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[28691] 微熱の幼馴染は日本人 オリ主転生
Name: kakuto◆ccc6f545 ID:111a4f62
Date: 2011/07/05 20:45
全ての生命の目指すものは死である。フロイトという精神分析学者が残した言葉であるが、それは人によって
早いか遅いかの違いしかないのだろう。だが、親より先に死ぬなんていうのはこれ以上の親不孝はあるまい。



俺は死んだ。余りにもあっけない最後だ。本の中のようにロマンティックな最後を迎えようなどとは思わないが、
出来ることなら畳の上で大往生で逝きたかった俺にとって本当にあっけない人生の幕引きだ。

切欠は剣道の試合の帰り。3回戦であえなく負けてしまった俺の学校は、帰りのバスで高速に乗っている最中
玉突き事故に巻き込まれ打ち所の悪かった俺はそのまま病院に運ばれながらも帰らぬ人になってしまった。

俺は眼を開ける力もなく、薄っすらと残る意識の中涙声で俺に向かって怒鳴っている親父の声を耳にした。

“親より先に死にやがって!この馬鹿息子が!”

母さんが死んでから男手一つで育ててくれた親父。時には喧嘩もしたが細かい事を気にしない優しい親父だった。
何とか返事をしようと思っても声を出す気力も残っていない。俺はただ親父から飛んでくる必死の叫びを
歯痒い気持ちで聴いているしか出来なかった。耳を親父から離すと、そこには連絡を聞き駆けつけてくれた
じっちゃんや親戚の人達の声ガ響いていた。皆信じられない、予想外すぎる現実を受け入れられず
唖然としていた。さらに目を向けると、そこには俺にとって一番の親友の姿もあった。

“おい!眼を開けろよ!寝るのはまだ早いぞ!おきろよ!起きてくれよ!○○!”

必死に俺の名を呼ぶ親友の顔はいつしか涙でボロボロに崩れ始めていった。俺は最後の最後で嬉しかった。
俺のために涙を流してくれる親友や家族に恵まれて。でももはや意識も薄れてきた。俺は死ぬ。
あっさりと死を受けいれる自分に怖いくらい驚いていた。この先天国や地獄なんてあるのだろうか。
もしあるとしたら母さんに会いたい。だが、親より先に死んだ俺が天国にいけるかと思えばそれは否だろう。
でも、もし最後に願いが叶えられるなら母さんに会いたい。会って一度でいいから抱きしめてもらいたい。
そう思いながら、俺は皆に別れを遂げた。

さようなら、親父、叔父さん、叔母さん、じっちゃん、ばっちゃん、そして・・・・・俺の一番の友達、才・・・・・・・・










「――――!―――!――――!」
「おめでとうございます奥様。玉のように元気な男の子ですよ!」
「よく頑張ったなフリージア。本当に、今日は本当にめでたい日だ!」
「ええ、貴方。始祖ブリミルよ、私達に愛しい子を授けてくれた事に感謝します。」

フリージアと呼ばれた女性は、苦労の末に生み元気よく泣きじゃくる我が子を産婆から受け取り、優しくそっと抱き寄せた。

「ははは、今日から俺も父親になるのか。なんか、不思議と誇らしい気持ちになってくるな。」
「ね、私の言ったとおり男の子が生まれたでしょう。」
「ああ。でも男だろうと女だろうと俺達の可愛い子供に変わりはないさ。俺が考えた名前が無駄になっちまったのは少し残念だけど。」


夫婦は賭けをしていた。子が出来たならどの夫婦もやっていそうな他愛ない賭けだ。夫は女の子が生まれると予想し
女の子の名前を、妻は男の子が生まれると予想し男の子の名前を担当していた。そして勝ったのは妻の方であった。
母は自分が寝るのも惜しんでお腹にいた頃から考えて考え抜いて決めた我が子の名前を口ずさんだ。

「今日から貴方はラウル、ラウル・ロッソ・フォン・ブライトよ。」

それが日本人、武山一久の新しい名前となった。





どうも、皆さんのSS読んでいるうちに自分もと思い執筆をしました。才人の友人がハルケギニアの貴族に転生するという
ありそうでなかったお話が、皆さんに少しでも楽しんでいただければ幸いです。

タイトルの通り、主人公はキュルケの幼馴染でゲルマニア人です。キュルケやルイズといった原作のキャラは
物語が進むにつれてちゃんと登場させますので。どうか、生暖かい目で見守ってくださればこれ幸いです。
ちなみにこの先アンチルイズが入っている描写があると思いますから、苦手な人は読むのを控えた方がいいかと。


皆さんに言われたとおりキャラ設定削除しました。



[28691] 第1話 微熱との出会い
Name: kakuto◆ccc6f545 ID:6b502479
Date: 2011/07/09 17:37


「坊ちゃま、お食事のお時間ですので、大広間へお越しください。」
「うん、この本がもうすぐ終わるから少し遅れるって父上に伝えておいてくれないか。」
「かしこまりました。」

メイドは心の中でまた本を読み耽っているのかと呟き、深々と頭を下げ自室で本に読みふける少年から去っていった。

メイドが去っていったのを皮切りに、ラウルは本を放り捨て体育座りの姿勢でベッドに腰を下ろした。
いまや武山一久は、いやラウルは五歳になっていた。正確には14+5だから19歳だが、この際そんな事はどうでもいい。
そして意識がハッキリし始めたこの歳で、何度反復したか分からない自分の身に起きた自体を整理していた。

1 自分は死んで、どういう因果か自分のいた世界とは違う異世界にやってきた事
2 この世界はハルケギニアという魔法が存在する世界で、自分は貴族の長男として新たに生を受けたこと。
3 この世界は魔法を使える貴族が使えない平民を統治する特権階級の政治が浸透している事
4 自分を生んだ両親はゲルマニアという比較的新しい国の貴族であるという事
5 そしてこれが一番重要。もう日本には帰れない。武山一久として生きられないという事。

ここで質問だが、もし自分が一度死んで異世界で新しい人生を手にいれる事が出来たとしたらどういう反応をするだろうか。
生まれ変わったぜ!人生やり直せる最高にハイな気分ってやつだ!と言って浮かれ飛び跳ねるだろうか。
それとも、何で自分は異世界人として生まれ変わったんだ?この先上手くやっていけるだろうかと不安が過ぎるか。一久の場合は後者、
それもかなりの重傷だった。何で自分は生まれ変わった?何故?幾ら考えても答えは出ない。答えをくれる者などもちろんいない。

「新しい両親・・・・・・・か」

幸か不幸か、自分を新たに生んだ両親は優しかった。自分に嘘偽りない愛情を注いでくれる。抱きしめてくれる。
だが、二人は日本人武山一久を見ているんじゃない。自分達が産んだハルケギニア人。ラウル・ロッソ・フォン・ブライトを見ているんだ。
それが身体はハルケギニア人、心は日本人というギャップを大きく苦しめた。もしかしたら自分はイレギュラーな存在で、
ラウル・ロッソ・フォン・ブライトという人間はほかにいて、自分が乗り移っちまったせいで消滅してしまったのではないか。
という自責の念も込上げてきた。抜け出す切欠がつまめない負のスパイラルは、容赦なく一久の心を苦しめ続けた。



「ラウルはまた部屋で本の虫か。」
「はい。相変わらず誰も近づけずに部屋で本にかじりついています。」
「そうですか。」

メイドからの息子の様子を聞き、二人は大きく肩を落とした。息子は大きくなってから部屋で本ばかりを読んで外に出ようともしない。
反抗的かといえばそうでもなく、聞き分けは良いいし悪戯盛りの歳にもかかわらずメイドや執事から苦情が出たのは一度もない。
むしろお礼の言葉は欠かさず、メイドや執事の慌てる様子も気にせず、荷物を自分が持てる範囲で持ってあげたりと、寧ろ評価は白星だろう。
暗いが聞き分けのいい大人しい子。それがこの屋敷にいる全員のラウルに対する評価だった。しかしこの屋敷の夫婦は息子の評判を良く思ってなかった。
こういう年頃は普通、日向の中子犬のように元気よく走り回っているものなのに。ラウルはまるで日向を恐れる吸血鬼のように
薄暗い自室で本ばかり読み漁っている。本を読むのが駄目という訳ではないが、出来ることなら外で元気よく走り回る姿を見たいというのが本音だった。


「貴方、一体どうすればラウルを日向の世界に案内して上げられるのでしょうか。私は、いまだあの子が我侭を聞いた事がないんですよ。」
「ああ。ああいう年頃は我侭を言うのが普通だ。出来れば俺もあいつに我侭の一つを言って欲しい。
だがあの子は、まるで俺達に対してもまるで他人行儀だ。」

あの子は聞き分けも良くメイドや執事からの評判もいい。だが母親になってから、あの子が笑った顔なんて一度も見ていない。
いつも見せるのは取ってつけたかのような愛想笑いばかり。一体自分達の何が不満なのか。息子に問いただしても不満なんてない。
心配かけたのなら謝ります。と、どこか他人行儀にも感じられる返事ばかり。あの子に愛されたい。心から笑って欲しい。
それが夫婦の心からの願いだった。

「一体何があの子を苦しめているのか。どうすればあの子の心を溶かしてやれるのか。」

いい案のでない自分の無知さを呪いながら、父ロベールはグラスに残ったワインを一気に流しいれた。







早いものであっという間に二年の月日が流れた。一久は、ラウルは7歳になった。相変わらず自分の殻に閉じこもり
部屋から出ない引きこもりの日々を送っていた。そんなある日、両親から社交界の出席を言い渡された。
「きっといい気分転換になるぞ。」と必死に自分を部屋から出そうと奮戦する父に対し、ラウルは小さく肯定の意を表した。
別に気分転換などする気はない。ただ、イレギュラーな存在である自分を知らぬとはいえ愛してくれている父のいう事に逆らいたくなかったのだ。





馬車に揺られ訪れた屋敷は、ラウルの屋敷の軽く3倍はあるお城にも見えるほどの豪邸だった。だが眩く輝く屋敷に反比例し、
ラウルの心は相変わらず影を落としたままだった。テーブルにずらりと並んだご馳走も、煌びやかな衣装も、
ステージで演奏されるクラシック音楽も、何一つラウルの心を動かす事はなかった。

(こんな時に、浮かれる余裕なんてないよな。)

メイドから手渡された皿に盛られた肉をぼそぼそと食べるラウルに、父がこちらへ来るよう催促してきた。

「なんです、父上?」
「お前に紹介したい子がいるんだ。来なさい。」
「紹介したい子?」

父に言われるがままついていくと、そこには自分と同い年ほどだろうか。褐色の肌をした紫色のドレスを着た赤い髪の女の子が、
両親と思われる男女の真ん中にちょこんと立っていた。影を落とした自分なんかと違い、明るく屈託のない笑顔を周りに見せている。

「ロベール、この子が君の息子か。」
「ええ。ミスタ・ツェルプストー。ラウル、ご挨拶しなさい。」
「はい。ロベール・アルス・フォン・ブライトが長男、ラウル・ロッソ・フォン・ブライトといいます。」
「こ、これはご丁寧に。」

7歳の子供とは思えない礼儀作法を弁えた挨拶に小さく面食らいながらも、ツェルプストーの当主は
お返しとばかりに自分の娘の背を軽く押すと、娘はラウルに向かって軽く会釈を返した。

「それじゃあ今度は私の娘を紹介しよう。キュルケ、お前も挨拶しなさい。」


「はい、お父様。初めまして。わたしはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。」

よくそんな長い名前を舌噛まずに言えるな、と感心した。だがキュルケの愛らしい笑顔も、
ラウルの心を揺るがすことは叶わず、相変わらず事務的で愛想のない返事を返す。

「よろしく。ミス・ツェルプストー。」
「キュルケでいいよ。」
「でも」
「わたしがいいって言ってるんだからいいの。ほら、キュルケって呼んで。」
「じゃあ、キュルケ」

互いの両親の堅苦しい挨拶も終わり、俺は互いの両親の計らいでキュルケと二人きりにされた。
だが、俺はキュルケのお話にただ頷いてばかりでいた。そんな中、俺は今まで誰にも言えなかった
不安の一端を話してみる事にした。

「ねぇ、キュルケ。」
「なぁに?」
「君は、今の自分が自分じゃないって思ったことはない?」
「なにそれ?そんなのあるわけないじゃん。」

半ば予想していた返事が飛んできた。当たり前だ。相手はまだ7歳かそこらの子供なのだ期待しているような返事など出てくるわけがない。
だが、それでもラウルは構わずに質問を続けた。あの時はただ、自分のたまりに溜まった気持ちをぶつけたかったんだ。

「じゃあ、今の自分は本当の自分じゃない。本当の自分は別にいるって思ったことは?」
「なにそれ?あなたってほんとうに変わったこと聞くんだね。」
「よく言われるよ。」

自嘲気味に返答するが、この後人生とはその人が意図せずに呟いた一言でも、その者の人生を大きく変えるターニングポイントになることをラウルは、一久は知る事となる。

「私はそんな風に思ったことなんてないし。私は今の私が一番だと思ってるし。それに悩んでもなにも変わらないなら、自分自身がかわるしかないじゃないかな。」

その一言に、ラウルの心の中の影が少し、ほんの少しだけ薄まった気がした。

「自分が、変わる?」
「うん。それにラウルってなんだか今の自分が嫌そうに見えるよ。それなら今の自分が好きになれるように頑張る。
ううん。頑張るしかないよ。お母様も一人前のレディーになるなら常に自分の心身を磨き、常に自分に自信を持てる人間になりなさいって言ってたもん。」
「自分が、好きになれるように・・・・・・・・自分が変わる・・・・・」

そのときのキュルケはただ自分の思ったことをただ言っただけだろう。だが、それでもラウルにとって新しい自分を受け入れる切欠になったのは間違いじゃなかった。

「どうしたの?私変なこと言ったかな?」
「ううん。ありがとう、キュルケ。御礼になるか分からないけど、お話してあげるね。」
「お話?」
「うん。世界中に散らばった8つのメロディを捜し旅をする男の子達のお話。」

キュルケはぎこちないながらも話すラウルのお話の内容に、何時しか踊らないかと誘うのも忘れ夢中になりながら聞入っていた。

「そして男の子はがたがたと揺れる棺桶の蓋をそっと開けました。そこには・・・・・・」
「そこには?」
「知りたい?」
「うん!」
「じゃあこの先は、俺の友達になったら話してあげる。」
「ずるーい!でもいいよ。貴方のお友達になってあげる。」

思わぬ変化球で返された事にむっとなったが、キュルケは眩い笑顔を向けてラウルに元気よく頷いて見せた。

「本当?」
「うん。家もちょうど隣同士だし。これからも仲良くしよう。だから早くお話の続き聞かせて!」
「分かったよ。」

この日、俺はこの異世界で始めての友達が出来た。その子は明るく無邪気でそれでいてとても優しい、将来が非常に楽しみな美幼女だった。



今でも思う、あの時キュルケと出会わなければ、俺は一生部屋に閉じこもったきりの引きこもりに堕ちていただろうと。
キュルケの言うとおりだ。どんなに願っても過去に戻れないなら今を受け入れるしかない。何で生き返れたのか、
何で異世界人として生まれ変われたのか考えるよりも、新しく手に入れた人生を後悔のない物にするために努力しなくては。
さすがに「俺は日本人やめるぞ才人-!」という風にすぐに吹っ切れる事は出来ないが、部屋でウジウジするよりは
目の前におきた現実を少しずつ受け入れ、少しずつ前へ進んでいったほうがずっとましだ。それに元の世界に帰る方法が
見つかったとしても、向こうではすでに俺は死人の身でこんな姿じゃ俺が武山一久だと信じてもらえるはずがない。

ちなみに社交界の帰り、楽しめたかという父の質問に、「楽しかったよ、ありがとう父上、母上。」といいながら
今まで見せなかった嘘偽りない心からの笑顔を見せたことに、両親が馬車の中で狂喜乱舞したのはどうでもいい事だ。





「ねぇラウル、前に遊びに来た時はかごめかごめっていう遊びだったけど。今日は何して遊ぶの?」
「じゃあそうだな、だるまさんが転んだなんてどうかな?」
「だるまさんがころんだ?なぁにそれ?」

初めて効く遊びの名前に小首を傾げるキュルケに、ラウルは説明した。

「それじゃあ始めるな。だ~るまさんが」

ラウルに誘われ参加したメイドや執事は、ジャンケンで鬼になり木に顔を埋めるラウルに近づいていく。

「転んだ!」
「あうっ!」
「メリィアウト!」

その日からラウルの日常は変わった。今まで部屋に閉じこもって燻っていたのが嘘のように明るくなり、
お話を切欠に友達になってからちょくちょく家にやってくるキュルケや屋敷のメイドや執事とも積極的に遊ぶようになっていった。
最初は突然の変化に両親や屋敷の者達は動揺したが、息子が自分達が求めていた姿に変わってくれたことに変わりはないと受け入れた。




「面白かったね。」
「うん、次は何しようか?」
「じゃあそうだね。前のお話の続きをしてあげる。」
「やった!」
「楽しそうだな、出来ればパパやママも混ぜて欲しいんだが。」
「あ、父上、、母上。これからキュルケにお話の続きをするんだけど、父上や母上も一緒に聞かない?」
「お話?」
「はい。坊ちゃまの聞かせてくださるお話は、どれも聞いた事のないものばかりですが不思議と引き込まれる面白さを持っているんです。」
「ほう。」

一緒にお話を聞くようになった執事の説明に、ロベールとフリージアは思わず顔が綻んだ。何が切欠かは知らないが、
心を入れ替え明るくなってくれたのなら親としてはそれ以上何も望みはしなかった。最近ではすっかり心の壁をなくした
息子に遠慮のない愛情を向けてくるたび、ラウルは嬉しく、同時に鬱陶しく感じている。

「こんにちは、おじ様、おば様。」
「ええこんにちは。ミス・ツェルプストー、これからも私達の息子の友達で居てあげてくださいね。」
「はい。ラウルが嫌だといってもそのつもりです。」
「じゃあ父上も母上は途中で聞くから、前回までの流れをざっとおさらいすることから始めるね。」

屋敷の庭をステージに、ラウルのお話は幕を開けた。ラウルは、一久は話し続けた。新に手に入れたこの優しい日々を強く強く噛み締めながら。



展開が強引過ぎたかな?今回は、もし日本人が異世界の人間として生まれたらどういう心境になるだろうかという
描写を自分なりに考えて描いてみました。それとラウルには早めに立ち直ってもらいました。何故って?
そうしないと話がぜんぜん進まないからです!それでは、次回は何時出来るか分かりませんが、SEE YOU AGAIN!



[28691] 第2話 目指せ、魔法剣士
Name: kakuto◆ccc6f545 ID:6b502479
Date: 2011/07/09 17:54
「98、99、100!」
「お疲れ様です若様。もう基本の踏み込みと素振りは一通りマスターしたようですね。」

ノルマの素振りを振るい終えた俺の姿に、師範は満足そうに応えた。ラウルになって9年。日本人だった頃を合わせればもはや23歳になった。
俺は8歳頃からメイジとして魔法のイロハを学ぶ事となった。この世界のメイジはドラ○エと違って様々な種類の魔法を
使えるわけではなく、メイジによって使える魔法の属性が決まっており、ドット、ライン、トライアングル、スクウェアと
4段階のレベルが存在しているというのだ。ちなみに親父のレベルは風のスクウェアで二つ名は「風刃」。
母さんは炎のトライアングルで二つ名は「陽炎」。で、調べてもらった所俺は親父の血が勝ったのか、風のメイジだというのだ。

そこで魔法を学ぶ際に思い立ったのが、剣と魔法を両立できるメイジなんてカッコイイし強くね?と考えたのだ。
それに俺は日本人だった頃剣道を学んでいた事もあり、基本や基礎は比較的早く覚えられるだろう。しかしこの世界において剣は
平民が使う卑しい武器というイメージが浸透しており、母さんに剣を学びたいといっても渋い顔をされ突っぱねられた。だが親父の
「いいじゃないか、何事も挑戦だ。それに辛い、むかないと思ったんならやめればいいだけだ。」という弁護もあり、
母さんから魔法もきちんと学ぶ事を条件に剣の鍛錬を許された。そして現在、俺は親父の部下の一人が師範となり剣のレクチャーを受けていた。
なんでも平民ながら剣の腕一本で貴族にまでのし上がった叩き上げ肌で、そのお陰か親父からの信頼も厚い。

「それにしても若様は思っていた以上に飲み込みが早い。普通なら倍はかかる基本の踏み込みや
間合いの基礎を半分の時間でマスターしてしまうとは。正直メイジにしておくには惜しいくらいです。」
「へへへ。そう言われると自信がつくよ。」

とは言ってはいるが、実際の所は長い間引きこもってさび付いていた基礎を身体を動かしつつ思い出していただけなんだが。
何も知らない師範からすれば、素人が信じられない速さで基本を吸収しているように映るのだろう。

「それでは基本は一通りマスターしているようですし、明日は次のステップへ進みましょう。」
「はい!」
「それと若様、魔法の訓練、頑張ってくださいね。」
「ああ。」

剣の稽古が終わっても今度は魔法のレクチャーが待っている。流石に剣と魔法の二足のワラジは大変だが、同時に
引き込んでいた頃よりもはるかに充実した時間だとも感じている。

「それでは授業を始めます。よろしいですね。」
「はい!」

目の前に立つ講師であるメイジに頭を下げ、魔法のレクチャーが始まった。ちなみに目の前で俺に魔法を教えている、
今年で45になる額の広がりが痛々しい講師のレベルはトライアングル。俺の専属になってから一年ほどの付き合いになる。

「エアハンマーか、こいつを拳に纏わせて相手をぶん殴った瞬間爆発させるってのは出来ないかな?」
「また坊ちゃまの悪いくせが始まりましたか。どうしてそう泥臭い考え方をなさるのでしょうか。
別にリスクを背負って接近する意味が分かりません。普通に遠距離から相手にぶつければいいでしょうに。」
「分からないのか先生、そっちの方がカッコいいじゃないか。」
「はぁ・・・・・・・」

講師は深くため息を付いた。なまじ飲み込みも早く勢いもある分、そういう邪道紛いの考えを好む教え子に苦笑いを浮かべる。
しかし当の本人は周りの意見など関係ないとばかりに、誰も考え付かないような破天荒なアイディアを次々と思い浮かんでは試そうとする。

「この前は、エアカッターを剣に纏わせて敵に切りつけるでしたよね。それも」
「おう、カッコイイからだ。」

誇らしげに言う弟子の姿に再びため息を付く。これさえなければ素晴らしいのだが、今日も目の前の教え子はこちらの気持ちなど知る由もなく邪道街道を驀進し続けた。



俺の今のレベルは駆け出しのライン。魔法の存在しない世界から転生したこともあってか、魔法は実に興味深く好奇心をそそる題材だった。
好きこそ物の上手なれというべきだろうか、俺は食いつくように魔法の基礎を吸収していき、気がつけばこの歳のメイジからすれば
異例ともいえる早さでステップアップをしていった。さらに型にはまらない柔軟な考えが得意な日本人だった頃の発想力は、
思っていた以上に魔法のステップアップを助けてくれた。

しかし、さすがにトライアングルになるのは容易なことではなく、今現在トライアングルに進む足がかりが掴めず足踏み状態が続いている。
どうでもいいが、もし土のメイジならゴーレムを召還してス○ンド!なんても出来そうだし、炎のメイジなら剣に炎を灯らせて焔○!なんても出来たんだが。

剣を両立させた場合、ライン程度でも十分だと考えもしたが、剣と魔法を両立させたラインどまりの場合、某ゲームの赤魔○士という存在がちらつく。

「えー!マジ赤魔○士!?」
「キモーイ」
「赤○導士が許されるのは序盤までだよね?」
「キャハハハハハハハ!」

という事になりかねないので、目指すなら剣も使えるトライアングルぐらいのレベルを目指さないと。
こうして今日も邪道街道を爆進しつつ、剣と魔法の腕を磨き続けた。




「でね、今日俺もはれて先生からライン認定を貰えたんですが、二人の師範からメイジや剣士にするのは勿体無いって言われちゃって。」
「ほう、そいつは頼もしいじゃないか。俺も父として鼻が高いぞ。はっはっはっは!」

俺からの現状を聞き、親父は貴族にしては不似合いなデカジョッキに注がれたビールをラッパ飲みしていく。そりゃもう見てるだけで酔いそうなくらいに。

「もう、貴方ったらまた飲み過ぎて。ラウルが見ているのですよ。」
「何を言うフリージア。息子が順調に成長しているというめでたい話を聞いて、俺が飲まずにいられると思うか?」
「父上の場合めでたいめでたくないに関係なくいつも飲んでいるじゃないですか。」
「うっ。それは、まぁ、これは祝い酒。いつも飲んでいるのはあれだ、命の水だ!」

言い訳にも入らない言い訳をする父に対して、俺と母さんは肩を落とした。新しい両親を受け入れてから分かったんだが、
新しい親父はこれがまたとんでもない大酒飲みなんだ。飲んだくれではないんだが、これが湯水のように酒を飲むんだ。
それで、二つ名以外の別名が酒豪伯爵。だが人間的魅力で言うなら好感が持てるほうだ。細かい所は気にしないところは
一久だった頃の親父と似ているし、貴族や平民といった身分に囚われず、つねにその者の能力や人間性を見る所は、領民からも慕われている。

だが一番のミステリーは、こんな飲んだくれ親父がどうやって目の前に居る、清楚なご令嬢を絵に描いたような母さんとゴールインできたかだ。
これも母さんから聞いたのだが、親父も元は下級貴族の出で、杖一本だけで幾多の戦いで武勲を上げ現在の伯爵の地位を手に入れたのだそうだ。
で、母さんとはトリステインとの国境戦線の時に孤立した自分の父の部隊を助けたのが縁で知りあい、そのままゴールインしたというのだ。
つくづく人生は何がおきるか分からない。そう感じる。


「そういえばラウル、お前が頼んだ例の物、職人から作ってくれるって手紙が届いたぞ。」
「本当ですか!?」

感極まって席から立ち上がるラウルを落ち着かせ、父は淡々と話を続けた。

「ああ。だがなにぶん今人気の職人だからな、予約が一杯で出来上がるのは5年先になるそうだ。」
「5年・・・・・・・」

奇しくも武山一久が死んだ歳と同じ日に出来る事に、小さな人生のリンクを感じた。

「ん?さすがに5年も待てないか?」
「いえ、寧ろ目標が出来ました。その5年までの間に、トライアングルになってやります!」
「言うじゃないか。さすがは俺の息子だ!よーし!今日は我が息子がラインになった記念に屋敷のもの全員で宴といこうじゃないか!」
「「「「「おー!」」」」」

親父の言葉に広間に居る執事やメイドから歓喜の声が上がる。時々こういう思い切ったことをする所も、執事やメイド達に慕われている要因だろう。

「駄目ですよ!いつもそうやって勢いで行動するんですから!ラウルがメイジとして成長しためでたい日を、
 貴方の酒を飲む口実にはさせません!祝うのでしたらもっと厳かにするべきです!いいですね!あなた達も!」
「そ、そんなフリージア・・・・・なんと殺生な・・・・・・」
「いいですね?貴方?(ニコッ」
「全員)はい・・・・・・・」

気迫の篭った母さんの一言に、大広間にいる者全員は空気の抜けた風船のように縮みこんでしまった。この人には逆らえない。否、
逆らわないようにしよう。そう心に決めたラウル9歳の午後。この屋敷のヒエラルキーの頂点は間違いなく母さんが握っているだろう。




メイドや執事にワインの入ったグラスが全員に手渡され、母から静かに啖呵が切られた。

「それでは一同、我が息子ラウルがメイジとしてまた一歩前進したこのめでたき日に」
「全員)かんぱーい!」

グラスが高々と掲げられ、グラスの中のワインが大広間全員の者の喉を潤していく。ちなみにラウルはまだ子供なのでグレープジュースだ。

「ではラウル、貴方からも何か一言ありませんか?」
「あ、はい。」

母さんに言われ、俺は軽く咳払いをした後静かに籍を立った。

「こうして俺の成長を皆に祝ってもらえて本当にありがとう。この歳でラインになれた奴はここで妥協してしまうだろうが、
俺はメイジとして、男として、いつか父上に追いつき後を継ぐ身として更なる高みをこれからも目指していこうと思う。
それと知っての通り俺はメイジの訓練と同時に剣の稽古をしている。殆どの奴がメイジが剣を覚えるなんておかしいと思うだろうけど、
 俺はそんな風に思ったことなんて一度もない。寧ろ、戦う上ではメイジも学ぶべきことだと考えている。
 だから目指すなら一流のメイジと一流の剣士だ。俺が言うのは以上だ。皆、これからもよろしくお願いするよ。」

俺が席に座ったのを皮切りに一同から拍手が飛び交った。案の定一番感動しているのは母フリージアであった。

「素晴らしい!さすがは私達の子供です!」
「ああ!だがラウル、どうせ俺の後を継ぐなら近づくなんて生ぬるいこと言うな!むしろ超えるつもりで行け!」
「はい!」

父からの激昂に答え、ラウルは勢いよくグレープジュースを飲み干した。


「ふぅ。」

祝いも終わり、ラウルはバフッという音と共にベッドに横になる。父は相変わらず屋敷の皆と飲み、その度に母にきつい雷を落とされている。
明日も早いしもう寝よう。瞼を閉じるラウルの耳に、突如部屋の窓を誰かが叩く音が聞こえてきた。

「だれだ!出て来い!」

杖を手にしながら何時でも攻撃できる態勢を取るラウルを尻目に、窓を叩いた犯人はアンロックでアッサリと侵入してきた。

「こんばんは、ラウル。」
「キュルケ!?」

なんと侵入者はキュルケであった。思わぬ来客にあっけに取られるラウルを尻目に、キュルケは遠慮なく部屋に入ってきた。

「どうしたの、こんな夜中に。」
「もちろんラウルに会いに来たんだよ。ここの所お互い魔法の特訓で中々会えないから、こっちから来ちゃった。」
「駄目だよキュルケ、子供がこんな夜中に。それにもしばれたらお父さんとお母さんに叱られるよ。」
「ばれなきゃいいの。それに今日ラウルに会いに来たのは一番に報告したいことがあって。」
「報告したい事?なにそれ?」

「へへぇ、私キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは今日晴れてラインメイジになれました!」
「凄いじゃないか!おめでとうキュルケ。」
「えへへへへ。」

ラウルから賞賛の言葉をもらい、満足げな笑みを浮かべる。

「じゃあ僕からも一言。僕、ラウル・ロッソ・フォン・ブライトも、今日晴れてラインメイジに昇進しました!」
「ラウルも!?同じ日にラインになれるなんて。これはまさに始祖ブリミルが下さった運命じゃないかしら?」
「運命?なんの」
「決まってるじゃない!私達が結ばれるという運命よ!」

「やめてよそんな安直に決まる運命。」
「あら、ラウルは私が相手じゃ不服なの?」
「不服って訳じゃ・・・・・・それにそろそろ帰らないとお父さんとお母さんが心配するよ。」
「もう、つまんないなぁ。それじゃあ久しぶりにお話聞かせて。そうしたら帰る。」
「お話?」
「うん。ここの所毎日メイジや一人前のレディになるお勉強ばかりで、最近聞いてなかったから、久しぶりにラウルのお話が聞きたいな。」
「分かったよ。それじゃあ今日はゴンギツネのお話してあげる。」
「ごんぎつね?」
「ああ。今出ない時、ここではない何処かのお話。ある村の山奥に、ゴンギツネという狐がいました。」

いつもの出だしから始まったゴンギツネのお話は、キュルケの涙腺を完全に決壊させた。というか完全崩壊してしまい
帰る以前の状態になってしまったキュルケをやむなく一晩泊めることとなり、後にこの世の終わりとばかりにテンパッてやってきた
ご両親に事情を説明し、こってりと絞られたという。





ラウル・ロッソ・フォン・ブライト14歳。

武山一久時代を換算すればついに28歳の歳となった。あれから猛特訓の甲斐あって、予告通り俺は14歳という異例の速さで
ドライアングルに上り詰めた。さすがに詰め込み教育だったので無理もしたが、お陰で後は剣をマスターするだけとなった。
そして今日、待ちに待った物が俺の元にやってくる。



「ではお客様、お目をお通しください。」
「ああ。」

俺は黒塗りの箱に収められた待ちに待った例の物を確認した。それは剣だ。しかしただの剣ではない。
真っ直ぐなサーベルが一般的なハルケギニアでは珍しい、小さな反りが入った細身の刀身に、龍の彫が入った楕円の鍔。
流石に本家本元とは造りが微妙に異なるものの、それは紛れもなく日本刀であった。

「いかがでしょうか?」
「ああ。俺が注文した通りの品だ。さすがは今話題の職人。いい仕事しているぜ。」

今日からこれが俺の愛刀兼杖となる。最初はフォー○エッジ、アラ○トルといったものも考えたが、杖として併用する場合
そういったグレートソード系は小回りが利かず返しも遅いと考え日本刀にした。それと何より、日本男児が剣を握るならやっぱり日本刀だろう。

「ではここにサインを。」

仲介人が差し出した書類にサインすると、俺は早速試し切りをすることにした。

木の柱にくくられた藁の束の前で精神を集中させ、俺は両親やメイドと執事達、師範が見守る中気合一閃、記念すべき一刀を叩き込んだ。

「おー!」
「さすがは若様!」
「お上手!」
「お見事です、ラウル。」

執事やメイド、母さんから拍手喝采が上がるが、俺や親父、師範の顔は晴れていない。何故なら俺は自分の未熟さを痛感していたからだ。
重いのだ。事実抜刀する時もこいつの重さに半分振り回されてしまった。まだ俺がコイツを扱いきれていない証拠だ。
事実束になった藁の断面は大きくひしゃげている。これでは話にならない。やはりこいつを使いこなすために、
学園の入学する残りの時間までにこいつを使いこなせるようにしないと。


「はぁああああああああ!」

ガキンという金属がぶつかり合う音と共に、師範と俺の剣が火花を散らす。さすがに刃を潰した訓練用の剣とはいっても、重量もある分当たればかなり痛い。

「おりゃ!おりゃ!おりゃ!」

次々と振るわれる俺の連続攻撃をかわしたり受け止めたり受け流したりと、巧みな技で師範は軽々と捌いていく。

「若様、貴方の剣は真っ直ぐすぎます。真っ直ぐなのは確かに美徳でしょう。ですが!」

そういうより先に、俺の剣を受け止めた瞬間師範の蹴りが俺の鳩尾に決まった。両親から許可をもらっている分、遠慮は皆無だ。

「げほげほげほ・・・・・・・は!」

予想外の攻撃に跪く俺に容赦なく師範の剣が俺の首筋を捕らえた。これが実戦ならおれはこの時点で死んでいる。


「いいですか若様、真っ直ぐというのは聞こえは良いでしょうけれど、度が過ぎればたんなる愚直でしかありません。
どんな方法を使っても構いません。敵に次の手を読まれないよう常に心がけてください。」
「は、はい!」

さすがは叩き上げ。綺麗な戦いしか知らない王宮騎士の剣術なんかよりもずっと参考になる。

「では続きを始めましょう。」
「ああ!絶対一本とってやる。」

この2年間が本当の地獄だった。師範直伝のストリートファイトは本当にダーティーで、何度殺されたかわからない。
しかし俺は魔法の講義以上に様々な術を学んだ。特に重点を置いたのは、魔法がなくてもメイジと戦えるメイジ殺しの術だ。
メイジにとって杖を失うというのは首をもがれると同意と言ってもいい。だが俺はあえてそれを逆手に取り、
魔法無しでも戦う術を師範から徹底的に叩き込まれた。その度に身体中に痣やコブを作られ、風呂は入るたびに
文字通り身に染みるような思いを味わい続け、母さんからもうやめるように言われたがそれでも俺はやめなかった。








そして2年後

俺はあの時と同じく目の前にある藁の束と対峙する。違うのは、俺の身体に染み付いた腕と自信。
俺は身体の一部になるまで振るい続けた杖にして愛刀、倭刀を振るった。

軽く円を描きながら剣を内刀すると、あの時と違い藁は滑らかな断面を見せながらばっさりと斜め一文字に切り落とされた。

「あれから2年ですか。本当に、あっという間ですね。」
「ええ、先生。」

振り返ると、そこには今まで自分に魔法と剣技を授けてくれた二人の師匠が立っていた。

「旦那様と奥様には会わなくてよろしいのですか?」
「ああ、親父と母さんにはもう挨拶は済ませたから。」

俺は今日から隣国トリステイン魔法学園に入学する事が決まった。てっきりゲルマニアの学校に行くと思ったんだが、
親父が「お前もそろそろ外の世界を目で見て耳で聞いて肌で感じるいい機会だ。」と言って俺にトリステインの学校への留学を進めたのだ。
ちなみに15になってから呼び方が母さん、親父に変わりました、はい。で、案の定母さんは俺が他所の国で寮暮らしをするのが不安らしく何かと付け加えては
付け加えての繰り返しで中々離してくれなかった。一方の親父は実に淡白で「行って来い。行って男を磨いて来い。」だけであった。
俺は「ああ、行ってくるぜ親父。」とだけ自信たっぷりげに返した。

「でも出来るならキュルケと同じゲルマニアの学校に行きたかったよ。」と愚痴を洩らす。一足先に学生の一歩を歩んだキュルケは、
今は本国の学校で元気にやっているという。そう考えると今まで一緒にいた分寂しくなる。そう黄昏る俺に対し親父は

「なんだ、やっぱり惚れていたのか?」
「ち、違うよ!ただ、小さい頃から一緒に居たから、急に離れて暮らすと寂しいな。って思っただけで!」
「それを惚れとるというんだ。」
「だから違うって!」
「だったら尚更好都合かもな。」
「何のことだ、親父?」
「いや、なんでもない。」

腹に一物もっていそうな笑みを浮かべながら、親父は部屋を後にした。



「外の世界は余りいい事ばかりではありません。特にトリステインの貴族はゲルマニア人に対して余り良い感情を持っていない者が多くいると聞きますから。」
「なに、降りかかる火の粉は払いのけるだけさ。お二人から学んだ剣と魔法でね。」

心配そうな魔法の先生に対し、俺は余裕タップリに返した。

「それと若様、これは私からの留学祝いです。」

そういい剣の師範は黒つくりのケースを差し出しロックを開けた。

「これは!?」
「前から欲しいと仰っていましたから。奥様には内緒ですよ。」
「ああ、ありがとう先生。大事に使わせてもらうよ。」
「一体何を渡したんだ?」
「とってもいい物さ。ね、若様。」
「ああ。とってもいい物さ。」

明らかに悪い奴が浮かべる笑みをたたえる二人を見る辺り、余り褒められる物ではなさそうだ。だが当の本人はケースの中身をそっとポケットに入れ、
正門の前で待つ馬車に向かって執事とメイドが並ぶ道を走り出した。見れば両親も窓から手を振り、息子の旅立ちを見送っている。

「「「「「「「行ってらっしゃいませ、ラウル様。」」」」」」」
「ああ。皆にもたっぷり土産話持って帰ってくるからさ。本当にありがとう先生!俺行ってくるよ!
帰ってきた時にはもっとビックになって帰ってくるからさ!」

馬車の窓から半身を飛び出しながら、ラウルは元気よく手を振って皆に別れを告げた。

「行ってしまったな。」
「ああ。本当に風みたいなお人だったな。」

旅立つ教え子の後姿を見て少しセンチメンタルになる二人であったが、当の弟子は馬車の窓から顔を出し

「あそうだ忘れてた!ついでにその藁の火消しといてくれ!」
「「え?」」

そう言い馬車をだした教え子の意味の分からない最後の言葉に首をかしげる二人の鼻に、なにやら焦げ臭い臭いが立ち込めたかと思えば、
二つに分かれた藁から煙が燻りだしており、数秒後には勢いよく燃え出したのだ。

「な、なに!?」

突然の事態に面食らうが、燃える藁を見て必死に土をまぶし鎮火させた。

「一体何をしたんだ・・・・・・・」

教え子を乗せた馬車はとうとう見えなくなっていた。二人の師に疑問符を浮かべさせて。







日本 東京郊外

「よ、一久。」

武山家之墓と記された墓に、花を持った三人の少年がやってきた。少年達は持ってきた花を墓に供えるとそっと手を合わせ瞳を閉じた。

「僕達三人、晴れて高校の進学が決まったんだ。今日はその事をお前に伝えようと思ってね。」
「俺と悠二は同じ学校たけど、竜児は別の学校になっちまった。でも、俺達はこの通り仲良くやってるからさ。」
「だけどお前本当に馬鹿だよ。いくらお母さんに会いたいと言っても、あせってお母さんの所に行く必要ないのに。」

少年の一人、才人はそっと墓を優しく撫でながら今はなき親友に思いを馳せた。

「お母さんとは仲良くやってるかい?それと、そっちじゃ友達は出来たかな?」

優しげな瞳讃えた少年、悠二は親友がいると思われる天へ目を向けた。

「早いもんだよな。あれから2年。おじさんから聞いてると思うけれど、あの人再婚してお前も知らぬうちにお義兄ちゃんになってるんだぜ。」

何も言わぬ墓に向かって、親友はビックリな報告の内容を話し続けた。父、武山一輝はさすがにヤモメ暮らしは辛かったらしく、
娘を持つ一人の女性と再婚した。今では随分笑顔を取り戻し元気にやっているそうだ。

「まじありえねぇって。そんな二次元じみた話。事実は小説より奇なりってやつかな。」
「こっちもこっちで上手くやってるけど、やっぱお前と一緒に高校進学したかったよ。なんていうか、ポッカリ穴が開いたっていうかさ。」
「まぁ、返事なんて、してくれないよね。」

三人は天の彼方にいる友人に思いを馳せた。だが三人が自分の事で黄昏ている中当の本人は




『ふざけんなよ才人!』
『お前こそふざけんな!』
『おいやめろよ二人とも!?』
『そうだよ!一体何が原因で喧嘩しているんだよ!?』

竜児と悠二に止められ、二人は喧嘩の原因を二人に対して熱く語った。

『才人の野郎!学校における一番の萌えはスク水だというのに!馬鹿にしやがった!』
『スク水なんて所詮夏限定のものだろう!夏服冬服があり、一着で二度美味しいセーラー服こそ至高だ!』

下らなすぎる理由で喧嘩する二人に開いた口が塞がらない悠二であるが、竜児は

『じゃあ、スク水セーラーじゃ駄目なのか?』
『『駄目だ!!』』
『えぇ何で!?』
『なんか嫌だし!どっちつかずっていうのが!』
『何だよそれ!別にいいじゃないか!』
『ここは断然スク水といったらスク水だ!』
『いいや!セーラー服だ!こればかりは例え一久でも譲れん!』
『もういいや竜児君、僕達だけで帰ろう。』
『そうだな・・・・・・』



「絶対認めねぇぞ。才人・・・・・・・・」

かすかに揺れる馬車の中で転寝をしていた。




ふぅ・・・・・・前回の感想で足りないという意見をもらいましたので個人的に結構書いたつもりです。
今回はラウルの修行と旅立ち編。次回から学園生活が始まります。そして次回かその次辺りで才人を登場させる予定です。
もちろんタバサやシエスタといった原作のメインキャラも登場です。それと話の終盤で見せたアレは
某明治剣客漫画の包帯の剣士が使ったあの技です。何故風のメイジのラウルが使えるかも、物語を通して明らかになります。

そして最後に登場した才人が連れてきた親友達、あれはぶっちゃけネタです。あまり深く考えないで軽くスルーしてください。じゃまた!



[28691] 第3話 出会いか再会か
Name: kakuto◆ccc6f545 ID:6b502479
Date: 2011/07/13 14:03
「ゲルマニア帝国から来たラウル・ロッソ・フォン・ブライトです。ここで学び体験した事が、
貴族として、メイジとして更なる高みの礎になることを信じて頑張ります。」

自己紹介を終え周りから拍手が飛び交う中、ラウルはこちらに向かって小さく手を振るう一人の生徒に目がいった。

(キュルケ!?)

口には出さなかったが、そこにいたのは紛れもなくキュルケだった。あの燃えるような赤い髪、程よく焼けた褐色の肌。
栄養の半分を持っていかれたと思われる豊満な胸。自分を日向へ引っ張り出してくれた幼馴染の姿だった。



「はぁい、ラウル」

案の定授業が終わると、悪びれた様子もなく手を振りながらこちらにやってきた。

「はぁい。じゃねぇよ。何でお前がここにいるんだよ?」
「いやね、学校で男漁ってたんだけどそれがやりすぎて中退させられちゃって。それでやむなくトリステインの学校にね。」

情けないんだかアホ臭いんだから分からない理由でここにいる幼馴染の説明に、ラウルは大きくため息を洩らした。
だがこれで別れ際、親父が浮かべた笑みが理解できた。

(親父の奴、キュルケがいるの知ってやがったな。)

「はぁ。相変わらずかよ。いつも言ってるだろ、火遊びと塩加減は程ほどにしとけって。」
「あら、燃え上がる恋愛と情熱はツゥルプストー家として産まれた女の宿命よ。これだけは例え貴方でも止められなくてよ。
 それ言うんだったら貴方は何でトリステインに来たのよ?まさか貴方も女漁りすぎて居場所がなくなったとか?」
「生憎俺は親父から外の世界を学ぶという崇高な理由の上でここに来たんだ。」
「あら、つらない理由ね。」
「うるせぇ!というか気になってはいたんだが、お前の隣に居る子、誰だ?」

ラウルは顎で指差しながらキュルケの隣にいる少女と目を合わせた。青い髪のショートヘアで背は150にも届かない小柄な身体。
眼鏡の奥には輝く物静かで静かな雰囲気をたたえた瞳。キュルケとは色んな所が対照的(特に胸が)な美少女がそこにいた。

「紹介するわね。私の友達のタバサよ。貴方に会いに来たのもこの子を紹介するためでもあるの。」
「そうか。さっき自己紹介したけど改めて、俺はラウルだ。よろしくな、タバサ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あの、聞いてます?」

幾ら待ってもこない返事に言葉が詰まってしまうが、暫くしてワンテンポ遅れてずれた返事が返ってきた。。

「・・・・・・・・・・・・どうして」
「ん?」
「どうして剣をさしているの?」
「あ、ああこれな。こいつが俺にとっての杖なんだ。」
「・・・・・・・・・変わった形。」
「あ、ああ。こいつは倭刀っていうんだ。」
「わとう?」

本の虫の自分も初めて聞く名前に、タバサは小さな疑問符を頭に浮かべた。

「東方じゃこういった剣を刀っていうんだけど、そいつを模造したものを倭刀っていうんだ。(厳密には違うけどな」
「・・・・・・・・・・・・・そう」

ワンテンポ遅れて話すタバサに、話を続けるきっかけがつかめないラウルに、キュルケから助け舟が入った。

「ああ気にしないでね、この子あまり自分から話さないタイプだから。」
「そ、そうか。」

こういうタイプは初めてなので勝手が掴めないが、キュルケの友達である以上無礼な真似はしたくない。そう考えるラウルに、
タバサから再び1テンポ近く遅れた返事が返ってきた。

「お話・・・・・・・・・」
「え?」
「貴方のお話はとても面白いって聞いている。」
「前に貴方のお話の事を話したら、是非とも聞いてみたいそうなの。ラウル、こうして再開できた記念に、
 タバサにあなたのお話を聞かせてあげて。私も久しぶりに貴方のお話聞きたいしさ。」
「そうだな。そう言われても何を話せばいいか。その子がどんなジャンルが好きかで話す内容も決まるし。」
「まかせる・・・・・・・」

とは言ってはいるが、それが一番困る返答なのだ。暫く頭を傾げるうちにラウルはあの話にした。

「よし!だったらこんなお話はどうだ?」
「どんなお話?」
「とんでもない物を盗んでいった粋な泥棒のお話だ。」

軽く咳払いすると、ラウルはいつもの出だしで物語を語りだした。

「今でない時、ここではない何処かの物語。一人の大泥棒がいました。泥棒といってもそこらのコソ泥なんかとはわけが違う。
 盗もうと思えば海の底に沈んだお宝や星の輝きさえ盗んでしまう世界一の大泥棒だ。」

リアクションも加えて話すラウルの話は熱をおび、気がつけばタバサは何もいわないがそのお話にいつしか引き込まれていっていた。

「ふと、泥棒は握り締めた手袋から何か固い感触が伝わってきた。ふと中身を取り出すと、それは指輪だった。銀の山羊が掘られた
趨向な造りの指輪だった。『はてなどこかで。』そう呟く泥棒は今までの緩んだ顔から感慨深い顔に変わった。そして」
「そして?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次回へ続く!」

固唾を呑む二人を思いっきり肩透かしさせ、話は中途半端なところで中断された。

「なによそれ!すっごい中途半端な終わり方ね!」
「コクコク)・・・・・・・・・」
「そっちの方が続きが気になってまた聞きたくなるだろう。それにほら、もうすぐ次の授業始まるぜ。」
「・・・・・・・・・・・残念」
「もう、良い所だったのに。」

憎らしげに次の授業の始まりを告げるベルを聞きながら、二人は渋々席に戻っていった。

「途中とはいえ面白かったかな、お二人さん?」
「ええ。相変わらず貴方のお話は聞いてて飽きないわ。」
「コクン)・・・・・・・・・・」
「よかった。それとタバサ」
「?」
「俺とも友達になってくれないか?ほら、友達の友達は友達って言うだろ。駄目かな?」
「だそうよ。どうするタバサ?」
「・・・・・・・・・・・構わない。」
「本当か!?」
「・・・・・・・・・・・・お話、もっと聞きたい。」
「ありがとな。後、これからよろしくな。」
「・・・・・・・・・(コクン」

小さく頷くと、タバサは自分の席に腰を下ろし、ラウルも学校初日で幼馴染の再会と新たな友達を手にしたのであった。
だが、他所の国での生活はいい事ばかりではないのが現実だ。案の定、それは学校生活の最初の午後に起きた。



「じゃあ叉明日もよろしくな、お二人さん。」
「ええ。おやすみラウル。」
「・・・・・・・・・・おやすみ」

二人に別れを言い、自分の部屋に戻ろうと廊下を歩くラウルに、後ろから好意的とは思えない雰囲気で自分を呼ぶ声が飛んできた。

「おい!貴様!」
「?」
「貴様に言っているんだ!ラウル・ロッソ・フォン・ブライト!」

自分を名指しにする相手を見ると、声を荒げる同学年のマントを羽織った生徒が立っていた。

「なんだ?俺になんか用か?」
「貴様!転校生の分際で僕のキュルケに馴れ馴れしく話して!何様のつもりだ!」
「ああそのことか。安心しろ。キュルケとは領地が隣同士の幼馴染で、別にお前が考えているような関係じゃねぇから。」

男のせいで中退したにも関わらず、相変わらず男漁りに余念がない幼馴染にあきれるが、一方の自称キュルケの恋人は
嫉妬で周りが見えていないせいでラウルの説明など聞く耳もってはいなかった。

「幼馴染だと!そう言って油断させ僕のキュルケを奪っていくつもりだろう!それ以前に貴様!僕と付き合う以前から
 キュルケと付き合っていたとは!尚更貴様を許すわけにはいかん!」
「安心しな。お前さんが考えているような展開なんざ一度もねぇし、キュルケとの色恋沙汰にいちゃもんつける気なんてさらさらねぇよ。じゃあな。」
「はっ!どうだかな!君達ゲルマニアの男は好色で有名だからな!油断した所を横から奪っていくなんていう事もやりかねないしね!」
「なんだとてめぇ・・・・・・・・・・・」

自分にとって第二の故郷でもあるゲルマニアを侮辱されて黙っているほどラウルはそこまで寛大じゃない。

「そうやって嫉妬で周りが見えてないのは、自分に自信がない証拠だぜ。」
「な、なんだと!?」
「お前みたいな器の小さい男じゃキュルケの相手になれないって言ってるんだよ。」
「成り上がりのゲルマニア貴族風情が僕を侮辱するつもりか!」
「先に因縁吹っかけてきたのはそっちだろう。トリステイン貴族は名ばかりのガキかよ。」
「いいだろう!寛大な処置もここまでだ!礼儀を知らぬゲルマニア貴族に貴族の礼儀を叩き込んでやる!表に出ろ!決闘だ!」

意気込む相手に対し、ラウルはどうでもいいかのように何も応えずすたすたとその場を去っていく。

「ま、待て貴様!どうした!怖気ずいたか!」
「俺は部屋に帰って明日に備えて眠りたいんだ。決闘云々でいうなら俺の負けでいいから、とっとと俺の視界から消えな。」

完全に相手にされていない事に、相手の一方的な嫉妬のボルテージは上がる一方だ。

「はっ!どうやらゲルマニア貴族は好色だけでなく腰抜けのようだな!まぁラインの僕と戦いたくないのも無理はない。平民の使う
卑しい剣なんか腰に刺している奴だ!どうせゼロのルイズと同じ魔法の使えない落ち零れだろう!それにその剣も大方なまくらだろうな!」

卑しい剣。なまくら。それが今まで無視を貫いてきたラウルの神経を逆なでした。

「てめぇ・・・・・・上等だこの野郎。これがなまくらか俺が落ち零れかどうか、分からせてやるぜ。」
「逃げようなんて思うなよ!ヴェストリの広場で待っているからな!」

そう言うとそのままズンズンとした足取りでヴェストリの広場に歩いていった。

「逃げずに良く来たな!」
「自分より弱い奴から逃げる理由なんてないからな。」
「減らず口を!すぐにそんな口を叩けなくしてやるからな!」

そう言うと相手は徐に杖を高々と上げ口上を述べだした。一方のラウルはこれがつまらない決闘になると肩を落とした。
ぶっちゃけ相手が隙だらけなのだ。もしこれが手ダレのメイジなら、口上を述べている間も隙など見せたりしないだろう。
今ラウルがその気になれば、口上述べている隙に倭刀の柄を鳩尾に叩き込んで終わらせられるだろう。

「それでは小波のマニカ!いざまいる!」
「ラウルだ。適当に遊んでやるぜ、貴族のお坊ちゃんよ。」

マニカは敵が聞こえる声で詠唱をしだした。ラウルの中でマニカが素人からド素人に格下げにされた。
あんな声で詠唱しては魔法が何で、何時飛んでくるか自分から教えているようなものだ。

「ジャベリン!」

しかも飛んできた魔法は工夫もなにもない、単調で直線的なものだ。

「なっ!?」
「当たらなければどうということはないな。」

ラウルは軽く横っ飛びで難なくかわした。その後に飛んでくる攻撃も単調でまるで工夫も応用もなってなく、
師匠の血の滲むような特訓で鍛え上げたラウルの身体能力からすれば、この程度の攻撃など脅威にも入らない。

「ちょこまかと!だが次は外さん!これで終わりにしてやる!」
「ああ。お前の負けでな。」

ラウルは倭刀を抜刀すると、手首のスナップを利かせて円を描いていく。すると倭刀から渦が巻き起こりマニカの放ったジャベリンを次々と絡め取っていく。

「なに!?」
「ほらよ返すぜ!」

ラウルは倭刀を軽く振り上げると、氷柱は風の力で勢いよくマニカのほうへと返っていく。

「ひっひぃ!」

自分に目掛け飛んでくる氷柱に怯んで一瞬動かなくなってしまうが、それこそがラウルの狙いであった。

「ぐは!」

一瞬の隙を突いて懐に飛び込んできたラウルから、渾身の蹴りが鳩尾に入り、マニカはそのまま白目を向けぐったりと動かなくなった。

「あっけねぇな。鳩尾一発でダウンかよ。これだからカルシウム不足の牛乳嫌いは。」

ラウルは部屋から持ってきた羽根ペンとインクを取り出すと、白目を向けるマニカの顔に

「ふぅ。良い髭書いたな。」

容赦ない落書きを施しそのまま広場を後にした。



「てな事があってな。昨日は大変だったぜ。」
「ふぅん、どうりでマニカが誘っても部屋から出てこないわけだわ。こりゃお付き合いは考え直した方がいいわね。」
「他人事みたいに言うなよ。それになキュルケ、そうやって男漁りばっかやってるといずれブスッて後ろから刺されるぞ。」

あの無邪気で優しかった美幼女は何処にいったのか。今や男なら思わず振り返ってしまう美貌と、栄養の半分を持っていかれたと思われる
たわわな胸を揺らしながら、トライアングルにまで上り詰めた幼馴染は悪びれた様子もなく

「大丈夫よ。やわな男や女に負けるほど弱くないし。それに、いざって時は貴方が守ってくれるんでしょ?」
「俺に頼るなよ!というかそんなやっかい事に俺を巻き込むな!」
「あら薄情ね。幼馴染じゃない。」
「なんか俺、無償にお前と幼馴染やめたくなってきた。」
「無駄よ、ツェルプストー家の女から逃げられた男は一人としていないんだから。」

狩人の目でこちらを見つめる幼馴染に、これ以上言った所で無駄だと判断したラウルは話を逸らす事を思いついた。

「それはそうと、昨日そのマニカが俺をゼロのルイズってのと同類扱いしてたんだが、誰だ?そのゼロのルイズってのは。」
「ああ、それならあそこにいるこの子のことよ。」

キュルケが指差す先にいたのはウェーブのかかったピンクのブロンドを腰まで伸ばした正坦な顔立ちをした美少女だった。
だが、どこか目はキツメで他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。実際彼女は一人、ラウルなど五分で根を上げそうな
分厚い本を食い入るように見つめている。

「あの可愛い子か。だがなんだ、そのゼロのルイズっていうのは。二つ名にしちゃへんだし。」

答えの見えないラウルに、今まで本を読んでいたタバサからヒントが与えられた。

「今日の授業で分かる・・・・・・かも」
「????」

案の定タバサの言葉は現実のモノとなる。実技の時間、名を呼ばれたルイズは教壇に立つと盛大な爆発を起こし教室を半壊させた。

「もう実家に帰らせろよ!」
「とばっちりを喰らうこっちの身にもなれ!」
「う、うるさいわね!今日はたまたま失敗しただけじゃない!」
「たまたまじゃなくていつもだろう!」
「いつも魔法の成功率ゼロなんだからな!」


(そういうことか。)

キュルケに強引に机の奥に引っ張られたラウルは、ゼロという意味を理解するのであった。



だがラウルの日常は昨日の決闘以来、ラウルに喧嘩を売ってくる自称キュルケの恋人達が現れるようになった。二人目は火のラインらしく
そこそこ大きな火球を生み出し打ち出してくるが、トライアングルのキュルケの炎に比べればまるで火遊びのレベルだ。
おまけにマニカの時と同様弾道も一直線でお話にもならない。倭刀に竜巻を発生させ炎の軌道を変えてやり、すかさず
エアハンマーで脳天を打ちぬき勝負を帰し、今度は額に肉(きっちりルビまでふって)と書いて馬鹿にしてやった。


三人目は土のメイジらしく召喚した5m程のゴーレムの肩に乗って踏み潰そうとするが、ラウルの「さっきから気になっていたが、左肩についてるそれはなんだ」
という虚言に馬鹿正直に乗り、一瞬の隙をつかれエアハンマーで叩き落され地面へ仰向けに落っこちた所を倭刀の鞘の柄で鳩尾をつかれ昇天した。
仕上げとばかりに世界一可愛くないパンダにペインティングされて。


四人目は水のトライアングルだと威張り散らしている通り、無数の氷柱を生み出し次々と打ち出していく。ラウルも風の障壁を生み出しガードするが、
「あんなに強力な攻撃が出来るなんて反則だ。俺なんかが勝てる相手じゃない。せめて特大の魔法で苦しまずに沈めてくれ。」
という安っぽいおだてに乗せられ、長い詠唱がいる特大魔法を唱えているうちに一気に間合いを詰め倭刀の柄で顎を打ち抜き宙を舞わせた。
そして徐に眉毛をそると、かわりに特大のつながり眉毛を書いてやった。



そのうち、顔に落書きされた奴=キュルケに振られた負け犬という方程式が出来上がっていき、ラウルの日常は悪い意味で退屈しなくなっていった。
ラウルも、師範から学んだメイジ殺しの技術がこんなにも早く役に立つとは思っていなかったが。




「『ありがとう、とても嬉しいの・・・・・・でも貴方は、カリオストロ家の恐ろしさをご存じないのです!どうかこのまま帰って・・・・・・』
そう何かを諦めたかのように、お姫様は泥棒から目を逸らし深く悲しく首を落とした。」
「それで?」
「・・・・・・・・・・・・・」

二人はタバサの部屋で淡々と、時に勢いを加えながら話をするラウルに釘付けになっていた。本当に、わが幼馴染はどこで
こんな面白い話を仕入れているのか。いくら聞き出そうとはぐらかされるばかりで、真相は未だに闇の中だ。

「泥棒は大きくため息を付いた。『ああああああ何という事だ。その女の子は、悪い魔法使いの力を信じるのに、泥棒の力を信じようとはしなかった。
その子が信じてくれたなら、泥棒は空を飛ぶことだって、湖の水を飲み干すことだって、出来るのに!』と」

大きくガックリと頭を下げるリアクションつきで話すラウルに、二人は続きを今か今かと待ち続けた。

「そんな泥棒の姿にどこかバツが悪げに見つめるお姫様を前に、泥棒はんんんんんん!んんん!とうめき声を上げ、
 ゆっくり、ゆっくりと握りこぶしをお姫様の顔に近づけた。するとパッと開いた泥棒の手から小さな花が飛び出してきた。
 『今はこれが精一杯。』そう言い泥棒はそっとお姫様の手に花を手渡した。その瞬間、お姫様の顔から笑顔が、零れ落ちた。しかーし!」

突如口調が変わったことに二人はビックリしながらも、そのまま話の続きを食い入るように待った。

「今まで月明かりだけが照らしていたお姫様の部屋に、突如ランプが一つ、叉一つと灯りだした!
果たしてお姫様と泥棒に待ち受ける展開は!とまぁ今日の分はここまで。楽しんでもらえたかな?」
「コクン)・・・・・・・・・」
「ええ。明日も聞かせてよね。」
「それじゃあ明日も早いんだし、レディはそろそろベッドで鋭気を養う時間だぜ。」
「ええ。それじゃあラウル、明日はお互い頑張りましょう。」

ガッツポーズを見せるキュルケに、ラウルもサムズアップで応えた。明日は二年の進級が決まる使い魔召喚の日。とは言っても、この三人はどこかしら余裕だ。

「・・・・・・・・おやすみ」
「ああ。俺の話でよかったらまた聞かせてやるな。」
「・・・・・・・・・待ってる。」

こうしてタバサやキュルケに自慢のお話を聞かせてやるのが心休まる数少ない時間だ。そう噛み締めながらラウルはタバサの部屋を後にした。

「お?」
「あら?」

タバサの部屋から出ると、一人廊下を歩くルイズと鉢合わせした。

「あらルイズ、こんな夜更けに鉢合わせするなんて、奇遇ね。」
「ふん!あんたなんかと鉢合わせするなんて、こっちは非常に不快だわ!ていうかキュルケはともかく、
何でタバサの部屋から男のあんたが出てくるのよ!ラウル!ま、まさかあんた!?」
「勘違いしないで、ラウルはただ前から話しているお話の続きを聞かせてあげていただけよ。」
「ふん!どうかしら!しかもあんた、その色ボケツェルプストーの幼馴染だというじゃない!大方そのお話を口実に
タバサに手出そうと考えてるんじゃないの!ああやだやだ!これだから野蛮なゲルマニア貴族は!」

前からキュルケに聞いていたが、ルイズは代々殺し合い寝取られまくってきたツェルプストーの血統である自分が嫌いだという。
だからキュルケの故郷のゲルマニアが嫌いだ。そのため三段論法で言うならキュルケの幼馴染でゲルマニア人のラウルも嫌悪の対象である。
一方ラウルも言いたい放題言われむっと来たらしく、一言言ってやろうと前に出るより先に、キュルケがルイズの前に立ちふさがった。

「ルイズ」
「ふん!なによキュルケ!」
「私の悪口なら大抵は笑って許してあげる。けどね、私の幼馴染の侮辱は、どんな理由があろうと許さないわよ!」

いつもの人を食ったような陽気な姿はそこにはない。そこにいるのは杖から炎を吹き出しながら、静かなる灼熱の気を放つ一人の戦乙女だった。

「な、なによやる気!?」
「貴方がそれを望むなら、ここで相手になってあげても良くてよ。」

強がりながらも普段の軽い姿とは似ても似つかない威圧感に、ルイズも思わず後ずさりを起こす。おまけにこちらは
魔法の使えないゼロ。向こうは炎のトライアングル。結果なんて文字通り火を見るより明らかだ。

「そこまでだ、キュルケ。」
「ラウル?」
「俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、これ以上ヴァリエールと言い争っていても何の利益にもならないぜ。」
「それもそうね。私としたことが熱くなりすぎたわ。情熱も熱くなりすぎては鬱陶しいだけですもの。」

ラウルの言葉にのぼせ上った心が落ち着いたようで、キュルケは静かに杖を下ろした。

「そんじゃ行こうぜキュルケ、明日は寝坊して遅刻したんじゃ、ミスタ・コルベールにどやされちまう。」
「ええ。じゃあねルイズ。明日の使い魔召喚の儀、頑張ってね。」
「あんたなんかに言われるまでもないわ!見てなさい!明日あんた達も及びもつかない強く気高く美しい最高の使い魔を召還してやるわ!」
「せいぜい頑張れ。じゃあな。」

心底どうでもよさげに呟きながら、二人は地団駄を踏むルイズを後にし自分の部屋に戻っていった。




「サラマンダーだ。」
「さすがキュルケだな。」

尻尾に火を灯す虎並に大きな火トカゲに、一同は騒然となった。ついに使い魔召喚の日を向かえ、
ラウルはトライアングルに相応しい高位の幻獣を召喚した幼馴染に拍手で応えた。

「おめでとうキュルケ、さすがだぜ。」
「ええ。もっとも、今の所タバサが一番ですけどね。」

そういうキュルケが目を向ける先には、風竜の体に背もたれ本を読むタバサの姿があった。

「風竜か。確かに今回の一番星だな。」
「それでは次はミスタ・ブライト、こちらへ。」
「はい!」

自分の名を呼ばれ、ラウルは広場の中心に向かった。タバサとすれ違い様、小声で「頑張って」という応援を受けて。

「ラウルー!頑張ってねー!」
「ああ。まかせとけって。」

キュルケの声援にガッツポーズで応え、ラウルは倭刀を抜刀し詠唱を始めた。

「この世に生けとし全ての命よ、この時、我、ラウル・ロッソ・フォン・ブライトの声を聞きたまえ。
我が声を聞き入れし永久の僕にして永久の友よ、今こそ我が永久の契りを交わすべく、ここに姿を表せ!」

詠唱が終わると眩い光が吹き上がり、それは徐々に集束していくかと思えば、ラウルの前に一匹の獣がいた。そいつは

「わ、ワイバーンだ!」
「ラウルがワイバーンを召喚したぞ!」

そう、ワイバーン。大きさはタバサの召喚した風竜と同じか少々大きいくらいだが、前者がまだ成熟していない幼生に対し、
こちらはワイバーンの中でも中型の種で、人間で言えば成熟した大人だ。さすがに風竜に比べれば見劣りしてしまうが、
飛翔能力に優れたその体や火竜にも匹敵する獰猛さは竜の眷属に相応しい力強さを持っている。

(ぐるるぅうううう・・・・・・)

ワイバーンは唸り声を上げながら暫しラウルを見つめていると、何かを悟ったかのようにそっと身体を掲げこちらに顔を近づけてきた。

「受け入れたって事か?)我、ラウル・ロッソ・フォン・ブライト、五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、わが使い魔にせよ。」

噛みつかれないよう注意しながら契約の口づけを交わすと、ワイバーンの右脚に使い魔のルーンが浮かび上がった。
コルベールはすかさずそれをメモして、足早にワイバーンから離れた。

「さすがはミスタ・ブライト。破天荒なあなたの事ですから、とんでもないものを呼び出すのではないかと思っていましたが、まさかワイバーンとは。」
「褒め言葉として受け取っておきましょう。」

ラウルは踵を返しキュルケとタバサ二人の下に戻ってきた。

「ワイバーンだなんてさすがね、ラウル。」
「コクン)・・・・・・・・・・・」
「ああ、ありがとう。俺達三人大当たりが引けてよかったな。」
「ええ。それに比べて・・・・・・・」

キュルケが目を向ける先には、未だに成功の兆しも見えずただの爆発を起こすルイズの姿があった。

「いい加減に諦めろよなー。これで何回目だよ。」

「早く成功させろよ。爆発するたびに使い魔を落ち着かせなきゃ行けないこっちの身にもなれよ。」

「無理無理、所詮ゼロのルイズが成功なんてありえないって。」

「このままじゃ日が暮れちまうよ、まったく。」

「うるさい!」とルイズが言うより先に、突如ラウルが召喚したワイバーンから怒号のような雄たけびが上がり、一瞬にして辺りは静かになった。

「おい、こういう場合は沈黙が礼儀だ。それともトリステインの貴族はそんな暗黙の了解も分からないのか?それにな、俺の相棒は
食事前に召喚されたんで気が立ってるんだ。もし俺が待てを解いたら、一体相棒はどの耳障りな鼠に向かってくるんだろうな?」

涎を零しながら相手を威圧するワイバーンを見て、野次を飛ばしていた生徒は一同に黙り込んだ。
中には小声で文句を言う奴もいるが、ラウルは気にも止めずにルイズに目をやった。

「余計な事しないでよ!あんな奴等に言われたって、私は気にも留めてないんだからね!」
「勘違いするな、耳障りな野次がウザったかったから黙らせただけだ。だがこれで少しはやりやすくなっただろう。」

ルイズは「ふんっ!」そっぽを向くと再び杖を翳し詠唱に入った。もはや半ばやけくそといった感じで。

「この宇宙のどこかにいる私のしもべよ!申請で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め訴えるわ!我が導きに、応えなさい!」

詠唱が終わると、再び爆発が起きた。だが今までと違うのは、その爆発が今まで以上に盛大だったという事だ。

「これで何回目だ?」
「やっぱり今度も失敗みたいね。」
「・・・・・・・・・・何かいる。」
「「え?」」

タバサが言うように、そこには確かに何かがいる。ルイズも手ごたえを感じていたらしく、
煙が晴れるのを今か今かと待ちわびている。
だがラウルはこの後、自分の思考が一瞬停止した。何故ならそれは、16年ぶりに耳にした懐かしき声であったからだ。

「ここ、何処だ?というかあんたら、誰?」

(!!!??)

ラウルは、いや一久は目を疑い完全に意識がトリップした。そんな馬鹿な、ありえないと思った。煙が晴れ姿を現した者に。蒼いパーカーにジーンズ。
東洋人の象徴である黒い髪。明るく快活そうな瞳。姿や声を聞き、見る度に長い年月で風化しかけていた記憶が再生されていく。
死に別れた頃よりも成長し背も伸びているが、その顔はあの頃と変わっていない。

(才人・・・・・・・才人なのか!?)

平賀才人。かつて自分が日本人、武山一久だった頃、ともに青春を謳歌し、ともに卒業する事叶わず死に別れた無二の親友の姿がそこにいた。




ようやく才人と再会です。次回でラウルと才人の会合です。

それとレスの返事ですが、訳あって返事する事叶いません。どうかお許しください。


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