「宮田秀明の「経営の設計学」」

皇后さまに諭された

学士院賞・恩賜賞の授賞式で己を振り返る

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2011年7月15日(金)

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 6つの丸いテーブルがあって軽い食事を取りながら歓談したのだが、両陛下は順番にすべてのテーブルを回られる。最初は、私と佐竹明先生の恩賜賞組と文部科学大臣、学士院長のテーブルに両陛下が座られた。両陛下とも大変くつろいでおられて、歓談を楽しまれていた。私と一緒に恩賜賞を頂いた佐竹先生には、「ヨハネの黙示録」と「ヨハネの福音書」の関係はどうですか?などと午前中よりもっと深い質問を続けられた。両陛下は本当に楽しそうだった。

 そうして、私たちのテーブルを離れる際に皇后さまが私に向かって発したのが、冒頭のお言葉であった。

 もちろん、私たちも強制的に三陸の沿海都市をメガソーラータウンにしようと思っているわけではない。何よりも地元住民の方の意思を最大限尊重することが前提なのだが、それでもまだ少し高慢さが残っていたかもしれないと反省した。

 「地元の住民の方には分からないかもしれないですけど、こちらの方がいいですよ」といった上から見る気持だ。皇后さまにはこんなところを叱られた気がした。この目線の低い心の優しさには双手を挙げて降参するしかない。

さらに先を目指す

 その後は文部科学大臣の主催する晩餐会だった。フランス料理を頂きながら歓談した。すべての参会者が打ち解けて本当に楽しい夕食の場になった。

 9人の受賞者の専門分野はすべての学問分野をカバーしているのだから、研究対象の分野は本当に広い。しかも9人の授賞者が全員初対面なのに何かを共有して、いきなり旧知の友人に会ったような気がした。そう感じたのは、私だけではなかったと思う。

 「ヨハネの黙示録」の研究の佐竹先生と私とは、研究分野が両極端なぐらいに違う。年齢も20歳ぐらい違う。しかし、この日、いきなり親しい友人になったような気持だった。

 9人の受賞者に共通していたのは、偉ぶっている人がいないことだった。間違いなく研究に集中して人並み外れた努力を何十年も続け、ようやく認められて日本最高級の賞を頂いているのに、9人の皆が大変謙虚なのである。いいかげんな達成感を持たず、さらに先を追求しようとしている雰囲気が伝わってきた。

 82歳の佐竹先生の奥さんが言った。
「彼が今始めようとしている仕事はこれから10年ぐらいかかるそうです」

 当事者の私が言うのは少し変だが、学問の世界の進歩は国を支える。改めて認識しなければならないと思う。

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著者プロフィール

宮田 秀明 (みやた ひであき)

宮田 秀明

1948年生まれ。1972年東京大学大学院工学系研究科船舶工学専門課程修士修了。同年石川島播磨重工業(現IHI)に入社、77年に東京大学に移り、94年より同大教授。専門は船舶工学、計算流体力学、システムデザイン、技術マネジメント、経営システム工学。世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」の日本チーム「ニッポンチャレンジ」でテクニカルディレクターを務めた。著書に『アメリカズ・カップ―レーシングヨットの先端技術―』(岩波科学ライブラリー)、『プロジェクトマネジメントで克つ!』『理系の経営学』(日経BP社)など


このコラムについて

宮田秀明の「経営の設計学」

経営には「論理」が必要である。論理を積み重ねた理系思考がイノベーションを育む。技術力を最大限に生かし、プロジェクトをまとめ上げ、新しいビジネスを創造する。「理系の経営学」を提唱する東京大学の宮田秀明教授が理系の視点による経営の要諦を語る。

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