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【産経抄】7月18日
2011.7.18 03:38
「ウヘホムフイテ アールコォオゥオゥ」。坂本九が、あの独特の節回しで歌う『上を向いて歩こう』を初めて聞いたとき、作詞した永六輔さんは激怒する。初対面だった19歳の若者が、ふざけているとしか思えなかったからだ。
▼作曲した中村八大が50年前の7月21日に開いた、リサイタルでの出来事だ。この歌がまもなく爆発的な反響を呼び、数年後には国内だけでなく、『スキヤキ』のタイトルで、米国でのヒットチャート1位に輝くとは、3人を含めて誰も想像すらしていない。
▼音楽プロデューサーの佐藤剛さんによると、永さんの歌詞の内容は、悲しく切ない。いわば哀歌(エレジー)が、坂本九の声と「歌う力」によって希望と再生の歌となった。それが、世界的大ヒットの理由だという(『上を向いて歩こう』岩波書店)。
▼坂本九の43年の生涯をたどる連載記事を書くために数年前、家族や友人を訪ね歩いたことがある。昭和60年の日航ジャンボ機墜落事故の直前まで、何より情熱を注いでいたのは、北海道で放映された福祉番組だった。「ニキビの九ちゃん」の笑顔が、社会的に弱い立場にいる人たちの大きな救いになっていた。その九ちゃんの『上を向いて歩こう』が、発売50年の節目を迎えて、DVDやCDとして再び売り出されている。
▼東日本大震災の発生から4カ月が過ぎた。復興のかけ声とは裏腹に、被災者の多くはいまだ前途に不安を抱えたままだ。放射性セシウムが含まれた稲わらを与えられた肉用牛が、全国に出荷されてしまった問題もある。福島県の畜産農家をはじめ関係者は、絶望の淵(ふち)に沈んでいる。
▼九ちゃんの笑顔と、希望と再生の歌が、今ほど求められる時代はない。
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