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パネリスト:
久保利英明 日比谷パーク法律事務所 代表弁護士 大宮法科大学院大学 教授
郷原信郎 名城大学総合研究所教授 郷原総合法律事務所 代表弁護士
柴山昌彦 衆議院議員
モデレーター:
三宅伸吾 株式会社日本経済新聞社 編集委員(証券部兼政治部)
パネリスト:
久保利英明 日比谷パーク法律事務所 代表弁護士 大宮法科大学院大学 教授
郷原信郎 名城大学総合研究所教授 郷原総合法律事務所 代表弁護士
柴山昌彦 衆議院議員
モデレーター:
三宅伸吾 株式会社日本経済新聞社 編集委員(証券部兼政治部)
「一人一票の平等をめぐる戦いに全霊を傾けている」(久保利)
久保利氏
久保利英明氏(以下、敬称略):はい。私のほうでは、「一人一票実現国民会議」というものを推進し、最近も新聞紙上に全面広告を展開してきたばかりです。衆議院選、参議院選と遡り、既に20回ほど意見広告を出しています。今や意見広告としてはこの団体が一番多額のお金をメディアに払っているのではないかと言われるぐらい、一生懸命やっているのです。
なぜこんなことをやっているのかといえば、議員の先生がいらっしゃるところで恐縮ですが、この国が本当の意味での民主主義国家ではないからです。民主主義というのはすなわち、いろいろ議論をしたうえで最後に採決をする。その採決は多数決でなければならない。そういうものです。そして、その採決のときには1人1票、等価値の投票権を行使するのでなければ、それは民主主義ではないということを、小学校の学級委員の選挙のときから我々は教わってまいりました。
たしかに国会議員の先生方が議会において1人1票を持ち、それが等価値であることは間違いありません。それは衆議院であれ参議院であれ、内閣不信任案、あるいは1つ1つの立法、これはすべて議員の先生方の1人1票、等価値によって決まっています。しかしよく考えてみると、その一人ひとりの国会議員の後ろにいる国民の数というのは、まるで違うではないかということです。
参議院選挙の選挙区でいえば、鳥取県では24万人の有権者から1人の参議院議員が選出される。ところが神奈川県では120万人の有権者から1人の国会議員が選出される。衆議院の小選挙区にしても、1人の国会議員の後ろにいる有権者の数は、本来ならイコールでなければならないのではないかという素朴な疑問があります。
この一番素朴な疑問について最初に気付いたのが、越山康さんという人です。もう半世紀ぐらい経ちますけれども1962年、当時の越山さんは最高裁判所の司法修習生で、のちに弁護士になります。司法修習生の身分でありながら「1票の格差」をめぐって選挙無効の訴訟を起こして、最高裁まで持っていきました。結果的には、参院6倍衆院3倍という不合理な線引きにあって、一人一票等価値などまったく相手にされませんでした。その後も弁護士活動を通じて何度も何度も提訴しましたが、最高裁判所が参議院の選挙で違憲判決を出したのは、7倍近い票の格差があった1992年の選挙だけ。ほかはすべて全敗ということになって、いまだにその歴史は続いているわけです。私どももこれは酷い話だなとは思いました。とはいえ憲法には関心ありましたけれども、それがどれほど重要な問題なのかということについては、越山先生が頑張っているからしっかりやってもらおうぐらいの認識でいました。ところが、年を重ねるに従い、日本の政治がこれだけ混迷しているのは、ひょっとしたらそのせいではないのかと考えるようになりました。そこで私は『日経ビジネス』のインターネット版を通じて、小沢一郎さんに文句を言いました。「政権交代」となんだか偉そうに言っているけれど、本当に政権交代なのか、1人1票が確立しないなかで、どちらが多数派と言えるのか、という喧嘩を売ったのです。もちろん相手にはされず通しですれど、そのことからまず衆議院について選挙運動の訴訟を全国でやろうということになりました。
越山先生の活動がうまくいかなかった一因は、東京高等裁判所という最も保守的なところでのみ訴訟を起こしたことにあると考えています。選挙運動に関する訴訟は地裁をパスして、第2審の高裁から入ります。そうすると最も保守的な東京高裁というところに行ってしまったために、どうしても勝てない。そして最高裁判所も高裁の判決を支持します。これをなんとか変えたいところです。そこで考えてみると、全国には実は高裁が8つあります。そして支部が6つあります。14高裁・支部があるわけで、そこでそれぞれ3人の裁判官が合議をします。ということは14高裁・支部で提訴すれば、計42名の高裁裁判官が合議をすることになります。その高裁の判事たちが違憲判決を出す。あるいは、まだ違憲ではないけれどもそれは執行猶予にすぎず、早く訂正しないと無効にするという判決。これが「違憲状態」と言われますが、その2つのいずれかの判決が全高裁で下されれば、最高裁もよもやひっくり返すことはできないだろうと思いました。
そこで衆議院の1票の格差に関して、各地でまずは9つの裁判を起こしました。結果的には7勝2敗で、現在は最高裁判所の大法廷にかかっていて、2月23日に大法廷で弁論が開かれるという状況になっています。おそらく4月か5月頃には判決が下りるでしょう(※この講演後、3月23日に「違憲状態」判決が下った)。一方の参議院のほうは、全部で15の提訴をしました。たまたま東京都の原告と神奈川県の原告で重複したので、これで15になりました。現在までに12の判決が下りていて、すべて違憲、もしくは違憲状態ということで、あとの3つも2月中に判決を下りることになりそうです(※同・2月24日までに全て判決がなされ、全てが実質勝訴となった)。
我々が活動してきたなかで、きっと多くの裁判官は「自分のところにも提訴してくれないか」を待っていたんじゃないかという気がしてなりません。東京高裁ばかりにいくのではなく、僕らにも考えがあるということを示したかったのだと思いますが、大阪高裁、福岡高裁、あるいはそれ以外の支部でも、もの凄く良い判決が下りています。1人1票、等価値でなければ民主主義ではないということを、きちっと言ってくれた判決が次々と出てまいりました。そういうことで1票の不平等是正の訴訟が、ようやく花開く可能性があるのではないかと思っておりますが、この入口の部分がまるでデタラメなことには、まだ変わりありません。
たとえば(と地図を提示しながら)、参議院では、鳥取県では1人1票の価値がありますが、鳥取のすぐ隣の兵庫県は0.21票です。兵庫というと瀬戸内海側の神戸を思い浮かべがちですが、日本海の沿岸部まで兵庫県です。これが5分の1の価値しかない。北海道は過疎地の典型ではないかと思いますが、これも0.21票です。そして神奈川県が0.20票。東京都が0.23票。大阪府が0.21票です。決して過疎地だけにたくさんの票がいっているわけではありません。鳥取から山を隔てて反対側の岡山県は0.3票です。いかにバラバラでいかにデタラメかということを強く主張したい。こう考えていろんな運動を展開してきました。
そのなかで我々としては、単に弁護士が訴訟を起こすだけではなく、国民運動をやっていこうと考えてTwitter(@hitori_ippyo)のようなソーシャルメディアを活用した運動も始め、つい先週はある発言が総合ランキングで2位になりました。Twitterの2位がどれほど凄いのかわかりませんが、少なくとも大変大勢の方々が投稿してくださっています。
それから、全国の地域で、例えば東京では山手線で毎朝、それこそ議員の先生方と同じように「朝立ち」をやりました。学生諸君の通学、あるいは若いサラリーマンが通勤を狙って、「1票の格差」を訴えるカードを配るといった活動をしています。
おそらくこれから大きな変化が出てくるでしょう。特に大きなポイントは、最高裁判事に対する国民審査による締め付けです。判事にはこう言っています。「あなた方は決して国民から孤立しているのではない。入口がこんなデタラメな投票権だったら、その訂正は最高裁判所の違憲立法審査権に懸かっている。違憲立法審査権でビシッと違憲だと言ってください。それが言えなければ、国民審査で投票に来た人の過半数があなた方に『×』をつけることになります。すると憲法に書いてある通り、あなたは罷免されますよ」。こう訴えています。しかしこれだけだとなんだか恫喝しているようで、本意ではありませんし、おそらく最高裁判事も気分が優れないだろうと思うので、こうも言っています。「裁判官は内閣に任命されたただの役人だからといって、国民との接点はないということは言わないでください。国民との接点は、クビにされることにあります。内閣総理大臣は国民によってクビにされることはありませんが、最高裁判事は国民によってクビにされるだけの強い絆があります。国民とのむすびつきは政治家より強いのです。だから自信をもって判決をしてください」。そういうお願いを2月23日には申し上げるつもりです。
今日はその前哨戦として議員の先生方、そして参加の皆さん方から、諸々ご批判をいただければ有難いと思っているところです。また、ぜひ新聞広告も含めて巨額の基金を入れていただき、Twitterも盛んに支援していただけると心強いと考えております。