ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン長野> 記事

少年事件の裁判員裁判 立証に課題

2011年07月03日

 今年1月の専門学校生暴行死事件をめぐり、傷害致死などの罪に問われた小諸市の無職少年(19)の公判が4日、長野地裁(高木順子裁判長)で始まる。県内の裁判員裁判で少年事件が扱われるのは初めて。初公判を前に、各地で先行して行われたケースから見えてきた課題について考えた。

 裁判員裁判では裁判員も分かりやすいよう、調書ではなく口頭による立証が重視されるようになった。また、裁判員の負担を軽くする目的もあり、数日間の集中審理が行われるようになった。ところが、日本弁護士連合会の調査で、こうした「工夫」が少年事件だとかえってマイナスに作用する恐れが指摘されている。
 少年事件では、家裁の調査官が成育歴を調べたり少年鑑別所の技官が心理テストを行ったりして、社会記録が作られる。しかし、公判で読み上げられることを警戒し、プライバシーに深く触れる情報を盛り込まないようにする傾向が懸念されている。処遇意見と呼ばれる結論部分のみが朗読されるケースもあるという。
 少年事件では発達上の問題が犯行に影響することも多い。少年法も医学や心理学、社会学などの知見を活用して審理するよう定めている。だが、裁判員裁判になってから児童精神科医などの専門家が証人として採用されにくくなったとの見方もある。複数の弁護士は「裁判員の負担を軽くするためではないか」と言う。
 日弁連子どもの権利委員会で事務局長を務める川村百合弁護士は「証拠が事前に絞り込まれ過ぎて、虐待などの成育歴に起因する人格の未熟さが犯行に及ぼした影響を十分に立証することが出来ず、無力感を抱く弁護士が多い」と話す。
 小諸市の少年が事件を起こした背景がどこまで明らかにされ、専門家の知見がどう生かされるか。長野地裁での審理が注目される。(二階堂友紀)

◆少年に心開かせる工夫を 広瀬健二・立教大法科大学院教授
 元裁判官から見た裁判員裁判と少年事件の問題点について、広瀬健二・立教大法科大学院教授に聞いた。
 ――成育歴といった社会記録が調べにくくなっているのは、どうしてですか。
 「家裁の調査官がまとめる調査記録には、虐待を受けた過去や少年の精神的・能力的問題など、人前には出しにくい記述が多々含まれる。調査官が関係者と信頼関係を築き、秘密保持を約束して聞き出したことも多く、裁判員も傍聴人もいる公開の法廷で赤裸々に調べると、今後協力を得られなくなる恐れも出てくる」
 ――それによる影響は。
 「要約版を調べるやり方もあるが、重要な部分が抜け落ちる心配がある。少年にとって有利な事情が裁判員に正確に伝わらず、厳罰化につながる可能性がある。実際、裁判員制度になってからの判決を見ると、従来より成育歴や本人の性格的な問題についての言及が薄くなっているようだ」
 ――その他の問題点は。
 「裁判官3人、裁判員6人から見下ろされる。特に年少の少年の場合、その雰囲気に萎縮してしまって、真意を伝えたり自己弁護したりすることが出来なくなる恐れがある。裁判員裁判でも、少年に寄り添って心を開かせる工夫が必要だ」

PR情報
朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

広告終わり