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FC 第三節「白き肌のエンジェル」
第二十四話 思い込んだら一・直・線!
<ルーアン地方 マノリア間道>

ボース地方のクローネ峠の関所からルーアン市に向かうための海岸沿いへの道、マノリア間道。
マノリア間道を歩いていたアガットは、クローネ峠とマノリア村の中間に差し掛かった所で、狼型魔獣達に取り囲まれた。

「ちっ、やつらの狙いは俺だったのか」

遊撃士と言う職業は事件を解決するのが目的だが、依頼人に感謝される場合もあれば、退治した相手やその関係者に逆恨みされる場合もある。
しかし、アガットは今までこれほどしつこく命を狙われるような事に心当たりは無かった。
こうなったら、多方向から攻撃を受ける覚悟で一角を切り崩すしか無い。
”肉を斬らせて骨を断つ”だ。
アガットが覚悟を決めたその時、大きな爆発音が鳴り響いた!
何者かが導力砲を撃ったのだ。
取り囲んでいた狼型魔獣の内、右手前方の魔獣が驚いて陣形を崩すのを見て、アガットはその地点へ飛び込んで狼型魔獣を蹴散らした。
そして、着地したアガットは背後に導力砲を撃った人物が立っている気配を感じて振り返った。
するとそこにはツナギを着て頭に帽子、額にゴーグルを掛けた金髪の小さな少女が立っていた。
年は10歳そこそこに見えるその少女が導力砲を構えて居るのを見て、アガットは驚いて声をかける。

「こらチビスケ、こんな所で何をしてやがる」
「あ、あのー、この先にある灯台から囲まれているのを見て、助けに行かなきゃって思って、そのう」

アガットに声を掛けられた少女はおどおどしながらそう答えた。

「助けに来ただと? お前みたいなチビスケがふざけた事を言ってんじゃねえ!」
「ふ、ふぇぇっ!?」

少女の言葉を聞いたアガットがさらに凄んで少女をにらみつけると、少女は悲鳴を上げて泣き始めてしまった。
その少女の姿にアガットは戸惑ってしまった。
さらにアガット達の背後からは狼型魔獣達が襲いかかろうとしている。

「ちっ」

舌打ちをしたアガットは座り込んで泣き始めてしまった少女を抱いて持ち上げると、少女がやって来た道の方を走って狼型魔獣達から逃げ出した。

「えええっ!?」

アガットに抱きしめられて居る事に気がついた少女は泣くのを止めて驚きの声を上げた。
そして、少女を抱えたアガットは道の行き止まりにあった灯台までたどり着いた。
灯台の入り口のドアが開け放してあるのに気がついたアガットは、急いで灯台の1階に駆け込むと、内側から扉を閉めた。
アガットの後から追いかけて来た狼型魔獣は厚い鋼鉄製の扉にぶち当たった。

「こ、怖いよぉ……」

少女は狼型魔獣が扉に体当たりする音に頭を抱えて怯えていた。
扉の鍵を閉めたアガットは滝のような汗を流し、息を弾ませている。
抱いて運んで来た少女の体は軽いものだったが、導力砲の重量も加えるとそれなりに重かったのだ。
自分の呼吸を沈めながら、アガットは頭の中で落ち着いて考えを巡らせた。
狼型魔獣は建物の中へと入って来れないだろうが、このままでは自分達も出る事が出来ない。
前に関所に閉じ込められた時と同じだ。
いや、関所の兵士が居ない分だけさらに状況は悪い。
アガットは少女が持っている導力砲に目を付けた。
自分は導力砲を扱う事は出来ない。
この少女の力が必要だと考えたアガットは少女に声をかける。

「おいチビスケ、いつまで怯えてやがる」
「ご、ごめんなさい、私、助けに行かない方が良かったですね」

アガットに声をかけられた少女は沈んだ顔でそう言って、再び泣きそうになった。

「……そんな事は無い、お前が来てくれて助かった」
「えっ?」

落ち着いた声でアガットが言うと、少女は驚いた表情で顔を上げた。
視線が合ったアガットは真剣な目で少女を見つめて声を掛ける。

「チビスケ、あいつらを追い払うためにも力を貸してくれないか?」
「はいっ!」

アガットの言葉を聞いた少女はぱあっと明るく華やいだ笑顔になる。
その明るい笑顔に、アガットはエステルの事を思い出して心の中で苦笑する。

「いいか、まず扉に体当たりを繰り返しているやつらを灯台の屋上から狙い撃ちするんだ。そうすれば、やつらは警戒して近づいて来なくなる」
「はいっ、分かりました!」

少女は目を輝かせてアガットの言葉にうなずいた。

「そして、次は俺が扉を開けて外に出る。そうすれば、残ったやつらは俺を目がけて集まって来るはずだ」
「でも、私と導力砲を運んだけど、大丈夫ですか?」
「ふん、遊撃士の体力をなめんな」

少女に尋ねられて、アガットは鼻を鳴らしてそう答えた。

「じゃあ頼んだぜ、チビスケ」

少女はアガットの言葉にうなずいて、灯台の上への階段を登ろうとしたところでアガットの方を振り返る。

「私はチビスケじゃなくて、ティータです」

ティータはそう言って、階段を駆け上がって行った。



<ボース地方 遊撃士協会>

クローネ峠の関所からボースの街へ引き返し、七耀教会で薬を貰って再びクローネ峠の関所に戻ろうとしたエステル達はルグラン老人に呼び止められ、遊撃士協会の受付へと入った。
そして、ルグラン老人は4通の封筒を取り出すと、エステル、ヨシュア、アスカ、シンジにそれぞれ自分で手渡した。

「ルグランさん、これって……」
「うむ、ボース支部の推薦状じゃ」

アスカが目を輝かせて尋ねると、ルグラン老人はそう言ってうなずいた。

「お前さん達がクローネ峠の関所に行ってからまたここに戻るのは手間じゃろう? そのままルーアン地方へ向かえば良い」
「心づかい、ありがとうございます」

ルグラン老人にヨシュアはお礼を言った。

「いやいや、本当は関所に着いた時に渡すつもりじゃたんだが、あのような事が起こってしまったからのう」
「アガットさん、たった1人で大丈夫かな?」
「重剣のアガットって呼ばれるぐらい強いんだから、自信があるんじゃないの?」

ルグラン老人の言葉を聞いてシンジが不安そうな顔でつぶやくと、アスカはそう言い放った。

「そうか、アガットさんってとっても強そうだからね」

そう言ってシンジが暗い表情になると、アスカは例によってシンジのコンプレックス病が始まったとため息をつく。

「だからって、シンジがアガットみたいに強くなる必要は無いのよ」
「ううん、僕は大切な者を守れる様になりたいっていうかさ……」

シンジは首を振ってアスカの言葉を否定した。

「シンジがすぐに強くなっちゃったら、アスカは側に居られなくなっちゃうから嫌なんだよね」

エステルが笑顔でツッコミを入れると、アスカは短い悲鳴を上げた後、顔を真っ赤にして口ごもってしまった。
シンジの顔にもそのアスカの赤みが感染うつった。
そんなアスカとシンジの姿を見て、ルグラン老人は愉快そうに笑う。

「互いに足りない部分を補うのも大切な事じゃ。それに、誰かを頼るのは恥ずかしい事では無い。アガットのやつもその点は分かっておるはずじゃ」
「ふーん、アガットさんが誰かを頼るなんて事あるんだ」

エステルはいまいちピンと来ないと言った表情でそうつぶやいた。
すると、壁に掛かった時計を見たルグラン老人が思い出したかのようにエステル達に声を掛ける。

「おっと、すっかり引き止めてしまったようじゃな。お前達、関所に薬を届けなければいかんのじゃろう」
「そうだ、兵士さんが待っているんだっけ」

ルグラン老人に言われたエステルは気がついてそうつぶやいた。

「ではルグランさん、僕達はこれで失礼します」
「ルーアン支部での活躍を祈っておるよ」
「バイバーイ」

ヨシュアとエステル達はルグラン老人に手を振って遊撃士協会を出て行くのだった。



<ルーアン地方 バレンヌ灯台>

灯台の中に逃げ込んだアガットは、ティータとの連係で狼型魔獣の数を減らして行った。
その様子を少し離れた場所から見つめる2人の影があった。

「惜しかったね、もう一歩の所まで追いつめたのに」
「そうだね、こんな所で小さな救援が入るなんて予想外だったよ」

ピンク色のスーツを着た緑髪の少年に話し掛けられた銀髪の少年は笑みを浮かべて答えた。
その銀髪の少年は少しも悔しそうな表情を浮かべていなかった。

「おやおや、全滅しちゃったよ」
「どうやら、また失敗してしまったみたいだ。これには参ったね」

アガットとティータに蹴散らされてしまった狼型魔獣達を見て、緑髪の少年は他人事のように楽しそうに笑った。
銀髪の少年も同じように笑みをこぼした。

「こんなに早くやられてしまうとは思わなかったよ、さすが遊撃士は強いねえ」
「なるほど、今回の件はあの魔獣の戦闘力を試すのが目的だったみたいだね」

緑髪の少年の言い方に気がついたのか、銀髪の少年は納得したようにそうつぶやいた。
その言葉が的を射ていたのか、緑髪の少年はからかうような笑みを浮かべて銀髪の少年に話す。

「追撃の任務は別の人物が引き継ぐ事になったから、君は愛しい天使の元に戻ると良いよ」
「……そうさせてもらうよ」

銀髪の少年は不快な表情になってその場から立ち去った。
それは彼が滅多に見せないものだった。

「君がわざとアレを渡したって事はとっくに気が付いているのにねえ……」

緑髪の少年はそうつぶやくと、銀髪の少年に続いて姿を消した。
2人が姿を消した後、バレンヌ灯台の入口に姿を現したのはアガットとティータの2人だった。
灯台を立ち去ろうとするアガットに、ティータは名残惜しそうに声を掛ける。

「アガットさん、もう行っちゃうんですか?」
「ああ、仕事の途中だしな」
「で、でも、あんなにたくさんの魔獣と戦った後だし、少しぐらい休んで行っても!」
「だから、遊撃士の体力をなめんなって」

ティータが慌てた様子で引き止めようとするが、アガットは聞き入れようとはしなかった。
灯台から離れて行くアガットを見て、ティータは灯台の外へと飛び出した。
それを見たアガットが声を荒げてティータを怒鳴りつける。

「こら、出て来るな! まだやつらの仲間が残っているかもしれないんだぞ!」
「で、でもぉ」
「ほら、灯台守のじいさんが戻って来るまで大人しく待ってろ。照明オーブメントの修理をするために来たんだろう?」

アガットはティータのほおをそっとなでると、ゆっくりと灯台から離れて行った。

「アガットさん……」

ティータは撫でられたほおに手を当てて顔を少し赤らめアガットを見送るのだった。



<ルーアン地方 マノリア間道>

クローネ峠の関所に治療薬を届けたエステル達は、そのままルーアン地方へ向けて出発した。
関所の兵士達に休んでいかないかと勧められたが、エステル達はまだ見ぬ未知の世界へ行ってみたいと言う気持ちであふれていたのだった。
険しい山道も高まったテンションの前では疲れを感じさせなかった。
そして、行く手にそびえ立っていたクローネ連峰の山壁が途切れると、目の前には夕暮れの赤く染まった海が広がっていた。

「うわあ、海だ!」

エステルは感激して走り出して行ってしまった。

「こらっ、独断専行はやめなさい!」

アスカも慌ててエステルを追いかけて行った。
ヨシュアとシンジも、アスカとエステルを追いかけようしたが、思わず歩みを止めてしまった。
夕焼けに照らされて赤く染まるエステルとアスカの顔。
赤くキラキラと光りを反射する海と、潮風になびくエステルとアスカの紅茶色の髪のコントラスト。
いつもより際立ったエステルとアスカの絵画のような美しさに、2人は魅了されてしまった。

「ほら2人とも、何をぼーっと突っ立っているのよ、さっさと来なさい!」
「風がとっても気持ち良いよ!」
「う、うん」
「わ、分かったよ!」

アスカとエステルに声を掛けられたシンジとヨシュアは視線を合わせて微笑むと、アスカとエステルが立っている場所へと向かった。

「新しい地方に来れたからって、油断しないの」
「そうだよ」
「思いっきりはしゃいでいるのは、エステルの方じゃないか」

アスカ達がそう言い合いながら歩いていると、マノリア間道の別れ道を示す看板が見えて来た。
道はマノリア村とバレンヌ灯台へと別れているようだった。
エステル達がマノリア村への道を進もうとした時、ティータが灯台に続く道の方から歩いて来たのだった。
ティータはエステル達に気が付くと声を掛けて来る。

「すいません、背の高い赤毛の男の人を見かけませんでしたか?」
「ううん、あたし達は見て無いけど」
「そっか、もうとっくに行っちゃったんだ……」

エステルの答えを聞いたティータはガッカリとした顔になった。
肩を落としたティータにヨシュアがそっと声を掛ける。

「それよりも、君みたいな女の子が1人で居るなんて危ないよ。街まで送ってあげようか?」
「あのう、あなた達は?」
「アタシ達はね、遊撃士なのよ!」
「まだ見習いだけどね」

ティータが尋ねると、アスカは堂々と、シンジは少し控えめな笑顔で答えた。

「依頼人を街まで護衛するのはお手のものよ、アタシ達に任せなさい!」
「えっと、遊撃士さんってタダで護衛もしてくれるんですか?」

自信満々に胸を張って宣言するアスカを見て、ティータがヨシュアに尋ねた。

「うん、街に居る時は別だけど、遊撃士協会には『民間人の保護』と言う規約もあるから、危険な場所で人にあったら護る事が義務付けられているんだよ」
「そうなんですか!」

ヨシュアの言葉を聞いたティータは目を嬉しそうに輝かせた。

「そう、だからアタシ達と一緒に……」

アスカはそこで驚いて言葉を切ってしまった。
ティータは信じられない速さでアスカ達の前から走り去ってしまった。

「アタシ、あの子を怖がらせたりしちゃったのかな?」
「いや、別にアスカは悪くないと思うけど」

エステル達はティータの行動に頭をひねりながらマノリア村へと向かうのだった。



<ルーアン地方 マノリア村>

クローネ峠の関所とルーアンの街の中継地点に位置するマノリア村。
ボースの街から休まず歩いて来たエステル達はここで一泊する事にした。
宿屋の主人から絶景スポットを紹介されたエステル達は宿の名物である『特製弁当』を買って、夕暮れの海が眺められるベンチに腰掛けて夕食を食べる事にした。

「ねえ、他の人からだと、アタシ達ってダブルデートをしているように見えると思わない?」
「そ、そうかもね」

アスカが耳元で小さな声で言うと、シンジは顔を赤くして答えた。
シンジをからかったアスカは楽しそうに笑っていたが、隣りのベンチに座っているエステルとヨシュアを見ると、表情が凍りついた。
なんと、エステルはヨシュアが差し出したスプーンを口にくわえていたのだ!

「あ、アンタバカァ!? ななな何を恥ずかしい事してんのよ!」
「だって、ヨシュアの食べているパエリアがおいしそうだったんだもん」

エステルはちっとも悪いと思っていないのか、晴れ晴れとした笑顔でそう答えた。
ヨシュアはあきれ果てた顔でため息をついた。
アスカはチラリとシンジの方を見た。
シンジが持っているのはアスカと同じサンドイッチがメインのメニューだった。

「シンジ、アタシもパエリアが食べたいから買ってきて」
「えっ、それってまさか、アスカも……?」

さすがに露骨なタイミングすぎたのか、シンジが顔を真っ赤にして聞き返した。

「うるさいわね、とっとと買って来なさーい!」

同じく顔を真っ赤にして目をつぶって叫ぶと、シンジは慌てて買いに走った。
ヨシュアはシンジの立場に心の底から同情するのだった。

「うわっ!」
「きゃっ!」

道を急いで走っていたシンジは、同じく道を歩いていた紺色の髪の少女とぶつかってしまった。
その少女はスカートの制服を着ていたので倒れた拍子にスカートが少しめくれてしまった。
シンジの視線に気がついた少女は慌ててスカートに手をやって隠す。

「もしかして、見えました?」
「い、いや見えて無いよ!」

顔を赤くしながらそう言ったシンジは、見えていたと告白したようなものだった。
次の言葉が出て来ずに黙って見つめ合う少女とシンジ。
そこへ何と間の悪い事かアスカが姿を現す。

「戻って来るのが遅いと思ったら女の子をナンパしてるなんて!」
「ち、違うんだ、誤解だって!」
「じゃあ、何で見つめ合って顔を赤くしているのよ!」

シンジの言い訳も空しく、アスカのパンチがシンジに向かって飛んだ。

「あ、あの……本当に誤解なんです……けど」

少女の細い声はアスカに届く事は無く、結局シンジはアスカのパンチやキックを何発も食らってしまったのだった。
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