で、以前にここで「維新カステラ屋」にいた私の後輩の退職話をしたのですが、その彼女と食事をしようということになりまして、缶詰時間の解消として、江東区の門前仲町にくりだしたわけです。
そこに行くまでの大江戸線でのことです。
「大門・浜松町駅」から乗った私ですが、「汐留駅」から黒い杖をついた中年が乗り込んできました。
すぐにシルバーシート(優先席)に行ったのですが、すべて座られています。
で、優先席横のドア前にどっしりと座りこみます。スーツですが、お尻をつけましてね。
で、思わず私は立ち上がって、こちらにお座りくださいと伝えたのですが、「携帯がダメなんだ」と言われまして、断られました。
私は、優先席寄りの、ドアを隔てて一番端に座っていたのです。
今度は、優先席に座っていた女性が立ち上がりまして、「どうぞこちらへ」と手招きをしたのですが、その女性の隣の若い兄ちゃんがよくなかった。
優先席で、携帯メールを打ち始めていたのですよ。
黒い杖の男性は、次の「築地市場」で止まった時に、やっと優先席に行こうとしたのですが、その兄ちゃんに「やめてくれ」と言ったかと思うと、また、そのドア前に腰をおろしたのです。
首からたすきがけをしている黒いショルダーバックには、手製と思われる注意プレートが入っています。
ピンク地に『ペースメーカーをしています』と携帯電源を切ってくれるように、の文言が入っていたように思います。
前を通る人、また、先ほど優先席に座ろうとした時も、このプレート(A4版をパウチしたもの)をかざして、注意をしていました。
結局、その次の「勝どき駅」より、優先席を広く開けられたので、3人分をひとりで使うことになりましたが、何の気なしに座ろうとした方々に、そのプレートを差し出していました。
で、誰も横に座らなくなってしまったのです。
でも、その行為はあたり前ですね。
必死になって、自分が身を守らなくては、すぐに死がやってきてしまいます。
何といわれようと、するのが当然です。
床に座り込んだのも、立っているよりは、ずっと安定して安全です。
スーツの汚れなど気にしてはいられません。
実のところ、私が以前から考えていたことを、身をもってやっておられる…いや、やらない訳にはゆかない状況を目の当たりに感じたことであったのです。
その考えていたこととは、一種のスゴミです。
「おい、その携帯電話やめてくれないか。
もしもだな。君の半径4メートル以内に、もうそろそろ取替えの時期がきている旧型の心臓ペースメーカーを埋め込んだご老人がいてだな。
そのご老人が、急にもだえ苦しんで倒れたとしよう。ついでに死んじゃった場合だね。
見渡したところ、携帯電話で話しこんでいたいたのは、君しかいないと私はみた。
それだけだとおかしいので、周りにいる方々も携帯電話の電源を切っていたかの証明をしてもらう。
それでも、やっぱり君だけが電源を入れ、使用していた。
で、その老人のペースメーカーの誤作動は、君の携帯電話の使用が原因であったことが証明されてしまった。
つまり、因果関係が決定されたのだよ。
すると、してはいけない場所で、平気で携帯電話使用をしていたとするまわりの証言。
そのご老人は、まさか安全のはずと考えていたところに、そういう奴がいた。
そのご老人のご家族は、恨むだろうね。
君は『殺人罪』に問われるね。
もちろん俺も証言するしね。「コイツです」と。
新聞や週刊誌にも載るだろう。
友人たちも「あいつなら平気でやるかもしれない」というのも出てくるかもしれない。
職場では「やっぱりですね。注意しても聞かない奴だった」と言われるかもしれない。
ご両親、ご兄弟はいるのかな。どうなるかな〜。
親戚は冷たいぜ。何しろ殺人鬼だからね。
他の人もやってるって言いたいのかい。
そんなことは関係ない。
今は君の問題なんだぜ」
そんなことを、私は考えていたのです。
ペースメーカーのことをもっと詳しくして…
たとえば、生きるよすべにしていることや、電磁波などによる細かな影響データを調べて出したり、
殺人罪の定義や拘留期間など、法律的なことを加えたり、
自分の周りへの影響具合をより具体的に肉付けすると、電車内の会話にも、ぐっとリアリティが出てくるかもしれません。
けれども、あの「秋葉原通り魔事件」直後に、携帯カメラで現場を撮っては友人に送りつけていた人が多くいる、というニュースを聞いた後では、私のスゴミ例なぞ、全く役にたたないようにも思えるのです。
あの大江戸線の黒杖の男性のこと…。
自分がそのような体になったのなら、たくましく生きること。
そして、そういう方々の存在も頭に入れながら、ルールを守るだけでなく、自分から優しい気持ちになるように心がけること…、そういうことが大切であると思わずにはいられません。