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グランセル地方編
第三十七話 グランセル王宮、極秘潜入作戦!
<グランセルの街 遊撃士協会>

エステル達が遊撃士協会に足を踏み入れると、受付にはシェラザードの他にも懐かしい顔ぶれが揃っていた。

「ツァイス支部からやって来る応援って言うのはあんた達だったのかい」
「カルナさん!」
「やあ君達、ロレントで会って以来だね」
「クルツさんもお久しぶりです」

カルナとエステル、クルツとヨシュアはあいさつを交わした。

「さあ、あなた達、さっさと転属手続きを済ませてしまいなさい。これから忙しくなるんだから」

シェラザードに急かされて、エステルとヨシュアはカウンターへと向かった。
カウンターで2人を出迎えたのは、折り目正しさを感じさせるスーツを華麗に着こなした金髪の青年。
金髪の青年は爽やかな笑顔でエステルとヨシュアに話し掛ける。

「初めまして、私はグランセル支部担当のエルナンです」
「よろしくお願いします」

ヨシュアとエステルはエルナンに向かってお辞儀をして、転属手続きを始めた。

「それにしても、同じ様なスーツを着ているのに、こうも印象が違うとわね」
「……誰を見て言ってるのかな?」

エステルの視線を感じたオリビエがそう聞き返した。

「分かってるじゃん、オリビエさんとエルナンさんの事よ」

エステルの言葉を聞いたオリビエはエルナンをじっと見つめる。

「彼も中々のものだが、僕には及ばないと言った所かな」
「どうしてそんな自信満々なのよ」

エステルはあきれ顔になってため息を吐いた。
しかし、エルナンは爽やかな笑顔を浮かべながらも鋭い目でオリビエに話し掛ける。

「確かに、あなたはそのおどけた仮面の中にどれ程の爪を隠し持っているんでしょうね」
「ははは、僕をたかだと言うのかい、それは君の事じゃないのかい?」

オリビエに尋ねられたエルナンは、顔つきまで堅くしてオリビエに質問を返す。

「では、あなたは?」
「ふっ、僕はわしだね」

鋭い視線でにらみ合いを続けるエルナンとオリビエの間に緊迫した空気が流れた。
初めにからかったエステルも思わず引いてしまう程だった。

「何をバカな事を言っとるか!」
「痛たっ!」

その雰囲気を破ったのはミュラーの鉄拳だった。
叩かれたオリビエの反応の面白さに部屋の中に居たエステル達から笑いが起きた。
転属手続きを終えたエステルとヨシュアは改めてエルナンから声を掛けられる。

「これであなた方2人はグランセル支部の所属となりました。ようこそ、グランセル支部へ」

エルナンがそう宣言すると、見守っていたシェラザード達から拍手が起きる。

「この支部の推薦状を貰えばあなた達も晴れて正遊撃士ね、私と同じだわ」
「へえ、シェラ姉もこの支部が最後だったんだ」

シェラザードのつぶやきを聞いて、エステルはそんな感想をもらした。

「エルナンさんってば、なかなか推薦状をくれなくて、他の支部の倍の時間は掛かってしまったわ」
「ええーっ、そうなの?」

シェラザードがため息をついてそう言うと、エステルは驚いて悲鳴を上げた。

「だけど僕達も素晴らしい先輩達に囲まれて仕事が出来るんだから、良い機会だと思わないと」

推薦状を貰って正遊撃士の資格を手に入れたらリベール王国を出ていかなければならない。
自分勝手な願望だと思うがヨシュアは嬉しさを抑えられなかった。

「そういえば、ボース支部からは誰も着ていないの?」

部屋の中を見回したエステルは、ロレント支部のシェラザード、ルーアン支部のカルナを見つめた後にエルナンに向かって尋ねた。

「ボース支部からもどなたか来て頂ける事になっているのですが、今は依頼が忙しくて来れないようなんですよ」
「そっか、アガットさんがグラッツさんに会えると思ってたのに」
「残念だね」

エルナンの説明を聞いて、エステルとヨシュアは顔を見合わせてため息をついた。

「ですから、アネラスさんをなるべく早くグランセル支部に派遣して欲しいとキリカさんにお願いした所ですよ」
「よかった」

エステルの顔がたちまち笑顔に変わった。

「それでエルナンさん、あたし達への依頼って何?」
「ほう、君達は依頼を受けていたのか」

エステルが話を切り出すと、オリビエが興味を引かれたようにつぶやいた。
ヨシュアはしまったと言った表情になり手で顔を押さえ、エルナンは困った顔をしながら、シェラザードに視線で合図を送る。

「さあて、私達は街のパトロールにでも行きましょうか」
「痛いっ、そんなに強く引っ張らないでくれたまえ!」

シェラザードはわざとらしく大声でそう言うと、オリビエの腕をつかんで遊撃士協会を出て行った。

「あいつの無礼を謝らせてもらう」

ミュラーはそう言って深々と頭を下げると、オリビエ達に続いて遊撃士協会を出て行った。
3人が出て行くと、エルナンはほっと安心して息をつく。

「シェラザードさんが機転を利かせていただいて助かりました」
「エステル、依頼の内容を関係の無い人に聞かせちゃダメだよ」
「そうさ、巻き込んでしまう事になるからね」
「だから遊撃士協会の規則にも守秘義務が科せられているんだ」

ヨシュアの言葉にカルナとクルツも同意した。
エルナンはため息をついて書類にペンを走らせる。

「とりあえず、規則を破りそうになったエステルさんは減点ですね」
「ええっ、そんなぁ」

厳しいエルナンの評価に、エステルは悲鳴を上げた。

「あなた達はここが最後の支部です。正遊撃士を名乗るのに恥ずかしく無い存在になっていただくためにも、ここは細かく評価させて頂きますよ」
「くじけずに頑張りなよ」

カルナはうなだれるエステルに声を掛けると、クルツと一緒に遊撃士協会を出て行った。
人数が減り、一気に静まり返る室内。
ヨシュアは落ち着いてエルナンに尋ねる。

「それで、極秘の依頼とは何でしょうか?」

真剣な表情になったエルナンはゆっくりと依頼の説明を始める。

「実は先日、怪盗紳士が城に忍び込んだのです」

エルナンの言葉を聞いて、エステルとヨシュアは驚いて目を丸くする。

「怪盗紳士め、お城に忍び込むとは大胆ね!」

エステルは怒った様子で鼻息を荒くした。

「それで、何が盗まれたんですか?」
「盗まれたのはデュナン公爵の宝物だそうです」
「ええっ、あの公爵さんの宝物?」

ヨシュアの質問に答えたエルナンの言葉を聞いて、エステルは大きな驚きの声を上げた。

「はい、デュナン公爵はショックで外にも出歩けないそうです」
「極秘依頼だからって張り切って来たのに、盗まれたのはあの公爵さんの個人的な物なんだ」

エステルはあきれた顔になってため息をついた。

「エステル、依頼人が誰であろうと困った人を助けるのが遊撃士の仕事じゃないか」

ヨシュアはエステルをなだめるようにそう言った。

「あなた達はダヴィル大使の勲章を怪盗紳士から取り戻したと聞いていますから、適任ではないかと思いまして」
「でも、デュナン公爵が依頼人ならカルナさんの方が適任じゃないの?」
「おや、それならこの依頼はギブアップして彼女に任せますか?」

エステルの言葉にエルナンがそう提案すると、エステルは慌てて首を横に振る。

「そんな事ありません、是非この依頼をやらせてください!」
「解りました、それではこの件はあなた達にお任せする事にします」
「はい!」

エルナンに依頼を任されたエステルとヨシュアは力強くうなずいた。

「それでは、お城に着いたらメイド長のヒルダ夫人を探して下さい」
「えっ、デュナン公爵に会いに行くんじゃないの?」

エルナンの言葉を聞いて驚いて聞き返したエステルに、ヨシュアはため息をつく。

「ダメだよ、極秘の依頼なんだから。遊撃士である僕達がデュナン公爵に会いに行った事も知られたらまずいし」
「なるほど、でもヒルダさんがどう関係して来るわけ?」
「それは、ヒルダ夫人の口から直接お聞きになって下さい」

エステルに尋ねられたエルナンは意味ありげな笑顔を浮かべた。
2人はエルナンの態度を怪しく思ったがそれ以上尋ねる事は出来なかった。



<グランセル城 正門>

グランセル城に着いたエステル達は、城の大きさと格調高さに感心して立ちつくしていた。
そんな2人の様子を見た門番の兵士達が親しげに声を掛けて来る。

「君達、グランセル城に来るのは初めてかい?」
「はい、なんか圧倒されちゃって……」

ヨシュアが兵士の質問にそう答えると、兵士は胸を張って説明する。

「はは、この城門を見たみんなは同じような反応をするよ。今は解放されているけど、門を閉じたら導力大砲でも撃ち抜けない程だからね」
「へえ、そうなんだ」

兵士の言葉を聞いたエステルは感心したようにうなずいた。

「一般市民に開放されているのは、玄関広間と空中庭園だけだからね。他の場所は関係者以外立ち入り禁止になっているから、気を付けてね」
「わかったわ」

エステル達は笑顔で返事をすると、門番の兵士達と手を振って別れた。

「さて、ヒルダ夫人はどこにいるのかしら?」
「辺りを歩いているメイドさんに聞いてみようよ」

ヨシュアの提案に従い、エステル達は玄関広間を歩いているメイドに声を掛けてヒルダ夫人の居るメイド控室へと案内してもらった。
エステル達が遊撃士の紋章を見せると、ヒルダ夫人は事情を承知しているようにうなずく。

「遊撃士協会のエルナン様から話は聞いています。デュナン公爵にお会いになられたいそうですね」
「はい、そのための方法をあなたがご存じだと聞きました」

ヒルダ夫人の言葉に、ヨシュアはうなずいた。

「ええ、デュナン公爵は王宮にいらっしゃいます」
「王宮って?」

ヒルダ夫人の説明にエステルが疑問の声を上げると、ヨシュアが説明する。

「この国の王様の家族が住んでいる所だよ。デュナン公爵はユーディス王の従弟いとこだからね」
「へえ、公爵さんってそんなに偉かったんだ」

ヨシュアの言葉を聞いてエステルは感心したようにため息をついた。
2人が話している間も、ヒルダ夫人はじっとヨシュアの顔を見つめていた。

「あの、僕の顔がどうかしましたか?」

ヒルダ夫人の視線に気がついたヨシュアが尋ねると、ヒルダ夫人は感心したように息を吐き出す。

「エルナン様から話を聞かされた時は半信半疑でしたが、どうやら問題は無さそうですね」
「はい、私も大丈夫だと思います」

ここにエステル達を案内して来たメイドも、笑顔でうなずいた。

「それでは、早速用意をいたしましょう」

そう言ったヒルダ夫人に奥のメイド更衣室に案内されたエステル達。
ヨシュアはその意味が理解できたのか、ヒルダ夫人に尋ねる。

「なるほど、お付きのメイドに変装すれば怪しまれずに王宮の中へと入れるわけですね?」
「その通りです」
「ええっ、あたしがメイド!?」

ヨシュアとヒルダ夫人のやりとりを聞いたエステルが驚きの声を上げた。

「エステル、頑張って」

ヨシュアは笑顔でそう告げて更衣室を出て行こうとしたが、入口に居たメイドに腕をつかまれて引き止められる。

「あなたもですよ」
「えっ、僕もメイドになるんですか!?」

笑顔のメイドに言われたヨシュアは大きな悲鳴を上げた。

「うふふ、きっとお似合いですよ」
「僕がメイドになる必要は無いじゃないですか! エステル1人で十分では……」

メイドに詰め寄られて、ヨシュアは慌てて首を横に振った。

「ヨシュア、逃げる事は許されないわよ……!」

エステルにも捕まってしまったヨシュアは、観念するしか無かった。
やっとエルナンの浮かべた怪しい笑みの理由が分かったヨシュアだった。



<グランセル城 更衣室>

ヒルダ夫人とメイドのシアによってメイドへと変身させられたエステルとヨシュア。
特に長い黒髪のカツラを付けて化粧をしたヨシュアの姿は、姉のカリンにそっくりだ。

「また女装させられるなんて……」

ヨシュアが憂いを浮かべた表情でため息をつくと、エステルとシアとヒルダ夫人は息を飲む。

「凄い、あたしより色っぽくない?」
「姫様に負けないぐらいかも」
「たいしたものですね」
「からかわないでください……」

その表情がさらに人目を引くと言うのに、ヨシュアはため息をつき続けた。

「そうだ、お姫様はお城に居るの?」
「はい、先日になって戻って来て下さいました。王妃様の生誕祭が近づいていたので、安心しました」
「えっ、お姫様って家出していたの?」

エステルの質問にシアが答えると、エステルは驚きの声を上げた。
ヒルダ夫人は厳しい表情になってシアをしかる。

「あまりペラペラと話すものではありませんよ」
「申し訳ありません、つい嬉しくて誰かに話さずには居られなくなってしまって……」

シアは深く頭を下げて謝った。

「でも、お姫様って無理やり結婚させられそうになっていたんでしょう?」
「全く、そんな話までウワサされるようになるとは、再教育が必要なのでしょうか」

エステルの言葉を聞いて、ヒルダ夫人は深いため息をついた。

「あっ、その話はメイドさん達から聞いたわけじゃないから……」

シアに悪いと思ったエステルは慌ててフォローを入れた。

「王宮には姫様もいらっしゃいますので、失礼の無いようにお願いいたします。それと、見聞きした事は決して外にもらさぬように」
「解りました」

ヒルダ夫人にヨシュアが真剣な顔でうなずくと、エステルも続いてうなずいた。

「それでは、参りましょうか」
「頑張って下さいねー」

そう言って笑顔で手を振るシアに見送られて、エステルとヨシュアは更衣室を出て行った。
そして、ヒルダ夫人について王宮の中へ入ったメイド姿のエステルとヨシュアは部屋の扉から出て来た人物に驚きの声を掛けられる。

「エステルさん……?」
「クローゼ?」

エステル達の目の前には、豪華な白いドレスを着たクローゼが立っていたのだった。
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