生体腎移植を巡る臓器売買事件で、逮捕された開業医の堀内利信容疑者(55)らが宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)側からの調査に備え、臓器売買を隠蔽(いんぺい)するための打ち合わせをしている場面を収めたビデオ映像があることが捜査関係者への取材で分かった。警視庁組織犯罪対策4課もビデオの存在を把握し、経緯を調べている。
捜査関係者によると、ビデオ映像には、会社役員の江口祐子容疑者(47)が堀内容疑者と妻則子容疑者(48)に口裏合わせを指南している様子などが記録されている。ドナー(臓器提供者)仲介に暴力団が関与していることに不安を覚えた則子容疑者が隠し撮りしたという。
堀内容疑者は宇和島徳洲会病院で移植を受けるためにドナーの石川竜哉容疑者(21)と養子縁組を偽装。病院の倫理委員会の調査には「実の親子のような関係で、互いに手術を望んでいる」などと説明し、手術の承認を得たとされる。
これに先立ち、ドナー仲介役の指定暴力団住吉会系組長、坂巻松男容疑者(70)の指示を受けた江口容疑者は、倫理委の調査で不正が発覚することを防ぐ目的で、堀内容疑者夫妻や石川容疑者に受け答えの仕方などを詳細に指南したという。堀内容疑者夫妻への指南は、則子容疑者が自宅に併設するフラワー教室が使われた。則子容疑者はこの際、ビデオカメラを事前に部屋内に隠し、江口容疑者が偽装工作を指導する様子を収めたという。
則子容疑者は、堀内容疑者が板橋中央総合病院(東京都板橋区)で移植を受けようとした際のドナー探しを佐々木ひとみ被告(37)に持ちかけるなどの役割を果たしたとされるが、関係者は「夫から強いプレッシャーを受けて渋々不正に協力するようになったと聞いた」と話す。「板橋ルート」では、ドナー仲介役の組員と金銭トラブルになるなど、暴力団の関与に不安を覚えていたといい、再びトラブルに発展した場合に備えて、ビデオ映像を残そうとしたとみられる。【川崎桂吾、前谷宏、喜浦遊】
警視庁組織犯罪対策4課は15日、東京都港区赤坂6の指定暴力団住吉会の本部事務所など数カ所を臓器移植法(臓器売買の禁止)違反容疑で家宅捜索した。同会系組長、坂巻松男容疑者(70)がドナー紹介の報酬として受け取った約800万円の一部を上部団体に上納していた可能性があり、資料を押収して資金の流れの解明を進める。
毎日新聞 2011年7月15日 15時00分(最終更新 7月15日 23時10分)