今、ティムさんが心配しているのは子どもたちのことだ。「7歳の息子と4歳の娘もテレビに出てきた子たちと同じで、朝はワッフル、昼はチキンナゲットばかり食べたがる。番組を見て、子どもの健康は私の責任なのだから、手間はかかるけれど健康的な食事を用意しようと決心した」そうだ。
主婦向け番組の人気ホスト、オプラ・ウィンフリーや、『アメリカン・アイドル』の司会、ライアン・シークレストなど、ハリウッドの後ろ盾を得たこともフードレボリューションに勢いをつけた。5月半ば現在、政府に提出予定のフードレボリューションプログラム実施嘆願書に、59万人以上が署名している。
運動を軌道に乗せたところで、ジェイミーは英国に帰った。その後ハンティントンはどうなったか?
加工食品を完全に排除するのは困難そうだが、給食革命は地道に続いている。モデル校の校長先生のように、健康的な食事を家庭でも実践して8キログラムやせた人もいる。
ただ、食習慣・食文化は一朝一夕に変えられるものではない。近所に野菜を売っているスーパーがない地域、安い加工食品に頼らざるを得ない貧しい経済状況、手料理を食べたことも作ったこともない生活環境など、様々な問題がからんでいる。
大統領夫人も肥満撲滅に立ち上がった
子どもの肥満対策キャンペーンについてスピーチするミシェル・オバマ大統領夫人(2010年2月9日)〔AFPBB News〕
こうした環境的な要因を改善しようというのが、2010年2月、ミシェル・オバマ大統領夫人が発足させた、児童の肥満撲滅キャンペーン『レッツムーブ』だ。学校に徒歩で通える道路や遊び場を整備するほか、生鮮食品を扱う店のない地区に店を誘致することも計画の一部だ。
また、食品業界に対して、健康的で手頃な値段の商品を作り、栄養ラベルの標準化や子ども向け商品のマーケティングに、自主規制を設けるよう呼びかけている。
オバマ政権では、一時期、糖分の高いソフトドリンクへの課税を検討していたが、コカ・コーラなど米飲料大手の猛反対に遭って頓挫したことがある。しかし『レッツムーブ』の開始で、食品業界全体が児童の健康に取り組まざるを得ない時期に来たようである。
米国には食事の改善に取り組む団体が多数あるが、その多くが有機農家などと提携した地産地消のシステム作りに励んでいる。またここ数年、大規模農業や食品製造流通のあり方について問題提起する書籍の出版やドキュメンタリー番組の公開が相次いでいる。アメリカでも、食品の質や安全性に人々の関心が集まってきた。
「フードレボリューション」「レッツムーブ」のどちらのサイトも、健康的な給食メニューの例や、給食業者、教育関係者、子どもの親へのアドバイスなど、学校単位で給食を変えるための資料を公開している。予算の獲得というハードルは高いが、地域の学校がノウハウを分かち合い協力することで、給食改革はじわじわと広がっていくに違いない。
「これ以上子どもを太らせないために、食べ物を何とかしなくちゃ」という意識は、徐々にだが、米国人に浸透し始めている。
ミシェル・オバマ、ジェイミー・オリヴァーという強力なリーダーを得た2010年は、まさに米国のフードレボリューション元年になりそうだ。