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第一章『【唯我独尊】と無謀の侍』
番外編・取材とトレカ

「なんで全身写真なんだ?」
「あら? 聞いてなかったの? 貴方?」

 新聞部の生徒が写真をバシャバシャと撮っていた。アリシアスは傍にはいない。簡単な取材のみを適当に毒舌混じりで受け、帰ってしまっていた。当然写真は浩一との一枚だけだった。

「Sランク倒したってのがB+ねぇ。でもAにはあがれないんでしょぅ?」

 女言葉でヒゲの剃り跡が残っている大柄な男はそういって浩一の身体を撫でさする。写真を撮っていた別の生徒が邪魔だからどけ、と言うもピースピースといいながら浩一にまとわりつくぐらいだ。
 やんわりと、しかし力強く浩一はまとわり付く男の身体をどけようとするも、膂力が足りなく離れることはない。

「離ッ、離れろッ。糞ッ。おいッ。そこの写真係、こいつを離すの手伝えッ」
「お、おぅ。仕事が進まないから離れろッ。馬鹿ッ、この変態ッ。カマ野郎ッ。だからお前と取材組みたくねぇんだよッ!!」
「あアん。嫌よぉ。あ、やめ、蹴らないでッ!? わかったわ。ええ、さっきの質問に答えてくれたら離して、あ・げ・る。うふ」

 ぞわり、と全身を襲う悪寒に耐えながら浩一は必死に先ほどの質問を思い出す。Aランクに上がれない理由。つまり。

「武器補正なしでAランク以上の撃力を持つ攻撃ができないからだ。ほら、離れろ」
「そう。なるほどねぇ。浩一きゅん。ありがとぅ」

 で、どうして全身写真をそんなに撮る必要があるんだ、と浩一は悪寒を排除しながら問う。なぜか礼服ではなく着流し姿も何枚か撮られていたからだ。そしてその度に件の男は喜んだ。
 浩一の疑問にオカマ記者は先ほどの質問を自身の手帳に書き記しながら楽しそうに言った。

「浩一きゅんはトレーディングカードって知ってるぅ。あら? 目を丸くしちゃってどうしたの? 関係あるんだからしっかり答えてよ。それとも」
「ああ、知らない知らない。いや、どういったものかはわかってるが、何に関係あるのかがわからん」

 指定の制服を大胸筋の形がわかるほどにはち切れさせ、浩一に抱きつこうとした男はうんうんと頷きながら再び手帳に何かを記した。PADではない紙の手帳だ。恐らく、それにはたいしたことは書かれていない。情報はイヤリング型のPADを用い、思考で情報を列記しているに違いない。
 嫌な記者だと思いながら、それが性癖なのか、それともポーズなのか浩一は惑う。その脳裏には嫌な推測。つまりは性癖だからこそこのような質問方法にしたのだと推測はついていたが、疲れているのだろう。浩一は既にわかっていることを延々と考えてしまっていた。無論、答えたくない質問には適当な嘘でもついておこうとは思っているが。その程度は相手もわかっているに違いない。重要なのは真実ではなく、浩一が応えたという事実と、それなりに信憑性のある情報。そして記事を読んだ人物にどれだけ印象と情報を与えられるかだ。無論、答えた言葉を切り抜いて使ったり、別の情報と前後させて用いることがあるかもしれないが、浩一はリフィヌスという後ろ盾を今は持っている。無論、本家の実際的な力ではないし、アリシアスが気にかけている程度のものだ。
 それでも学園アーリデイズの新聞部程度ならば黙らせられる程度の力はあった。

「うん。そうね。じゃあこれをあげるわぁ」
「カード? トレーディングって。……なんだこれは」

 うんうんと頷く男に渡されたそれは、特殊な厚紙に人物の写真を印刷したものだ。無駄にハイスペックで防弾、防刃、防水、防火、防毒などの特性が付けられていることに気づかず。嫌そうにカードを見る浩一。
 イベントカード『新聞部』とそれには書かれていた。写真は目の前の二人組。効果:生徒一人の公式ランクを一ランクアップ。

「だからカードよぉ。トレーディングカードッ。私たちのはレアカードだからねッ。浩一きゅん気に入っちゃったしあげるわぁ。あ、そうそう、写真はね。浩一きゅんのカード作るのに必要だから撮ってるの。うふふ」

 去り際にアリシアスが面白そうに浩一を見ていたのはそのせいだったのか。ついでに浩一はそのときに渡された封筒を思い出す。
 沈む気持ちを奮い立たせる。このことを知った知り合いになんて声を掛けられるのか。そう思うと気の沈みようは半端ない。が、封筒の感触から中身はカードだとわかっていた。そしてアリシアスのどうでもよさげななかに面白さを見つけたような笑み。恐らく、これを知っていたのだろう。

「……何がしたかったんだ。あいつ」

 アリシアスから渡された封筒を開けてみる。ぎょっと、写真係が動揺したのがわかったがどうでもいい。取り出されたカード。それの縁は黄金。写真はキラキラと眩しさではなく、穏やかな光を放ち、輝いている。人物の絵姿だけが装飾は為されておらず。ただ威圧感やらカリスマやらそんなものを溢れさせ、ただ美しい人形のような蒼髪蒼眼の少女がいた。
 生徒カード『アリシアス・リフィヌス』公式Sランク。戦技Sランク。体力200。気力200。魔力400。特殊能力『青の修道女』消費魔力100。パーティー全員の体力気力を全回復。
 本当に何がしたかったんだ……。

「あ、あ、あ、あ、マジかッ。マジかッ。なんであんたがそれもらってんだッ。じゃねぇッ!! 寄越せッ。じゃねぇッ!! くださいッ。譲ってくださいッ!! お願いしますッ!!」
「伝説のレアカードよぉ。というか、写真撮った私たちも存在してるか怪しんでたんだけどぉ。あ、売ってくれない? きっと1000万は単価がつくわぁ。むふふふふ」

 いきなり土下座を始める写真係。にやにやにやにやしているオカマ記者とはち切れんばかりの大胸筋。そうして、既に撮られている自身の写真を思い。浩一は心底深いため息をついた。
 だからこの都市はたまにわけがわからないんだ……。


 一ヵ月後。自身のアパートに三枚、自分の写真を使われたカードが届き、浩一は喜んでいいのか、嘆いていいのか、悲しんでいいのか、さっぱりであった。

 生徒カード『火神浩一』公式ランクA。戦技ランクB+。体力300。気力200。魔力20。特殊能力『英雄の雛形』準備フェイズのみ使用可能。次の戦闘時、20%の確立で自身のランクより三ランク上のモンスターまで討伐することができる。また討伐後、体力と気力の数値は1になる。特殊能力『刀だけ』薬剤とトラップ以外のアイテムの使用ができない。

 後にこれが確立変動カードと組み合わされた後、禁止コンボ指定を喰らうことになる。
 それなりにレアカード。オークションでの最大値は三万ゴールドぐらいだったとか。





 備考:ネットワーク型集団対戦カードゲーム『学園ダンジョン』
    元々は、市民に対する軍の理解度を高めるために作られた軍人のトレカが元。そのときはゲーム性はなく、単純に偶像としての軍人をつくるための宣伝のひとつだった。
    しかし、学園都市のダンジョンでそれなりの成績を上げたものが軍人としても大成しているのに目をつけた二百年前のアーリデイズ新聞部が学生のカードを部内製造し、学園内で販売し始める。学生内でもランクの高いものは偶像視されることが多く、これは爆発的に大ヒット。部費以外の収入を得た新聞部の暴走がそこで始まり、記事がネタ方向に走って行くことになる。
    これを見た、当時それほど優秀でなく、ほとんど指示されたものしか造れなかった技術部。更に部員不足に悩んでいた市販ゲーム同好会が目をつけ、新聞部に強引に頼み込み、アーケード型の対戦ゲーム『学園ダンジョン』が作成された。
    しかし、当初の人気は鳴かず飛ばずであった。学生同士を戦わせることに嫌悪感を抱く生徒が多く。また八院の生徒がそれで気分を害し、ゲーム同好会の会長ごと社会的に叩き潰されることになる。無論、新聞部と技術部が生贄に捧げただけだったが。
    とはいえ、ゲーム自体は学園都市の技術力で作られたものだったため優秀で、面白いものであった。そして煽りを喰らい(自業自得だが)カードの売り上げが下がってきた以上。これを利用することを考えなければならなかった。技術部は筐体のマイナス分を取り返そうと必死だったのだ。
    そうしてとりあえず生徒にモンスターを倒させればいいんじゃないかと、たまたま顔を出し、お茶を飲んでいただけの新聞部の取材対象が何気なく言った言葉により、ランダムで自動生成した(軍機のため)ダンジョンマップを、カードとなった学生にパーティーを組ませ攻略していく『学園ダンジョン』の原型が完成してしまう。
    これが馬鹿売れした。
    ゲーム自体ではなく、本来ならパーティーを組まないはずの男子生徒同士や男女を組ませ、イベントでの会話が楽しめることに生徒が熱狂したのだ。無論音声が人工音声で、シナリオ会話は新聞部の学生が適当に捏造したものであったが、新聞部の学生が裏話に精通しすぎていたためか、リアル性があり、ファンを大量に獲得できたのだ。
    そうしてそれに目をつけた全く関係のない八院の分家の一人が学外にもそれを販売するルートを開拓。一般市民にも販売を開始。学生の親や兄弟、学生の戦闘にあこがれる子供たちを中心にして広まっていき、更にはアーリデイズ以外の学生も組み込み、こうして学園都市全体へと広まっていったのである。
    無論、軍機が多いため、これでステータス値やアイテム設定などは多くの改変を余儀なくされることになるが。このゲームは、学園都市に比較的好意的に受け入れられたのであった。

    ゲーム詳細
    1ゲーム500ゴールド。登録制。ゲーム終了時にミッションやシナリオに対応したカードを一枚入手できる。また、市販のスターターパック、ブースターパックを購入することでデッキを強化できるが、レアリティの高い生徒カードはミッションかシナリオのみで入手が可能。
    登録料金は1000ゴールド。ランダムに生成された出自と初期改造のEランクキャラクター(自身)を用い、学園都市の学生とパーティーを組み、ミッションをこなしていく設定。
    デッキにはアイテムカード、イベントカード合わせて60枚を組み込むことができ、これを用いミッションを完遂させることが求められる。
    また、戦果ポイントや単位を溜め、ランクを上げていくごとにパーティーのランクが上昇。ネームキャラクターと呼ばれる生徒カードをパーティーに組み込むことができ、またパーティーメンバーと会話を楽しむことができる。ちなみにパーティーランクが低い場合はコスト(公式ランク)をまかなえないために顔無しのモブキャラクターがメンバーを占めることになる。合掌。
    そして、プレイヤーは稼いだ資金やアイテムを用い、登録されたプレイヤーの身体改造、スロットの搭載、装備の購入などができ、プレイヤーを強くすることが可能となる。
    タイムアタック、スコアランキングなどに対応。また曜日ごとにイベントが設定され、集団でのミッションなどもある。同キャラクター同士の会話は笑えるらしい。以上。


    ちなみに、生徒カードの選定基準は各学校の新聞記事の一面か二面に乗ること。記事の凄さに比例して能力が強化されるが、一応バランスや風評も考えられるため俺Tueeeeeeeeキャラは四鳳八院ぐらいであるとかなんとか。


    アリシアス・リフィヌスの生徒カードの生産数はたった五枚。それ以上はアリシアスが許さなかった。しかも三枚を自身が持っているため市場に出回っているのは二枚のみ。ゲームではメッセージ送信が可能なため、使うと神キターー、升パーティー乙と呼ばれる。イベントカードとの併用でのデスペナなし蘇生とか鬼か。


    強い生徒カードをつくって欲しいために頑張ってSランクに昇格した猛者(馬鹿)が遥か昔に存在したという。

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