どこまで広がる? 牛肉への影響

斎藤基樹記者

福島県南相馬市から出荷された牛の肉から国の暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されたのに続いて、福島県浅川町の農家が肉牛に与えていた餌の稲わらから国の目安を大幅に超える放射性セシウムが新たに検出されました。
この農家からは4月から今月6日までの間に東京、横浜、千葉、それに仙台の食肉処理場に合わせて42頭の肉牛が出荷されていたことが判明しました。
この問題について科学文化部の斎藤基樹記者が解説します。

ニュース画像

14日午後7時。
福島県が緊急に記者会見を開き、福島県浅川町の肉牛農家が餌として肉牛に与えていた稲わらから放射性セシウムを検出したと発表しました。
最大で国の目安のおよそ73倍という高い値です。
この農家からは42頭の肉牛が4月から今月6日までの間に東京、横浜、千葉、それに仙台の食肉処理場に出荷されていました。
このため福島県は、関係する4つの自治体に牛肉の流通経路の調査や見つかった場合の回収を要請しました。
さらに浅川町の肉牛農家に放射性セシウムを含む稲わらが流通したいきさつや保管状況を詳しく調べるとともに、県内の避難地域などにある肉牛農家で稲わらなどの餌が適正に管理されているか、立ち入り調査を行うことを決めました。
また、およそ4000戸ある県内すべての肉牛農家に対し、牛の出荷や移動を自粛するよう要請しています。

ニュース画像

今回、新たに課題として浮かび上がったのは、放射性物質が付着した可能性がある餌を家畜に与えないという国の指導が稲わらを出荷した稲作農家にまで徹底していなかったという現実です。
農林水産省は原発事故から8日後の3月19日に、家畜の飼育の注意点について関東や東北地方の自治体を通じて農家を指導しました。
指導では家畜に与える餌は原発事故の前に刈り取られ、原発事故のあとも屋内で保管されていたものや屋外でも密封されたものを使うことなどを求めました。

ニュース画像

しかし、こうした指導は畜産農家を対象にしたもので、稲わらを生産する稲作農家は対象となっておらず、さらに福島県が農家に指導を始めたのは3月22日からでした。
今回の浅川町の肉牛農家に餌を販売した白河市の稲作農家は屋外に置かれていた稲わらを原発事故後の3月15日から20日ごろにかけて集めていたということで、指導が行き届いていませんでした。
農林水産省も「屋外に置かれていた稲わらを春になって集めて使うことは想定外で、稲作農家への指導が徹底していなかった」と放射性物質に備えた対策が十分でなかったことを認めました。
いずれにしても、この農家からはすでに42頭の牛が出荷されているという現実があります。
そしてその一部の肉からは国の暫定基準値を上回る1キログラム当たり最高で694ベクレルの放射性セシウムが検出されました。 この肉は一般に販売はされていないということですが、ほかのものはすでに消費された可能性もあります。

ニュース画像

今回の肉の安全性について、畜産や食品安全の問題に詳しい東京大学の唐木英明名誉教授は「出荷された牛肉から放射性セシウムが検出される可能性は高いが、仮に基準値の10倍の量が検出されたとして、その肉を1キロ食べた場合の被ばく量は0.06ミリシーベルトだ。
食品からの被ばく限度の100分の1なので過度に心配する必要はない」と話しています。

しかし、消費者の不安を取り除くには、暫定基準値を超える肉が流通しないよう検査態勢を早急に整えなければなりません。
問題の稲わらを与えていた農家がある浅川町は、全頭検査を検討していた区域の外にあることから厚生労働省は全頭検査を行う範囲を広げることも検討しています。
また、農林水産省では、餌に含まれる放射性物質がどの程度、肉に移るのか調べる研究をこの秋にも始める予定です。

ニュース画像

牛肉の生産という一点に限っても、餌用の稲わらを出荷した農家から全国の食肉処理施設、そして私たち消費者に至るまで幅広く影響を与える原発事故の問題の複雑さ、対策の難しさを痛感します。
それでも原発によって放射性物質がまき散らされたという現実を考えると、国は、できることはすべて、一刻も早く実行すべきです。

(7月15日 21:45更新)

クリックするとNHKサイトを離れます