はてな?探偵団

73.ベビーカステラの名は? (2007/10/03)

店ごとの商品名が浸透

 もうすぐ秋祭りのシーズン。祭りといえば、探偵は夜店でよく好物のベビーカステラを買う。しかし京都出身の探偵は、七年前、初任地の淡路でベビーカステラが「ピンス焼」の名で売られているのに驚いた。それまで「ベビーカステラ」以外の呼び方を知らなかったからだ。だが聞けば、兵庫県にはほかにもいろんな呼び方があるらしい。いったいなぜ?(松本寿美子)

▼地域ごとに呼称?

今夏の祭りで売られていた「福玉焼」。あなたは何と呼ぶ?=明石市大蔵谷奥

 京都では「前田のベビーカステラ」が有名で、祭りではいつも長い列ができる。だから探偵にはあの小さな俵形の甘い菓子は「ベビーカステラ」でしかなかったのだ。

  しかし神戸の同僚(37)に聞くと「ベビーカステラと呼ぶ。でも母は昔から『玉子焼』と言うよ」。驚いた。「玉子焼」は明石では明石焼を指すのにね。その明石に住んでいた男性(55)は「『福玉焼』と呼んでいた」。

  西宮の友人(29)は「ベビーカステラだけど、『ちんちん焼』も聞いたことがある」。このほか姫路方面では「松露(しょうろ)焼」と言うことも分かった。ん〜、ベビーカステラとは別に地域ごとの呼称があるってこと?

▼商いに誇り

 明石市朝霧町の露天商、古志利明さん(83)を訪ねた。古志さんは二代目で、戦後間もなく「福玉焼」を売り始めた。

  「『福玉』って縁起がええんで付けたんです」と古志さん。「うちのは中が少し半熟でしょう。シュークリーム風で独自の味。名前もうちだけのものです」。言葉の端々に商売への誇りがにじむ。「夜店なしで祭りは盛り上がらへん。多くの人を楽しませられる仕事やと思ってます」

  当時、近隣ではほかに売る人もなく、屋台の持ち運び機能や交通の便の悪さから、近場でしか商売ができなかった。商品名は地元で浸透したわけだ。「今、遠くで商売するときでも『福玉焼』で出すよ。うちの看板やから」と孫の利宗さん(32)も教えてくれた。

  「玉子焼」で売る神戸市須磨区の加島繁治さん(64)は「世の中が落ち着いてきた昭和二十年代後半、父がのれんや袋に『玉子焼』と印刷したのが始まり。由来は卵をいっぱい使うからでしょうな」。それまでは当時、焼き機のギアの部分に付いていた鈴の音から「ちんちん焼」と呼んだそうだ。

  姫路の「松露焼」と淡路の「ピンス焼」についてはいずれの露天商さんも「親の代から使っているが語源までは…」とのことで謎のままだった。

▼発祥は兵庫か

 では広く使われている「ベビーカステラ」の名前は、どこから生まれたのか。“名付け親”はなんと西宮にいた。

  西宮市神原の高瀬幸男さん(73)は「最初は『ちんちん焼』って袋に判を押してたんやけど、ちんちん言うのもね(笑)。それで昭和二十九年にうちがハイカラに『ベビーカステラ』と付けた。そしたらよそも使い始めてね」。へぇ…、でもなぜ広まったの?

  「うちは結構手広く売りに行ったし、よう売れた。品物の見た目とも、しっくりきたんでは」と高瀬さん。「昔は独自の名前を付けたんや。よそと同じなんて嫌でしょ。それだけ味に自信もあった」。高瀬さんは同じ名前が増えたため屋号の「三宝屋」を袋やのれんに付け加えたという。

  また、京都の「前田のべビーカステラ」に触れると、「うちが機械も作って材料の配合も教えたんですよ」と故郷の品のルーツも判明した。

  最後にベビーカステラ自体の発祥を尋ねると、「関西やろな。関東は今も店が少ないし関西でも大阪や京都は後で増えたから、西宮や神戸あたりから始まったんでは」。

  ふーん、だからいろんなオリジナル名があるのかな。それにしても名前には露天商さんたちのこだわりが詰まっていたんだ…。と思ったら無性にベビーカステラを食べたくなってきた。今秋の味わいは、またひと味違いそうだ。

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