全ての生命の目指すものは死である。フロイトという精神分析学者が残した言葉であるが、それは人によって
早いか遅いかの違いしかないのだろう。だが、親より先に死ぬなんていうのはこれ以上の親不孝はあるまい。
俺は死んだ。余りにもあっけない最後だ。本の中のようにロマンティックな最後を迎えようなどとは思わないが、
出来ることなら畳の上で大往生で逝きたかった俺にとって本当にあっけない人生の幕引きだ。
切欠は剣道の試合の帰り。3回戦であえなく負けてしまった俺の学校は、帰りのバスで高速に乗っている最中
玉突き事故に巻き込まれ打ち所の悪かった俺はそのまま病院に運ばれながらも帰らぬ人になってしまった。
俺は眼を開ける力もなく、薄っすらと残る意識の中涙声で俺に向かって怒鳴っている親父の声を耳にした。
“親より先に死にやがって!この馬鹿息子が!”
母さんが死んでから男手一つで育ててくれた親父。時には喧嘩もしたが細かい事を気にしない優しい親父だった。
何とか返事をしようと思っても声を出す気力も残っていない。俺はただ親父から飛んでくる必死の叫びを
歯痒い気持ちで聴いているしか出来なかった。耳を親父から離すと、そこには連絡を聞き駆けつけてくれた
じっちゃんや親戚の人達の声ガ響いていた。皆信じられない、予想外すぎる現実を受け入れられず
唖然としていた。さらに目を向けると、そこには俺にとって一番の親友の姿もあった。
“おい!眼を開けろよ!寝るのはまだ早いぞ!おきろよ!起きてくれよ!○○!”
必死に俺の名を呼ぶ親友の顔はいつしか涙でボロボロに崩れ始めていった。俺は最後の最後で嬉しかった。
俺のために涙を流してくれる親友や家族に恵まれて。でももはや意識も薄れてきた。俺は死ぬ。
あっさりと死を受けいれる自分に怖いくらい驚いていた。この先天国や地獄なんてあるのだろうか。
もしあるとしたら母さんに会いたい。だが、親より先に死んだ俺が天国にいけるかと思えばそれは否だろう。
でも、もし最後に願いが叶えられるなら母さんに会いたい。会って一度でいいから抱きしめてもらいたい。
そう思いながら、俺は皆に別れを遂げた。
さようなら、親父、叔父さん、叔母さん、じっちゃん、ばっちゃん、そして・・・・・俺の一番の友達、才・・・・・・・・
「――――!―――!――――!」
「おめでとうございます奥様。玉のように元気な男の子ですよ!」
「よく頑張ったなフリージア。本当に、今日は本当にめでたい日だ!」
「ええ、貴方。始祖ブリミルよ、私達に愛しい子を授けてくれた事に感謝します。」
フリージアと呼ばれた女性は、苦労の末に生み元気よく泣きじゃくる我が子を産婆から受け取り、優しくそっと抱き寄せた。
「ははは、今日から俺も父親になるのか。なんか、不思議と誇らしい気持ちになってくるな。」
「ね、私の言ったとおり男の子が生まれたでしょう。」
「ああ。でも男だろうと女だろうと俺達の可愛い子供に変わりはないさ。俺が考えた名前が無駄になっちまったのは少し残念だけど。」
夫婦は賭けをしていた。子が出来たならどの夫婦もやっていそうな他愛ない賭けだ。夫は女の子が生まれると予想し
女の子の名前を、妻は男の子が生まれると予想し男の子の名前を担当していた。そして勝ったのは妻の方であった。
母は自分が寝るのも惜しんでお腹にいた頃から考えて考え抜いて決めた我が子の名前を口ずさんだ。
「今日から貴方はラウル、ラウル・ロッソ・フォン・ブライトよ。」
それが日本人、武山一久の新しい名前となった。
どうも、皆さんのSS読んでいるうちに自分もと思い執筆をしました。才人の友人がハルケギニアの貴族に転生するという
ありそうでなかったお話が、皆さんに少しでも楽しんでいただければ幸いです。
タイトルの通り、主人公はキュルケの幼馴染でゲルマニア人です。キュルケやルイズといった原作のキャラは
物語が進むにつれてちゃんと登場させますので。どうか、生暖かい目で見守ってくださればこれ幸いです。
ちなみにこの先アンチルイズが入っている描写があると思いますから、苦手な人は読むのを控えた方がいいかと。
皆さんに言われたとおりキャラ設定削除しました。