きょうの社説 2011年7月16日

◎絵本ワールド 今こそ親子の絆深めるとき
 「親と子の絵本ワールド・イン・いしかわ2011」が16日から3日間、石川県内3 会場で開かれる。特に東日本大震災が起こった今年は、「絵本でつなぐ親子の絆・友達の輪」のテーマが一層強く心に訴えかけてくる。

 大震災では多くの子どもたちが家族や友達、住み慣れた家を失い、心に深い悲しみを抱 えている。そのような子どもたちの心を和らげ、笑顔を取り戻す一役を絵本が担っている。子どもだけでなく、寄り添って読み聞かせている親自身も子どもとの触れ合いで安心し、元気づけられているだろう。

 先に富山県内4会場で開かれた「とやま元気ワールド 絵本ランド2011」では被災 地を支援する「みんなともだちプロジェクト」のメンバーによる読み聞かせなどもあり、多くの親子が絵本に親しんだ。今回の「絵本ワールド」でも、絵本の魅力に触れるとともに家族や友達、命の尊さなどをあらためて考えるきっかけにしたい。

 被災地には全国から絵本の寄付が相次いでいる。避難所にもなった宮城県女川町の町立 第二小学校では全国から支援物資として届いた絵本約5千冊を蔵書にして「絵本館」がオープンし、子どもたちや親子連れでにぎわっている。石川県でも石川近代文学館が被災地に贈る絵本を募集したり、小松市立空とこども絵本館ボランティア会が読み聞かせで現地を訪れている。富山県でも同様の支援が行われており、大震災を機に、子どもの成長に欠かせない絵本の力のなかに、心を癒やす大きな働きがあることが再認識されたといえる。

 今年の「絵本ワールド」は金沢、白山、小松市の3会場で講演会や読み聞かせ、絵本の 展示などの催しが繰り広げられ、大震災チャリティーフェアも開催される。子どもから大人までが絵本の世界を楽しみながら、感受性や創造性、思いやりの心などを育む絵本のさまざまな可能性を知ることができるだろう。子どもは絵本を優しく読んでくれる親に自然と愛情を感じ取るという。近年は児童虐待の増加も深刻な社会問題になり、親子の心のつながりが問われている。今年の夏休みは絵本で親子の絆を深めてほしい。

◎「脱原発依存」 「私的な見解」だったのか
 菅直人首相が表明した「脱原発依存」は結局、首相の個人的な「願望」に過ぎなかった 。15日午後の衆院本会議で、首相が脱原発依存発言について「私の考え方を申し上げた」と述べたのは、政府としての統一した方針ではないという意味だろう。

 エネルギー政策は、国の根幹にかかわる問題である。これまでの方針を大転換するなら 、少なくとも政府・与党で論議を積み重ね、合意を得る必要があった。そうした手続き、過程を無視して単なる私的な見解、希望をあたかも政府見解のごとく披歴したのは無責任というほかない。

 民主党政権は昨年6月、エネルギー基本計画を策定し、原子力の割合を2030年まで に53%へ引き上げる目標を立てていた。福島第1原発の事故で情勢は一変し、効率やコストよりも安全・安心を最優先で考え、原発に依存したエネルギー政策を転換していく必要に迫られた。この方向性に異論はなく、中長期的な視野で、自然エネルギーを強化していくことも妥当だろう。「脱原発」の世論はもはや大きな潮流となり、これを押しとどめるのは不可能だ。

 だが、首相は基本的な方針を述べただけで、具体的な手段や時期を示していない。実現 への道筋が見えず、原発に代わるエネルギーの見通しも語らなかった。電力不足については、節電などで「この夏と冬に必要な電力供給は可能だ」と言うだけで、何を根拠にしたのか説明もなかった。

 枝野幸男官房長官は、会見で「首相は『脱原発依存』とは言っていない。遠い将来の希 望だ」と述べ、仙谷由人官房副長官も「あれは、首相の願望だ」と切り捨てた。こうした発言から見ても、首相の考えは政府の統一方針ではあるまい。行政のトップが「個人の思い」で政治を切り盛りされたら、国民はたまったものではない。

 エネルギー政策の見直しは、発電コストの上昇と国内産業の競争力低下を見極めながら 、慎重に進めていく必要がある。その司令塔は、退陣目前の菅首相には務まらない。新政権の下で、十分な時間をかけて議論してほしい。