出雲市内の自宅周辺では毎年、初夏になるとカエルが鳴き始める。赴任当初は「風流なものだな」とのんきに思っていたが、力強い歌声は夜更けまで延々と聞こえてくる。「騒音」というと大げさかもしれないが、少しうんざりしている▲県立中央病院を拠点とした医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)の運航開始から1カ月が過ぎた。病院から400メートルほどの距離にある我が家では、ヘリが飛ぶたびに大きな音が聞こえるようになった。カエルの合唱のように長々と続くわけではなく、病院側が運航開始後に講じた騒音軽減策も一定の効果を上げているように感じるが、音が聞こえなくなるということはない▲それでも、トラブルもなく事業が軌道に乗ったということは、県民、とりわけ医師不足が深刻な石見・隠岐地域の人々にとっては朗報だ。患者の命を救おうと奮闘する医師や看護師、消防関係者らを思うと、プロペラのごう音も彼らの力強い鼓動のように聞こえてそれほど気にならなくなるから、不思議だ。【細谷拓海】
毎日新聞 2011年7月16日 地方版