内閣府原子力委員会の専門委員を務めた中部大学の武田邦彦教授が自身のウェブサイトで、福島第1原子力発電所の事故の影響で放射能に汚染された原乳と、汚染されていないものを混ぜている疑いを示した。
原乳を西日本に運んで「処理」しているとの主張だが、根拠は明らかにしていない。インターネット上では「本当だったら大問題」と心配する声も上がるが、生産者団体は当惑しつつ、「そんなことはあり得ない」と反発している。
武田教授は2011年7月11日、自身が牛乳に関して独自に調査した末に「どうも危険なようです」と警鐘を鳴らす内容をウェブに書き込んだ。福島県や茨城県、千葉県の牛乳が大量に西日本に送られ、そこで「汚染された」ものと「きれいな」ものを混ぜて、原乳に含まれる放射性物質が国の定める暫定規制値を下回るように「細工」しているとの情報がある、と主張する。原文では「牛乳」とあるが、暫定規制値を話題にしていることから見て、加工前の「原乳」を指していると見られる。
そのうえで消費者に向けて、「産地が限定された少し高めの牛乳を買ってください」と呼びかけ、乳業の業者に対しては「原発近くの牛乳のデータと物流について、すべて公開してください」と要望している。ただし武田教授がどのような調査を実施し、どこで「汚染牛乳を混ぜている」という確証を得たのかといった具体的な記述は見られない。
現在、政府が原乳の出荷制限を指示しているのは、福島第1原発から半径20キロ圏内と、計画的避難区域に設定されている福島県南相馬市の一部に限られる。「20キロ圏」は、許可された場合を除いて立ち入りが法的に禁じられている「警戒区域」だ。県内の他地域は、2011年6月8日までに制限がすべて解かれた。茨城県にも一時制限が出されたが、4月10日に全域で解除されている。
東北や北関東の原乳の生産地では、出荷制限解除後も自治体が原乳のモニタリングを継続している。検査方法は4月4日に政府の原子力災害対策本部から出された指示に沿っており、各生産者からの原乳が集まる「クーラーステーション(CS)」、または乳業工場でサンプルを採取、分析する。福島県では7月に入ってからも3回の検査を実施し、結果を県のウェブサイトで公表しているが、いずれの回も対象となったCSや乳業工場で放射性物質は不検出だった。茨城県でも7月1日に検査を行い、結果は「検出せず」。こうなると、仮に福島や茨城産の原乳を西日本に運んで混ぜたとしても、そもそも放射性物質が検出されなかったのだから「放射能を薄めた」とは言えないだろう。
原乳の生産者団体である中央酪農会議に、武田教授のウェブサイト上での発言について聞いてみた。担当者は「ウェブに書かれていた内容を読んだ限りでは」としたうえで、こう反論した。「汚染された牛乳とは『暫定規制値を超えたもの』だと理解しましたが、これは市場には出回りません」。外に出ないから、別の乳と混ぜ合わせることもできないはず、というわけだ。
中央酪農会議によると、原乳は「鮮度が命」なので、生産地に近い工場に運ばれて加工されるのが基本だが、例えば首都圏のように消費が多い地域では、近郊の生産量だけでは賄いきれない。そのため、一大供給地の北海道からいったん関東の拠点に送り、そこから近郊各地へと出荷することはあるようだ。同様に消費量が多い大阪でも同じ措置が取られるが、その場合の主な供給地は九州だという。東日本から西日本へ原乳を供給するケースも皆無ではないが、「震災にともなって、大量の原乳が西日本に運ばれたという報告は、これまで入っておりません」と同会議の担当者は首をかしげる。
各県で行われる原乳のモニタリングは、全生産者を対象としている。もし武田教授の主張が正しいのであれば、「放射能に汚染された原乳」がモニタリングの対象から外れ、「ヤミルート」で西日本に送られたという意味なのだろうか。または出荷制限区域から、やはり秘密裏に原乳が西へと運搬されているとのことか。だがこの場合、西日本の乳業メーカーが高いリスクを冒してまで「汚染乳」を入手する必要性については疑問が残る。
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