気象・地震

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東日本大震災:肉牛、汚染疑い拡大 「原発から75キロでも…」 畜産農家ら悲鳴

 ◇稲わら使えぬ

 またしても肉牛の汚染が問題に--。14日、高濃度の放射性セシウムを含む稲わらを食べさせていた福島県浅川町の農家から、4月8日以降に牛42頭が出荷されていたことが分かった。しかも稲わらがあったのは福島第1原発から75キロも離れた白河市。県内の農家は「福島で畜産ができない」と悲鳴を上げ、消費者は後手に回る国の対応に不信感を募らせた。【神保圭作、渡辺暖、喜浦遊、味澤由妃】

 「原発からかなり離れた地域で、まさか……」。今月8日に牛肉の出荷自粛要請を受けた南相馬市。10年近く畜産農家を営む男性(34)はため息をついた。「餌を県外産に変え、県内のすべての餌を調べて結果が出るまで出荷させないなど、すぐに手を打たなければ、福島産の牛は売れなくなる」

 出荷先の自治体は深夜まで流通経路の確認に追われた。6月16日までに計13頭が出荷されていた東京都は福祉保健局の担当者を集め、追跡調査の進め方などを協議。都は全国の自治体とともに、南相馬市から出荷された汚染牛6頭の流通経路を追跡し、13日に調査を終えたばかり。幹部の一人は「今回も流通した肉を地道に探していくしかない」と話した。

 42頭のうち32頭は横浜、千葉、東京の食肉処理場に出荷されており、首都圏の消費者に動揺が広がった。

 東京都中野区のスーパーで買い物をしていた飲食店経営、遠藤敬子さん(68)は「店に出るものを安全と信じて買っているのに。政府はなぜこうなる前にきちんと検査ができなかったのか」と憤る。千葉市美浜区のスーパーでは、12歳と7歳の子を持つ主婦(40)が「こんなことが続くと『大丈夫かな』と思ってしまう。子供のことを考え、オーストラリア産の肉を選びます」と言った。

 一方で、原発事故の影響を受け続ける地元農家への同情も。中野区の主婦、諏訪部明子さん(74)は「焼き肉に行っても牛肉は食べなくなったけれど、福島の人のことを考えると、本当に気の毒でやるせない」。千葉市の会社員の女性(63)は「農家も故意に被ばくした飼料を出したわけではないのではないか。専門家も『食べてもすぐに命にかかわるわけではない』と言っており、消費地の過剰反応は農家を苦しめることになる」と冷静な対応を呼びかけた。

 ◇出荷した農家「申し訳ない」

 42頭を出荷した浅川町の畜産農家は毎日新聞の取材に「本当に申し訳ないことをした。昨日から寝ていない。白河の購入先は10年以上の付き合いなので、どうしようもない。今は気持ちの整理がつかないので勘弁してほしい」と話した。

 ◇8県のわら緊急点検へ

 農林水産省によると、問題の稲わらは白河市の業者が市内の農家から集めたとみられ、昨年秋以降、野ざらしで置いていた。餌用の稲わらについて農水省は、収穫直後に乾燥させ屋内保存すると想定し「一冬、田に置いておくことは想定していなかった」という。

 同省は14日夜、稲わらについて福島、岩手、宮城、栃木、茨城、群馬、埼玉、千葉の8県に対し、畜産農家と稲作農家に対する緊急点検を実施するよう通知することを決めた。【佐藤浩、種市房子】

毎日新聞 2011年7月15日 東京朝刊

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