東京電力福島第1原発事故で、福島県双葉町民約730人が避難する同県猪苗代町のホテルの使用期限が8月15日に迫り、町民は新たな避難先探しに苦労している。町役場機能が埼玉県加須市に置かれ、仮設住宅などの情報提供が十分ではない上、自分で物件を探す場合に必要な役場の書類も郵送でやり取りする必要があり、迅速な行政サービスを受けられないためだ。役場機能の県外移転という異例の事態は住民に大きな負担を強いている。
双葉町の避難所があるホテル「リステル猪苗代」には、仮設住宅や県の借り上げ住宅の一覧表が掲示されている。だが、住所や間取りなどが載っているだけで、場所の地図や間取り図、周辺施設の情報などはほとんど記載されていない。町職員9人が常駐するが、詳細な対応は埼玉の役場でないとできない。
震災前に夫や長男と死別し、1人で避難生活を送る松本千代さん(79)は足腰が弱く、病院やスーパーの近くに住むことを望んでいる。だが、一覧表からは周囲の状況が分からず、運転免許がないため下見にも行けない。「せめて私たちのような住民のために町が下見用のバスを出してほしい。役場機能がないので要望もできない」と不満を漏らす。
一方、一家6人で避難する主婦(36)は、福島県いわき市内の住宅への移転が決まったが、小学6年の長男(11)が難色を示している。4月から通う猪苗代町の小学校には、双葉町の児童が約30人おり、新しい友達もできた。しかし、転校先の小学校には双葉町の児童はいない。
また、この物件を県の借り上げ住宅として扱ってもらうために必要な書類を埼玉の役場から受け取るのに、申請から10日かかった。主婦は「好条件の物件はすぐに埋まってしまう。町が猪苗代にまとまった数の住宅を用意し、就学児童のいる家庭を優先的に入所させるなどの配慮をしてほしかった」と話す。
双葉町秘書広報課の大住宗重課長は「担当課に具体的な要望が寄せられれば、不足する部分は対応したい」と話している。
加須市には町民約925人が避難するが、役場機能の県外移転を巡って先月30日の町議会で、井戸川克隆町長の移転の専決処分が不承認とされた。町民からは福島県内に役場を戻すことを求める声も上がっている。【袴田貴行】
毎日新聞 2011年7月7日 20時00分(最終更新 7月8日 0時37分)