九州電力のやらせメール問題をめぐり、真部利応(まなべとしお)社長が16日、初めて引責辞任の意向を語った。同日、西日本新聞の取材に応じた真部社長は、「すぐに辞めるのは安易」としつつ、任期にはこだわらない姿勢を強調した。真部氏は海江田万里経済産業相の辞任要求を重く受け止めるとともに、課題にめどが付くまでの留任方針について「多くの皆さんの声が、それを許すかどうか」と、世論を見定める考えも明らかにした。
■「社長もこたえている。私もこたえている」
メール問題では、組織ぐるみの世論操作が問題意識もなく実行される、一般常識とは懸け離れた九電の企業体質が浮かび上がった。海江田氏は「組織のトップが責任を取るのは当たり前のこと」と述べた。
九電の松尾新吾会長は16日、「(経産相の)発言は重い。社長もこたえているし、私もこたえている」と話した。ただ、真部氏は、自らの進退について「人から言われて、というのは避けたい。自分のことは自分で決めたい。民間企業の責任の取り方は国の考えで決めることではない」と強調した。
■「一つでも課題を現体制でやらないと」
やらせメール問題の背景には、電力の安定供給を義務付けられる一方で、事実上の地域独占と、費用に利益を上乗せした総額で電気料金が決まる「総括原価方式」で安定した収益が保証される経営が招いたおごりがあるとの指摘がある。海江田氏も「電力会社の体質はお山の大将。深刻な問題があると思う。自分がいなくなると次の世代が心配というが、そんなことはない」と批判した。
これに対し、真部氏はメール問題の対応に加え、電力需給の逼迫(ひっぱく)対策、悪化が確実な業績の対応と山積する課題の対応を重視。原発の早期再開は絶望的で、火力発電燃料調達のため1日9億円の負担増が積み上がる。
「(メール問題の再発防止策をまとめる)第三者委員会もあるし電力需給の問題もある。業績の問題もある。一つ一つが楽観を許さない。どの一つを取っても結果が出ないと(新社長の)責任問題につながる。この状態で新体制でやるのは厳しい。どれか一つでも現体制でやらないと。この時点で引き継げるのか」と話した。特に念頭にあるのはメール問題の対応だ。
■「多くの皆さんに、許されるのかどうか、ということはある」
辞任を表明しながら居座る菅直人首相は、震災対応やエネルギー政策で迷走し、世論の批判を浴びている。組織的な不祥事を起こした企業のトップが留任しながら改革を進めるのはガバナンス(企業統治)上、難しいとの指摘もある。
真部氏は「世の中のあれ(常識)と合うかどうか、ということ。27日の取締役会での自分の話(進退)の議決のときは、私は部屋を出る」と話した。
取材の最後には、思想家内村鑑三の言葉を口にした。能(よ)く天の命に聞いて行うべし、自ら己が運命をつくらんと欲すべからず。「私のやるべきことがある。人として取るべき道があるはずという意味」といい、当面の留任は保身ではないと訴えた。
=2011/07/17付 西日本新聞朝刊=