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イスラエル:入植反対運動封じ込め 産品ボイコット禁止法成立

 【テルアビブ(イスラエル中部)花岡洋二】イスラエルで、その占領政策に反対する市民らが続けてきたイスラエル企業の商品や行事に対するボイコット運動を事実上、禁止する新法が11日、イスラエル議会で可決された。イスラエルでは09年2月の総選挙で、保守系議員が議席を拡大。今年に入り、こうした運動を規制する新法が相次いで制定されている。市民団体は「民主主義の危機」と猛反発している。

 イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、ヨルダン川西岸やガザ地区などを占領。ユダヤ人を移住させ、入植地を拡大させた。05年、ガザからは撤収したが、現在も西岸やゴラン高原でユダヤ人を入植させる占領政策を続けている。

 これに対し05年ごろからユダヤ人入植地でイスラエル系企業が生産した商品の不買やイベントなどのボイコットを呼びかける運動がパレスチナ人団体を中心に始まった。

 その後、イスラエル国内のユダヤ人や外国の人権団体にも拡大。最近ではイスラエルの学者が、ヨルダン川西岸の大規模入植地アリエルの大学との学術協力を拒否すると宣言し、話題を呼んだ。

 11日、イスラエル議会で可決された新法は、ボイコットで経済的損失などを被った個人や企業が、運動を主導した者に損害賠償を請求する権利も認めた。被告となりうるのはイスラエル国内のユダヤ人だけでなく、パレスチナ人や外国人も含まれる。ボイコットをした団体が政府系の事業に参入できないよう規制する内容も盛り込まれた。

 新法が禁止対象とする運動はあくまでも、「ユダヤ人入植地でイスラエル系企業が作った商品」などと、不買運動の対象を特定した活動。商品の値上がりそのものに抗議するような一般的な運動は禁じていない。ネタニヤフ首相率いる右派リクード党のエルキン議員は「国を守る法律だ」と主張している。

ワインのラベルをチェックするエスティ・ミツェンマヘルさん=テルアビブのスーパーで12日、花岡洋二撮影
ワインのラベルをチェックするエスティ・ミツェンマヘルさん=テルアビブのスーパーで12日、花岡洋二撮影

 「ワインは、原料のぶどうの産地までは表示に書かれていないことが多いのよ」。ユダヤ人入植地で作られた商品の不買などを呼びかける市民団体「平和のための女性連合」のエスティ・ミツェンマヘル運営委員は、新法が可決された翌12日、テルアビブの商店で「産地」を見分けるコツを教えてくれた。

 手にしたワインのラベルには「イスラエル産」とある。だが、食事にかかわるユダヤ教の戒律に照らして適正であることを意味する「コシェル」の認定を出したラビ(導師)の名前を見て、「入植地で活動するラビだわ。原料は入植地からのものよ」と棚に戻した。

 この市民団体は、入植地で活動する企業約500社の企業名や商品名、活動内容などをウェブ上に公開。消費者には不買を、国内外の投資機関には投資をやめるよう呼びかけている。

 09年、ノルウェーの政府系年金基金が占領地での警備関連事業を担う軍事企業の株を保有していた問題を追及、運動で手放すよう促した「実績」もある。ミツェンマヘルさんは「占領政策を止めさせたい市民ができる、数少ない平和的、正当な戦いの手段。企業は利益を失いたくないので、政府に和平交渉の再開を求める圧力をかけることも期待できた」と話す。

 だが、今回の新法はこうした活動を「違法」と定める。「訴えられたら裁判費用などが高額で、団体がつぶれかねない」。ミツェンマヘルさんらは懸念を強め、新法の規定はイスラエルの基本法(憲法に相当)が保障する「表現の自由」などを侵すものだと批判。他の団体とともに裁判で無効を訴える方針だ。

毎日新聞 2011年7月14日 東京朝刊

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