そして年が明けて2006年、バーバラ様から舞踏会への招待状をいただいたのです!
「私が定期的にやっているトークイベントの中で、この同人誌を本にしてくれる会社を探してみませんか?」
それは、新宿のライブ会場『ネイキッドロフト』という所で行われる≪企画の鉄人≫というイベントでした。
なんと、出版社に勤める編集者さんや原稿を書くライターさん、そして出版化未定の企画を持っている人間が集まり、その場でプレゼンしたら、
「それ本にしましょう・おお原稿は私が起こしましょう・やったぜオレのアイデアが本になるぜ」
の理想の現実化が達成できるか!?
と言う、まさしく出版界版の『スター誕生!』みたいなイベントでした。
↑よくまぁこんなイベント思いつくものですよねぇ…。
「当日は例の同人誌を持って会場に来てね♪」
との指定で、おそるおそる会場に行きました。
うわっっ何これ、ちゃんと会場ほぼ満員で、しかもなんか皆さんすっごいマジメな顔してノートなんか取ってる人もいるではないですか。やっぱりこれって冗談とかお遊びじゃなくてマジな舞踏会だったのか!?(←すんませんバーバラ様、実は会場に着くまではひょっとして業界さんたちの冗談イベントかも…とか少しだけ疑っていました)
司会進行のバーバラ様が、出版社の人とか印刷会社の人とかと色々話していますが、こっちはそれどころじゃありません。
真剣に、自分の同人誌の内容を、自分がやりたい事の内容をアピールしなきゃならないんですから!ひえぇぇぇぇぇ!
いよいよ出番がやってきました。
えー、幸いと言いますか実はワタクシ、人前でしゃべる事には抵抗の無い人間なので、とりあえず精一杯しゃべらせていただきました。、どーしてオタクには遺言状が必要なのか、オタクの持ち物というのがどんなに処分がやっかいな物なのか、とにかく今のオタクには絶対、絶対、こういう本が必要になってくる時が来る、いや実はもうなってますってば!
ぜーぜー。
「はい、それでは判定です。本郷さんの企画『オタクのための遺言状マニュアル』は出版化できると考える方〜♪」
……あ。
ありませんかそうですか。
いえ、別にそんな甘い期待はしていませんよ。ちょろっと新宿のライブ会場に行って、ちょろっと壇上に上がってベラベラしゃべって、そしたら白馬の王子さまがやって来て、あらどうしましょワタシってば商業出版のめくるめく世界に連れてゆかれてしまうわぁぁ〜♪あ〜れ〜♪
なんて期待なんかしていませんでしたよ、ホントですってばっっっ!
ぐすん。
「うーん、このままだと本にはねぇ。
たとえば、オタクの人たちのそのスゴイ部屋を何人も何人もバァァァッと写真で見せて、これがオタクの生き様だ、みたいにビジュアルで見せたらいいかもしれないけど」
「いいと思うけどやっぱり、こういう企画は部数にはつながらないかなぁ」
なるほど。
アマチュアの私は単純に、世の中で必要とされている内容なら、それを言えば誰かが認めてくれて本になるのかと思っていました。でもそれはあくまでも同人誌レベルの話しであって、「商売」だと、見てもらった瞬間のビジュアルとかが大きな要素になるんですね。
そして、いただいたご意見で一番心に突き刺さり、鋭さに泣きたくなったのはこちら…。↓
「あのね、この企画の本がいちばん売れる場所って書店じゃないんですよ。
この本は、書店の棚じゃなくって、同人誌即売会の会場でならすごく売れる本なんですよ。
全国の本屋さんの棚に一冊ずつ配本しても売れません。
必要としている人たちの目の前に持っていくと売れる本なんですよ」
ビジュアルをどうとか、死に方じゃなくて生き様を出す本にすればとか、私はそんな事をしたくてここに来たんじゃないんです。
もしも自分や、自分のようなオタクが死んだらどうすればいいんだろう。それを解決するための手がかりになれるものを作りたいし本にしたいんです。
その事を分かってくださって、でもそのうえで、商業出版の人間として私の企画の最大の欠点を指摘してくださった。
ありがとうございます。
イベント終了後、バーバラ様と一緒に会場に残って、色々な業界の方々とお話させていただきました。
楽しかったのですが、でも私はどうしても、会場で言われたことが引っかかっていたのです。
『必要としている人たちの目の前に持っていくと売れる本なんですよ』
……それって、商業出版の世界では出来ないことなの?
じゃあ出版社って、本を作ったら自分の本を、取次会社の決めたラインに乗せるしかしないの?
こうすれば売れる、でもそれは普通の取次ラインじゃない。だからこれは売れない本。
この論理、私にはどうしても受け入れにくいものでした。
「またチャンスはありますから。この企画は私が持っていますからね」
そう言ってバーバラ様が励ましてくれました。
まだ、チャンスはあるかもしれない。
そうよ、絶対売れるはずだもん、だってアタシみたいに死んだらどうしようって考えるオタクは絶対にたくさんいるはずなんだから!
これが、2006年の夏でした。
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