また、日本にはそういった領土問題、つまり国家主権に関することを考え、提言する機関がないのも事実です。韓国では島根県が「竹島の日」条例を制定すると、「東北アジア歴史財団」という組織を教育科学技術部の管轄下に設置し、年間約10億円もの予算を与えています。政府主導のもとに歴史認識問題に関する韓国の外交戦略を練っているのですが、中国でも、社会科学院が同じような役割を果たしています。しかし、日本では、たとえば竹島問題であれば、外務省の北東アジア課が担当し、日本海呼称問題については海上保安庁が専管するなど、国家としての基本戦略がないままに、縦割り行政の中で迷走しているのが現状です。
その結果、韓国に竹島の不法占拠を許し続け、2006年には竹島周辺の海底地名問題を機に、韓国は排他的経済水域の基点を鬱陵島から竹島に移しました。そして、今度は中国が、「韓国の手法を見習えば尖閣諸島を奪える」と言い始めている始末です。
──尖閣諸島の問題が、韓国の竹島問題と関連しているということでしょうか?
下條教授:そうです。香港の週刊誌「亜州週刊」は9月26日号で、「韓国奪回独島風雲録」と題し、「韓国の対日強硬策をモデルにすれば、日本から尖閣諸島を奪うことも不可能ではない」と報じました。
(研究室にて撮影)
そして、ロシアの北方領土に対する動きも、これに連動していると見るべきです。というのも、時期を同じくして9月25日、ロシアは9月2日を「対日戦勝記念日」に定め、翌26日にはメドベージェフ大統領が訪中しました。そして、中ロ両国元首による「第二次世界大戦終結65年に関する共同声明」を発表したのですが、そこでは「中ロは第二次世界大戦の歴史の歪曲、ナチスや軍国主義分子とその共犯者の美化、解放者を矮小化するたくらみを断固として非難する」と日本を非難しています。これは韓国側の歴史認識と同次元です。その流れの中で、メドベージェフ大統領の国後島訪問が行われたのですが、日本のメディアは、国後島訪問を大々的に取り上げても、その背後のつながりをほとんど報じません。
このような中国、ロシア、韓国の現状を指して、10月9日のチャイナネットでは、日本は「四面楚歌」の状態にあると報じているのです。
そこで韓国の国会(独島領土守護対策特別委員会)(*1)も11月25日、「東アジアでの中日、ロ日の領土紛争は、独島領有権の主張に好機」。「(尖閣諸島を実効支配している)日本が中国に対抗する論理は、(竹島を占拠する)私達が、日本に対し、独島の領有権を主張するためにそのまま使えばよい」。「日本は四面楚歌に置かれた」としました。
しかし、中韓ロが同じ土俵に上がった今こそ、日本は領土問題の解決に漕ぎ出すチャンスです。領土問題を国際舞台の場に持ち込み、今回見つかった史料のように、歴史的事実を突きつけることによって、これらの国々の主張を論破していくことができるからです。
──国際舞台の場というのは、具体的には国連を指しているのでしょうか?
下條教授:国連もひとつの場ですが、もっと広い意味で、国際世論と捉えてもらったほうがよいかと思います。
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