農業情報研究所>東電福島第一原発事故関係>2011年7月15日
福島浅川町の飼料稲わらセシウム汚染 農水省飼養管理指導の甘さ露呈
事故を起こした東電福島第一原発から60キロメートル以上離れた福島県浅川町の肉用牛農家が1キログラム当たり最大9万7000ベクレルもの高濃度放射性セシウムを含む稲わらを牛に与えていたことはが判明した。稲わらを搬入してもらったが南相馬市の件を見て心配になったというこの農家の連絡を受けて行った県 の調査で分かった。肉用牛農家は、事故原発からおよそ80キロメートル離れた福島県白河市の稲作農家からこの稲わらを購入した。稲作農家は、事故発生後の3月15日以降に水田から収集した稲わらをロール状にして保管していたという。
農水省は事故発生後の3月19日、「文部科学省がとりまとめている都道府県別環境放射能水準調査結果、原子力施設周辺環境モニタリングデータ等」を参照して「大気中の放射線量が通常よりも高いレベルで検出された地域」においては、以下に留意すること」と通知している。以下のこととは、
「乾牧草(サイレージを含む)を給与する場合は、事故の発生前に刈り取り・保管されたもののみを使用すること。さらに、(1)事故の発生時以降も屋内で保管されたものを使用すること。(2)屋外で保管されたものはラップ等の包材により外気と遮断されたものを使用すること。これらを使用する際には、包材の外装を念のため布でふきとったり、水洗いする等してから包材を開けること。
家畜の飲用水については、貯水槽にふたをするなど降下する粉じん等の混入を防止するための措置を講ずること。
放牧を当面の間行わないこと」、ということだ。
原子力発電所事故を踏まえた家畜の飼養管理について(22消安第9976号、22生畜第2385号、平成23年3月19日)
農水省関係者は、「事故以降の飼料を与えることは自粛をお願いしていたのに、指導が行き届かなかった」と声を落としたそうだが(「自粛不徹 国に衝撃 汚染餌牛 42頭出荷 わらセシウム 避難区域外でも」 東京新聞 11.7.15 朝刊 29面)、対象地域を具体的に明示することもない「自粛のお願い」で「狂牛病対策並みの厳重さが必要な飼養管理を(⇒牛肉のセシウム汚染 狂牛病対策並みの厳重な飼養管理が必要だが・・・)」を確保できるはずがない。稲わら販売農家も、購入農家も、通知を知っていたとしても、まさか自分が「自粛のお願い」の対象だ とは思わなかったに違いない(文部科学省のモニタリングデータを誰もが見るわけではなく、見たとしても自分のところが「大気中の放射線量が通常よりも高いレベルで検出された地域」だという基準もない)*。こういう重大な事態が次々現れるも、放射性物質汚染とその防止に関する農水省、政府、さらにはマスメディアの考えがあまりに甘いからにほかならない。早くからの警告にもかかわらず、決して本気で取り組もうとしなかった狂牛病対策とうり二つである。
浅川町事件で、農水省も漸く自分の甘さに気付いたようだ。岩手、宮城、福島、栃木、茨城、千葉、群馬、埼玉の8県で、畜産農家と稲作農家を対象に、わらの取り扱いに関する緊急調査を実施するという。ただ、これで安心というわけにはいかない。核物質並みの管理を欠く肉骨粉同様、放射性物質はいたるところに拡散している。穀物飼料といえども、どこで汚染されるか分からない。その混入防止は肉骨粉混入防止よりも難しいかもしれない。安全・安心は放射性物質拡散の停止と除染の完了まであり得ないかもしれない。
*後の報道によると、”鹿野道彦農林水産相は15日の閣議後の記者会見で、福島県白河市の稲作農家が販売した高濃度の放射性セシウムに汚染された稲わらをえさとして与えていた畜産農家2戸が、聞き取り調査に対して、福島第一原発の事故を受けて国が示した飼育管理方法を「知らなかった」と話していることを明らかにした。・・・ 農水省は原発事故後の3月19日に「乾いた牧草を家畜に与える場合は事故発生前に刈り取ったものだけを使う」との通知を出した。ただ、通知は畜産農家向けに出たもので、稲わらを供給する稲作農家は通知の対象外だった。鹿野農水相は「今後あらゆるルートで飼育管理の徹底を図る」と述べた”とのことである(稲わらの提供制限「知らなかった」 畜産農家2戸明かす 朝日新聞 11.7.15)。
「乾いた牧草」には「稲わら」も含まれると言わなかったのは農水省の落ち度だろう。 通知の内容を農家が知らなかったとすれば、それは国の通知を個々の農家に伝えるはずの県の落ち度だろう。ただし、県が伝えてたとしても、これが稲わらにもかかわる通知であることは理解できたかどうか分らないし、通知の対象となる個々の農家が「大気中の放射線量が通常よりも高いレベルで検出された地域」に 位置すると伝えなければ、それが自分がなすべき飼養管理の方法だと知ることもできないだろう。これは、通知の対象が稲作農家である場合にも同じある。従って、「今後あらゆるルートで飼育管理の徹底を図る」としても、問題は解決しない。いずれにせよ、落ち度は行政の側にあるのであり、農家の落ち度を責めることはできない。