2011年7月16日放送
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『えっ… "新幹線"特許を 中国が申請!?』
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日本が提供した技術が中国のものに?
今年6月に開業した北京と上海を結ぶ中国の高速鉄道ですが、よく見ると日本の新幹線にそっくり。
それもそのはず、もともとは新幹線「はやて」の技術供与を受けたのがきっかけ。
ところが、中国の鉄道省は「すべて中国のオリジナルです」と主張。ヨーロッパやアメリカで特許を申請しています。一方、技術を提供した日本のメーカーは、『供与した技術は中国国内での使用に限る契約』であると反論しています。
でも、昭和39年に開業した日本の新幹線の技術は、国内メーカーと(旧)国鉄からJRに続く技術者が積み上げてきたもので、今は、日本の高速鉄道技術をアメリカなどに売り込もうとした矢先です。そこに、いわば「教え子」である中国がライバルとして参入してきたというわけです。
高速鉄道の特許をめぐる中国の狙いとは何なのでしょうか。そして日本への影響は・・・?
●専門家
黒瀬雅志さん(弁理士)
莫邦富さん(ジャーナリスト)
加藤青延(NHK解説委員・中国担当)
●ゲスト
山田五郎さん(評論家)
大沢あかねさん(タレント)
〈大沢さん〉
新幹線の技術が中国で使われることによって、日本への影響が何かあるのでしょうか。
〈山田さん〉
2つの疑問があります。1つは中国が取っている特許の内容。次に日本側(川崎重工)は中国で特許をとっていなかったのかという点です。
プレゼンテーション1
「独自技術? 中国のねらい」
■それってホントに独自技術?
山田さんの"中国式新幹線のどこが特許なのか"という疑問ですが、公にされていないために、当分、分かりません。
そこで、中国の高速鉄道のどこが独自技術と言えるのか。
鉄道技術一筋50年、工学院大学客員教授の曽根悟先生にうかがいました。
「先頭部分などの形は『はやて』、運転席付近は『500系』に似ています。
車両の下には台車の振動を防ぐヨーダンパーが2本ついています。日本の新幹線は1本ですから、そこは異なります。アメリカに申請すれば特許が認められる可能性はあります」。
もし中国が鉄道技術を外国で特許をとると、技術の高さが国際的に証明され、商品価値が上がります。
すでに特許を申請しているアメリカ、ブラジルロシア、EU、さらに日本の5つの国と地域では高速鉄道計画が持ち上がっています。
市場規模は2015年で73兆円になるとの試算もあり、ここに中国が参入する可能性も高まります。
なんと言っても、価格競争になれば中国は圧倒的に有利ですから。
〈莫さん〉『独自改良を迫られた中国』
今回の中国の高速鉄道で騒いでいるのは日本だけで、同じく特許を申請しているアメリカは騒いでいません。日本人は事実を知らない人がほとんどです。「はやて」は技術供与当時の設計速度は250キロ、最高速度315キロでしたが、中国に実際に輸出されたのは設計速度200キロ、最高祖速度250キロ。つまり、日本より劣った様式のものでした。そこで中国側は新技術を共同開発しようと日本側に提案しましたが、日本側は拒否しました。そこで中国独自に改良を重ねて新しいものを造る「再創新」に乗り出したのです。
申請後、登録済みになれば、チェックできますから、そこに問題があるなら日本側が抗議すれば阻止することもできます。
〈加藤解説委員〉『特許を取る必要がなかった日本』
NHKで調査したところ、日本の川崎重工は「はやて」の技術の特許を日本では取っていますが、アメリカではとっていないことが分かりました。新幹線が開業したのは1960年代のこと。日本国内に高速鉄道をめぐらせることが優先で、海外で特許を押さえるという発想自体がなかったのでしょう。
私は、今回、特許が出願されたアメリカでは"通る"と考えています。アメリカで中国企業の後ろ盾となっているのはGE社ですが、その法務のプロが精査して21の技術を申請しました。アメリカの後ろ盾があれば、中国も外国との取引がやりやすくなるはずです。
今は、車両とその技術の特許だけが取りざたされていますが、大事なのは鉄道を運行させるシステム全体。運行システムはその国でいったん採用されると、地続きのところはそのシステムで運行することになります。中国の運行システムが採用されればアメリカ大陸、さらには中国と地続きのロシア~ヨーロッパなどをつないでユーラシア大陸横断高速鉄道を走らせることもできる。
〈黒瀬さん〉『内容が分かってから論議すべき』
特許は申請から1年6か月たてば公開され、内容が分かります。ただし、アメリカで特許がとれたからといってすごいということにはなりません。鉄道以外でも自動車産業などは外国の模倣に危機感を持つべきでしょう。
中国が外国企業を閉め出しているという声もありますが、そうではなく国内で競争力の低いところを保護していると考えます。
プレゼンテーション2
「特許倍増計画 中国の戦略 」
■中国国内の特許政策
高速鉄道で今回中国が海外で特許を申請しているのは21。それが中国国内では1900もの特許を申請中です。
なぜ中国が国内での特許取得に躍起になっているかというと、これまでは外国企業の特許が多く、年間1兆円も特許使用料を払ってきたという背景があります。そこで、特許取得を増やす政策が立てられました。
その一環としてまずは特許を取得した企業には報奨金を出すことになりました。北京市のある村では年間最大1200万円。新しい技術開発にも力が入るわけです。
さらに、中国ならではの独自の規定が設けられます。これが日本企業にとって、影響があるかもしれません。どんなことが起こりうるのか。
完全なフィクションですが、"可能性のある物語"として、「深読み機械工業」の高速巨大肉まん包み機を例にとって説明します。
【1】この機械は、見たこともない巨大な肉まんを猛スピードで作ります。技術は企業秘密でした。それが、日中で特許を取ったので中国でも生産を始めようと考え、現地の会社と提携しました。
【2】ところが、まもなく、現地のパートナー企業「○×有限公司」が、そっくりの機械の製造を始めました。
【3】実は、日本製が皮を右にひねっているのに対し、中国製は左にひねっている・・・。それでも改良したものだとして特許が成立(あくまでフィクションですよ)。
【4】その後、"国内では左ひねりの肉まん以外は製造・販売禁止"という独自規定まで新設されてしまいました。(もちろんフィクション)これでは、日本側が機械を作ろうにも、中国側に特許を支払わざるをえず、最終的に中国から撤退してしまいました・・・というお話でした。
〈莫さん〉『事実を知って論議してほしい』
中国には多くの外国企業が進出しています。皆さんが言うように中国がパクリ国家だったら、これだけの国が中国とビジネスするために進出してくるでしょうか。
肉まん製造機の左巻き・右巻きなどの例が出ましたが、左巻き以外製造禁止となったら、次の段階では生地の硬さで勝負することを考えるべきです。
中国高速鉄道の件で中国が国内で1900の特許を取ったことばかりがクローズアップされますが、実は日本もヨーロッパも特許をとっています。そこは報道されていません。日本の皆さんには事実を知っていただきたいです。
日本の技術力は他を追随させないものですから、自信をもってビジネスを進めていただけばよいと思います。
〈加藤解説委員〉『日本の技術を世界に通じるものに』
中国には「技貿結合」という言葉があります。中国に進出する外国企業は技術提供をしなければいけないというものです。これで製品の国産化率を上げ、最終的にはすべて国産化していこうという政策です。技術が取られてしまう可能性はあります。
それでも、技術の出し惜しみをしていると、製品がガラパゴス化してしまい、世界各国で使えないものになってしまいます。製品にもよりますが、盗まれてもいいので、技術は出していくべきです。肉まん機械の例ならば、左まき以外製造禁止となったら日本は別のアイデア、たとえば、二重まきなどのアイデアを出せばいいのです。
〈黒瀬さん〉『特許以外のもので勝負』
日本の特許政策は劣っていません。その後の活用がうまくいっていないだけです。
特許だけがすべてではなく、日本には加工、測量、保守、点検など職人気質といわれるノウハウがあります。ここに自信を持つべきでしょう。
〈山田さん〉『日本もマネして技術国家になった』
中国には多くの外国企業が進出しています。皆さんが言うように中国がパクリ国家だったら、これだけの国が中国とビジネスするために進出してくるでしょうか。
肉まん製造機の左巻き・右巻きなどの例が出ましたが、左巻き以外製造禁止となったら、次の段階では生地の硬さで勝負することを考えるべきです。
中国高速鉄道の件で中国が国内で1900の特許を取ったことばかりがクローズアップされますが、実は日本もヨーロッパも特許をとっています。そこは報道されていません。日本の皆さんには事実を知っていただきたいです。
日本の技術力は他を追随させないものですから、自信をもってビジネスを進めていただけばよいと思います。
〈加藤解説委員〉
昔から中国は「虎の住む宝の山」と呼ばれてきたんです。
したたかに交渉しながら、進出していく。それが大事。大丈夫、日本の技術はすごいんですから。
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