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犯罪の原因が分かれば、犯罪の被害は防げるはずだと、人びとはその原因探しに長年費やしてきたが、現在もこの問題に答える定説はない。 未開社会の人びとは、山火事、洪水、飢饉、疫病など世の中の災いは、神霊の意思に沿わない人間社会への天罰と信じ、社会のタブー破りをした人や動物をいけにえに捧げ、神霊の怒りを鎮めようとした。 また、西洋中世期には、女に乗り移った悪霊が、人や家畜を殺し、農作物を枯らせるなどの悪事をすると信じて、魔女に仕立てられた女を裁判にかけ、追放し、処刑した。 いずれも、犯罪は個人の自制心では抑えられない力によって駆り立てられるものとの考えは、18世紀の人相学や骨相学にもみられるし、実証的犯罪学の祖といわれるロンブローソとその流れを汲む19世紀の学者たちにも影響したようだ。 刑務所の医師だったロンブローソは、受刑者の身体を細かく計測し、犯罪者には、それぞれの人種や出身地者の平均値から外れた身体上の異常や欠陥のあることに気づいた。 これは進化の過程で起きた祖先返り(隔世遺伝)による未開人への退化の現れで、この異常な身体的特徴を多く持つ者は、よほど良い環境に恵まれない限り、犯罪者になる運命をもつ生来性犯罪者と名付けた。 犯罪の原因が遺伝によるものならば、刑罰は犯罪者の改善に役立たないと主張したロンブローソは、後継者たちから評価されたが、未開人を犯罪者同様、野蛮な行為をする人間と考えたことは、文化人類学者から批判を浴びた。 彼の学説は、現在では支持されていないが、遺伝が犯罪の原因になるという考えは、後に犯罪生物学者たちに受け継がれ、犯罪と知能、家系、双生児研究、染色体やホルモンの異常、脳神経の機能障害との関係について研究を進める道を開いた。 しかし、犯罪者に多いとされた異常所見も、研究対象を一般市民に広げるにつれて、犯罪歴のない市民の中にも認められたり、また、その異常が単一では犯罪の原因とはなり得ないことが分かったりして、今では、複数の生物学的要因と社会的要因との相互作用によって犯罪が起きるという、極めて常識的で穏当な結論のものが多い。 一方、19世紀初頭の社会統計学者であり刑事学者のケトレーは、失業、貧困、経済的不平等が多い地域には犯罪が多発しているいことに注目し、犯罪は遺伝ではなく、社会病理現象であり、「社会は犯罪を準備し、犯罪者はその実行者である」 と述べた。 社会学者は、犯罪生物学派が犯罪者と非犯罪者とは生物学的に異質な人間と見ることに反対し、犯罪者とは、ただ、社会のルールに違反し、制裁を受ける行動をした人に過ぎないとの立場に立つ。 その上で、一般の人が社会の習慣に従いながら社会常識に沿った行動を学ぶのと同様、犯罪者になるのは、犯罪者の行動に共鳴し、模倣し、学習した結果と考える。 しかし、犯罪多発地域の住民や犯罪性のある人と接触した人がすべて犯罪者になると限らないのは何故かの問題を突きつけられた。 犯罪社会学者のサザーランドは、犯罪者になる人とならない人との差は何かについて、犯罪の学習は親密な人との間の、おもに言語的コミュニケーションを通して行われ、その際、法律を守るよりも、違法な行為をする方が得だと思っている人は、犯罪性のある人から多く影響を受け、犯罪者になるという分化的接触理論(differential association theory)を唱えた。 現在では、この学説に加えて、マスコミからの影響も入るだろうが、やや、常識的過ぎる感じもする。 では、順法的な考え方をする良心的な人とそうではない人がいるのは何故か。 本能のまま行動する乳幼児のほとんどが4歳以後には、次第に善悪の判断ができるようになり、本能的欲求を抑え、周囲と妥協しながら自分の欲求を満たすことを学んでいくのは何故か。 児童心理学者や精神分析学者たちは、その原因を親子関係、特に母子関係にあるとした。 母親あるいはそれに代わる養育者と愛情で結ばれた信頼関係がもてないまま育てられた子供は、満たされない欲求を機会があれば直ぐに満たそうとするようになる。 逆に、過保護に育てられ、欲しいものが直ぐにかなえられる環境に育てられると、それが叶えられないところでは我慢ならなくなる。 いずれも、その結果、衝動的、短絡的に欲求を満たす行動の傾向が身に付き、社会的に容認されないことでもやってしまう幼児の自己中心性がそのまま思春期、青年期になっても続き、これが社会の習慣、規範と葛藤を起こし、問題行動、非行・犯罪となって現れるという。 しかし、幼児期の母子関係を最重視するこの学説でも、まったく生物学的、社会的要因を度外視できないだろう。 例えば、犯罪・非行は女性よりも男性の方が5倍も多いのは、ホルモンと関係があるのかもしれない。 非行年齢のピークが15、6歳というのは、性的成熟期に当たり、不安と荒々しい衝動に駆られる成長期と一致している。 問題行動や非行の初発年齢が低いほど、累犯化をたどりやすいのは、素質的なものと生育環境の影響のほかに、非行後の受け皿がなく、地域から信用されずまともな生活に就けないためかもしれない、などだ。 こうして見てくると、犯罪の要因と言われる多種多様な因子がどう結びつくと犯罪行動になって現れるのか、もともと、犯罪とは法律上の概念であるのに、実証科学がその原因を探すことができるのか、犯罪原因が分からなければ本当に犯罪予防対策は出せないのかなど、次つぎに疑問が出され、犯罪原因論よりも犯罪防止対策、被害者対策を優先すべしとの主張が有力になってきた。 (おわり) ※このブログはトラックバック承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
確かに、愛情の薄い親子関係や母子関係などに、犯罪の遠因を感じますが、私には、もって生まれた知能差も?一因として有るように感じられます。(特に精神鑑定の必要と見られる犯罪には・・) もっとも逆に、すこぶる知能の高い者らは、法の抜け穴を研究し尽くし、犯罪と紙一重の部分を、巧妙にして、塀の内側に落ちない為の強かさを感じさせます。。 そうですね。 今、流行りのヤミ金融、悪徳マルチ商法、違法建築、偽装食品、振り込め詐欺、それに昔から続く、贈収賄、背任、業務上横領、インサイダー取引など。 奸知に長けた者の口先三寸の犯罪は、あとを絶ちません。 無垢な被害者は閻魔様に頼るしかないようだ。 実証的犯罪学のロンブローソ以降の科学的検証理論や解釈対策方法もその時代や社会背景からの影響は避けがたいものですよね。一時は遺伝子ゆえの犯罪者と疑われたクラインフェルター症候群(XXY)など素因のみでははかり知ることのできないことが多いにもかかわらずも高素因をもつ原因を追究することは社会犯罪から健全なる方向性を求めなる過程のひとつでもありますが、多様な要因がありすぎて、社会犯罪を考察する理論や解釈、また、改善への困難さがまた私たちの課題ですね。まずはひとりひとりがその課題に向き合うという意味ではこちらのブログは有難いものです。もうだいぶ寒さが感じられる季節となりましたでしょう。どうぞdankkochikuさんもお身体にお気をつけて。 nino さん ご無沙汰しています。 着々とご研究を進めておられるご様子。 1世紀以上続いた犯罪の実証的原因論は、膠着状態のままですが、近年、CTやfMRIなど電子技術の急速な発達で、犯罪に向かう脳の働きが解明されそうですね。 いよいよninoさんの出番です。 期待しています。 はじめまして、お邪魔します。 「拡大自殺」と言うキーワードで検索し、「へー、いい記事だなあ」と、軽い気持ちでコメントして後、たいへんなブログであることに気付き、どぎまぎしております。 少年刑務所20の項を読み、涙が出ました。 小学生の頃父親から一度だけ殴られた記憶があると言う恵まれた環境で育ててもらった私は、中学生の頃「不良」と言われる級友達を「カッコつけたがりの自分勝手な奴等」というような認識で見ていました。 彼らを単に自分に対する抑圧者としか考えていませんでした。 彼らが強いられた苛酷な環境を思うと、胸が痛みます。 とりあえず、自分の家庭は大事にしなければ、と改めて思わされました。 他の記事も読ませていただきます。 さむる さん そちらとは異次元の世界にお出で頂きありがとうございます。 今後とも、ご感想、ご意見、お待ちしています。
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