東電温存で笑う株主と債権者 数兆円の負担で泣くのは国民

2011.05.17

 東京電力の福島第1原発事故による賠償がどうなるか。政府はその賠償スキームを決めた。

 ずばりいえば、東電温存である。東電を存続させる場合、誰にメリットがあるのか。まず株主だ。それが正直に現れているのが、東電の株価である。東日本大震災が3月11日午後2時46分に起こった。さすがに、当日の株価には地震の影響はあまり反映されず、11日の終値は2121円だった。ところが14日以降は釣瓶落とし状態で、4月6日の337円まで急落した。この動きは、原発事故の甚大さ、それに伴う賠償に東電が耐えられないことを市場は早くも見切って、株はただの紙切れ、つまり株価ゼロに向かっていた。

 ところが、そのあたりから、東電温存の賠償スキームが報じられるようになる。すると、報道内容によって株価が上下するようになった。東電を温存し、奉加帳方式で他の電力会社に負担がまわるというスキームが報じられると、他の電力会社の株価が落ちて、東電株価が上昇するといったときもあった。5月11日は、東電温存スキームが確定したこともあってボトムの4月6日以降の最高値の525円だった。

 債権者もほっと一息だろう。電気事業法37条に基づく一般担保が付されている社債はかなり保護されるとしても、担保カバーのない債権まで保護されるので、債権者は願ったりかなったりだ。

 東電社長が自ら政府の救済を求めるなど、賠償額が東電の支払い能力を超えているのは明らかだ。今でも破綻していても不思議でない。そうであれば、債権の一部カットが行われるが、それを債権者は免れている。

 次は従業員だろう。ほんの気持ち程度のリストラは行われるが、企業年金カットなどの本格的な荒療治は行われない。労働組合出身者が多い民主党政権だったので、高給取りの従業員も含めて救われ、さぞかし安堵しているだろう。

 その一方で、それらの負担軽減は、いまでも高い電気料金の一段の値上げなどで家計や企業にはね返ってくる。その金額は数兆円程度だろう。企業が電力料金値上げを製品価格に転嫁するとして、国民1人当たり数万円程度の負担増になって、これを一定期間で分け合うことになるだろう。

 さらにまずいのは、東電温存で送発電の分離が行われず、地域独占が継続されることだ。仮に東電を解体し、東電の送電網の売却を行えば、発電分野での新規参入があって、電力料金は逆に下がる。こうした送発電の分離は、欧米の電力自由化では当たり前だ。

 結局、東電温存策で得する人は、これまでの電力の地域独占にあぐらをかいてきた既得権者だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

 

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