国際通貨基金(IMF)のストロスカーン前専務理事が性的暴行で米国で起訴された事件で、フランスのメディアが批判されている。前専務理事をめぐっては多彩な女性関係がうわさされてきたが、米紙は「フランスのメディアが暴かなかった」と指摘、「政治家の私生活をさらけ出そうとしない」と非難した。
米仏には文化的な違いがある。我々は犯罪行為でない限り、政治家の私生活を暴く必要はないと考えている。無論、性的犯罪などの場合は報道すべきだが、我々はフランスで言うところの「寝室の問題」(私生活)には立ち入らない。米メディアは政治家の不倫問題を明るみに出し、政治生命を絶つが、我々は違う。不倫を肯定しているわけではないが、それが犯罪でない限り我々は書かない。
私はルモンドで40年間、記者として過ごし、経済担当として前専務理事に何度もインタビューしたが、私生活を書かないのは「会社の規定」があるからではない。フランス文化に根差した対応であり、自発的に書かないのだ。
米メディアは政治家に関するすべての情報を欲しがるあまり、政治家に干渉しすぎるように見える。クリントン元米大統領の(不倫)問題を我々は記事にしたが、それは不倫という観点ではなく、元大統領が失脚する可能性があったからだ。双方の合意で成り立つ成人男女の私生活に踏み込みすぎるのはおかしい。我々は(家族の)モラルと政治を混同してはいない。
背景には、フランスが基本的にカトリック社会で、米国が(道徳的に厳格な)清教徒社会だという事情もあるかもしれない。だが、我々は米メディアが少々、偽善的だとも考えてしまう。政治家の不倫を問題にする一方で、ばかげたイラク戦争を行い、多数の人々が死亡した問題を米メディアは当時、どれほど批判しただろうか。
米当局は前専務理事が手錠をかけられて移送される姿の撮影を許可したが、(無罪の推定を重んじる)フランスでは禁じられている。一部の英紙は前専務理事の獄中写真を掲載した。これは手錠姿よりもひどい。フランスでも、これらの写真は人目に触れたが、「無罪の推定を無視し、人間の尊厳を冒とくするものだ」との批判的な意見が多い。私が編集責任者ならば、このような写真は出さないだろう。【聞き手・福原直樹】
前専務理事が5月に米国で逮捕されて以降、ウォールストリート・ジャーナルなど米紙は「仏メディアは(政治家の私生活に)目をつぶってきたが、事件でそれもできなくなった」などと指摘。一方、仏メディアは前専務理事の手錠姿を報じた米メディアを「人権無視だ」と非難した。仏紙リベラシオンなどは「フランスには私生活を守る法律がある」と指摘、米メディアの批判に「書くべきことは書いてきた」と反論した。
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毎日新聞 2011年7月16日 東京朝刊