今年のサンマ漁のトップを切って9日朝、北海道東部の各港で初水揚げがあった。サンマ漁の主要な港と漁船が集まる三陸沿岸が東日本大震災で壊滅的な被害を受け、先行きが懸念される中、釧路市の釧路副港では気仙沼市の県漁協大谷本吉支所所属の「第8宝洋丸」(9・7トン)も含め61隻が約33トンを水揚げ。「漁に出られるだけでありがたい」。自宅や漁具を津波で失った船長の芳賀千鶴男さん(65)の顔にも笑顔が戻った。【山田泰雄】
サンマ漁は7~8月は道東沖、9~10月は三陸沖が主な漁場になり、水揚げ港も北海道から南下していく。釧路副港には午前4時ごろから漁船が次々と接岸し、発泡スチロールの魚箱に詰めた新鮮なサンマを手早く陸揚げしていった。初せりは1キロ800~2500円で、記録的不漁だった昨年と比べて買いやすい「お手ごろ」の値が付いた。
この時期に出漁するのは大半が道内の船だが、第8宝洋丸は約10年前から道東沖の流し網漁に加わっている。芳賀さんは3月11日、漁協支所で地震に遭い、小学校から下校途中だった孫娘(7)と避難。船も長男(41)が沖に出して津波を逃れ、家族も無事だった。だが自宅は跡形もなく流され、船から外していた漁用の装備一式も全て失った。
その後2カ月の仕事は、水くみとがれきの片付けだけ。一時は「サンマ漁には行けない」と思ったが、知人から装備を譲り受けるなどして再起を決めた。「俺らはおかに上がったかっぱ。漁をやるしかない」
例年ならお盆前には気仙沼に戻るが、港の復旧も進まず、今年はどうなるか分からない。放射能による海の汚染も心配だ。
それでも無事にスタートを切れたことで「サンマは小ぶりだったが、そんなことは二の次。今回の漁では多くの人に『気持ち』をもらった。今度はこっちが元気のおすそ分けをしたい」と笑顔を見せた。
毎日新聞 2011年7月12日 地方版