2011年07月14日 (木)

第145回芥川賞は該当作なし・選考委員の山田詠美さん会見全文紹介

第145回芥川賞は、1年半ぶりに「該当作なし」でした。

その理由について語った選考委員の山田詠美さんの記者会見、全文ご紹介します。

 

<芥川賞選考委員会見 山田詠美さん>

第145回芥川賞は残念なことに受賞作なしとなりました。
どの作品も点数が過半数に達せず、何度も討論しましたが、こういう結果になり残念です。最初の投票では、一番点数が低かったのは、水原涼くん「甘露」で、これはほとんど、
どなたからも点数をいただけず、最初に落ちました。
その次が、本谷有希子さんは、そのときにもう、点数が低かったので、議論の余地があまりないということで落ちました。

そして、石田千さんも、点数が低かったので、何人かの選考委員の方たちが、良い所を見つけ出してくださいましたが、落ちました。

最後に残ったのは、戌井昭人さん、円城塔くん、あと山崎ナオコーラさんでした。
それでいろんなことを話し合いながら、いろいろ意見が出て、興味深い意見がたくさん出ましたが、最終的には、戌井くんと。

あ、そうだ。山崎ナオコーラさんに関して議論した結果、再投票したときに一番低かったので、彼女が落ちて、最終的に、円城塔くんと戌井昭人くんということになりましたが、
これもまた、3回目の投票で票が分かれてしかも、しかもすごく低かったと言うことで、過半数にはぜんぜん達しなかったということで、なしという結果となりました。

Q.最終的な投票は受賞者を出すか出さないという議論ですか?
A.いえ、受賞者を出すということで決めていたので、一生懸命良いところを見つけようと、いろいろ話し合ったんですけど、そういうところには至らなくて、3回目の投票では過半数に達しないものは、やっぱり、受賞作にはならないということでそこで終わりになりました。

Q.それぞれの作品の良くなかったところ、どういう意見が出たかを教えてください。

A.すべてですか?良いところがあったというのを、あまり見つけられなかったというのが本当のところで、最後に残った戌井昭人くん、円城塔さん、山崎ナオコーラさんに関しては、いろんなところがありましたけど、今回、某選考委員、まあ村上龍さんなんですけど、ほめる言葉よりもそれの欠点を見つけだすときに、これほど選考委員が言葉を尽くした賞はなかったのではないか、という種類のことをおっしゃっていました。
けれども、それを思いながらも、ちゃんと良いところもあるとは言っていましたけど、今回はちょっと少なかったと思います。

Q.円城塔さんと戌井昭人さんが至らなかった点は?
A.円城さんに関しては、これは、戌井さんとか山崎さんとかとは違って圧倒的に彼を評価する人と、評価しない人が明らかに分かれていて、それでもう最初から、何かを話す前にすでに円城塔を認める、認めない、という議論が交わされていて、大変、興味深かったです。

戌井さんと山崎ナオコーラさんに関しては、作品に沿って、ここが小説を書いていく上で問題なのではないかということはいろいろ言われましたが、山崎ナオコーラさんに関してはその段階で、いろいろなことを言っても、一番最後の投票には乗らなかったと思います。

Q.円城さんを認める、認めないという議論についてどういう意見が?
A.それは、ある選考委員がおっしゃいましたが、芥川賞という範疇ではなく、SFとか、そういうような種類のような所で読めば、ものすごくすばらしいことかも知れないけれども、芥川賞ではないかもしれないと、そういう議論も出ましたし、だけども別な選考委員はそれとはまったく関係なく、そこを取り外したところでこの作品はすばらしいという人もいましたし、そういう種類のところで。
だけれども、これを読んで全然分からないという人もいました。

Q.水原涼さんは最も得点が低かったと言うことだが、どの点がよくなかったのか?
A.ちょっと、それに関しては・・・どうしてこういうふうになったのかなというような。
これはわたしの意見と受け取ってもらっても良いですけど。
ちょっとあれですね、その前に×全員でっていう。

Q.選考委員の中でどういった言葉があがったのでしょうか?
A.すごくカジュアルで、ものすごく、ちょっとけんかしそうになったりとか、ものすごくフリートーキングでおもしろい意見は出ていたと思います。
ですからみんな、前回の時に、2人のすごくすばらしい(西村)賢太と(朝吹)真理子ちゃんが出たので、そのときがあまりにもすばらしかったので、今回、印象が薄いというような種類のことがあったんじゃないかと思うんですけど、それでも、すごく、なんというか自分の小説に関しての思いとかって言うのを、ぶつけあっていたというような感じで、けんかになるんじゃないかという場面もあって、ちょっとおもしろくてひやひやしました。

Q.山田さんご自身はどなたを推されたのでしょうか。
A.わたしのことはいいとおもいますけど、わたしは、戌井昭人くんの「ぴんぞろ」を推しました。

Q.「ぴんぞろ」のいいところを教えてください。
A.人をきちんと、真摯に人と向かい合って、そうしたら、人を描けば場所も物語も付いてくると言う、小説の王道を久しぶりに読んだなと言うことを、わたしは申し上げまして、それのことに関して、私だけが彼に○を付けましたが、受賞にはかないませんでした。

Q.反対された意見は?
A.どこかで読んだ小説と言うのがあったのと、こういう種類の小説のオーソリティといってはなんですけど、ものすごいすばらしい作家として、やっぱり宮本輝さんとかいらっしゃるので、そういう方たちのことが引き合いに出されて、おもしろいけどどこかで読んだ既視感があるとして評価に至らなかったことが大きいと思います。

Q.本谷さんに関してはどんな意見が出たのですか?
A.これも、自意識過剰の女の子を書くというのが得意でいらしゃるとおもいますが、今回やりすぎなのと同時に、文章自体があまりにもひどい、比喩がわからない、小説的なことと言うのと根本的にちがう文章が、という種類のことですかね。

Q.円城さんについて評価する委員の具体的な意見を教えて下さい。
A.評価しないと言う人のことを言った方がわかりやすいと思うんですけど、彼の世界の難解な言葉とか、そういう種類のことがあわないという種類のことをおっしゃっていた方もいましたし、それと同時にこの中に書いてあることが正確でない、この知識を深く知っていらっしゃる方がいらして、このことに関しては間違っているという指摘もありました。

そして、まあこれはわたしなんですけど、そういうのを抜かしても、ものすごくおもしろく読める小説だということを延々といいましたけど、別にそういう種類のことと、また違うことをおっしゃっている方がたくさんいて、でも、それもなるほどなと。
彼が思っている種類のことは決して小説になると彼が思っている種類ではないとおっしゃっている方がいました。

Q.円城さんと戌井さんは最終投票でどちらが点数高いのか。
A.最終的には同じなんです。同じなんですけど過半数には達していなかったので、そこに至らなかったので今回はなしとなりました。

Q.ナオコーラさんについては?
A.ナオコーラさんは、一番最初は点数が高かったんですけど、そのあとにいろいろ話していて、△をつけた方も、今回は本当に低調で、△つけなきゃと思っていた方が多いと思うので、それに関してはあまり議論されなかったですけど。

Q.震災後初の芥川賞の選考会ですが震災が何か選考に影響を与えたか。
A.そのことに関してはまったくありません。
なぜなら芥川賞という小説に関して、即座に何かをするものではないという認識が皆さんにあったと思います。

Q.受賞作を出さないことについて議論は無かったか。
A.もちろん、いつも、受賞作を出す方向で、それで出さなきゃ行けないし、出せばすごく活気づくといいましたけども、でも今回いかにも自分たちで選んできた芥川賞というもののラインではと、というのがあったときに、前に落とされた作品のことなども考えると、とても出すことは今回は出来ませんでした。

Q.今回の候補作の全体的な印象は
A.前回みなさんご存じだと思いますけど、(西村)賢太と(朝吹)真理子ちゃんというものすごい大スターがでてしまったので、今回すごい地味なイメージがあったと思うんですが、地味なりにすばらしい作品があれば、もちろんわたしたちは推しますし、いいところも見つけて、皆さん、選考委員の方たちもやるとは思うんですけど、でも今回はあまりにも、なにか、自分のなにかを費やして書いたというものではなく、候補作がなかった、まあ、これは会社に悪いかも知れないですけど、候補作を集めなきゃいけないというような感じは、これは私の意見ですけど、そんな風に集められたのではないか、という感じもあって、候補に挙がっている方たちって、もっとすばらしい作品を書いてくださる方だと信じていますので、次に候補になったときにはもっとすばらしい作品を読みたいと思っています。

(会見はここまでです)

 

投稿者:かぶん | 投稿時間:21:17  | カテゴリ:会見&インタビュー
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