カネボウやダイエーの再建にかかわり、200制度改革を強く推進。その働きぶりが警戒されて、2009年末に経産省大臣官房付という閑職に追いやられるも、メディアを使って政権と官僚を強く批判。日本の「中枢」に喧嘩を仕掛け続けてきた古賀茂明氏を直撃した。
―7月の15日までに辞めるように言われたと報道されていますが、本当ですか?
「事実です。先日の会見で海江田万里経済産業大臣もそれを認めたそうです」
―しかし、今は国会の会期中です。この人事について野党から攻撃されたら、海江田経産相は答えづらいのでは。
「まあ、野党からはすさまじい攻撃を受けるでしょうね」
―にもかかわらず、なぜこのタイミングで辞めさせることにしたのでしょう。古賀さんは、先日出された本などで東京電力の対応を強く批判してましたよね。電力会社が圧力をかけたのでは。
「今回の件の真相はわかりませんね。ただ、過去に東電が経産省内の人事に介入してきたことはあったとされています。東電とうまく癒着できた官僚は出世できて、東電と戦おうとした人は、その多くが経産省を去ったと。私も14年前、OECD(経済協力開発機構)に出向してパリにいたとき、電力の『発送電分離』を主張したことがありましたが、危うくクビになるところでした。
―発送電分離とは?
「今の日本では、電力会社が発電所も送電線も持っています。これを、発電所で電力を作る会社と、送電線で各家庭や事業所に電力を送る会社を別にする。これが発送電分離です。現在は、ある会社が発電事業に参入しようとしても、送電料が高くて利益が出ない。これは、送電線を持つ電力会社が独占的な地位を使って他社が入ってこないようにしているからです」
―送電線はインフラだから、せめてそこから発電所を切り離せ、と。
「電力会社は、さらなる分割が必要です。そのうえで送電線を持つ会社が発電所を持たなくなれば、太陽光や風力などの自然エネルギーの発電事業者も平等に扱ってもらえて自由に家庭に電気を送ることができる。家庭でも、電力会社を自由に選べるようになれば、会社間の競争が激しくなり、電力会社は発電機などの調達コストを下げざるをえない。取引先企業の裾野の広さと金額の大きさで経済界を支配している東電ですが、発送電分離が行なわれれば、今ほど大きな力は発揮できなくなるでしょう」
■期限は2013年。それまでに改革の道筋を
―しかし、電力会社が多くの官僚の天下りを受け入れています。これが続く限り、電力会社は省庁への政治力を持ち続けるのでは?
「それを防ぐために、公務員制度改革が必要なのです。そして、同様の問題は電力業界以外の場所でも起きている。官僚の利権を守るために、明らかに国民のためにならないことが公然と行なわれ、日本の将来をゆがめています」
―古賀さんが公務員制度改革で変えようとしたことですね。しかし役人の激しい抵抗にあった。なぜ官僚はこれほど強く反対するのでしょうか?
「日本が成長戦略を描けないでいることが大きいでしょう。今までは全体のパイが膨らむなかでその一部を官僚がかすめ取っていた。これから先、パイがどんどん小さくなるなかで、なんとか今の仕組みを死守して自分の取り分を確保しようとしているのです。しかし、日本の将来にとって、それは命取りになりかねない。タイムリミットは2013年と私はみています」
―2年後に何があるんですか!?
「その年には、参議院選挙と、このまま解散がなければ衆議院選挙があります。このときまでに、政治家は今後の日本の成長戦略と具体的な改革案を示して、そのうえで選挙で支持されなければなりません。そうしないと、市場関係者が日本はさらにその次の選挙までドラスティックな改革は行なえないと判断し、一気に日本を見放す可能性があります。一般会計の半分を国債に頼る日本は資金調達ができず、政府機能が停止して、社会保障給付ができなくなったり、公共施設が閉まる『政府閉鎖』が起きるかもしれない。もっと恐ろしいのは、このような危機感をあおって大増税がなされることです。そうすれば消費はさらに冷え込み、経済は落ち込んでいくでしょう」
―そんな状況で、若い世代はどうしたらいいでしょうか。
「若手の官僚と接していても思うのですが、私は、若者はみな改革派だと思っています。公務員でもビジネスの世界でも、それは同じです。既得権に漬かった中高年を引きずり降ろして若手を抜擢するだけで、日本は大きく変わります。そうなるためには、政治の力が必要です。日本の成長を阻んできた規制を取り払い、そこに若手が参入して成功してこそ、日本の未来があります。だからまず、若者には政治に関心を持って、選挙に行ってほしい」
―しかし、若者は社会の少数派です。投票だけで効果は上がるものでしょうか。
「若者にも意見があるということを表明していくことが必要なのです。投票はそのためのひとつ。ほかにデモをしてもいいし、改革を進めてくれそうな政治家に個人献金するのも手です。 今のまま若者に負担だけ押しつけるのなら、私は、若者は税金も社会保障費も拒否したらいいと思っているくらいです。勘違いしている人もいますが、今払っている社会保険料は、今の高齢者の暮らしのために使われています。つまり、若者は30年後、そのときの現役世代に支えてもらわなければならないのです。しかし、今の若者が高齢者になったとき、そのときの若者は高齢者を支えてくれるでしょうか。魅力的な国でないと、30年後の若者は日本を出ていってしまいますよ。若者は『30年後の日本のために、改革をしろ。そうでないと税金は払わない』と主張すべきです」
(撮影/髙橋定敬)
■古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、東京都出身。現在、経済産業省大臣官房付。1980年、東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現・経産省)に入省。さまざまな役職を歴任したのち、2008年、国家公務員制度改革推進本部事務局審議官に就任、多くの役人を敵に回しながら、急進的な改革を次々と提議した。
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