わないけれども、せめて元の世界に戻ってからにしてほしい。サイクルが他の組織に狙われるということは僕の仕事が増えるわけで。ということは、僕も参加者だけでなく他の敵にも良く狙われるようになるわけで。そうなれば僕の死ぬ危険もアホみたいに上がることは三秒で分かる。
 もちろん危険度が上がるのは僕だけではない。他の人も、忙しくなり死ぬ危険も上がり、とデメリットがメリットを上回りすぎている。別の組織が開発するのなら傍観するだけで――バックから圧力をかけられなければという条件がつくが――事が済む。いことが一つもないと言うと誇張しすぎだけど。 
 この場にいる他の人も総じて嫌そうな顔をしている。誰だって面倒事は勘弁してもらいたいってことなのか。
 ボスが幹部たちを見渡す。
「それでは三つ星以下のメンバーにも伝えるどうかを決めたい」
「まずは全員に伝えるべきかどうかどうか、ね」
「信用の問題もあるから、全員に伝えたいところだけど」
「情報が漏れる可能性が高くなってしまうからな。一部に留めておくべきだろう}
「純矢の言うことはもっともな話だがよ、信用の方も馬鹿に出来んぞ」
 部下からの信用は重要な問題だ。サイクルの下っ端は他の組織に比べ数は少ない代わりに能力は高く、少数精鋭型だと言える。ただ幹部級から見れば下っ端の能力は決して高くということはできない。それでも幹部の数をはるかに上回っており、組織の大部分を占める大事な構成員である。相変わらず暗部社会のは世知辛いことだ。今日の麻衣の件もある。
 おっと、さっさと義母に相談しないと忘れてしまうかもしれない。それなりに大事な要件だから気をつけなければ。


 議論は続く。三つ星までには知らせる、二つ星の一部まで。様々な意見が出るけどなかなか決まらない。
 ここで一つの提案をすることにした。
「ここは全員に知らせた方がいいんじゃないですかね」
「皇輝か。理由はなんだ?」
 ボスに促される。
「遅かれ早かれこの情報は漏れてしまうでしょう」
 一呼吸置き異論がないことを確認する。
 小さくうなづき続けた。
「それならばいっそのこと全員に伝えてしまい、サイクルの組織力を高めていった方がいいと思いまして。緊急事態とまではいかなくても、ある程度厄介な状況に置かれているのは間違いありませんから」
 みんな心が傾いたようで考え込んでいる。

 ひとまず、まともな意見を出せたのでものすごく気楽になった。
 残りは消化試合も同然だ。他の人が話し始めるまで、しばし夢の世界へと旅立つ。
「確かにいずればれてしまう可能性は高いわね」
「だが情報が洩れやすくなるのも考えものではないか?」
 純矢が苦言を呈しているようだけど、僕の案に真っ向から反対って感じはしない。すぐに決まってしまうのもなんなので、とりあえず提案してみたという雰囲気がする。
 結局、それから数分と経たないうちに全員に知らせる方向に決定された。
「なるべく早い対応をとりたい。そこで三日後には全てのメンバーに伝える。それまでは…………三位以上の幹部で協議する。
 三日後まで話題に出さないように注意してくれ。では解散」
 僕たちは「了解です」と返事をすると、どことなく厳かな雰囲気を醸し出しながら静かに部屋を出て行った。
 
 部屋を出た幹部たちは凄まじいことを聞いたせいか、心なしか足取りがふらふらとしている気がする。客観的かつ冷静であることが取り柄の僕も、若干ながら頭がくらくらしている感じがしていた。おそらく普段ほど冷静にはなれていない。




 僕は、倦怠感を振り払うかのように頭を小さく横に振った。確か麻衣のことを相談しないといけないんだった、と先に小会議室を出た義母を追いかける。後ろから声をかけて呼び止めた。
「ねえ、お義母さん」
 振り返り「どうしたの?」と微笑みながら声をかけてくる。
「麻衣のことで相談があるんだけど」
「分かったわ。帰りながら話して」
 時間も遅く、あと数日で高校に入学するためとりあえず駐車場に向かった。
 その間にも今日の出来事、すなわち下っ端たちと少しの間だけ語った、麻衣の克服できていないトラウマを義母に説明した。ちなみに両親のいない彼女がどこに住んでいるかというと児童養護施設だ。当然サイクルの管理下にある。


 相談する相手が義母なのは家族だからというだけではない。
 義母も麻衣についてはいろいろ知っているからだ。
 というのも、麻衣のリハビリに義母と僕が付き添ってあげていたことに関係する。僕は途中からだったが、なぜ付き添ったかといえば義母に誘われたことが大きい。ちょうど僕がプログラムを終えたあとのことで、仕事がすくなめだったこともあり暇つぶしとして手伝ったのだ。なんといっても、学校行きたくなかったし。
 まあ、こんなことがあったので暗部の中で僕と義母の二人は、麻衣に心を開いてもらえる方なのだ。僕も他の人に比べれば、彼女のことを大切に見ている。
 ただ利用できる時は最大限利用し、切り捨てなければならない時は躊躇せず切り捨てることに変わりはない。こう考えているのがばれてしまうと社会的に死んでしまうが、所詮他人でしかない以上どこかで割り切らないといけない。
 そのラインが世間一般の人に比べて浅いだけ。僕は外道ですから。
 自分が生き残れなかったら意味がない。死んでしまったら何もかも失ってしまうし、ゲームに負ければ重いペナルティが科せられる。超越者を自称するくらいの変態だから、どんなモノにされるか分かったもんじゃない。負けることだけは絶対に避けなければ。


 僕の理由は置いとくとして、義母も筆頭幹部の立場にありながら、麻衣のことはかなり目にかけている。リハビリに付き合って情が湧いた、というだけでは足りないくらいに異常な優しさを見せている。たぶん何か大きな理由があるんだと思う。まるで自分の娘のように接することがあるからだ。もしかすると、もしかすると義妹ができるかもしれない。……義妹か、悪くないな。
 


 赤いスポーツカーのドアを開け中に乗り込む。
 お互いにシートベルトを締めてから、義母が車のエンジンをかけた。
 しばらくエンジンを温めている。義母はしばらく悩むそぶりを見せていたが、顔を上げると僕に話しかけてきた。
「もう一度病院で診てもらった方がいいかもしれないわね」
「それには賛成だけど、お金とか学校とかどうすんの?」
「そうねぇ」
 義母は呟くと車を発車させた。
「しばらく休んでもらうわ、学校も任務も。お金は私が負担するつもりよ」
 ずいぶんと太っ腹な対応だと感じる。本当に、麻衣が僕のように養子になる可能性が出てきた。僕にしてみても特に問題はないので、彼女がどう応じるかどうかだけだ。
 いずれ義妹と呼ぶ日が来るかもしれんな、とひそかに笑みを浮かべた。




 義妹ばんざい!! 


 義妹が欲しいのは確かだけどこのあたりにしておかないと。自重、自重。
 それに義母が麻衣を養子にするとはまだ決まっていないし。

 


 そろそろ家に着く。
 序列三位以上の幹部は三日後まで話し合いをしているはずだったから、明日からは夜になるまで僕は一人になる。
 暇すぎる。どうやって時間をつぶそう……
 ま、大した問題ではないから置いとくとして、発表の二日後からはついに高校生活が始まる。一度経験したことがあるから、特に幻想などは抱いていないが少しだけ楽しみだ。少しだけ、少しだけだぞ。
 高校は、一年生から選択科目があり自主性が重んじられている。昔と変わっている、というよりも前世と違っている。そんな違いを見つけるとやっぱりここが異世界なんだと分かる。いや、強制的に気づかせられるというべきか。一見そんなに変わったようには感じられないけれど、その些細な違いが面白くもあり、不本意ながら寂しくさせられることもある。どうしても異郷の地としか感じられないため望郷の念に駆られるのだ。
 それと同時に、結局は僕はゲームの参加者でしかなく決して安全な状況ではないことを改めて意識させられた。

 車が止まった。高層マンションが目の前に見える。空は暗雲が立ち込めている。そのせいだろう。もう朝と言っていい時間だけど太陽は見えなかった。時間がたてば雨も降るかもしれない。
 僕たちが住んでいる部屋、前世と同じく二一〇三号室あたりの窓をなんとなく見上げてみた。何の因果か知らないが、養子となったおかげで名字も住んでいる部屋番号も一緒になっている。


 そう、僕はゲームの参加者だ。元の世界に五体満足で帰りたい。はっきりいってゲームが終われば元の世界へ帰ることになる以上、この世界にさほど価値があるとは思っていない。自分に良くしてくれた相手――義母や具炎など数少ないが――彼らにはできるだけ恩返ししたいとも思っている。しかし、そんなことは二の次であることも確かだ。


 しかし元の世界の僕はこんなに非情だっただろうか? 
 僕は――表面上はともかく自身の内面においては、世間から見て悪と判断されたはずだ。友人たちと比べると、かなり狂っていた方だとも思っている。
 それでも、いくらここが別の世界でゲームの舞台であったとしても、元の僕はこんなにも世界に価値を感じていなかっただろうか。
 どうしようもないことだけど、このままでは元の世界へ戻った時に上手くやっていけるかどうか分からない。



 エレベーターのドアが開き二人で乗り込む。


 そもそも帰れるかどうかも分からない。勝ち残って最後の一人になりたい――――
 それなのに不安な気持ちを殺しきれない。昔はもっと自分に自信を持っていた。未熟な自分が恨めしい。いっそのこと感情がなければ楽なのにと思ってしまう。
 
 エレベーターが止まり、ゆっくりとドアが開く。いつもより遅く感じられたのはどうしてだろうか。

     

 まったく。笑えるくらいいつもの僕らしくない。まるで鬱患者になってしまったのかのようだ。ネガティブになりすぎているのは、いろんなことがあったからかもしれない。普段より疲れたのもあるだろう。
 そろそろ五時になる。もう明け方だ。
 他の参加者にも初めて会った。「放送」とやらがないからまだ死んでいないが、あと少しってところまでいけた。本当に惜しかった、もったいなかったな。

 小さなため息が漏れる。たくさんの説明できない感情が入り混じっていた。隣で部屋のドアを開けようとしている義母には気づかれなかったみたいだ。
 この世界では珍しく、彼女のことは好ましいと思っている、恋愛感情ではなく。
 彼女にはできるだけ幸せになってほしい。長生きしてほしいとも思う。



 じゃあ、僕はどうなのだろうか。


 …………そうか。




 僕は死にたくないのかもしれない。

――――
あとがき

やっべ、オレ生き残れんの? 死ぬんじゃね?的な話。
外道が故にこんな印象は受けないと思いますけど……。



[26605] 第五話
Name: 砂漠head◆2b8195be ID:e3c6ea7e
Date: 2011/07/17 01:27
まえがき

投稿が遅くなってすみません。
リアルが……

―――――――――――――――




 僕は制服を着ていた。ちらほらとちらほら同じ制服の人も見かける。コスプレではないだろうから同じ学校の人だと思う。付け加えると、入学式の日は、上級生は休みらしいから僕と同学年のはずだ。もちろんコスプレでなければ。




 そうだ、入学式の日を迎えた。電車に揺られ窓の外を意味もなく見つめながら、はっとしてそのことに気付いた。
 車内は混んでいて座るスペースはない。ほぼ一時間、ずっと立ちっぱなしだった。乗換がないのは楽だが、最寄り駅の関係で座れる可能性が著しく低いのが傷だ。朝っぱらから筋トレする趣味はないんだけど……


 しかし今日を迎えるまでは大変だった。
 二日前に例の発表があったわけだけど、あまりに暇だったせいで致命的なミスを犯してしまった。車で三十分近くかかるところを歩いていったことは間違いだった。IQ124の優秀児にあるまじき失態である。
 その時も猛烈に後悔――――ではなく、僕は何があっても後悔だけはしないと心に決めていて――――つまりは、反省していたというわけだが、今になってさらに反省している。疲れがとれない……若い人がうらやましい。見た目だけはまだ十五歳だけども。



 目的の駅への到着を知らせる放送が流れた。床に置いていたかばんを肩にかけ電車を降りた。
 改札口をくぐる。前世と違い、改札を通るだけでカードから運賃が引かれるためとてもスムーズだ。改札口で詰まってちょっとした渋滞が引き起こされることも滅多に起きなくなった。目をちらりと横に向けると、たくさんの同じ制服を着た学生が歩いているのが見える。
 私立魔城谷学園は中高大一貫で、そのこともあり内部生が何人かで固まって登校している。僕と同じように一人で登校する者も見かける。僕は外部受験で高校に入った上に、その外部の編入者数自体が多いとは言えないので、おそらく知り合いはいないだろう。具体的な数字として、内部から上がってくる人は約二百名で外部は約四十名といったところだ。ただ、僕は長く生きてきた分メンタルが強くなっており、友達が居ないといって落ち込むことなど決してない…………はず


 エスカレーターから降りると学校が見えた。
 誇張なしで、駅から十秒で着く。授業開始の一分前に駅に着けば、ほぼ百パーセントの確率で遅刻せずに済むだろう。これで助かるという人は多そうだ。時間に厳しい僕にはあまり関係ない話だが、役立つ来る日がこないとも言い切れない。


 校門をくぐり、壁に張り出されているクラス表と校内案内図で自分のクラスとその場所を確認する。両方ともディスプレイだ。一年B組三十一番、ひとクラスは四十人だ。僕って、た行なんだけど……一体何があった。


 校舎の方に目を向けた。右手には体育館やその他の運動施設、正面と左手にはそれぞれ五階建ての校舎がある。上から見ると丁度コの字型だ。そして正面校舎の奥には校庭とこれまた運動施設が広がっている。このことから分かるが、魔城谷学園はスポーツに力を入れている。スポーツと言っても、純粋に身体能力だけのものもあれば、超能力を駆使したものもある。両方とも強豪な学校として、他校に知られている。僕にはあまり関係のない話だが。暗部に入っているから参加する余裕がない。学外活動として適当に言い繕うだけだ。
 部活が強いのは敷地が広いことも一因だろう。中学と高校は同じキャンパスであるが、大学は別となっており開放的な趣が実に良い。別のキャンパスではあるものの、大学が遠いわけではなく、歩いて二,三分で着けることからちょくちょく大学の施設を利用しているとは、義妹になる可能性を秘めた麻衣の弁だ。
 麻衣の弁――――それすなわち麻衣もまたこの学校に通っていることを意味する。まだ中学生ではあるが、高校とキャンパスも一緒で始業時間も同じため、一緒に登校することになった。義母からそう伝えられたのだが、ついでに義妹にしてもらえれば願ったり叶ったりだ。
 あとは先生の質だな、と義妹に対しての逸る気持ちが顔に出ないよう、全精力を傾けて鎮めながら教室のドアをくぐった。取らぬ狸の皮算用にならないことを祈るばかりだ。
  先ほども似たことを言ったはずだが、この教室には残念ながら知り合いが居ない。つまり話す相手が居ない。周りがそれなりに盛り上がっている中でぼけっとしているのは恥ずかしいけれども我慢するしかない。
 でも頼むから先生よ、早く来てくれ。もしくは誰かが話しかけてくれれば……




 しばらくすると、僕の体感時間ではおよそ一時間、実際には二,三分程で二人の先生が入ってきた。僕の想いが、天に届いたかどうかは微妙な感じだ。
 彼らがどうやら担任になるらしい。
「みなさン、はじめまシて。私はアネット・エインズワースでス。一年間よろシくお願いしまス」
 はじめに、外人にしては流暢な日本語であいさつしたのは、名前からも分かるように欧米系の女性だ。年の頃はおそらく三十後半、短めで鮮やかなブロンドの髪と、同じくブラウンの瞳が印象的だ。ただ、ナチュラルのブロンドはほとんどいないはずだから、染めているか遺伝子操作をしているかのどちらかだろう。ちなみに、なぜかは知らないが「外人」は差別用語として、一般的な使用は禁止されている。正しくは、「外国人」だ。

「私は、深機 比呂雅<しんき ひろまさ>だ。以後よろしく」
 見るからに厳つそうな大男が答える。身長が百九十センチ以上のスキンヘッドが教師の職に就いているなんて俄かには信じがたい。良く採用してもらえたものだ。これで物理や数学の教師などだったら指さして笑ってやろうと思う。……まずい、これはヤバげなフラグが立った気が……



 全員が簡単な自己紹介を行った後、教師からホームルームを出て体育館へ移動するようにとの旨が伝えられた。そろそろ入学式が始まるらしい。なるべく早く終わってくれるとうれしい。主に僕が。そしてたぶん周りの人も。
 僕たち生徒は二列に並んで会場へ向かった。保護者たちの視線に晒されながらゆっくりと歩みを進める。用意された椅子の前に来ると、先生の合図に従って一斉に着席した。ほかの全ての生徒が入場し着席するのを待っていると隣に座っていた男子が話しかけてきた。
「君って見ない顔だけど外部なのか?」
「ああそうだけど」
「なるほど~、そうだ! 俺は知鍋 来<ともなべ らい>、君は?」
「僕は高宮 皇輝、よろしく」
「おう、こっちもよろしく。そういや入る部活はもう決めてんのか?」
「いや学外活動にするつもり」
「そうか……そいつは残念だな。で、どういうのをやってるんだ}
「総合戦闘術だよ。クラブに通ってるんだ」
「お! 俺もその部活に入ってるんだ。大会で当たるかもな」
「へえ、楽しみだね」
(やってないから当たるはずもないんだけど)
 スポーツとして競うことになると勝てるかどうか微妙なところだ。何と言ったって殺しとスポーツは違う。
 彼と話していると全員が座り終わったようで、学園長が壇上に置いてあるマイクの方へ歩いていく姿があった。
「我らが魔城谷学園は文武両道、心技体それぞれの充実を常に目標とし……」
 学園長の話とは長ったらしいことが一般的であろうが、今回の学園長はユーモアを適度に織り交ぜ、たびたび生徒たちの笑いを誘った。何日もかけて原稿を用意したと見受けられる。一生懸命原稿を用意しようが、準備に手を抜こうが生徒との交流はほとんどないことには変わりない。彼の努力が報われないことに変わりはないが、拍手を送りその苦労に敬意を示した。



 入学式を終えた僕は家に帰ることにした。ほかの人たちは、仲がいい連中で遊びに行ったり、両親と一緒に帰ったりしている。義母には「めんどう」の一言で片づけられてしまったし、特につるむ相手もいないのでしょうがない。一人で駅へと歩いていく。もっとも十秒ちょっとで着いてしまった。
 周りから見れば、ホームで一人さみしく電車を待っていると、後ろからトン、と肩を叩かれた。振り返れば見覚えのある顔があった。
 皮肉気に口元を歪める。
「知鍋か。内部なのに友達がいないとか、かわいそうだね」
「おまっ!? いきなりひでぇことを言う奴だな」
「冗談だって。そういえば同じ方面なんだ?」
「五つ先の駅なんだ。近いだろ」
「きてるね。僕なんて一時間もかかるからな。参っちゃうよ」
 それにしても彼とは話が良く合う。知り合い――――彼が僕をどう思っているのかは分からないが――――その関係になれて良かったと思う。順調にいけば友人になるかもしれない。


 五つ先の駅で彼が降りた後、暇つぶしとして電子リーダーで本を読んでいると、後一つで目的の駅に到着するとのアナウンスが頭の中に流れた。電子リーダーをかばんにしまい、ドアをくぐり早足で改札口を目指した……





 
 たしか今日は仕事はなかったはずだ。この数日間は暇になると聞いていた。そして実際に暇である。
 何もすることがない時に、トレーニング室で過ごすことが癖になっているのは別段不思議なことではないだろう。いつどこで誰に襲われるか分かったものではないのだから、肉体の鍛錬に励み技術を磨くことは欠かせない。とりわけ僕は。なぜか言い訳の言葉を考えながら、今日も黙々とトレーニングに励んでいた。


 自動ドアが開く音が聞こえた。
「高宮君今日もトレーニング? これで四日間連続じゃん」
 一体誰が入ってきたのかと思ったら哀瀬だった。
「なんか異様に暇なんだよね。出かける相手もいないし、学校もこれからだから」
 このところ良く見る気がする。義妹の前兆か……?
「そういう私も四日連続なのよね。まあ駄弁ってるだけなんだけど。どうせならさ、今度の日曜日どっかに出かけない?」
「日曜? 予定は特に入ってないから大丈夫だな。うん楽しみにしてるよ」


 明日からは早速通常授業が始まる。しばらく話しながら一緒にトレーニングを続ける。すでに十一時を大幅に回った。きりが良いところでトレーニングを切り上げストレッチを軽く済ます。
 哀瀬に「おやすみ」と声をかけて部屋を出ると、僕はベッドに向かいさっさと寝ることにした。




 いよいよ明日から二度目の青春、本格的な高校生活の始まりを迎える。


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