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天声人語

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2011年7月16日(土)付

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 福島の農業者はいったい何回泣かされるのか。今度は飼料の稲わらから困ったものが出た。福島県浅川町の農家が牛に与えた餌に、基準を超す放射性セシウムが潜んでいたという▼すでに42頭が出荷済みだった。南相馬市産に続いての汚染牛肉である。事故原発から遠く離れているだけにつらい。ほかにも検査対象ではない牛が、餌から内部被曝(ひばく)していたケースはないだろうか▼ひとたび原発に何かあれば、汚染は広域に、そして後世に及びかねない。菅首相が言う「もはや律することができない」危険。とりわけ子育て世代は、食の不安に敏感だ。ところが、首相の「脱原発」は十字砲火を浴びた▼「辞める人が言い出す話ではない」「議論も道筋もなく無責任」「ウケ狙いの延命策」と散々だ。第一生命のサラリーマン川柳に、〈エコとケチ主役で変わるその呼び名〉というのがある。崇高な理念も、唱える人によっては色あせる▼もっとも、「親原発」の論理も色々だ。電気代の値上げや停電が暮らしを脅かすという素朴な心配とは別に、原発利権と電力独占を守りたいだけの宣伝が紛れる。首相が「脱」に傾くほど菅おろしに燃えるのは、もっぱら後者だろう▼首相の四面楚歌(しめんそか)は、哀れをこえて滑稽の域である。嫌われ者から、怖いものなしの道化へと。ただ、作家の池澤夏樹氏が「ぎりぎりまで居座り、改革を一歩進めてほしい」と書くように、「脱」路線そのものは共感を呼んでいる。そう、道化にしか吐けない正論もある。

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