きょうのコラム「時鐘」 2011年7月14日

 放射性セシウムに汚染された牛肉が流通しているとの記事に、「被ばくマグロ」を思い出した年配者も多いだろう

1954(昭和29)年、米国の水爆実験で被ばくした漁船が、東京の築地市場にマグロを水揚げした。放射能による汚染が分かってパニックになり、金沢の近江町市場にも出荷されていたことから北陸でも騒動になった。当時の社会は「放射能汚染」の言葉しか知らなかった

現在は「セシウム」や「ベクレル」の専門用語が飛び交っている。検査能力も向上して「その量なら大丈夫」と専門家は言う。57年前の「被ばくマグロ」は埋めるしかなく、築地に「原爆まぐろの塚」が立ったという。水爆と原爆の区別ができなくても無理はない。今も本質は同じだ

消費者の情報量が増え、知識も豊かになったのに、何か進歩したものがあるだろうか。肝心の原発事故の収束は「数十年」かかるという。あいまいで無責任な数字である。今の子どもたちが将来苦労することだけは明白だ

汚染牛の流通は食生活全体に関わる問題になろう。収拾へ「マグロ騒動」を体験した世代から学ぶこともあるはずだ。